「桃花源奇譚(全4巻)」 著者:井上祐美子 / 出版社:中公文庫
2001年06月07日(木)

☆贅沢な望みをいえば、さらに「ロマンス」も!

時代は宋。
もちろん、舞台は中国。
皇位継承問題と、桃源郷伝説。
命を狙われ追われる少年は白公子、
運命に導かれ旅する少女は陶宝春。
彼らを助け、共に旅する魅力的な面々と、
殺し屋や怪しげな仙術師、
さらには、あくどい宦官たちに、
西太后張りの恐ろしい皇后。
桃源郷の謎に近づくと共に、
戦いも熾烈を極めていく。

人物はもちろんのこと、
井上祐美子の描く中国は、いつも魅惑的だ。
今までに読んだ何冊かの本も、
いずれも宋を舞台とする。

私にとって、
中国史の中で、宋という時代は地味な印象で、
これといった魅力を感じられなかった。
「内憂外患」−それが、私の宋に対する認識。
内政では、文治主義に失敗し、
外交政策でも、失策を重ね、窮地に追い込まれていく。
どうにも、「薄い」印象の時代であった。
なのに、井上祐美子の語る「宋」時代は、
かつて、世界史の教科書で数ページ読んだことがあったくらいの、
そんなつまらない「宋」ではない。
確かに、大変な時代ではあったが、
人々が生き生きと生きている、血の通った「宋」である。
教科書には結果(宋の行く末)が出ているが、
誰もが、最初から負け試合をしているわけではないし、
それが負け試合だと分かっているにしても、
己の運命を賭けて、必死で戦っているのだ。
そういう、人々の、
いや、時代の、呼吸が伝わってくる。

冒険。裏切り。妖術。母恋物。
そして、若干の恋物語。e.t.c.
4冊には、さまざまなエンターティメントの要素と
宋の空気がたっぷり詰まっている。
毎月、次の巻が出るのがとても待ち遠しく、ハッピーだった。

それでも。
もっとロマンスも、堪能したいと思ったのも事実。
でもまあ、そう思う私が、かなり欲張りなのである。(S)



「桃花源奇譚(全4巻)」 著者:井上祐美子 / 出版社:中公文庫
(1)開封暗夜陣 / (2)風雲江南行 / (3)月色岳陽桜 / (4)東京残桃夢


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