◆COOKING◆
サムのうさぎシチュー (「二つの塔 下」より)
それにタマリスク、つんと鼻をつくテレビン、オリーブ、月桂樹の木
立ちや茂みが散在し、また杜松(ねず)に天人花(ミルト)があるかと思うと、タイムが茂みをなし、木のような茎が匍いずって厚みのあるつづれ織りをなして石をおおい隠していました。
いろいろな種類のセージも青い花、赤い花、
あるいは薄緑の花を咲かせていました。
それにマヨラナがあり、芽を出したばかりのパセリがあり、
またサムの園芸知識では形も香りも初めての
香り草がたくさんありました。
(中略)
サムは鍋にかかりきりでした。
「ホビットが兎料理に要るものはと、」かれは独り言をいいました。
「香り草少々に根菜と、とりわけじゃががいいんだがなあ──
パンはいうに及ばずだ。香り草はどうやら手に入りそうだ。」
(中略)
「月桂樹の葉二三二枚と、タイムとセージが少しあればいいんだが──
この湯が煮立つ前にほしいな。」と、サムがいいました。
恐ろしい死者の沼地を抜け、美しい南の国イシリアンに入ると
かの地は香り高い春のはじまりでした。
身一つで命からがら逃げ回るような旅でもあっぱれ、
庭師で腕利きの料理人でもある忠実なサムは
大小鍋セットを手放していません。
しかも貴重な塩もあります。
偉いぞサム!塩とハーブがあれば
どんな食材も素敵なごちそうになります。
うちでは生のうさぎは手に入らないので、
骨つき鳥肉と束ねたハーブ、たまねぎ、じゃがいも、
人参なんかをスープで煮込んで塩で味付け。
当時の中つ国には伝わってきていませんが、
トマトを入れても美味。
さあ召上がれ、フロドの旦那。
◆MEDICAL HERB◆
王の葉 (「王の帰還 上」より)
それからかれは葉っぱを二枚取って両手にのせると
ふっと息を吹きかけ、それから撫みつぶしました。
するとたちまち新鮮な生気が部屋にみちみちました。
あたかも空気それ自体が目覚めて打ち震え、
喜びに学らめくかのようでした。
それからかれはその葉っぱを運ばれてきた
いくつかの湯気の立ち昇る碗の中に投げ入れました。
するとたちまちみんなは心が軽くなりました。
なぜなら、一人一人のところに匂ってきた芳香は、
どこの国か、翳ることない陽光の輝く露しげき
朝まだきの記憶にも似ていました。
その名の由来を人々に忘れ去られた草「王の葉」は、心を闇に喰われ、影の国を彷徨う重病人を
死の淵から呼び覚ます優れた薬草アセラスでした。
摘んでから二週間たってもその薬効は健在です。
このくだりは王の手になる治療の場面なのですが、
薄曇った寒い日にドライのミントの葉などを瓶から取り出して
ハーブ・ティーを入れる時の晴れやかな気分を
思い起こさせてくれます。
◆GARDENER ◆
be in high honor
(「二つの塔 下」より)
「そなたたちの国は満ち足りた平和な国土であるに違いない。
そしてそこでは庭師というのは非常に重んじられているに違いない。」
旅の途中で出会った南の大国ゴンドールの大将は
サムの心映えを讃えてフロドにこう言います。
世界中の小さなガーデナーのみなさん!
ファラミア様の言葉聞きました?
私達は国では非常に重んじられて(be in high honor)いるんですってよ。
森を慈しむ旧い種族が地上から消え去っても、
水と光の加護により、私達は今でも
種を蒔いて新しい緑を育てる
最大の魔法を失ってはいません。
さあ、この地上も今や春、
いざこの手に宿れ、去りし者達の偉大なる力。