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渋滞

なんていうのかな

ものすごく混んでるとかじゃない。

車の数は少ないし、赤信号が長く続いているだけなんだけど。

プチ渋滞っての?

何がムカつくったってさっきから前の車、

若いカップルが乗っててさ、

ずっとイチャついてるんだよね。

助手席なんかに乗ってさぁ、

女の方から運転席に身を乗り出してキスしてるの。

良いんだよ別に。

他人の幸せを妬むほど、男には不自由してないしさぁ。

ただなんていうのかな、マナーってのを守って欲しいんだよね。

人目ってのがあるわけだし、青になれば車も出さなきゃいけない。

シートベルとはずして抱きついてりゃ発進の一つも遅れるし

そうでなくてもこっちはお得意先の休日呼び出しでイライラしてるんだからさぁ。

さっさと発進して欲しいわけ、青に変わったら真っ先にクラクション鳴らして抱擁のジャマやるから。

あ、何でセーターの中、手ぇ入れるかなぁ。

腹の辺りからセーターせり上げてさぁ、奥の胸元の辺りを・・あ。

胸もまれてよろこぶなよ、おい。

なんなんだ!その笑顔は、おとなしそうな顔してさぁ、こういう奴の方が男寄ってくるし、やることヤッてんだよなぁ。

あ、ゴワゴワのセーター脱がして、白のブラウス。

うわ、ダッセェー、古典的手法だよなぁ。

清純派ってぇーの?「私って、ほんとはこんなこと出来ない女の子なんだよ。今日はあなたの前だけ特別、あなたが居ると私ってダイタンになれるの」なんて耳元でささやいてさぁ。いまどきそんな手使う女って誰にでもやってんだから。ほんとに清純派で男いない女って私みたいに休日に会社からのTELで起されて出勤だよ。「どうせ暇なんでしょ?」彼氏いないだけでそこまで言うか?

何あれ?潤んだ目で、みつめあっちゃってさぁ。

でも実際、あんなのに弱い男っているんだよ。白=清純って男はなんでこう単細胞なのかねぇ。中学の生活指導の先生じゃないんだからさ。いまどき白のブラウスでクラクラくるのもどうかと思うよ。

おい、いつまでイチャついてんだよ。もういい加減青になっただろ。ぜってぇークラクション鳴らしてやると思って信号機を見ると。

信号が赤・黄・青のアレではなく、紅白の信号機。年末が近いから、信号機も新年を祝って紅白?NHKビルの近くだから?よく見ると踏切の遮断機?・・なわけない。故障中の信号機を前にして迂回せずに待ってたのは、前のカップルと私だけなのです。

「社長」

「どうも。今週もやってまいりました、社長宅訪問。今日も社長さんのお宅を訪ねて閑静な高級住宅街にやってまいりました。」
「どうもどうも。ようこそおいで下さいましたどうぞこちらへ。」
そう言われてリポーターが通された豪邸には、高級外車が六台、テニスコートが二面、プールと露天風呂が付いた庭に、ヘリのエアポートとゴルフ練習用のグリーンまで付いている。
「これはまたたいそうなお宅ですね。いままで数々の豪邸を訪問してきましたが、坪単価が、何十万もする土地でこれだけの設備を持ったお宅は初めてです。」
レポーターにおだてられた社長は
「いやいや、何、家の外側だけ見れば豪華ですが、屋内に入ったら普通過ぎてがっかりされるかもしれませんな。」
 と照れ隠しに謙遜しつつも上機嫌。リポーターがテレビカメラを連れて社長宅に入るとこれがまたすごい。二十畳もあるリビングでは、ふかふかの高級ソファーの上に、これまたふかふかの毛皮のような大型犬が寝転がっている。
「これは驚きましたね。こちらの高級そうなソファーに人間じゃなくて犬が寝転がっているんですね。ちょっと失礼して私もソファーに触らせていただきます。」
リポーターはワンちゃんにごめんねと言って、ソファーを触ると、ソフトで温かみがあり非常にさわり心地が良い。
「こんな高級そうなソファーを犬に占領させちゃっていいのですか?」
「いやいや、私のかわいいワンちゃんですから。それにこれはイタリアから取り寄せたアンティーク家具としてはそれほど高い物ではございませんし、割と質素な方ですよ。」
「まあ、イタリアから取り寄せたアンティーク家具がワンちゃんの犬小屋に。ちなみにこのソファーのお値段は?」
「ルネッサンス後期の巨匠が日曜大工で作ったものですから、精々五百万、正規のルートで買っても一千万はしないと思いますよ。」
「いや、ちょっと待ってください。犬用のソファーがルネッサンス!美術館物じゃないですか。こんなところに使っちゃダメですよ。しかも値段に換算して一千万?犬小屋がなん個買えるのですか。」
「まあ、まあ、このぐらいで驚いてもらっちゃ困る。こちらのオーディオルームなどは、どうしても大画面でテレビを観たかったものだから、ブラウン管も液晶もやめて、プロジェクターにしたんだけどね、スピーカーの位置や壁の反響に気を使い出したら、珍しく凝ってしまってね。出来上がってみたら普通の映画館より高度な設備になってしまったのだよ。」
「高度な設備と言われますと?お値段の方も映画館より高価な値段で?」
「まあ、そうだね。同じ規模、同じ席数の映画館と比べると、五・六倍は掛かっているんじゃないの。」
「その、一般の映画館の五・六倍の設備を普段は社長が独り占めですか?」
「私一人というわけではないんだが、家族と身内の者のためにいつも開放しているよ。何しろ暗室の中で縦五メートル横二十メートルの大画面だから、娘とインベーダーゲームをするときには本当に宇宙戦争をやっているような気になるんだ。」
 大画面でのテレビゲーム初体験のリポーターは、真っ暗闇の中に浮遊する星空の中を円盤に乗って飛びまわり、稲妻のようなレーザービームを浴びると轟音と共に画面下に沈んでいき、一瞬、ゲームではなく本物の痛みと死を味わったように感じた。
「どうだい、これからヘリに乗って私の所有する南国の無人島へ旅立つというのは?どうも最近日本にいると、仕事がらみの電話が多くて、わずらわしいったらありゃしない。近頃じゃ電話から逃げるのに無人島へ行くのが日課になっていてね。」
「さすがは社長、豪邸ではあき足らず、別荘どころか無人島まで所有されているとは!是非、そちらの方にも、うかがわせて下さい。」
リポーターは社長とカメラマンとヘリの運転手と共にヘリコプターに乗り込み、さらに追跡取材する。
「社長は一代にして財を成されたらしいのですが、それはまた一体どのようにしてなされたのでしょう?」
「なんだい、君も私のようになりたいと言うのかね。よろしい、教えて差し上げましょう。まずね、若い頃は働きなさい。がんばって日々汗水たらして働くことだよ。
必死になって働いていると、お金を使う暇もないから自然と金は貯まる。」
「さすがは創業者、私のように楽して金儲けをしたいなどと言っていてはダメなのですね。日々、汗水をたらして働く。まさに労働者の鏡ですね。」
「いやいや、勤勉に働くだけだったら誰でもできるんだよ。だけどね、事業を興して成功するとなるとココがいる。」
そう言って社長は頭を指す。
「ココを使えるかどうかで、一生人の下で働くか、人の上に這い上がるかが決まるんだよ。」
「なるほど、さすがは社長。そこの極意を是非視聴者の方にお教え願いたい。」
「まず、事業を興すには土地がいる。例えば、一千万で事業用地を買うとだね、土地を担保に金を借りれる。当時の銀行は土地の値段の二倍から三倍の金を貸してくれた。仮に三千万を借りたとして、その三千万でまた土地を買うと、今度はその土地を担保に九千万が借りられる。そうやって元手を増やしていった先にいまの私のような生活があるんだよ。」
「でも、そのお金は利子をつけて返さなくてはいけないお金ですよね。」
「確かに、そうだ。けれども事業をするには、初期投資額が多ければ多いほど利益率も高い。最初にケチって小規模なところから事業を始めていたら、今頃ビジネスモデルだけマネされて、大企業につぶされていたところだよ。私は知恵と汗を絞り、何とか今の地位を築くことが出来た。私はいまの生活に満足している。」
「やはりそこは、立志伝中の大富豪、成功されるまでには数々の困難や苦労を経験されているわけですよね。」
 とリポーターが言うと社長は
「私が大富豪だって?何を言っているんだい。私は世界一の貧乏人だよ。会社の経常赤字が五十億に達するまでは借金の額を数えてはいたが、そこから先は自分でも分からない額にまで膨れ上がってしまっている。第一、ここにあるものは全部借金で買ったんだ。借金のないホームレスの方が私より数百億円は多く金を持っているはずだ。」
 社長の話に驚いたリポーターが
「その割には余裕のある生活に見えるのですが、何かとっておきの秘密でもあるのでしょうか。」
 社長はさも当たり前のように、
「秘密なんてないさ。私は銀行から必要な額だけ金を借りる。ただそれだけだ。だって、いま融資を止めて回収できなくなったら、困るのは彼らの方なんだよ。」

映画

監督は真面目な社会派の反戦映画を撮りたかった。ドキュメンタリーの記録映画だ。
何気ない日常から来る不満。不況とインフレが同時に起こるスタグフレーション。失業率の増加と就職難。若者の無力感・喪失感の増大、さらにそこから来る犯罪率の増加。次々に起こる政府高官の汚職事件と、既成政党の支持率低下。極右・極左政党の台頭。

失業者が通りに溢れるメインストリート。軍服を着た若者達が、お祭り騒ぎで街を行進中。楽団の奏でる軽快な音楽にあわせて踊り騒ぐ。なんだかにぎやかで楽しそうだ。年頃の若者は働き口もなく、家にいても邪魔者扱い、欲求不満の吐け口にと、お祭りの列に加わる。高く掲げられたプラカード。
「義勇軍募る」
「集え!愛国者我が宿に!」
お祭りの群れは街を一周し広場の中に来ている。ふと後ろを振り返ると、さっきまでにぎやかだった人だかりが消えている。これはまずいと思って戻ろうとすると、入り口の鉄格子は閉められて、体のでかい門番が銃をこちらに向けて逃げられないよう照準を合わせている。
「よくぞ集まった我が精鋭ども。」
将校の演説が終わると、軍服に着替えさせられ、そのまま戦地に送られる。

でも、そんな映画の撮影に金を出してくれる企業などあるはすもなく。政府が保有する第二次大戦時の記録フィルムの貸し出し許可も下りず。結局、撮影所にはSFXを駆使したアクション娯楽大作として企画書を提出し、撮影を開始した。

プロデューサーは娯楽大作だと信じていた。バルカン砲を積んだヘリや戦闘機が対空砲の放射の中を飛び交い、派手な交戦シーンと過激な爆発が入り混じった特撮アクション映画。こいつで今期興行収益・観客動員部門のトップに輝き、社内での自分の株を上げ、上手くいけば特別ボーナスももらえる。そういう予定だ。史実に基づくことで、カンヌ等の映画祭での賞レースは有利に運べる。もちろん細部に史実と異なる部分はいくらでも発生するだろう。だがモチーフが歴史に基づき、そして敵対するグループのメンバーと恋に落ちる主人公というパターンはロミオとジュリエット以来、大河ドラマの基本路線だ。史実なんてのは建前に過ぎない。

ドイツ兵として戦地に送られた主人公は、戦場となるパリでフランス人の女性と恋に落ちる。ドイツ兵を恐れる彼女、
「紳士は女性に銃口を向けない」
と、ささやく主人公。彼はそのまま彼女を押し倒そうとするが、
「いまはダメ。父にみつかってしまうわ。父は生粋≪2きっすい≫のレジスタンス。みつかったらあなたは殺される。」
「大丈夫。俺は不死身さ。」

彼女の部屋で何度かの密会を重ねるうちに、主人公の後をつけた仲間によって彼女はドイツ軍に捕らえられてしまう。兵士と捕虜との関係になっても、上官や監視の目を奪って密会する二人。やがてドイツは降伏し、二人の立場は逆転される。

人気俳優と女優を使い、派手なアクションと濃厚なラブシーン。史実に基づいた芸術映画だと言っておけば、いまが旬の若手女優も簡単に脱ぐ。ヌード未体験の若手人気女優で、ベッドシーンが可なら、演技力など問題じゃなかった。人気女優を脱がせれば、客はいくらでも集まってくる。芸術だの史実だのと言っておけば、旬の女優も服を脱ぎやすい。ベッドシーンだけを観に来る客だって、芸術映画なら映画館に入りやすい。
「史実に基づいた教育的な内容で是非若い人たちに観て欲しい」
と言っておけばR指定も免れる。R指定をギリギリ免れる微妙な性描写と暴力シーン。これが成功の秘訣だ。

この映画の試写会には多くの人たちが駆けつけた。特撮ホラーが専門の映画評論家Rも試写会に呼ばれていた。是非この特撮アクションを評価して欲しいというわけだ。彼が個人的に好むフィルムはストーリーなどなくただ残虐シーンのみが延々続くジャンクフィルムやB級ホラー。

仲良し三人組でハイキング。途中で夕立にあい、仕方なく古びた洋館で雨宿り。人の気配がなく、いくら呼んでも人は出てこない。
「誰かに捨てられて、現在は無人になっているのだろう。」
と、勝手に考え、重い鉄の門を開き、無断で中に入らせてもらうことにする。蜘蛛の巣だらけで廊下には蝙蝠≪2コウモリ≫の羽音と鳴き声が響く。びしょぬれの服を部屋で干し、シャワーを浴びる。雨はどんどん強くなりやみそうにない。今夜はこの洋館で眠ることになりそうだ。

グラマーなシェリーが、シャワーを浴びていると、突然蝙蝠の群れがシェリーを襲う。バスタオルを巻き、泣き叫びながら、シェリーはバスルームから逃げ出す。偶然、近くにいたトミーが、濡れたTシャツを振り回し、蝙蝠を追い払う。

七人が部屋に集まり、ミーティングを開く。何かがおかしい。入り口に立っていた中世の騎士の鎧がいまでは7人の部屋の前に居る。庭にある砲丸投げのポーズをとっていたギリシャ彫刻が、その砲丸を握りつぶしてしまった。玄関先の大きな振り子の柱時計が、来たときは止まっていたのにいまでは動き始めて、夜十二時を告げる鐘の音が洋館に鳴り響いている。シェリーが突然蝙蝠に襲われた。ジョニーが階段の手すりにもたれたとき、手すりがはずれ、ジョニーは階下に落ち大怪我をした。手すりを見れば、切れ込みが入っている。それもまだ新しい切れ込みだ。誰が?何のために?呪われた館。次々と忍び寄る魔の手。仲間が次々と一人づつ殺されていく。
「仲間の中に犯人がいる。」
と疑心暗鬼になるシェリー。
「こんなときこそ、仲間を信じて結束を固めなくてはいけない。」
と結束を呼びかけるトミー。内臓むき出しで殺されたシェリー。頭が斧でザックリ割られ、仲から脳みそが見えているボビーの死体。

映画評論家Rはそんな血だるまの特撮映像を期待して試写会を観に来た。なのに、観せられたのは、プロデューサーがR指定を恐れて流血シーンをカットした死体一つない教育的戦争ドキュメンタリー映画。評論家が期待しているのは、目玉がぽとりと落ちたり、内臓がむき出しになったりするような刺激的な映像。監督が意図した反戦のメッセージなど伝わるわけがない。むしろそのようなメッセージには、文部省的お説教色に染まった胡散臭くささえ感じるのだ。

現在、ビルの地下室で試写会を催しているのだが、その反響は良くない。そのビルの一階には、銀行の支店が入っており、そこで現在銀行強盗が発生している。

犯人は高校二年の男の子。昔からクラスの中でも目立たず大人しい方で、これと言って仲の良い友達も居なかった。真面目に勉強をしていたので成績はいつも中の上。先日、中学のときから付き合っていた幼なじみの彼女にフラれ自棄になっていたところを道行く人と肩があたった・あたってないで大喧嘩になった。相手は暴力団関係者。事務所にハメられ、落としまえだなんだとなったときに、高校生の彼には金がないことが発覚。手っ取り早くまとまった金が必要だってんで、この組から機関銃と弾二百発を借りて、犯行に及んだってなわけ。

この犯人、普段は小心者なのだが、キレると怖い。彼女にフラれ自棄になっているだけに、いまがそのキレた状態だ。金も地位も名誉もなく、友達も彼女も未来もない、守るものも、失うものも、何にもないと思い込んでいるだけに、後先考えずになんでもあり。現在を感じる刺激を求めての犯行だといって間違いがない。

でも、この治安の良い街で、強盗や身代金目的の誘拐ほど割りのあわない犯罪はない。機関銃を出した瞬間、銀行の前を歩いていた通行人が110番通報し、三分ほどでパトカーが来る。警察はすぐさまビルを包囲し、
「君は完全に包囲されている。武器を捨てて出てきなさい。」
と来たものだ。

自棄になってる犯人は、人質も取らずに地下へ逃げ込む。もともとヤクザ組織に大金を払う義理もなけりゃその気もない。捕まっても良い覚悟で動いた衝動的犯行。何でこんなことをしているのだろう?自分の意志とは無関係に体が誰かに動かされているような気分。機関銃を天井に向けて意味もなく乱射するのが楽しい。ふと頭をよぎるそもそものきっかけ。
高校に入ってからの彼女は不良っぽいガラの悪い連中と付き合うようになってた。その辺がそもそものケチの付きはじめだ。
この間、修学旅行に行った初日の夜。
「消灯時間三十分過ぎたら、屋上でみんなで花火大会があるの。あなたも来ない?」
なんて言い出した。
「そんなことしたら、先生に怒られちゃうよ。」
「大丈夫、私たちだけじゃなくって、他にも一緒にやる仲間が居るから。それに、嫌なら、来なくても他のメンバーでやるから別にかまわないんだけど。」
なんて言い出す。
「おいおい、他のメンバーって男だろ?しかもガラの良くない不良ばかりだ。そんなところに君一人で行かせるわけにはいかない。」
「じゃあ、一緒に来てくれるんだ。屋上で観る夜空はきれいよ。山の上では特にお星様が大きくて、流れ星が舞い降りるの。ロマンチックだと思わない?」
なんて夢見るような顔して言っている。
「僕は部屋の班長だし先生にも信頼されているからそんなことは出来ないよ。それにこういう話を聞いてしまった以上、先生に伝える義務さえ発生する。君は行かない方が良い。行っても先生に捕まって連れ戻されるだけだから。」
「信頼されてるって、雑用係やらされてること言ってるの?意気地がないのね。先生が怖いんだ。」
「違うよ。僕はただ、ルールは守った方が良いと思っただけさ。」
「男の子のクセに。意気地なし!」
俺は意気地なしじゃない。銀行強盗だって何だって出来るんだ。
警察に追われ、地下室に逃げ込むと、ヘリが急降下する轟音とともに、でっかいスクリーンが、強盗の前に飛び込んできた。すべての人はスクリーンの方を眺め、自分に気づいていない。
強盗は、巨大なヘリに向かって、観客を背後から機関銃で自動掃射した。
「ダダ・ダダダダダダダダダダッダダダダダダダダダダダダダダダ。」
真っ暗な映画館が真っ赤に染まる。血染めの映画館を見ると、突然さびしくなる。俺を残してみんな無責任に死んでいく。死んじゃ嫌だ、一人にしないで。警察に捕まっちゃうよ。誰も俺のことなんか分かっちゃくれない。彼女も警察も客も先生も仲間も友達も。
     ☆
まだ映画の途中なのに客席のRたちはざわついていた。
「迫力のかけらもない映像ですな。」
「血がドバドバ出て、内臓がむき出しになって、焼夷弾の炎で、内臓から焦げ臭いにおいが立ち上るような、リアリティーがないときついでしょう。」
「ケロイド状の皮膚がベロンと垂れ下がるとかさぁ。」
「目玉がポトンと落ちるとか?」
「そうそうそう。そういう雰囲気って大事だよなぁ。」
客席はつまらない反戦娯楽映画に愚痴をこぼし、ざわついていた。ある瞬間までは。
スクリーンの中で、機関砲を装備したヘリが急降下しながら地上部隊を自動掃射した瞬間。
「ダダ・ダダダダダダダダダダッダダダダダダダダダダダダダダダ。」
さっきまで泥だらけになって逃げ惑う市民をあくびしながら観ていた観客の背中に突然、弾丸が撃ち込まれる。
「⇔д〇¨п煤噪yдёд†$%&Щ@▽Ю♪ы♂∪♀∵∀∈¬!」
背中から激痛が走り、シャツからドクドクと、ベッチョリした赤い粘液がにじみ出す。
「今観ているのは映画だ。でも弾丸がぶち込まれ、体中に流れるこの痛みは現実だ。でも、今観ているのは映画だ。」
何がなんだか分からない錯乱状態の中で、観客は血だるまに変わっていく。映画評論家のRも血だらけの体をピクピクと痙攣させている。Rが望んだように、粉々になった頭蓋骨から脳みそがはみ出すことも、むき出しの内臓から焦げ付く匂いを発することもない、ただ一筋の血を流すだけの地味な映像による死を、Rは体感している。
「通じた。そう、通じたのだ。私の映画に足りなかった、死への恐怖が、機関銃の痛みが。本物の機関銃が自動掃射されることによって、私のフィルムに命を吹き込んだ。戦争の悲劇に巻き込まれた市民たちの痛みも、平和へのわずかな希望が消えた瞬間、流れ出すこの激痛も何もかも。」

監督は薄れていく意識の中で、自分のメッセージが多くの人に伝わったという、至福の快感に襲われながら意識を失う。
けれど、評論家のRは
「見ている現在のは現実だ。でも映画がぶち込まれ、体中に流れるこの痛みは映画だ。でもいま観ているのは痛みだ。だけど、いま体中に流れているのは映画だ。でも痛みがぶち込まれ、体中に流れるこの現実が映画だ。でもいま観ている何が何だか分からない、のは現実のこの映画。分からないだか、何がなに?映画の中のエキストラが撃たれているのは私の状況錯乱の中で。」
「だから普段から言っていたのだ。映倫に目を付けられるようなシーンを入れちゃ駄目だって。錯乱状態の未編集フィルムの中で乱射された弾丸が、客席にぶち込まれ――自分だけは安全な位置に居るはずの観客の――安全な自分さえ未編集のラッシュに弾丸が。」
プロデューサーが息を引き取ったとき、
「どうして、どうしてみんな無責任に俺ひとりを残してどこかへ行っちゃうんだ。」
と泣き崩れる犯人の声と、無人の客席に向かってカラカラと回り続けるフィルムの音。遠方から聴こえてくるパトカーのサイレンに、警官隊がビルの階段を駆け下りてくる足音。それらを聴きながら、上映技師は息を殺してうずくまっている。

連続幼女誘拐殺人

臨海の新興住宅地から幼女が連続していなくなる事件が発生した。ディズニーランドそばの新浦安。もともと墓地と海であったところに土砂を持ってきて作ったニュータウン。バブルのころ建設予定であったビルが不況のさなかに完成し、生まれたの無人のビル街。二十三階建てのビルの一棟につき平均一・二戸しか住民は入居していない。

煉瓦造りの噴水と人工的な滝で彩られた中央広場ではかくれんぼをする若奥様と幼児の姿。子供と母親の笑い声が煉瓦と石畳の中に木霊する。夫が仕事に出かけると人が居なくなるため、近所のスーパーも平日はシャッターを閉めたまま。買い物はいつもワゴン車で二人一緒。四歳になる娘を幼稚園に入れると自分が変になりそうで、まだ入れていない。

もっとも、一番近い幼稚園でも車で国道をかなり走らなければならないため、実際のところかなり不便だ。人口が少ないためか幼稚園のバスもニュータウン側には走っていない。

ホシとおぼしき人物をつける二人の刑事。

「人の少ない田舎と人の多い都会。どっちの方が犯罪率が高いと思う?」

老刑事が新米刑事に尋ねた。

新米は答える。

「都会ですか。」

「人を隠すには人の中って言ってな。昔の異常者ってのは都市の雑踏の中に隠れたもんだ。」老刑事は言った。

「俺がまだ駆け出しの六十年安保の頃の話だ。」

「過激派対策ですか」

「ああ。人の少ない田舎と人の多い都会しかなかった頃の話だ。」

「ここは、そのどちらでもないですね。」

「ああ、映画のセットみてぇだ。」ビルの隙間を突風が突き抜けて行く。

スーパーでの買い物のちょっとしたあいまに幼女が消える。

そんな事件が連続して起こっていた。

犯人の目星はついていた。スーパーに出入りしていて、近所付き合いが無く、独身無職の時間労働者。今でいうフーリーターって奴だ。

奴は海沿いのジメジメした湿地帯に住んでいて、バブルの頃から建設が止まったままの建設予定地周辺に居る。

予定地の看板が立てられた辺りは、沼のようになっていて雨の日には体長三十センチもある食用ガエルやエラを使って泥の上をピトピト走るハゼ、夜になるとソフトボール大の土ネズミの一種やなんかがキィーキィー走り回る嫌な空間だった。

奴の住居の中から死体が腐ったような臭いがする。夜になると赤子が泣くような低いうめき声が聞こえてくる。ゴミ袋の中に子供の手と思われる骨が入っていた。すべては近所の住民からの通報だ。

今では誰とも会わず職場でも誰とも話さないまま職場と住宅の往復をしている彼だが、学生時代の友人の証言では

「非常におとなしく、臆病で、自分より小さなものにしか心を開かなかった」

「少しでも相手が自分より優位に立つと心を閉ざした」

という証言が取れた。間違い無い、奴はロリコンだ。無力な幼児にのみ心を開ける自閉症者。性的にもかなりの有力な証言が取れた。

「まだ誰も入れたことの無い穴に入れたい。」

「初物に特有の粘膜と血液、入らないところに入れたときの圧迫感がたまらない」

彼が職場で漏らした言葉だ。断片的な独り言とわいえ、特殊な性的嗜好の持ち主であることを示している。処女・血・粘膜。

犯人の動機と状況証拠はそろった。

老刑事と新米刑事が家宅に踏み込む。呼び鈴を鳴らすが返事は無い。中に居るのは確認済みだ。ベランダの方には若僧が回った。老刑事はドアをブチ破り中に踏み込む。

踏み込んだ部屋の中には。

体長三十センチの食用ガエルの口に大きくなったチンチンを入れてる奴の姿があった。奴が両手で握り締めたカエルの足は微妙に痙攣していた。

グ ズ オ

人間誰だって一つぐらいは取り柄って奴があるもんだ。虚弱体質な奴は勉強が出来て、勉強が出来ない奴はスポーツが出来て、両方ダメな奴は愛想が良くてしゃべりが上手いとかね。性格は最悪なんだけどルックスとスタイルなら誰にも負けないとか、ルックス・スタイル共にダメなんだけど、人間的には話せる奴だとか。人間なにか取り柄があるように神様は作ってるんだ。じゃなかったら、生きてくのつらいだろ?何をやってもダメな奴って、ギブ&テイクのギブをしたくても、与えられる物が何もないわけで、そんな奴が仮にいたとして生きてくのきっとツライと思うんだ。

でも、中には何をやってもダメな奴がたまぁーに居るわけさ。うちのクラスのグズオってんだけどさ、とにかく何やってもグズなんだよ。見た目からして最悪。デブ・チビ・ブサイクの三重苦。目はいつも眠そうで、勉強やスポーツはおろか、日常生活においてすら行動がおそい・とろい・のろいの三冠王。まあ、俺達の格好のイジメの標的なわけよ。

朝は

「おっはよう!」

なんて勢いよく後頭部をしばかれてる。そのまま俺が後からラリアットかましてブルドッキングヘッドロックでしめ。グズオはバタバタ手足をバタつかせながら

「イタイ!痛いですよ、もぉ、かんべんして下さいよ。」

なんて情けない声出してる。しけた声聴くと余計ムカツクので、そのまま押さえ込んで腕をキメる。アツシとキー坊がグズオのワキをくすぐると

「やめて下さいよぉ」

と情けない声で体を左右にゆすぶる。グズオの腹にアツシがバスバスパンチを入れ、キー坊がグズオの上靴を脱がして片方をゴミ箱に入れ、もう片方を窓の外に投げると、グズオは汚いゴミ箱の中に手を突っ込み、ゴミ箱に埋まった汚い上靴を拾ってポンポンたたいてゴミを払ったら、そのまま靴下のままではいた。

「うわバッチィ、バイキンじゃーん」

とアツシが言うと

「バイキン・バイキン」

とクラスで合唱。グズオは無言でうつむいたまま、窓辺にのそのそと歩いていき、窓から身を乗り出して

「左は運動場ですか?」

なんて振り向くもんだから、後ろから押すフリして

「ワッ」

とか身をゆすってやったら

「ギャ!」

なんて大げさに声出して身をバタバタさせて

「こわいですよぉ、落っこちたらどうするんですかぁ、死んじゃったら、ツヨシさんのせいですよぉ」

なんて大げさにのそのそ文句を言い出す。俺ははきかけの右側のゴミ箱靴を奪うとそいつでグズオの頭をパシンとしばいて、廊下側の中庭へ投げ入れた。  

「ポチ、グダグダ言わず取ってこい」

教室中爆笑でグズオはもそもそ文句を言いながら、体を横に揺らして靴下のまま階段を降りて行った。

そうやってグズオをからかってる俺にだって苦手な物はある。例えば水泳だ。いわゆるカナヅチってやつだな。まあ、多少は泳げるのだけれど息継ぎが出来ないから五メートルが限界だ。明日のプール開きはちょっと不安だ。俺のように不良っぽいスポーツマンで通ってる奴が、泳ぎ出して五メートルの赤線ライン。周囲の目を気にしてバレないようにこそっと足を着いて息継ぎをし、また泳ぎ出すってのは、カッコの良いもんじゃない。女の子でも足着かずに泳ぎ切るのがいる中、俺様の面目って奴が保てねぇ。誰か俺より水泳の出来ない奴、水が怖いとか顔を水につけられないとか、プールに入ると体が沈む奴とかいないと俺が最下位じゃ目立ってしょうがない。そんなことを考えながら担任のプール開きの説明を聞いてたらグズオの奴が

「先生、浮き輪は一人何個までですか?」

なんて言いやがる。教室中爆笑だよ。最悪だグズオ、遠足と間違えてる。まあ、俺にとっては好都合。泳げなくて先生が付きっきりで指導するのはグズオに決定だ。みんなの注目もグズオに行く。泳げないグズオの頭をみんなで押さえて、

「ブクブク。助けて・・ブク・・下さい・・ブク・よぉ。しずん・ブク・じゃい・・ブク・・まずよぉーぅ」

ってなもんだ。

「グズオ、おやつはひとり千円以内。バナナはおやつに入らんからな。」

なんて先生にまで馬鹿にされてもグズオはグフグフ笑って、

「浮き輪はダメですか?」

なんて当たり前のこと聞いて馬鹿にされてる。

泳げない人用にビート板もあるし、どうしても危ない人には先生が付くから、泳げない人はあらかじめ先生に言っておくように」

なんて言われてる。大体、学校のプールなんて足が付くんだからおぼれることなんてないんだよな。よっぽど水が怖いか気を失うかしないとさぁ。そりゃ、泳げない人もいるだろうけど、よくまあ、そんなカッコ悪いことみんなの前で聞けたなぁ。だからグズオはみんなに馬鹿にされんだよ。俺も後でこっそり先生のところへ行って、おぼれそうになったらどうするかとか、助けてもらえるのかとか聞こうと思ったけど、グズオのせいで聞けなくなったじゃねぇーか。  

「グズオ、おぼれそうになっても、ションベンちびんなよ、プールでちびったらみんなの迷惑になるんだからな。」

「グズオ、おぼれそうになったら、プールの底に足つきゃ良いんだからな。水を怖がってジタバタ暴れたら、足すべらせて本当に沈んじまうぞ。」

みんなから散々好き勝手なこと言われて馬鹿にされてるのに、ヘラヘラ笑っているグズオに

「グズオ、何がそんなに楽しいんだよ。ヘラヘラしてんじゃねぇ」

って気合入れたら。

「ほら、私みたいなダメな奴がいるから、みなさん安心できるわけじゃないですか。いつも何しても最下位に私がいるから、皆さんは優越感に浸ることが出来る。そうやって皆さんによろこんで頂けてると思うと、ついうれしくって。」

そう言って笑ったグズオの顔がいつもの卑屈な笑いでなく、こちらを上から見下ろしたような笑みだった。一瞬。

そのときだけはグズオを怖いと思った。

市 場 調 査

「政界や官界という奴は常に民間の後追い後追いで、活力という奴がない。ときにはどうだろう、我が党の支持率を民間の調査会社に取らせてみては」

近頃人気低迷の総理が党三役相手につぶやいた。

普段は党の運動員や官僚を駆使して、それぞれの政策の支持率や、党内派閥の実力者達の人気を推し量るものだが、どうも党員や官僚の取ってくる数字は片寄りがきつくて当てにならん。かといって、記者クラブの記者が与党のためだけに動いてくれるわけでもない。独自の情報を得るには、大枚はたいて大手広告代理店のマーケティング部とでも組まなければ我が内閣の支持率を立て直せまい。

ノー天気と新聞から酷評される総理でもそのぐらいは考えているのだ。幸い与党には金がある。業界最大手のマーケティング部と組んで調査に乗り出した。党内の誰に人気があり、誰の人気が下り坂で、どんな政策が人気あるのか。その結果を踏まえた上で内閣改造人事を行えば、国民受けのするオール人気者体制の内閣を作ることが出来る。そうすれば、内閣の支持率は急上昇、総理である私の株も上がるというものだ。

内閣改造人事が上手く行けば次は政策立案も手をつけねばならない。各派閥ごとに持ち寄った政策を市場調査会社の審査にかけ、各種業界団体や組合の意見も代理店に調査させて、最も風当たりが良いと感じた政策を実行して行けば、私は何もしなくても自然と良い方向へ導いてくれるはずだ。そう、マーケティング会社の挙げてくるアンケート結果は国民とその民意の反映なのだ。

代理店のあげてきた調査結果は非常に素晴らしいものであった。内閣は適材適所。各派閥の人材をバランスよく配置したものだった。多少、我が派の人間に大役が多い気もしたが、何しろ私のような優秀な総理を輩出した派ゆえ、人材は育っている。気心も知れ、有能な人材を使わない手はない。

政策だってそうだ。

「公共事業による景気刺激策を一番望んでいる」

と思った通りの結果が出た。思った通りの結果だ。多少の財政赤字や赤字国債の発行を行ってもまずは景気優先で公共事業をすれば、景気は必ず回復する。公共事業は発注する際、各議員の親や兄弟の経営する親族会社を通じて民間に丸投げすれば、何もせずとも中間手数料を手にすることが出来、次期選挙の選挙資金にもなる。公共事業なくして次期選挙は戦えない。財政再建は次期選挙の後からでも出来る。まずは政策の持続性だ。

調査会社の調査結果に気を良くした私は次々に政策を断行。調査会社の挙げてくる支持率はうなぎ上りで伸びて行った。これで私の再選も間違いない。そう判断して望んだ総選挙。我が政党は議席数を大きく減らし、総理である私は責任を取らされる形で総理の座を辞任することが内定した。次期総裁が決まるまでの短くみじめな在任期間。代理店の出した調査結果とのあまりの違いに私は調査会社に詰め寄った。

「あれだけの予算を組んだのに、どういうことだ。この失態をどうしてくれる。」

「お言葉ですが前総理、あなたは与党最大会派のあーる氏に総理の座を禅譲したいとお思いですか?」

「したいわけないだろう。だからこそ怒っているのだ。」

「でしたら、あーる氏不支持なのですね。」

「まあ、そうなるわな。」

「ですが、前総理。あーる氏をこの議会から失脚させたいとはお思いにならないでしょう?」

「当たり前じゃないか!あーる氏なくして私の内閣も在りえなかったし、彼の力で当選した議員も多い」

「ということは、あーる氏を支持されているわけですね。」

「まあ、そうなるかな。」

「我々は大企業相手の広告代理店マーケティング部市場調査課なんです。」

「そのぐらいワシでも分かる!ワシを誰だと思ってるのだ。」

「ですから、前総理。私どもの仕事はお金を頂いた広告主の望む結果に沿った結論が出るような調査方法を検討し、依頼主の望む調査結果を作り上げることなのです。」

映像作家の見る夢

真っ暗な、がらんどうの部屋。TVとステレオと電気を付け、髪をバサッとほどき服を着替え始める。

「ピッ、三件デス。菜緒子ぉ、私キョォ、会議室でぇ・・ピッ、ナオ、俺だけど最近週末会えないって言ってるけど、今からでも遅くないから、今日クッキーの三階カウンターで待ってるピッ、菜緒子ぉ、ヅラ課長が」

誰も居ないごく普通のワンルームマンションの一室、スーツ姿の23歳OLが帰宅する。

「また残業で帰れなくなったったから今日のとこはゴメン、またいつか埋め合わせするからまた今度ピッ。」

スーツを脱いでハンガーをクローゼットに掛けると下着を脱ぎ画像はそのままシャワー室につながる。軽いボディーシャンプーとコロン、バス巻きで出てきて冷蔵庫から缶ビールを二本、テレビを観ながらソファーベッドで横になって、プルタブを開ける。素人OLの一人暮し24時間生下着映像満載。女子高生・女子大生・看護婦寮有。http://www.nozoki.co.jp/

「わぉ、戦争だよ、すごいね、目の前でドンパチしてるよ。」

間抜けな声と共に始まった、きゅうりのビデオジャーナリスト日記。街でふらふらしてる若者きゅうりを当番組プロデューサーがビデオカメラとテープのみを持たせて紛争の絶えないパレスチナへ単身置いてくる。きゅうりはビデオのみを頼りに紛争の映像を撮り、外資系ネットにビデオを売り込み、当座の生活費と日本までの交通費を稼ぐという生活情報ドキュメンタリーだ。プロデューサーからの指令でひたすら紛争の映像を撮り、日本のマスコミは相手にならないので、日本語の通じない外資系ネットに慣れないカタカナ英語で映像を売り込む。

「CNNニュースって書いてるね、アメリカかな、ハロー、ディスビデオベリーエクスペンシブ」

このビデオカメラはとても高価です。と画面に白抜き。客席の笑い声、それ日本語じゃねぇーかと司会の突っ込み。

「セルユー、アンドテルミー、ディスビデオ買って?」

買っては日本語ですと字幕スーパー。馬鹿だねきゅうり、パレスチナで日本語だよと司会者。場内爆笑の渦。

この番組の人気の秘密は自分がテレビに映されてることを本人が知らない、後で事後的に知らされるというドキュメンタリー性によるものが多い。突然意味も無く過酷な条件に置かれるド素人が何とかそれなりに生きていく姿を見て笑う。

「あいつ馬鹿だよ。CNNにお情けで買い取ってもらったら、これで明日は十二日ぶりに飯が食えるとか言って泣きながら採用の舞いを踊ってたよ。いつ何時間ぐらい特番組まれるのかって聞いたら、三秒の採用で三千円だって」

ウヒャウヒャ笑いながらTVを観ている私に

「あんまり笑っちゃかわいそうよ、ある日突然パレスチナに置き去りにされたら、誰だってうろたえるでしょ」

と妻はそっけない。

と、そのとき。突然ドアが激しくノックされ、深夜のマンションに

「開けろ!警察だ!開けろと言ってんだ!Y塚!」

と私の名を叫ぶ声。一人や二人じゃない。十数名が押しかけてる様子だ。私に心当たりは無い。何かの間違いだ。そう言い聞かせながら、妻に下がってろと言い、チェーンロックをしたままドアを開ける。

「こんな夜遅くにどういうつもりだ」

凄みを利かせたつもりで言ったが、外から無数のフラッシュがたかれTVカメラ数台にマイクを突きつけられる。

「Y社が負債総額二十億円で倒産し幹部クラスの資産が破産管財人によって取り押さえられることになったのですが、Y塚さんは自己資産が取り押さえられる事に関してどの様にお考えでしょうか?」

突然突きつけられる早口で唐突な質問。

「Y塚さんが所長をしてらっしゃる西大宮地区では一部従業員への給料が滞っていたという話ですが、その事に関して責任は感じられないのでしょうか?」

何を言われているのか分からなかった。会社が倒産すると聞いたのも初めてだし、負債の額・責任=差し押さえが自分にも及ぶこと。今住んでるこのマンションも銀行の預貯金も家のローンもみんな差し押さえられる。たった二十億円ぽっちで。そう、ニ十億と言えば、三ヶ月前創業者の石渡会長が引退し新会社から院政を引くために、Y社から譲り受けた退職金の額と同じじゃないか。たったそれっぽっちの額のために会社が破産。第一こんなことは課長・所長クラスにまで影響することなのか?責任を取るべき幹部ってのは重役・部長クラスだけじゃないのか?

「Y社では三ヶ月前、以前からの幹部会が従業員によって解雇されたばかりなのですが、それと今回の破産とのつながりは?」

「何のことだか分からないので、取りあえず明日、状況をはっきりさせてからにしていただけますか」そう言ったとたんにまたフラッシュの嵐、

「あんたは幹部会を解雇に追い込んだクーデターの首謀者だろ!表に出てきて状況を説明する義務があるんじゃないのか!」

「破産管財人です。この物件を取り押さえますので今すぐこのチェーンを開けなさい」

ペンチを持った管財人がチェーンを切り始める。私はドアの隙間からホースで取材陣に水をかけ、その隙にドアとかぎを閉めると、金目の物を持ち、子供と妻を連れてベランダの非常口から逃げることにした。幸い裏口に人はなくすぐにタクシーを捕まえることが出来た。妻には子供と財布を渡し、今夜はビジネスホテルに泊まるよう言った。私は携帯で部下や同僚に電話をかけまくり現在の状況を報告しあった。幸い自分が所長をしている西大宮事業所には真夜中ということも在り取材陣はおらず、パートやアルバイトに渡すはずの給料が二百万ほど残っていることが分かった。ホテルの前で子供と妻を下ろすとすぐにそちらに向かうと言い残し、事業所の方に向かった。  夜中の事業所は暗かったが、電気をつけて人が来てもまずい。真っ暗闇の中で懐中電灯をつけて経理の橋本を探した。橋本は事業所の金庫から二百万を出してそこにいた。

「一体どういうことなんだ」

私が怒鳴りつけると橋本はこう言った

「本社の幹部連中が三ヶ月前、ニ十億持って別会社を作ったのは知ってますよね」

「まあ、聞いてはいるが」

「以前から経営状態の良くなかったこの会社をつぶして、彼等は仲間内だけで別会社を起こそうと考えたわけです。それで、この会社の破産宣告を行えば経営者の経営責任が問われ、現在の私有資産を管財人に没収された上で、不渡り二十億円分の残高を返還する義務が生じる。彼等はそれを免れるため、あなたに全経営責任を押し付けたのです。今この会社の経営責任者は書類上あなたになっています。」

「ちょっと待て橋本、俺はただの一事業所の所長だぞ、その俺がなぜ経営責任を追及されなきゃならんのだ。」

「ご不運には同情します。けれど法律上はそうなっているのです。ここに先週パートとアルバイトに渡す予定だった先月分の給料二百万がまだ残っています。何かの不手際だと思いますが、逃亡生活の資金にはなるでしょう。これを持って逃げてください」

「ちょっと待て橋本、どこへ行くんだ。これから俺はどうなるんだ」

「逃げてください、追っ手が来ます」

闇の中に走り去る橋本を見ても、何が起きてるのか分からなかった。私は元のタクシーに乗り、これから先のことを考えていた。私有財産を全部没収された上にニ十億の借金?社内クーデターの主犯者?訳が分からない。冷静になれ、冷静になるんだ。私は頭を冷やすため五反田の行き付けのソープへタクシーを走らせた。取りあえず女を抱こう、考えるのはその後だ。ソープの前でタクシーを降り、散々利用したタクシーに五万ほど払い

「もう帰って良いよ」

と言った。自宅マンションからの脱出劇以降一番活躍したのがこのタクシーだ。すると運転手はフロントのバックミラーを外し小さなカメラを取り外し出した。運転手は妙にニヤケタ顔でハンチング帽をかぶり、サングラスをかけると名刺をこちらに向けながらこう言った。

「今、うちの企画で、Y塚所長の倒産日記ってのをやるんで撮らせて頂いたんだけど、もちろん協力してもらえるよね、いや、ただとは言わないさー、Y社の倒産も破産管財人も全部嘘でうちのスタッフなんだけどさぁ」

私は気が動転して意味が分からなかった、会社の倒産も破産管財人も全部嘘、逃げなくて良いんだ会社は潰れてなかった、ただ、倒産会社の社員が管財人から逃げるビデオを撮りたいだけ。私の中に安心感と共に少しづつ怒りが込み上げてくる。ふざけんな!人の人生おちょくりやがって。私はハンチング帽の色眼鏡野郎の胸ぐらをつかみ上げる。彼はまだ話し続けてる。

「いやー、良い絵だったよ。あの自社社員の未払い分の給料でソープに行くところ。あそこで奥さんのコメントを添えてCM。いや、これは視聴率取れるよ、うん」

私がそいつをぶん殴ろうとした時、車の両サイドからロングコートの男が二人、私より早く色眼鏡につかみかかった。

「JTVのディレクターさんですね。前回の特番は某政党の指示で年末補正予算の発表に合わせて放映されましたね。情報操作取締法違反容疑で同行願います」

ハンチング帽の色眼鏡野郎は表情一つ変えず

「わかった。これどっきりだろ、カメラどこだ!カメラ」

と楽しそうに辺りを見まわすが辺りにカメラは無く、私服警官と称するロングコートの男に手錠をかけられ覆面車に乗せられる。

「なあ、どっきりだろ?分かってんだよ、協力するからさあ、どっきりだと言ってくれよ、なあ、どっきりだろ、どっきり」

メディアを使った悪質な犯罪者の獄中生活ナマVTR。警視庁公認。見せしめ映像満載。要・ショックウェーブ。 http://www.rougoku.co.jp/media/

テクノノスタルジア

wpe21.jpg (15893 バイト)私は古臭いガラクタに囲まれて育った。ほこりまみれの古物商。そんな家業が俺は嫌でたまらなかった。私の爺さんは戦前、蒸気機関車の運転手だった。炉の中にスコップで石炭をくべて火力を調節する。それが爺さんの仕事だったらしい。が。私が物心のついたときには既に街には蒸気機関車などなく、鉄道の電気化の波についていけずに失業した爺さんはD51の表示板や車輪、蒸気で動くシリンダーや煙突、果ては機関士の制服や紋章やレールまでを扱う古物商になっていた。機関士を続けたいという夢を文字通り夢の中で実現し続けている役に立たなくなった古道具の屋形。それは石炭をくべて炉の温度を調節する技能にかけて誰にも負けなかった爺さんそのものだった。私はそんな過去の遺物にこだわる過去の遺物、古物商のジジイを嫌でしょうがなかった。蒸気機関以外にもガラクタは増えていった。SPレコードを聴く黒ブチの犬に、割ぽう着でボンカレーのレトルトをそそぐ琺瑯看板や、眼鏡がずれた大村昆のオロナミンCの琺瑯看板。ああ、そういえば爺さんは俺に「就職するなら国鉄に行け、あそこなら、国営だから倒産しない」と言っていたっけ。今では国鉄も解体されてJRになってしまったが。

私がテクノロジーの最先端に位置するマイコンの世界に入ったのも、そういった物への反発がいくらか混じっていたかもしれない。漆黒の宇宙に浮遊する青白い発光体光ダイオドー、モニター上に描かれる擬似三次元空間にひき込まれた新しい物好きの私はプログラマーを生涯の仕事だと決め込んだ。液晶上で動くパックマンを開発したとき私は確実に時代の最先端にいた。シンプルな絵とピコピコした電子音、トランジスタでは実現され得なかった軽量化と小型化をLSIで成功させた。第三世代の夢のコンピューターLSI、大規模集積回路だ。私が開発したプログラムはパックマンに生命を吹き込み、それぞれの個体にすべて異なる動きを実行させた。そう、パックマンは個性ある生き物なのだ。「まるでリトグラフにおけるアンディー=ウォーホルのシャイニングスタイルのようだ」漆黒の液晶版に浮遊する蛍光色のパックマンをある人はこう形容し、またある人は「ラスベガスの夜空に浮かぶネオンサインのようなきらめき」と形容した。

日々の仕事とは別にゲーム雑誌に3本、プログラム雑誌に2本の連載を持ち、TVの特番やパックマンチャンピオンシップ大会の審査員も勤め、会社に出られなかった分の仕事は次第に家へ持ち帰るようになっていた。深夜自宅で変数を変えての動作チャックを何度も繰り返すうち気が付くと朝になり、そのまま出社し、深夜まで残業、仕事が終わると夕飯をかねて部下を連れて取引先と飲みに行って、自宅に帰ってやっと一人になれたら雑誌記事の締め切りの催促の電話なんてのがざらになってきた。

そんなとき、私は仕事でためたストレスを発散するかのように、ライバル会社のゲームで遊んだ。根っからのゲーム好きはこの仕事をしても変わってないのだ。上段から流れてくる岩石を飛び越え、こん棒と鉄パイプで怪物と闘い、お姫様を救出するゲームや、飛び去る風船を銃で打ち落とし、風船にくくりつけられたハートを拾い集めるゲームなど、時間が過ぎるのを忘れて熱中し、そのまま興奮が冷めないため一睡もせずにまた会社へ。

気が付けば、眠るための睡眠薬と眠気覚ましのカフェインを持ち歩くようになっている。青や黄色のカラフルなカプセルが入った小瓶をいくつも持ち歩き、その日の症状によって、睡眠薬と風邪薬と酔い覚ましの薬を一緒くたに飲んで眠り、仕事中は眠気を取るカフェインと不規則な生活からくる頭痛を取り除く頭痛薬、栄養ドリンクやビタミン剤のお世話にならない日はないぐらいに、薬なしで起きることも眠る事もままならなくなっていた。

気が付いた時には、もう手遅れだった。私は高速化する技術革新の波に乗り遅れ、取り残され、置いてかれた。ゲーム機材のビット数は8から16、16から32、32から64とネズミ算式に増え、それに連れてBGMの同時出力音数が4から16、32。画面上の同時出力色数も8から32、1024。かつてのドット絵がフルポリゴンのワイヤーフレームにテクスチャーマッピングで表面を貼りつけた画像に変わっていた。

先端技術について行けなくなった私は自ら会社を辞め、自分がかつて愛したハイテクノロジーの屋形を作る事にした。輝かしいテクノロジーの歴史を若き世代にも知ってもらいたいのだ。かつて液晶電算機がハイテクと呼ばれた時代があり、私にも開発者として輝いていた時代があった事を。

もっとも、孫には嫌われるだろう。が、孫にも、いずれ私と同じく古道具の気持ちが分る時が来るだろう。 

防 犯 訓 練

「明日の3時から防犯訓練が入っているので、店を閉じたら警備会社の人が来て銀行強盗の実演と逮捕を行なうんだけどさ・・。」
 偶然、耳にしたこの言葉が私にある行動を取らせた。大通りに面した銀行。ここでいきなり銃を出して脅してもすぐに通報されて捕まってしまう。けれど、これが防犯訓練であれば。
 私はすぐに、モデルガン仲間に電話して、いつものミリタリーショップに集合を掛けた。
私「明日、若葉銀行は警備会社と一緒に防犯練習をするって話を聞いたんだけど、これ、ひょっとするとチャンスだぜ」
A「何がどうチャンスなんだよ。」
私「よぉーく考えろ。俺達が警備会社の制服を着て、本物の防犯訓練が始まるよりも早く、銀行強盗の実演と逮捕を演じたらどうなる。」
B「どうなるって?」
私「わたくし警備会社の者です。予定より30分早く防犯訓練を始めることになりました。これから銀行強盗がやってきます。皆さんは犯人を刺激しないように、両手を上げ、机の伏せたまま、お金を犯人の渡すバッグに入れて下さい。のちに掛けつけた警備会社の者が犯人を捕まえます。」
A「俺が銀行強盗役で金をバッグに詰めさせる。銀行員は練習だと思ってるから、何の疑いも無く金を詰め、その場でBとおまえに捕まって護送される」
B「分った。金の入ったバッグはそのまま捕まった犯人と一緒に消える。」
私「そのあとは、俺達で金を山分け。」
A「良い話じゃねぇーか。強盗の俺が『防犯訓練中』と背中に書いたジャンバーを着てれば、誰も本物の強盗だとは思わない。堂々と金を手に入れられるわけだ。」
私「だから、明日までに、モデルガンと犯人、そして警備会社っぽいコスチュームと車。用意頼むぜ。」
次の日。私「予定より30分早くなりましたが、早速、実技の方に入らせていただきたいと思います。彼が強盗役の大山田です。」
銀行前の大通り「防犯訓練中」と書かれた看板。いかにも警察風の赤いサイレンが回ってる。
行員「ちょっと待ってください。先に防犯に対する講義が1時間あって、そのあとに、実技と聞いているのですけれども」
私(小声で:1時間も講義したら本物が来るじゃねぇーか。)
「えー、その点も変更がありまして。先に実技をしながら、講義はその後という形で。早速実技に移らせて頂きます」
A「金を出せ。今すぐこのバッグに詰めろ。ほら早く、早くしろ。」
呆然とする銀行員達。
私「すいません。ここでは犯人を刺激しないように、皆さん両手を頭の上に組んで、机の上にうつぶせ、受付の彼女はバッグにお金を詰めてやって下さい」
行員「あのー。マニュアルでは、まずお客様の安全を確保となってるのですが」
私「そうですね。まずお客様を非常口の方に案内して、それから犯人の指示に従ってください」
行員「その場合、どうすれば犯人にみつからないように、お客さまを誘導できるのでしょうか?」
私「それはですね(汗)。まず犯人を刺激しないことが重要です。自ら逃げるそぶりをせず、まずはおとなしく伏せること。次に・・」
A(小声で腕時計を見ながら:もうこんな時間じゃねぇーか。早くしないと本物の警備会社が来ちまいやがる。馬鹿行員がゴチャゴチャ質問すんじゃねぇー)
私「はい。こうして、バッグにお金を詰めました。そうこうしているうちに、犯人にみつからないように押したスイッチが私どもの警備会社に非常事態を知らせます。私どもは連絡が入って五分でこちらの銀行までかけつけさせて頂きます。」
そこへ撮影用と書かれたパトカーでBが登場。
行員「質問。何故、警備会社なのにパトカーなんですか?」
A(小声で:あの馬鹿、パトカーなんかで来やがってバレるじゃねぇーか)
私「我が社は警察の方とも連携しておりまして。お互いに協力態勢で防犯に取り組むシステムになっており、・・」
A(小声で私に:3時まであと5分しかねぇーんだ。早くしねぇーと本物が来ちまうだろーが)
私「・・これは当社自慢のネットワークプロジェクトの一環で他社には類をみない・・おしゃべりが過ぎました。先へ進みましょう」
警官のコスチュームで登場したBが網でAを捕獲。もがくAの腕をねじり、手錠をかけてバッグを持ったままパトカーへ。
私、ポケベルを片手に「あ、いま本社の方から連絡が入りまして、わたくしも彼等と一緒に一端戻れと言われましたので。」
走り去るパトカー。呆然とする行員達。本物の警備会社到着。事情を話し本物の警察到着。
A「ヤッホォーー!こんな上手く行くと思わなかったよな。五千万だぜ五千万。フェラーリ買えるぞ、フェラーリ。」
バッグから札束を取り出すと、どれも透かしの部分に「防犯訓練用」と書かれてある偽物。夕暮れの河原に札束が舞う。

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初めての冒険

小学三年のとき、僕はクラスで一番成績が良かった。ヒロくんやなっちゃんが別のクラスに居たからだ。小学四年に進級すると、僕よりも頭の良いヒロくんやなっちゃんと同じクラスになったので僕の成績はクラスで三番になった。

僕は四年生になったので中学受験用の進学塾に通うことになった。地元で一番の進学塾でクラスの頭の良い子達や私立の小学生が通ってる難関進学塾だ。僕となっちゃんとヒロくんは一緒に入塾試験を受けに行った。なっちゃんとヒロくんは入塾試験に受かって、僕は試験に落ちた。僕は塾に入れなかった。僕は頭の良い子ではなかった。学校ではそれなりに良い成績を取ってるつもりでも、塾では少しも通用しなかった。

日曜日のあさ、また次の日学校に行かなくちゃ行けないと思ったら何もかも嫌になった。学校のテストで良い成績を取っても進学塾へ行ったらそんなのはちっともたいしたことじゃなかったからだ。

僕は日曜日が月曜日になってしまう前に遠くへ行こうと決めた。貯金箱にたまった百円玉と十円玉をいっぱいポケットに詰め込んだ。TVでは、人気アイドルグループLIPSが歌を歌っている。銀座の三越デパートの屋上からの実況生中継だ。

「午後からもイベントをするので是非皆さん観に来て下さい」

と言っている。僕は百円玉と十円玉でいっぱいになったポケットでできるだけ遠くへ行きたいと思った。一人でバスに乗って駅に着いた。僕は一人で電車の切符を買おうとした。お父さんもお母さんも居なくて、一人で電車に乗るのは初めてのことだった。切符を買うとき、一番遠くまで行ける切符を買おうと思って十円玉と百円玉をいっぱい入れた。一番遠くまで行ける切符を買ったら、もう帰りの切符は買えそうにないと思った。僕は家に帰らない覚悟で遠くへ行ける切符を買った。怖くなったらお家に電話すれば良いと思った。帰らないつもりだったけど、お家に帰る最後の十円だけは大事にしようと思った。

電車に乗るとだんだん駅やお家から離れていった。気がついたら知らない駅で知らない人達と一緒に、座席に座っていた。怖くなって次の駅で降りて別の電車に乗った。何度か乗り換えをしたら、「次は銀座」と車内放送が入った。LIPSのいる銀座だと思った。僕はLIPSの居る銀座で降りた。駅から出ると人がいっぱい居て、誰がLIPSか分からなかった。

 「LIPSはどこに居ますか?」

と僕は何度も聞いた。いろんな人が教えてくれたり、教えてくれなかったりした。LIPSの居るデパートに着いた時には僕は歩きつかれてヘトヘトだった。お腹がすいて、のどが乾いて、足がクタクタに痛かった。

LIPSの周りには高校生や中学生のお兄ちゃんがいっぱいてLIPSの顔が見えなかった。僕は大きなお兄ちゃんの足の間をかき分けて中に入っていった。LIPSはサイン&握手会をしていた。その場で売られているシングルCDを買うとサイン&握手券が付いてくるのだ。僕はポケットから十円玉や百円玉をいっぱい出したけど、CDは買えそうもなかった。こんな事なら、もっと安い切符を買っておけば良かったと後悔した。LIPSの周りではシングルを買った高校生のお兄ちゃん達がいっぱい群がって写真を撮ったり握手をしたりおしゃべりをしたりしていた。僕はシングルが買えないので何も出来なかった。「なんだこのチビ。邪魔なんだよ」と言われてふと見上げるとおっきな茶パツのお兄ちゃんが居て、すごく怖かった。後ろからお店の人が「坊や、迷子かい」と言ってきた。迷子じゃないのに迷子と間違われた僕は走って逃げた。お店の人がいっぱい追いかけてきて僕は捕まって、デパートの待合室に監禁された。僕は何度名前を聞かれても答えなかったけど、名前と住所と電話番号の入った帽子を店の人に取られた。店内放送で何度もお母さんの名前が呼ばれた。

待合室にイベントの終わったLIPSが入ってきた。僕はシングルCDが買えなかったからLIPSとしゃべっちゃいけないんだ。そう思うと急に悔しくなって涙が込み上げてきた。そしたらLIPSの一人が僕の目の前にしゃがみこんで目線の高さを僕に合わせて話し掛けてきた。

「ボク、さっきサイン会に来てた子だよね?」

僕はお金がないからCDも買えないし、LIPSとしゃべる事も出来ないんだと言った。そしたら別のメンバーが

「どのぐらいお金もってるの?」

と聞いて来たので、僕は机の上にポケットの中の物を全部机の上に出した。十円玉13枚と百円玉2枚と、五円玉8枚とおっきなボタン2個、ポケモン消しゴム3個。LIPSは

「私達とおんなじじゃん」

と笑って、机の上にポケットの中の物を出し始めた。十円玉と百円玉がいっぱいと、使用済みのテレホンカード。LIPSは

「ボク、お金持ちだよねぇ。こんないっぱい持ってるんだ」

と言って机の上の物を返してくれた。

「お姉ちゃん達もこんなけしか持ってないんだよ」

と言って見せてくれた中には紙のお金は混じってなかった。ああ、LIPSも僕と同じなんだと思った。LIPSはLIPSの写っている使用済みテレカにサインを入れて僕にくれた。しばらくするとパパとママが待合室までボクを迎えに来てくれた。ボクはパパとママに泣きついて進学塾に行けなかった事を何度も謝った。

 

山小屋ロッジレイプ事件

 「賢一、もう・・やめてよ。久米が起きるでしょぉ。やだ、聞えちゃうもう、眠いんだからあっち行ってよぉ、ねぇ、もう入れてこないのぉ。」
 酒を飲んで熟睡してるところに、なんか変だなと思ったら、後から恋人の賢一が入れてくる。寝てる間に相当触られていたらしくすでに濡れ始めてる場所には硬い物がスムーズに入っていく。眠くてぼんやりした意識の中で、気持ちは良いけど、寝る前に着替えたばかりの下着が汚れるのはまずいな、着替えを日数分しかないから明日もヴァギちゃんの香り染み付いたままだぞ。他の男にパンツの匂いばれたらどうしよ。と思って
 「ああ、もう久米に見られちゃう。女の子部屋でやるのはまずいよ。ね。やるんだったら、場所変えよ。」
 と言って、起きようとしたところ、違う。悦子の子宮に当たってるこれ、賢一のじゃない。キャーー!と叫んだのは心の中だけで、声が出ない。賢一のはもっと、反り返って居て、カリが大きかった。なんか真っ直ぐで、キャンディーアイスのような形・・こんなの初めて。誰?一気に目が醒めて後ろを振り返ると目隠しをされてて見えない。変なヘッドホンをされてアニメの主題歌が聞こえる。
 「アニメじゃない/アニメじゃない/本当のことさ」
 という歌詞のリフレイン。いつの間にか両手は前で縛られてて動かせない。なに?胸元に手が入ってきて、下からの物もグイグイ突き上げる。中で、中で出される・・殺されるかも。そう思った悦子はもう一度声を出す。
 「いや、いやなの、止めて、止めてお願い。」
 全身の声を振り絞って叫び、全身でもがく。動けば動くほど食い込んでくる物と音楽。濡れてる。自分の意思とは無縁に。物がするりと内股から抜けると、隣で寝ていた久米の声。
 「悦子、大丈夫?」
 ヘッドホンと目隠しを外されて、やっと回復する視界。あまりに怖くて声も出ないまま久米に泣きつく。騒々しい声に驚いて女性寝部屋に集まってくる男子三人。外は暴風雨でここは街から車で四十分も離れたロッジ。離れ小島に男三人と女三人。取り合えず、事の顛末を確認するため、全員一階のリビング、暖炉の前に集合する。全員集合している事を確認して暖炉に火をくべる。
 「この中の誰かがレイプ犯である可能性がある以上、女の子を一人にするのは危険だ。容疑が晴れるまでは全員行動を共にしよう。」
彼女をレイプされた賢一がまず口火を切った。
 「身内を疑う前に、外部からの侵入者を疑う方が自然じゃないのか?」
 と健次が言う。
 「悦子がレイプされた女の子部屋は二階の寝室。僕たちが駆けつけたときには、窓は内側から鍵が閉まっていた。屋内に通じるドアはどの部屋も鍵がついておらず出入りしほうだい。内部の者の犯行と考えるのが自然だろう。」
 賢一の言葉に久米が
 「待って、夜、食事が終わって、女の子部屋に戻ったとき、私と悦子は窓を開けて外の星空を眺めていたわ。それから、寝る時間になって雨が降ってきたので窓は閉めたけど、鍵を閉めたかどうかはおぼえてない。開いてる窓から誰かが入って、内側から鍵を閉めたとして、まだこの家のどこかに私たちの知らない犯人が隠れてる可能性もあるわ。」
 「悦子、鍵は閉めてなかったのか?」
 という賢一に毛布に包まって暖炉のそばでブルブル震えながら、横に首を振る悦子。
 「健次、お前、悦子に気があったんだよな。昔付き合ってて、一方的に振られたそうじゃないか。なんだ、また悦子とやりたくなったか。」
 「なんだよ、俺を犯人扱いか?自分の彼女寝取られて、俺に八つ当たりかよ。第一、俺とお前は同じ部屋に居た。そのことはお前が一番よく分かっているだろ。」
 「だけど、悦子がレイプされた当時、俺はトイレで部屋を空けていた。健次が部屋に居たとは限らない。」
 「だったら、お前がやったんじゃないのか。最近悦子の仲が悪くて全然やらせてもらえなかったそうじゃないか。たまっててやりたくなって隣の部屋に行った。一応彼氏だからやらせてもらえるもんだと思った。悦子が抵抗するから無理やりやった。つじつまは合うじゃないか。」
 「ふざけるな。俺はやってない。」
 そう叫んで、健次につかみかかろうとする賢一に、久米が
 「ちょっとやめてよ、二人とも。いまは言い争ってる場合じゃないでしょ。屋外から入った犯人はきっとまだこのロッジのどこかに居て、次の獲物を狙ってるわ。だからあなたたち男子に守って欲しいの、その守ってくれるはずの二人がケンカじゃ、不安で私も悦子も眠れないわ。」
 久米に言われて冷静になる二人と、暖炉のそばで震えている悦子。
 このロッジのオーナー丸太が、
 「警察に連絡した方が良いのじゃないか?」
 と提案する。
 「このロッジには電話線が引かれてないし、携帯だって電波が届かない。どうせ誰も携帯なんて持ってきてないだろ。」
 と、賢一。
 「そういえば久米が携帯持ってきてたけど。」
 と、健次。賢一が久米から携帯を受け取る。雨のためか妙にプラスチックがべたついて、電波が入らない。
 「誰かが車で警察まで走れば良い。」
 と賢一。
 「じゃあ、お前が行けよ。」
 という健次に、
 「やっぱお前が犯人だよ。」
 と賢一。
 「冷静に考えてみろ。ここから駅まで四十分はかかる。あたりには何もない山奥だ。駅についてからも交番を探すのにそれなりの時間が掛かるだろう。
 車が運転できるのは、俺と健次と久米と悦子と彩、この中の誰が行っても良い話になる。でも、この辺りの地理に詳しいのは丸太だけだ。で、丸太は車の運転が出来ない。誰が行くにしろ、地理に詳しい丸太を連れていくことになる。俺が行ったらこの場に残る男は誰だ?健次、お前一人だ。駅まで往復でたっぷり一時間半は掛かる。その間、このロッジに居るのは恐怖から何も出来なくなってる悦子と、お前の彼女の久米、そして彩、女の子三人を相手にやりたい放題だよなぁ。」
 「ちょっと待て。いつから俺がレイプ犯になったんだよ。確かに俺は悦子のことが好きだったし、一時期は付き合っていた。でも、もういまじゃ未練はない。第一、そういう言い方は俺の今の彼女の久米に対して失礼だろ。俺が悦子をレイプしたんだったら、久米の存在はなんなんだ。俺を疑うのは良いよ、このメンバーの中じゃ、アニメオタクの丸太が生身の女に手を出すとは思えないし、一番あやしいのは俺だ、でも、賢一の言い方は久米に対して失礼だよ。俺は良いから彼女に謝れ。」
 「悪かったよ。久米には悪かったけど、健次じゃなかったら誰なんだよ。丸太か?おい。正直に言えよなぁ。」
 「ちょっと待って、さっきからみんなおかしい。犯人はこの六人の中には居なくて、外から入ってきた誰かだって言ってるじゃない。だから身内を疑うのはやめて、六人でロッジの戸締りと、人が隠れそうな場所を探しましょ。」
 という久米。六人でロッジ内の部屋をすべて見て回ることにする。まず、この六人が居るリビング。ロッジの中では一番広い部屋で、まきの暖炉がある。犯行時ここに居たのは丸太と彩の二人。テレビゲームで、恋愛シュミレーションゲームをやっていた。暖炉の木の減り具合からいっても、誰かが火をみながらここにいたのは確実だと思われる。
 次に、玄関。ここは鍵が閉まっていて誰かが外から出入りした様子はない。台所も電気をつけてみてみたが、誰かが潜んでいるということもなく、窓一つないため、外部からの進入があったとは思えない。浴室。ここも特に異常なし。二階に回って、男の子たちが寝室として使った男の子部屋。六人以外の不審者が潜んでいるとは思えないが、このロッジが斜面に作られているため、入り口から見て二階になるが、窓と地上が近く、鍵さえ開いていれば簡単に出入りできるつくりになっている。次に女の子部屋。部屋の作りは男の子部屋と同じで、窓の鍵も閉まっている。犯行時、ドア側に久米、窓側に悦子が寝ていた。これがこのロッジのすべての部屋だ。
 すべての部屋を回って真っ先に話はじめたのは賢一だ。
 「外部からの進入の形跡はない。おそらく内部の者の犯行だ。健次、お前、警察に連絡しろ。」
 「ちょっと待てよ。俺一人でこんな山奥に放り出されたら、とてもじゃないけど町には出れないぜ。」
 「じゃあ、丸太を連れてけ。」
 と賢一。
 「それじゃあ、さっきの話と同じじゃないか。もしお前がレイプ犯だったとして、レイプ犯と女の子三人を山奥に放っておくわけにはいかない。」
 という健次に、賢一がムキになって、
 「おまえ、俺をレイプ犯だというのか!」
 「可能性としてはありえると言っているまでの話で、可能性がゼロでない以上、自分の彼女と同じ屋根の下に置くわけにはいかない。」
 健次はあくまでクールに、久米の方をちらっと見ながら言い放つ。
 「悦ちゃんはあの状態だから、車の運転は無理だとしても、久米さんなら大丈夫じゃないかな。」 
 と丸太。
 「嫌!レイプ犯かもしれない人と二人っきりで山の中なんて絶対嫌!」
 久米は間髪入れずに大声を上げたあと、ぼそっと
 「ごめん。悪気はないの。」
 と、つぶやいて髪をかきむしった。
 「とにかく、この中にレイプ犯がいる以上、男一人と女の子という組み合わせがロッジの中にも、車の中にも発生してはまずい。」
 と賢一。
 「明け方まで待つしかないのか。」
 と丸太。突然、いままで黙っていた悦子が話し始めた。
 「あの、私のことならもう良いの。何もなかった。私の思い過ごし。だからみんな気にしないで。」
 「そういうわけには、いかないだろ。」
 という賢一に、健次が
 「やっぱ、彼女というのはどういうときにも彼をかばうものですね。」
 と冷たく言うと、賢一が健次の胸倉をつかみ上げ、
 「ふざけるな、俺が悦子を襲う理由がどこにある?動機があるのはおまえだけだろ。」
 というと、悦子が
 「良いの、みんな気にしないで。本当に何もなかったから。」
 すると久米が突然、
 「ちょっと待って。何もなかったって、悦ちゃんあんなにおびえていたじゃん。何もないわけないでしょ。はっきりしてよ。もしもこの中に犯人がいたとして、つぎ狙われるのは私なのよ。あいまいにして終わらしたくないの。怖いのよ私は。」
 と言い出す。
 悦子が穏やかに、
 「私は警察が怖いの。警察に行ったら、どんなことをされたとか、どこを触られたとか、色々聞かれるでしょ。そして裁判にでもなったら、さらに人前で色んなことを言わなきゃいけない。私は嫌なの。もう思い出したくないの。」
 長い沈黙が続いた。暖炉の火が赤々と燃えている。悦子はまだ毛布に包まったままだ。
 「俺はね。それこそ、恋人同士の痴話げんかなんだったら警察なんかに行く必要はないと思うんだ。ただ、賢一の怒り方を見てると、そうとは思えない。だとすれば、第二・第三の犯行も、ありえると思うんだ。」
 丸太の話に舌打ちする健次。
 「いや、健次が悪いと言っているんじゃない。健次だってついこないだまで悦ちゃんと付き合っていたわけで、俺なんかからすると痴話げんかの範囲内だ。じゃなくて、まだ見えないけど、この部屋の中に誰か犯人がひそんでいる可能性があるわけだよね。それをはっきりさせないと、久米ちゃんや彩ちゃんだってだってこわいんじゃないかな。」
 「とにかく、犯人を見つけ出さないと、私たちはここから動けないわ。もし、朝が来ても、誰も警察に通報できないどころか、ここから動くことさえ出来ないのは、さっきの話で実証済みだし。」
 と久米。すると健次が
 「例えば、久米と悦子と彩の女の子コンビで駅まで行くってのはどう?」
 と言うと、久米は
 「それだと道が分からないし、夜の山道を女の子だけなのは不安すぎる。レイプされた直後の女の子が見知らぬ男性に道を聞けると思う?」
 と言う。
 「男三人で警察に行けば。」
 と健次が言えば、
 「あの子、さっきからずっと暖炉のそばであんな状態なのよ。レイプ犯がいるかもしれないロッジに女の子をおいて、自分たちだけ先に逃げちゃうってひどすぎ。犯人に襲われたら私だけで闘わなくちゃいけないの?」
 「逃げるつもりはないけど、さっきも六人で戸締りを確認しただろ。外は雨で部屋の中はどこも濡れてなかった。鍵は閉まっていて、外部からの進入の形跡もない。こんな人里離れたところに、歩いて誰かが来るわけないし、いまのところ外には僕らの車しか置いてない。よって、いまここには俺たちだけしかいない。だから俺たちが出て行っても大丈夫。どう?」
 「女の子が不安なとき、そばにいて守ってくれるのが男でしょう?どうしていつも状況から逃げようとするの!」
 と、ヒステリックに声を上げる久米。うろたえる健次と、あわててなだめる丸太。
 「いや、健ちゃんはそういうつもりで言ったわけじゃないと思う。誰かがこの場を出て、警察に連絡を入れるべきだし、状況を打開するために健ちゃんだって必死なんだ。そうだ、このロッジが怖いんなら、先に女の子たちが山を降りれば良い。道が分からないなら僕がついていってあげても良いし。」
 と言う丸太に、
 「悪いけど、丸太くんの疑いもまだ晴れてないの。誰を信じていいか、まったく分からないままなの。」
 と、久米が泣き出す始末。
 「完全に、監禁されたわけか。」
 と賢一。
 「誰が俺たちを閉じ込めてるんだろうな。」
 と健次。
 「ごめんね。ほんと、私のせいでこんなことになっちゃって。」
 と悦子。
 「悦子は悪くないよ。気にしないで。」
 そう言って、悦子の肩に手を回そうとする賢一、賢一の腕をはじいて悦子が
 「ごめん。触らないで。」
 と、つぶやく。はじかれた手を自分ではたく賢一。
 「信用ガタ落ちだな。健次には悪いけどやっぱり犯人捜しをするしかなさそうだ。じゃないとこのロッジから誰も出れなくなる。犯人に結びつく物は、犯行現場の遺留品と被害者の証言。それから容疑者のアリバイ。とにかく、どこで何が起きたのかはっきりさせないと先に進まない。」
 「健次に悪いは余計だけど、基本的には賛成だ。」
 と健次、賢一は続ける。
 「犯行当時、窓は閉まっていたが、鍵は誰が閉めたかわからない。外は雨で室内は濡れていない。窓側に悦子、廊下側に久米がいて、悦子は目隠しとヘッドホンをされ、手を前で縛られて後ろから入れられた。犯行時、久米も悦子も熟睡。久米、犯人の姿は見てないのか?」
 「見たかもしれないし、見てないかもしれない。寝ているところを悦子の声で起こされて、寝ぼけたままなので、部屋から逃げる黒い影を見たような気もするし、見てないような気もするし。それより、他の人は部屋から走り去る犯人の姿は見てない?」
 と久米。それに答えるように、彩が
 「彩は丸太くんとテレビゲームをしていたですぅー。まるちゃん女の子に超モテモテでしたぁー。気がついたら暖炉の横でおねむしちゃってましたぁー。」
 健次、ちょっと切れ気味に
 「モテモテ?お前やっぱ、悦子をやったのか。」
 丸太はあわてて、
 「違う、僕は彩とここのリビングで恋愛シュミレーションゲームをしていただけだ。僕は二次元コンプレックスで、3Dの生身の女の子には興味がない。アニメやゲームのキャラで反応することはあっても、生身の女の子には何も感じない。だから、今回の犯人ではない。犯行時、一階にいたから、二階のことはよく分からない。犯人の姿も見ていない。二階の方で、行ってみたらこの状況だった。」
 と、丸太。それに続けて賢一が、
 「正確に言えば、俺もその時間帯起きていた。トイレに行くため十五分ほど部屋を出ている。リビングにいる丸太の姿を見たし、丸太のアリバイは俺が保障する。」
 「じゃあ、俺が怪しいってのか。でも、言わせてもらえば、十五分しか賢一がトイレに行ってなかったとして、賢一が部屋から出たたった十五分間で俺がレイプできるかな?第一俺は、賢一がいつ戻ってくるのか知らないわけだ。それに、賢一が部屋を出るとき、俺が確かに男の子部屋で寝ていたのを賢一は確認している。つまり、俺のアリバイも賢一が保障しているってことだ。
 賢一が俺を陥れようとして一つ失敗したのは、丸太のアリバイを保障したことで、アリバイがないのが自分一人だけになったことに気づいてないってことだ。」
 と健次。
 「面白い。健次は俺を疑っているわけだ。まず、君のアリバイだが、俺が部屋に戻った後、健次がいなくなっていたとして、俺は健次がトイレにでも行ったのかなとしか思わない。それから、俺にアリバイはない。でも、同時に動機もない。自分の彼女をレイプしようとは思わない。確かにここのとこ、彼女とはうまく行っていなかった。だからといって、それとこれとは別だ。」
 「犯人は賢一じゃない。賢一の物だったら、目隠しされてても分かるもん。」
 と、悦子。
 「それは、その。答えにくい質問だとは思うけど、入れられた物が賢一のものではなかったという話に解釈していいのかな?」
 と、いう健次に悦子がうなずく。
 「だったら、俺も犯人じゃないってことがわかるだろ?俺たちだって、少し前まで付き合ってたわけだし。」
 「昔のことだからわかんない。」
 「じゃあ、いまその物を触って確認してもらうってのはどうかしら?手がかりはそれしかないわけだし。」
 という久米の提案に、賢一が
 「ちょっと待て、悦子はまだ気が動転しているし、心の傷も深い。警察で証言させられるのも嫌だって言ってるような奴に、そんなことさせられるわけないだろう。」
 「いや、彼女ならやると思う。」
 と久米。周囲の視線が悦子に集まる。
 「私やる。触られるのは嫌だけど、触るのは平気だから。」
 そう言って力なく立ち上がる悦子。
 「ちょっと待て、本気かよ。嫌だよ俺、悦子が他の奴の物を触るのなんてさ。」
 うろたえる賢一に、久米が手をたたきながら
 「はい、男三人横一列に並んで。賢一もそんなにうろたえない。誰と何しようと彼女の自由なんだから。」
 丸太のズボンに手を入れる悦子。
 「ちっちゃい。ぷよぷよ。犯人のはこんなんじゃなかった。」
 「みろ、健次、お前だよ。お前が犯人だよ。」
 と喜ぶ賢一。彩は手で形を作って
 「ちっちゃいって、このぐらい?このぐらい?」
 と聞いている。健次のズボンに手を入れる悦子。宙を見上げて、少し眉をしかめながら
 「えぇーー、こんなのだったけ?健次のって昔はもっと硬くて大きかったような気がしたんだけどなぁ。」
 「おまえ、何反応してんだよ。ズボンがモコモコ動いてるぞ。」
 という賢一に健次が
 「いや、違うんだ。手だよ手。悦子の手が動いているだけで俺のじゃないからな。」
 「動いてる。動いてるよ。」
 と相変わらず、健次の動きを手で表現する彩。
 「なんか違う。健次のでもない。」
 という悦子が、賢一を見つめて
 「ね、イックンのもやる?」
 「い、一応、俺のも調査しないと平等性が損なわれるだろ。」
 賢一のズボンに手を入れる悦子。
 「ふぅーーーん。こんなんなんだ?人によって形も大きさも違うんだね。」
 「こんなん、こんなん。」
 と喜ぶ彩。
 「そうじゃなくって、犯人は分かったのかな?」
 という丸太。
 「犯人のはもっと大きくって硬かった。」
 と、つぶやく悦子。うなずく一同。ただ、問題はその物は状況に応じて大きくも硬くもなるということだった。
 「犯人が武器を使用した状態にまで持っていかないと、犯人が誰だか分からないってことね。じゃあ、使用可能な状態まで各人もっていってもらおうかしら。」
 と人事のようにいう久米に賢一が。
 「これは、高度にプライベートな内容を含む情報なわけで、そう簡単に公開するわけにはいかない。それに、彼女の心の傷も考えてやらないと。」
 すると悦子が
 「私は良いよ。なんか、散々泣いたら、すっきりしちゃった。全然平気、おっきくしてあげようか。」
 そう言いながら、悦子は賢一のズボンに入れたままの手を動かす。
 「それは良い。それは良いけど、ちょっと待て。俺の意思はどうなる、俺の。誰か、タオル取ってくれタオル。顔を、顔を隠したい。」
 賢一の言葉に、反応し、賢一の顔をのぞき込む久米。
 「ふぅーーーーん。賢一くんってこんな顔するんだぁ。かっわいい、はじめて見た。」
 「やめろ、どけ、みるな。」
 暴れる賢一。久米が悦子に
 「ね、悦子、これなの?さっき中に入ってきたのはこれなの?」
 と詰め寄るが、悦子は
 「分からない。犯人のそれは手で触ってないし、中に入れられただけ。」
 と、つぶやく。
 「だったら、もう一度そのときのことを思い出して、中に入れるの。アソコにしか犯人の記憶が残ってないんだから。」
 という久米に、悦子は
 「嫌、思い出したくない。思い出したくないの。」
 「久米ちゃん、いくらなんでもやりすぎだよ。悦ちゃんはさっき襲われたばかりで心の傷も治ってないし、精神衰弱状態だ。そんなときに人前でこんなことをさせるなんて絶対どうかしている。女の子だったらそのぐらい分かるはずだろ。」
 という丸太を久米がにらみつけ、
 「丸ちゃんは自分が犯人じゃないことを証明したくないの?いまここで犯人探しを止めさせようとする人が、一番犯人に近いわ。今のセリフは犯人の自白だと受け取って良いの?」
 健次が丸太に小声で
 「いいか、これは捜査なんだ。俺たちの生死がかかってる。賢一だけじゃなく、俺たちもあの取り調べの対象になるんだ。ここは黙って指示に従った方が利口だぞ。」
 と止めに入る。
 「あの取調べを俺たちも受けるのか。」
 と、小声でつぶやき、しぶしぶ承諾する丸太。
 「いい、悦子。犯人を見つけ出さないとこのロッジからいつまでたっても出られないの。犯人とずっと一緒なのよ。お願い分かって。あなただって、やられたまま逃げるのは嫌でしょ。犯人に仕返しをしてやりたい。犯人を捕まえて刑務所に入れてやりたい。そう思ったら、これぐらいなんでもないはずよ。」
 「やだ、こんなの入らない。入れたくないよ。だめだめだめだめ、悦子だめ。だめだよ悦子。」
 泣き出す悦子を賢一がゆっくりと床に寝かせて。
 「大丈夫。大丈夫だから。疲れてるみたいだから、ちょっと横になろう。怖かったの?そうか、怖かったか。心配ない。俺もついてるし、みんなもついてる。怖いことなんてどこにもないんだ。
 腕枕好きだっただろ。どうだ、こうして胸に耳を当てて心臓の音を聞いてると落ち着くって言ってたよな。俺の腕の中で子供みたいな顔をして寝ている悦子の寝顔が俺は好きだ。手をグーにして丸くなって、赤ちゃんみたいな顔をして寝ている。ほっぺがぷくぷくで、唇が上向きで、唇の透き間から前歯が二本、少しだけのぞいている。そんな寝顔を見ていると、絶対に悦子とだけは離れられない。何があっても守り抜いていこうと思うんだ。」
 悦子をなだめる賢一、徐々に落ち着いていく悦子。
 「あわてて、答えを出さなくていい。ゆっくりと少しづつ、悦子のペースでいけばいい。俺が先に行き過ぎたら、ちゃんと悦子の方を振り返って、手を振って待っててやる。お前を迎えに行ってやる。周りがどんなに早足で、僕たちを急がせたとしても、僕らは僕らのペースでゆっくり行けばいいんだ。こうやってじっくり時間をかけてやれば。な?ちゃんと全部入っただろ。」
 賢一の胸に顔をうずめたまま悦子が涙声で
 「賢一も結局そっちなんだ。」
 「で、結局賢一の物はどうだったの?」
 と詰め寄る久米。悦子首を横に振って、両手で形を作りながら
 「全然違う。犯人のはもっと硬くて平べったい感じのがにゅって入ってきた。」
 「じゃあ次は健次ね。」
 と久米。賢一がうろたえて
 「なんでだよ。彼女の身にもなれよ。強姦された挙句、なんなんだ、この仕打ちは。」
 「取調べはすべての容疑者に対して行われる物です。それに、どさくさにまぎれて彼女とやった男に、そんな言い方はされたくありません。」
 久米の強引な仕切りに、健次が服を脱ぎながら答える。
 「誤解しないでほしいんだけど、俺は本当はこんなことはしたくない。でも、自分に容疑が掛かっていて、無実を証明するためには仕方のないことなんだ。」
 「ちょっと待って、こんな中途半端な入れ方をされて、次は健次ってどういうこと?」
 うろたえる悦子に久米は
 「元とはいえば、あなたが色んな男に手を出すからややこしくなるの。賢一とも健次ともデキてて、他にもあちこち色目使うからレイプされるのよ。」
 「ひどい!私はいったい何をやったってのよ。健次と付き合ってた期間だって賢一とは重なってないし、色目だって使ってない。久米がモテないのは、私が悪いんじゃなくって、あなたの性格に問題があるの。」
 「何いつも自分ばっか、かわい子ぶって被害者面して、しおらしくしてたら良いおもいできると思ったら大間違い。残念でした。あなたには体目当ての男しか寄ってきません。」
 「久米、お前言いすぎだぞ。」
 という健次に久米は
 「なによ、あんただって、悦子とやりたい一心で、服脱いで、ズボン膨らませて、
 『誤解しないでほしいんだけど、俺は本当はこんなことはしたくない。』
 ないそれ?デレデレしてさ。あんた、やりたいオーラがギンギンに出てんのよ。」
 「久米、ちょっと相談していいかな。俺にはすごく大事な女性がいる。彼女は俺が他の女の子を強姦したのじゃないかと疑いを持ってる。俺は自分の大事な人に、自分の無実を証明したい。
 『どうしたら、僕を信じてくれる?』
 って聞いたら、彼女は
 『被害者の女性とやったら信用できる。』
 って言うんだ。でも、被害者の女性とやろうとすると彼女は突然怒り出す。自分は男だから、なかなか女の子の気持ちなんて分からない。どう扱っていいか分からなかったり、彼女を怒らせてしまったりなんてのはしょっちゅうだ。でも、久米だったら同性だから、きっと彼女のして欲しいことも、分かるんじゃないかな。男してはこんなとき、どうしたらいいんだろう。」
 暖炉の火が赤々と燃え、まきがこげる音がバキバキと響く。悦子が毛布を抱いたまま、
 「久米、健次くん、無罪だよ。彼はやってない。今まで一度もやったことのないような、冷たい感じのが入ってきたの。健次くんはさ、ほら、モトカレだから。」
 みんなの視線が丸太に集まる。
 「みんなも知ってるだろうけど、僕はセル画やCGの女の子にしか興味がないし、犯行当時も恋愛シュミレーションをしていた。生身の女の子に手を出す趣味はないし、第一レイプしようにもアソコが立たない。」
 すると健次が
 「丸太が二次コンなのは知っていたけど、立たないは言いすぎじゃないか?」
 「いや、生身の女性に興味がない証拠に、このロッジにはアダルトビデオもエロ本もない。」
 「それじゃ証明にならないんだよ。エロ本があって、それを見た上で立たないなら分かるけど、エロ本もアダルトビデオもないんじゃ立たないことを立証できない。」
 すると突然、悦子が
 「私が脱ごうか。犯人は私に興味があった。私が脱いで立たなかったら、丸太くんは犯人じゃない。」
 という悦子に賢一が
 「ちょっと待てよ。なんで、お前が。」
 「犯人を捕まえるため。」
 そう言って悦子は脱ぎ始めた。賢一と健次は反応したが、丸太は反応しない。
 「丸太の物が極端に小さいからズボンの上からじゃ分からないって可能性もあるよな。」
 という健次に、賢一が
 「だとしたら、丸太は犯人じゃない。犯人のは大きくて硬いと悦子が言ってた。」
 悦子が丸太に近づき腕を組み始める。
 「こうやって、抱きついたり、胸を押し当てたりすると、大抵の男は前が膨らむんだけどなぁ。胸元のブラチラとかどう?」
 そう言って、抱きついたまま丸太のズボンの前を触るが反応なし。
 「太りすぎ、糖尿でインポなのじゃないの?」
 と久米。
 「いや、僕はセル画やCGの女の子なら立つので、糖尿でもインポでもない。」
 という丸太に、悦子が黒いブラをはずしながら、
 「さっきから、ずっと丸太くんが犯人のような気がしてた。この中で、やったことないのは丸太くんだけ、確かにあのとき、いままでやったことのない物が入ってきたの。それに、この旅行を最初に企画したのも丸太くんだし、このロッジも丸太くんのものだし、土地勘もあれば、ロッジの造りも詳しい。賢一と彩は丸太くんがずっとここでゲームをしているのを見たと言ってるけど、彩は暖炉で寝てしまっていたし、賢一だって丸太くんに声をかけたわけじゃない。ゲームの音がしていて、明るい光の中で黒い影が動いているのを見ただけなら、賢一が見たのはソファーにのせた毛布だったかもしれない。大体、寝起きに暗い廊下から明るいリビングの前を通り過ぎただけで、誰がそこにいるかなんて普通気にしない。
 私が脱いだら、男だったらみんな反応する。なのに丸太くんは気持ち良いのを我慢している。何故か?勃起してしまったら、立った状態の自分の形や大きさが私にバレたら、自分が犯人だってことが告白されてしまうから。犯人であることを隠そうとして、立たない振りをした。でも、それが犯人であることの何よりの証拠。他の二人はちゃんと立ってて、形も大きさも私の手で確認している。あなただけなの。服を脱ぎなさい。丸太くんのおチンチンに、あんたが犯人であることを自白させてあげるから。
 久米、私のバッグとって、ローションとコンドーム入ってるから。こう見えても腕には自信あるの。」
 悦子の態度に賢一が
 「悦子、本気か?無理するんじゃないぞ。襲われそうになったらすぐに声を出して助けを求めるんだぞ。」
 「私だって、プライドがあるの。襲った上に立たないなんてふざけてる。絶対、警察に突き出してやるから。」
 それに対して丸太は
 「悦っちゃんには悪いけど、無理だと思うよ。俺は本当に反応しないんだ。」
 悦子、ローションを手に塗り、丸太のアソコを触るが一切反応しない。口でやってもだめ。小型のフニャチンを自分の中に入れようとしたが入らない。胸をもませても、丸太の顔を悦子の胸にうずめてもダメ。あせる悦子。完全に二人だけの世界に入っていく二人を四人が呆然と眺める。
 彩が、
 「悦子、がんばって!負けちゃだめ、そこしごいて立たせる。立て、立つんだジョー。立たなきゃ昨日に、逆戻り。」
 そして、黙っていた久米がボソリとつぶやく
 「みんなさ、悦子のどこが好きなの?この子のどこが良いの?犯人だってさ、私と悦子が同じ部屋にいて、なんで悦子だけを襲うの?」
 「それは、たまたま、犯人の手近かな所に悦子がいたんじゃないかな。」
 と健次。
 「窓側に悦子で廊下側が私。廊下から犯人が入ったとして、手近かなのは私だよね。」
 「たまたま、犯人の好みが悦子の方だった。」
 「悦子の方が可愛くて美人で胸も大きくてスタイルも良くてHっぽくってヤラせてくれそう?私は不細工で胸も愛想もなくって、身持ちも固くてHも下手。無趣味で地味で詰まんない女。違う?」
 詰め寄る久米に健次が、
 「んん。そこまでは言わないけど、一般的にいって、派手なのは悦子の方かな。」
 「みんなさぁ、同じ部屋に同じ女の子がいて、悦子だけ襲われて、私だけ襲われてないことをどうして不自然だと思わないの?」
 すると、賢一が爆笑して
 「だってさ、そんなのみれば分かるじゃん。男なら十人いれば、十人とも悦子の方を襲うと思う。久米が襲われないことを不自然だとは誰も思わない。」
 「賢一のは極論だとしても、レイプ犯は女の子の中身までは見ない。襲われないような女の子ってのも、良いもんだと思う。だから久米は無理して悦子みたいにならなくて良い。」
 一仕事終えた悦子が、
 「全然だめ、まったく歯が立たないわ。」
 と言うと健次が
 「手がかりはまったくなくなったって訳か。他に犯人に結びつく物としては、犯人の遺留品がいくつか部屋に残っていた。悦子の手を縛ったタオルと目隠しに使われたハンカチ。そして、ヘッドフォンとCDウォークマン。それらは全部丸太の持ち物だ。普通に考えると丸太が一番怪しいということになる。」
 「でも、僕はさっきも見てもらったように、生身の3Dの女性に対してはまったくの無関心で、悦ちゃんに触られても立ちもしなかった。それに、わざわざ自分の持ち物を犯行現場に置いていくのもおかしい。第一その遺留品は全部この部屋にあったもので、誰だって出入りしてそのぐらいの物は持ち出せたはずだ。」
 と丸太。健次は続ける。
 「確かに丸太の言うとおりだ。ただ、犯人は何故、自分に捜査が及ぶ危険を冒してまで、証拠となるような遺留品を残していったのか。」
 「悦ちゃんに抵抗されたり、顔を見られたり、声を聞かれたりしたくなかったから。それをされたら、誰がやったのかがバレてしまう。」
 と丸太。
 「そう、普通に考えるとそうなるのだが、アニメの主題歌が流れるヘッドフォンがどうしても腑に落ちなかった。その曲の歌詞は
 『アニメじゃない/アニメじゃない/本当のことさ』
 という歌詞を繰り返している。いまここでやっているレイプはエロアニメのレイプシーンではなく、本当の、リアルレイプだと言ってるように考えられる。つまり犯人は、アニメやゲームの中でのレイプを何度も経験するうちに本当のレイプをしたくなった仮想現実世界の住人だと考えられる。」
 持論を展開する健次に丸太が
 「言いがかりだね。僕を犯人に仕立て上げようとするワナだ。第一レイプしようにも立たなかったんだから。」
 と反論。
 「俺もずっとそのことを考えていた。視界を奪うためのハンカチ、手の自由を奪うためのタオルは分かる。もし、悦子が犯人の手に引っかき傷を負わせたり、犯人の服の一部をつかんで離さなかったら、それが後に決定的証拠になるからだ。でも、聴覚を奪うためのヘッドフォンはどうだろう。これは本当に必要な物だろうか?単に犯人が声を出さずに静かにレイプをすればすむ話じゃないだろうか?」
 健次の論に丸太は反応して
 「そんなのは、犯人の勝手じゃないか。大きな喘ぎ声を出しながらレイプしたい犯人だったのじゃないか?」
 「その割にはリスクの高い遺留品なのじゃないか。遺留品なんてのは目立たず地味で、逃げるときポケットにしまいこめたり、どこかへ隠したりできるようなものが理想のはずだ。タオルやハンカチなら、女の子部屋のどこかに落ちてても、誰かが間違えて持ってきたのじゃないかで済む。でも、ヘッドフォンとCDウォークマンは持ち主に無断で間違えて持ってきたじゃすまない。そんな犯人と直接結びつくような品物を何故わざわざ置いていったのか。何故わざわざそんな物を使ったのか。犯人はそれを使わないと立たないようなタイプの人間だった。」
 「言いがかりだ。アニメに対する冒涜だ。」
 健次は丸太を無視して続ける。
 「ヘッドフォンとCDウォークマンを持って逃げなかったのは、それらよりも、より犯人像と結びつきやすい物を犯人が犯行現場に持ち込んでいたからだ。彼は自分が犯人であることを示すある物を持って逃げるので精一杯だった。そのものとは、いま彩の持ってるこれです。」
 健次が指さした先にあったのは、猫耳。
 「これは通常、プリクラの変装グッズ貸し出しコーナーにあるもので、一般の人が一番よく目にするのはバニーガールのつけてるウサギの耳でしょう。物によって、猫・うさぎ・象などの種類があって、この部屋においてあるのはどれも猫ものばかり。ヒョウ柄やトラ柄、ダルメシアン柄やシマウマ柄などあり、このコレクションを見た限りでは丸太くんは相当の猫耳フェチだと考えられます。アニメの中にいるキャラクターがつけている猫耳を現実の女性に付けさせることで、彼はアニメと現実をつなごうとしたのです。
 悦子さん、この猫耳をつけてもらえますか?」
 悦子が猫耳を付けると、丸太の前ズボンがすぅーーーと持ち上がった。
 「どうです。これで実証されましたね。彼は、猫耳のヘアバンドを付けているのを被害者に悟られないように、ヘアバンドと一緒にヘッドフォンを付けて音楽を鳴らし、猫耳フェチの自分への容疑をカモフラージュしようとしたのです。」
 「待て、違う。確かに俺は猫耳フェチだけど、レイプはやってない。」
 すると久米が、
 「状況証拠はそろっている。あとは、丸太くんの物が悦子の記憶と一致するかどうか。悦子、試してみる?」
 悦子は部屋にあった猫耳だけでなく、猫尻尾も洗濯バサミでスカートに付けながら言った。
 「服を脱ぐんじゃなくって、着る方向で立つ人って初めて。」
 悦子は丸太のズボンのふくらみに
 「はじめまして、よろしく。」
 と、頭を下げる。
 「ちがうんだ。本当に、本当に僕じゃないんだ。」
 と、うろたえる丸太。丸太を寝かして上にのる悦子。
 「こんなぷよついたお腹に乗るのも初めて。お腹ってこんなに弾むんだ。凄いよ、これ。さっきと全然違う。すごくおっきい。圧迫感が全然ちがう。
 ね。上になって。上から体重乗せられるのが好き。気持ちよくって押しつぶされそう。」
 健次が
 「これで、有罪確定だな、丸太。お前も結局普通の男だったってことだ。」
 と言うと、賢一が、
 「俺は、丸太じゃないと思う。もしも、丸太の物が犯人のそれと違ったら、この場で悦子とやってないのは健次だけだ。次は健次が悦子の取調べを受けることになる。それで良いかな、久米?」
 と言うと健次は
 「まだ俺を疑ってるのか?もしも、丸太じゃなかっただろ?いいよ、取調べでも何でも受けてやるよ。」
 すると、久米が突然泣き始める。賢一が久米に
 「久米ちゃん、いい加減本当のことを言わないと、本当に健次は悦子とやっちゃうぞ。久米の目の前で健次が悦子とやってても、それでもまだシラを切り通せるのか?いい加減本当のこと言うべきだよ。」
 「なんだよ。わけわかんねぇーよ。なんで泣いてんだよ。」
 状況が理解できない健次に賢一が
 「悦子がレイプされたとき、目隠しだけでなくヘッドフォンが付けられてたのは、バイブのモーター音を消すためだったんだよ。悦子が入れられたのはチンチンじゃない。バイブだったんだ。」
 すると健次は
 「ちょっと待て。だとしても、久米が犯人である理由がない。第一、久米はバイブなんて持ち歩いていない。」
 「さっき、警察に電話しようとしたとき、久米の携帯、雨で濡れてただろ?あれ、雨じゃなかったんだよ。」
 そう言いながら、久米の携帯をブルブルモードで着信音ボタンを押して机の上に置く賢一。携帯電話がテーブル上でカタカタ踊りだす。
 「これに、コンドームをかぶせて悦子の中に入れた。固くて冷たくて平べったい物の正体はこれなんだよ。」
 「うそをつけ。久米はそんなことをするような奴じゃない。」
 あわてる健次。賢一は
 「久米、いい加減本当のことを言わないと、警察を呼ぶことになる。いまならまだ間に合う。携帯を悦子の中に入れれば、誰がやったかバレちゃうんだよ。」
 と久米の目をみて説得。久米が
 「ごめん。本当はこんなことするつもりじゃなかった。でも、悦子は寝言で健次を呼んだの。すごく楽しそうな顔して、健次、健次って。男関係が派手だとは聞いていたし、健次と付き合っていたのも知ってる。でも、夢の中とはいえ、まだ健次とつながってて、健次と変なことしてるって、そう思ったら許せなくなった。
 ヘッドフォンは携帯のモーター音を消すために必要だった。性欲以外で悦子を襲うのなんて私しかいないもんね。リビングでテレビゲームの音がしてたので、ヘッドフォンは使ってないのだと思った。お昼のとき、テレビの後ろにCDウォークマンとヘッドフォンが置いてあったのを思い出して、トイレに行く振りをして持ってきちゃった。丸太くんはゲームに熱中してて私に気づいてないみたいだった。気づいていたとしても廊下を通ったぐらいの認識しかなかったと思う。
 悦子は男関係も派手だし、肉体関係も積極的だから、夢の中でもきっとそう。ブルブル震える携帯をあてたら、私の知らないようなことや私の出来ないようなことをいっぱいしゃべってくれた。健次のこととか知りたくて不安でどんどん奥に入れてったら、急に悦子が大きな声を出して、気がついたら、こんな騒ぎになってた。」
 しんみりしゃべる久米の横でやり終わった悦子が
 「ああ、すっきりした。丸太結構いいわ。良い物持ってるよ、彼。」
 賢一が悦子に
 「で、犯人はどうだったんだよ。」
 「え?忘れてた。うーーーーーん。多分ちがう。全然ちがう。彼のあれは熱いもん。温度も分厚さもあつい。」
 それを聞いた健次が賢一に
 「賢一はいつから、久米を疑ってたんだよ。」
 「悦子がまだレイプの恐怖から立ち直ってないのに、悦子にチンチンチェックをさせた辺りからだよ。悦子に恨みのある女じゃなきゃ、あんな提案は出来ないはずだ。」
 賢一の言葉に健次は
 「嘘だね。そんなに早くから気づいていたのなら、もっと早く問題は解決できたはずだ。」
 「いや、違う。俺があれを野放しにしたのは、悦子が他の男とどんな顔をしてやってるのか、見てみたくなったからなんだ。」

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