ポエム 風味 桃太郎


「君は桃から生まれたんだよ」と
ボクが言ったら
君はボクの瞳を のぞき込んで
「嘘でしょ」
と笑ったよね
そのときのボクの瞳は
きっと 嘘をついてなかったはずだ
 
君が
「鬼退治に行ってくる」
とだけ言い残して 家を飛び出したとき
ボクは正直「君には勝てないな」と思った
いつも君の行動に振り回されてるボクは
おじいさんとおばあさんの作ったキビ団子を
君に届けた
こんなことぐらいしか ボクには出来ないから
君は「ありがと」と 笑顔で受け取って ボクの視界から消えてった
付き合う仲間を変えるたびに
髪を切るのが習慣だった君は
三十七センチと五十二グラムの思い出の束を置いて
ボクの知らないところに
行ってしまった
君の話によると
ボクと別れたすぐあとに
猿とキジとイヌに出会ったんだよね
「彼らとは上手くいってるのかい?」
と尋ねたとき
君は「どうかしら?」と言ってこっちを振り向いた
そのとき揺れた君の髪は 肩の下まで伸びていた
 
「彼らと出会ったきっかけは?」
と聞いたら
鬼が島ストリート・アベニューの角で
「おいしそうなキビ団子だね」
と話しかけてくる人達がいたの
それが彼らよ
彼らったらこんな美人が目の前を歩いてるのに
あたしよりキビ団子の方に目がいってたの
ひどいと思わない?
と君は言ったけど
ボクは君の言葉を信じないよ
ボクが彼らだったら真っ先に君に目を奪われてたはずだから
 
鬼が島に着いてからの君も
きっと
無敵だったはずさ
君の魅力には
どんな鬼だってかなわないよ
 
鬼退治から帰ってきた君は街の英雄だった
以前にもまして

分かるだろこの気持ち
もともと輝いてた君が
輝きを増していくのに
ボクはいつまでたっても平凡なまま
君がどんどん遠ざかって
ボクの手のとどかない存在になっていく
なのに君は以前と変わらない笑顔で
「おはよう」
と言ってくれたよね
そのとき 君の左手のに薬指に
見慣れない指輪が輝いてたけれど
見なかったことにしていても良いかな?   
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   BGM「たのしい雨だれ」作曲:森田博美