ハーブ・オブ・ザ・リング  


今話題の映画「ロード・オブ・ザ・リング」
原作「指輪物語」の舞台は中世ヨーロッパを思わせる 古代からの自然と文明とがある時はせめぎあい、 ある時は助け合う豊穣な世界です。
困難な旅と闘いの合間に旅の一同を癒し力付けるのは 緑の森や手助けをしてくれる人々(人ではない者達も?)。
遥か遠い中つ国の緑の力をおうちにもちょっぴり持って帰ってみましょう。
(引用部分は 評論社:刊「指輪物語」/J・R・Rトールキン:作/瀬田貞二:訳 より)


◆GARDEN◆

ロスロリアンの花 (「旅の仲間 下」より)

木々の根元の草地にも、緑の丘の辺にも、 星のような形の小さな金色の花が一面にちりばめられていました。
またその間には、ほっそりした茎にうなじを垂れ、 淡い淡い青をまじえた自い花が咲き乱れていました。
花々は鮮やかな緑の草の中にかすみのようにぼうっと光っていました。
(中略)
かれの見ている色は、金に自に青に緑、 一つとして知らない色はありません。
それなのにその時初めてそれらの色の存在に気づき、 自分でそれらの色に新しいすぱらしい名前をつけたかのように、 どの色もみな新鮮で目にしみるようでした。


エルフの住む、地上で最も美しい地ロスロリアン。
冬に咲く黄色い花の名はエラノール、
白いのはニフレディル。
外の世界のどこに居ても、旅の一行の心は常に
この明るい陽のあたる緑の野に戻ります。

今年は玄関アプローチを黄色と白と青の小花だけで埋めて ひそかにロリアンの面影をしのんでみています。


◆COOKING◆

サムのうさぎシチュー (「二つの塔 下」より)

それにタマリスク、つんと鼻をつくテレビン、オリーブ、月桂樹の木 立ちや茂みが散在し、また杜松(ねず)に天人花(ミルト)があるかと思うと、タイムが茂みをなし、木のような茎が匍いずって厚みのあるつづれ織りをなして石をおおい隠していました。
いろいろな種類のセージも青い花、赤い花、 あるいは薄緑の花を咲かせていました。
それにマヨラナがあり、芽を出したばかりのパセリがあり、 またサムの園芸知識では形も香りも初めての 香り草がたくさんありました。
(中略)
サムは鍋にかかりきりでした。
「ホビットが兎料理に要るものはと、」かれは独り言をいいました。
「香り草少々に根菜と、とりわけじゃががいいんだがなあ── パンはいうに及ばずだ。香り草はどうやら手に入りそうだ。」
(中略)
「月桂樹の葉二三二枚と、タイムとセージが少しあればいいんだが── この湯が煮立つ前にほしいな。」と、サムがいいました。


恐ろしい死者の沼地を抜け、美しい南の国イシリアンに入ると かの地は香り高い春のはじまりでした。
身一つで命からがら逃げ回るような旅でもあっぱれ、 庭師で腕利きの料理人でもある忠実なサムは 大小鍋セットを手放していません。 しかも貴重な塩もあります。
偉いぞサム!塩とハーブがあれば どんな食材も素敵なごちそうになります。

うちでは生のうさぎは手に入らないので、 骨つき鳥肉と束ねたハーブ、たまねぎ、じゃがいも、 人参なんかをスープで煮込んで塩で味付け。
当時の中つ国には伝わってきていませんが、 トマトを入れても美味。
さあ召上がれ、フロドの旦那。



◆MEDICAL HERB◆

王の葉 (「王の帰還 上」より)

それからかれは葉っぱを二枚取って両手にのせると ふっと息を吹きかけ、それから撫みつぶしました。
するとたちまち新鮮な生気が部屋にみちみちました。
あたかも空気それ自体が目覚めて打ち震え、 喜びに学らめくかのようでした。
それからかれはその葉っぱを運ばれてきた いくつかの湯気の立ち昇る碗の中に投げ入れました。
するとたちまちみんなは心が軽くなりました。
なぜなら、一人一人のところに匂ってきた芳香は、 どこの国か、翳ることない陽光の輝く露しげき 朝まだきの記憶にも似ていました。


その名の由来を人々に忘れ去られた草「王の葉」は、心を闇に喰われ、影の国を彷徨う重病人を 死の淵から呼び覚ます優れた薬草アセラスでした。
摘んでから二週間たってもその薬効は健在です。
このくだりは王の手になる治療の場面なのですが、 薄曇った寒い日にドライのミントの葉などを瓶から取り出して ハーブ・ティーを入れる時の晴れやかな気分を 思い起こさせてくれます。



◆GARDENER ◆

be in high honor  (「二つの塔 下」より)

「そなたたちの国は満ち足りた平和な国土であるに違いない。
そしてそこでは庭師というのは非常に重んじられているに違いない。」

旅の途中で出会った南の大国ゴンドールの大将は
サムの心映えを讃えてフロドにこう言います。

世界中の小さなガーデナーのみなさん!
ファラミア様の言葉聞きました?
私達は国では非常に重んじられて(be in high honor)いるんですってよ。

森を慈しむ旧い種族が地上から消え去っても、
水と光の加護により、私達は今でも
種を蒔いて新しい緑を育てる
最大の魔法を失ってはいません。
さあ、この地上も今や春、
いざこの手に宿れ、去りし者達の偉大なる力。



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