「街角アーチストの生活」

 大学や専門学校でバンドや演劇をやって、雑誌や自主製作映画を作るモラトリアムな芸術家は多い。でもその多くは、学校を卒業し、会社に就職すると同時に、表現活動を止めてしまう。片桐さんの部屋に貼ってあったポスター

 でも、一部にいる会社員と表現活動を両立させてしまう人達。彼等はごく普通にスーツを着て会社に行き、ごく普通に会社員として机を並べ、仕事をし、休日やアフター5を使って、表現活動も充実させる。

 そういう人達はなぜ、就職後も表現活動を続けるのか、バンドや演劇といった活動は仕事に悪影響を与えないのか。時間的経済的に、表現活動と会社員としての労働は両立できるものなのか?実際に会社員と表現活動を両立させてしまっている人達の生活に迫ってみたい。

 今回、インタビューさせて頂いたのは同人活動や自主制作映画を作られているSTCというグループの代表、片桐さんと帯瀬さんだ。

高円寺片桐宅にて駅前集合場所

――(片桐さんの部屋の本棚を見ながら)うわぁ、すげーマニアっすね。スタジオボイス、クイックジャパンまではマニアとは呼ばないですけど、ウェイストランドあるところがもう、ちょっと大丈夫?うわぁ、すげぇーー(部屋眺めながら)MTRにマイクが3台、ボーカルマイクとコーラスマイクと集音マイクすごいっすよね。

片桐:一応、映画の音を撮るのに使ってるので、安いですけど一通りはそろってるんですね。片桐宅の本棚

――ビートルズのCDオリジナル版で全部そろってるし、BOXで買ったでしょ、これ。JICC出版の現代思想入門に田口ランディー、古井由吉に高橋源一郎、部屋みただけで自分より頭良い人の部屋だって分かっちゃいますよね。

マニアックって言い出したら、辻仁成のCDあるし(笑)。これ、音楽としては良いの?辻仁成。昔ラジオ聴いてたけどさあ、好きだったけどさぁ。音楽としては疑問持つなぁ。

片桐:渋谷陽一に言われたそうですよね。辻仁成が3枚目のソロかなんか出した時にファーストイニシャルが5千枚だったらしくて。渋谷陽一に会った時に「5千枚しか売れないのはROCKじゃない」って言われたらしい。「だったら辞めちまえ」って言われたらしい。

――(笑)それ、辻仁成には言えるけど、同じセリフMAD3に言ってみてくれよとか。

片桐:結構ひよっちゃうとこあるからね、渋谷陽一も。

――例えば、誰に対してだったら言いにくいかなぁ、あれ?出てこない。ルー=リードとかパティー=スミスに言ってみて欲しいですよね。

片桐:それはちょっと怖い。

――ルー=リードに「おまえ、今度のニューアルバム何枚プレスしたんだ?」つって、まあ、オアシスとかと比べると少ないじゃないですか、パールジャムと比べてもたぶん少ないじゃないですか。「その枚数じゃロックじゃない」って言って欲しいですよね(笑)。

片桐:すごいよね。「ロックじゃない」だよ。「5千枚しか刷らないようじゃ、ロックじゃない」だよ。それ笑ったな。

――それ、辻仁成のプレス枚数と無関係に辻仁成、ロックじゃないから。フォークだから。

片桐:んん(戸惑いながら)まあね。

片桐:1974年生まれですよね?同じ歳なんですよ。

――あれ?お二人とも74年なんですか?

片桐:まあ、74年ですけど、うちらの世代って出てきてる人って全然居ないんですよね。一回調べてみたんですけど。

――映像とか物書きでってことですか?

片桐:ライターにせよなんにせよ。スポーツ選手でちょっと居るぐらいで。極端に下に成るか、ちょっと上になるか。ちょっと上はいっぱい居るの、東浩紀にしたってそうだし、ちょい上兄貴ぐらいの世代はいっぱい居て、極端に下は今が旬って感じで、もちろんいっぱい居ますけど、うちらのジャストフィット、作家でも一人も居ないですよ。あのね、文学界の新人賞で「黒い公園の」って書いた大東文化大の人、あの人は同世代。あの人ぐらい。でも、あの人もあれ以降パッとしないし、居ないんだよ。って言うかね、20代後半から30代前半ってすっごい生きにくいでしょ?

――ごめん(笑)どの世代も生きにくいんじゃない?それは。

片桐:(20代後半から30代前半への時期って)思春期でもないわけじゃん?

――常にそうなんじゃない?それは。

片桐:それを表現するジャンルってのが無いんですよね。今唯一表現してるのが、枡野浩一ぐらいかな、20代後半ぐらいの心情をリアルに表現してるのは。

――痛いなぁ。同世代というと・・宮沢りえとか。

片桐:宮沢りえは、ちょっと上?同じ?後藤久美子まで行くとちょっと上なのか。

――昔、BECKとかリアム=ギャラガーって同世代だと思ってたけど、実は向こうの方がちょっと上だったりして。CDラック

片桐:ちょっと上っていっぱい居るよね。俺らの兄貴世代とかさ。

――なんでかっていうとさ、結局あの、第2次ベビーブーマーの頂点が俺たちなわけじゃん?

片桐:頂点は一個下かもしれない。いずれにせよ団塊の世代のジュニアであることは確かだよね。

――ボリュームゾーンは日本全国で見ると俺らの世代で、一つ下は関西だけで見ると一番多かったんですね。確か、統計で・・・・何を言おうとしたんだっけ?あ、そうした時に、俺達が市場として支えてるぐらいの人が、俺達の上の世代になるわけ。結局あのなんて言うのかな・・情報ってのは、例えば車の運転免許を取るときに「何段階まで行った?」っつって、2段階の人に、3段階の人が色々、ああなるよこうなるよって情報を伝えるわけ、そうなったときに、ボリュームゾーンが74年生まれだとすると、その人たちよりちょっと上の人達が経験したとこそのまましゃべれば、俺達が買い支えるんですよ、市場として。

片桐:需要がねぇのか、うちらの情報わ!

――そうそうそう。そういう話ですよ。うちらのときキツかったじゃないですか?大学受験。でも、いまから8年後には全員誰でも大学行けるっちゅう話ですよ。定数割れするよって話あるじゃないですか。で、なんか広末涼子の話とかでも今人数少ないから入れるんだよ早稲田、実際入れちゃうんだよ悲しいけど。裏口だって話あるけど、裏口使わなくても入れるんだよあんなのとか言うやついて、オイオイ、俺達の頃の早稲田ってさぁ・・。

片桐:我々がボリュームゾーンだとすると、うちらがなんかやりだすと供給過多になるって話だよね。

――そうそう、だから何をしてもそうなんだ。会社の中に居てもそうだし、会社の外に出てもそうだし。そりゃもう、しょうがねぇんだな。自分の父親が第一次ベビーブーマーだったんだけど、実際そうだったんだ見てると。サザエさんなんかでマスオさんが係長に昇進した。「部下一人もなしだけどね。この歳になると何か役職つけなきゃまずいと思って、上が付けたんだよ」つって。俺会社入ってすぐの頃って、全然マイナーな会社だったんですけど、話聞くと30・40代の人みんな途中入社なんですね。それみて、「あ、なんだ、30からでも企業入れるんだ」って思ったんですよ。思ってさっさと会社辞めて、やりたいことやろうと思ったんだけど、よく考えてみるとあの人達は少ないんですよ、人数が。会社って常に形的にはピラミッドって言いますけど、採用としては壷型ですよね。毎年何名じゃないですか、抜けると入れるじゃないですか、その世代を。ってなったときに、自分より10ぐらい上の人って割りと途中入社って出来るんですよね。転職出来ちゃうんですよ、でも俺達の世代はあれだぜ、30半ばまで一生懸命働いて部下一人もなしの係長かもしれないぜ、兵隊だよ。って話ですよね。

片桐:バブル入社組ってのは俺らの4個ぐらい上?

帯瀬:2つ・・3つ上ぐらい?2つ上はたぶんもうキツかった。

――バブル入社って言い出したら86年。

片桐:ぐらいから採用ですね。せいぜい広く取って90年だ。

帯瀬:4つ5つぐらい上か。うちらが90年ごろここ1年2年でしょ。俺が確か大学1年の頃、4年の就職って既にキツかった気がするもん。

――86年入社で、大卒だと23とかじゃないですか?

片桐:86年23ということは、2000年で37歳。あれ?もうバブル入社組は、30代後半か。

帯瀬:もうちょっと、幅はあるけどね。

――中卒で入るのと、大卒で入るので幅は生まれますけど、大卒で計算したら自分より10ぐらい上で、その人達は需要があるんですよ。っていう気がする。観てて、会社のポジション的に重宝されてるよね。下らない話なんだけど、やっぱりそういうのって、失敗したなぁ、生まれてくる時期10年間違えた。あと10年遅いか早いかしてたら。みてるとBECKなんかでもそうなんですよね。ベビーブーマーとベビーブーマーの谷間に生まれたみたいなことよく言ってるんですよ。谷間でどっちに近いねんって言うと、下が近いんですよ。そら、市場があるわな、マーケットあるよねっていう。同世代に向けて売れば良いじゃないかって言いますけど、そうはならないんですよね。

片桐:そうですよね。なかなか自分と同世代のものって、「ケッ」っと思っちゃうとこありますからね。

――そういう意味じゃなくて、なんていうのかな、自分が子育てをしてみてどんな紙オムツが欲しいとかって話になるじゃないですか。

片桐:ああ、情報量の蓄積の話ですね。

――自分が消費者になって初めて、どういう商品が欲しいか分かるわけじゃないですか。自分が子供の紙オムツの消費者になったときに始めて、こういう商品が欲しいと、それから開発して商品化して売り出したときにはもう、自分と同世代の奴は紙オムツを買わないぜ。って話ですよね。自分たちが親を介護して初めて、こんな介護用品が欲しい、あんな介護用品が欲しい。商品化した頃には親は無しって話ですよ。親を例に出すとずいぶん残酷になるなぁ。

 だからどうするって戦略がまた、自分達の親をターゲットにするか子供をターゲットにするかちゅう話になるわけですよ。同世代に直接売るのはきついわなぁ。でも、逆に本当に年取っちゃって「懐かしの名曲」みたいな方向に行ったときには強いかもしれない。ナツメロとかは俺達が市場を作るぜ。あの頃、X―Japan居たよねぇとか。

――本題入りましょうか。最初、お二人が知り合ったきっかけは?

帯瀬:高校が同じだったんです。映画を撮り始めたきっかけはサークルですね。

――高校のサークルですか?

帯瀬:そうです。あの頃は8ミリがまだ媒体として生きてた最後の時代ぐらいで。8ミリはデジタルでなく、8ミリフィルムの方ですね。自主映画サークルというのを8ミリでやってた頃で。そこで一緒に撮り始めたのが、いきさつと言えばいきさつですね。

――現像代お金かかるでしょうアレって。

帯瀬:あの当時で、ええっと、かかりますけど、でも、それでも、3分リールで640円。

片桐:それにあの、一応編集し終わって、サプライサーテープを貼ってから、マグネットコーティング処理ってのがまだ出来てたんですよ。我々が卒業するかしないかの頃で、そのサービス、富士フィルムが止めちゃったんで、今の8ミリフィルムってのは、おそらく撮る前から既にマグネットコーティング=磁気処理ってのがされているんですね。ってことは、撮った後に切った貼ったってのをするとですね、8ミリフィルムってのは1秒間18コマなんで、編集した後、どうしてもサプライサーテープがかかっちゃいますから、18分の1秒単位でカットごとに音声が途切れると。(爆笑)

帯瀬:訂正すると、それを避けるテープというのもあるんだよ。かかんないヤツね。マグネットコーティングのところを避けて貼るってのもあるから。

――サプライサーテープとマグネットコーティング?

帯瀬:簡単に言うと、フィルムをつなぐテープですね。そこに普通のカセットテープのような、音声記録用の磁気テープを貼るのがマグネットコーティング。

――友人に大学で8ミリしてる奴いて、「3分640円、いっけん安いように聞こえるけど、30分撮ったら6400円かかるんや」言ってね。実際、「全部OKシーンなわけないんで、それ考えると膨大な額かかるよ」言ってましたね。

帯瀬:うーーん。大体1分千円ぐらいで。実際問題は。たぶんいまだと、3分フィルム買うので1400円ぐらいかかると思うんですよ。フィルムだけで。

――あれ、さっき640円って言ってませんでした?

帯瀬:それは現像代、フィルム自体を買うのに1400円。現像で640円。合計3分2040円。

片桐:8ミリは、もうメディアとしては死んじゃいましたからね。

帯瀬:死んだと言うか・・・・たぶんいま普通の人が目にするのだとしたら、MTVに使われてるのが一番多いでしょうけど。

――MTVで8ミリですか?一人暮らしの友、電子レンジ

片桐:スガシカオとかが回したりとか、わざと画像を荒くするために使うやり方で。

――昔のタイマーズとか・・ああ、いや・・まあ・その・・・・・・タイマーズのビデオについてしゃべろうとしていま止めました(笑)。いま必死になって止めました。インタビュアーとしてダメですね。最悪だ。俺がしゃべっちゃダメ。聞かなきゃ。大丈夫ですよね、2時間テープって意外と長いですから。どうせ、いらないところ全部カットですから、無駄話も入れながら。そのうち、お酒入ってくると、みんな延々同じことしゃべり出すの。いつまでたっても同じ話題から抜け出せない。

片桐:なるほどね。

――で、大学では?

帯瀬:大学は別だったんですよ。ボクの方が新潟の新潟大学で、片桐はまた別のとこで。

――お二人とも東京と全然関係ないところで。

片桐:そうですね。僕は大学、ドロップアウトしまして、1年半で中退して、東京に来たんですね。

――それはまたどうして?

片桐:まあ、色々ありまして(含み笑い)

――こっち来て何始めたんですか?

片桐:こっち来てからは今の仕事ですずっと。

――いまは何を?・・・いや、私が聞いてるのじゃなくって、テープ回してるんで(笑)。

片桐:印刷会社です。ええ、印刷会社の基本的には業務なんですけど、工場が横浜にあるんで、その工場の進行予定管理と全体的な外注への発注と外注先の納期管理、苦情面ではクレーム処理。

――やっぱり、出版業界に興味があってとか?

片桐:いや、関係ないです。うちの会社は出版というよりは、どっちかって言うと商業印刷なんでカタログとかチラシとかですね。食うための手段です。単純にいまの仕事は。

――帯瀬さんはどんな仕事をされてるのですか?

帯瀬:デザインのオペレーターですね。商業印刷でデザイナーがデザインを上げていくので、それに沿ってバックの方で、実際の指定された色とかを当てはめていく作業です。例えば部品といって良いのかよく分からないんですけど、商品の写真をここに貼り込んで文字はこういう風に入れてくとか。そういうのを実際に入れていく作業です。

――デスクトップパブリッシングのオペレーター?

帯瀬:そうですね。

――いいなぁ、カッコイイなぁ。

帯瀬:良いかどうか分かんないですけど。

――憧れのクォークですよ。仕事で使うとなると別なんでしょうけど、趣味で使ってる奴みると、うわぁーー24万!(クォークのメーカー希望小売価格)って気分になりますよ。くそぉー。欲しいなぁ。東京来て一番始めに見た同人誌がそんなんでしたからね。白黒でコンビニコピーなんですけど、クォーク使いまくりですんごいカッコイイ同人誌作ってて、「写真とかどうしてるんですか」って聞いたら「いやぁ、商業誌からのコピーだよ」って(笑)。そりゃカッコイイ写真あるわ。クレアっていうB級アイドルの同人誌って言うか、非公認のファンクラブ会報なんですけど、BOMBっていうアイドル雑誌から写真コピーして、だいたいこう、片桐さん同人雑誌詳しいですから分かると思いますけど、コピーしてそのまま使うの芸ないですから写真の四角い枠を消したり、加工したり文字入れたりして、文字入れたとこで「これ元ネタと同じやん」って分かるんですけど、配置変えしたり色々して、そのアイドルのコンサートイベントの出入り口で配ってた人達で。カッコイイな思って。実際自分でもやろうとしたときに、経済的に全然追いつかなかった。マック買うこと自体が無茶でしたからね。

片桐:5年ぐらい前までって高かったもんね。

帯瀬:今わりと気楽に買える値段になってきた・・のか、自分の経済状況が上がったのか分からないですけど。

――マイクロソフトが進出して来るまで、マックは今の倍ぐらいの値段してましたから。片桐さんのi-MAC

帯瀬:そうですね。そもそも20から30万ぐらいして、20万の後半ぐらいでしたね。安くても。

片桐:しかも、モニターなしで(笑)。

――そうなったとき、中古の98ノート(NEC)10万円で買って、それに一太郎で同人誌でしたから、手書きより良いけど、絵的になぁ。いまでもワープロソフトでやってるんですよ。そしたら、写真とか絵を入れようとすると、カッコイイの作りたいんですけど、出来ない。段組とか無理やりしようとすると、HPを作るFTPソフトあるじゃないですか、あれに写真とか文字を配置してその画面をプリントアウト。すんごいショボいんですよ、横書きしか出来ないし。これツライなぁ、やりたくないんだよなこんなの。

帯瀬:それだと用紙設定とかきっちり出来ないですよね。

――自分、文学系やってるんで、横書きで短歌とか和歌とか漢詩とか言ったらもうアウトなんですよ。横書きで小説が出来ないことないんですけど、色々無理が出てきちゃうんですね。縦書きで数学が出来ないとか縦書きで化学反応式が書けないってのと同じぐらいツラくて。

――高校時代以降も連絡は取り合ってたのですか?電話したり会ったりとか。

帯瀬:そうですね。そのサークル自体、その仲間自体が卒業した地点でじゃあ別れるって感じじゃなかったんで。ですからまぁ、まだそのサークルのメンバーとは会ったりはしますし。

――じゃあ、いまでもまだ周りの友達とかは撮り続けてるんですか?

帯瀬:いや、撮り続けてはいないですね。というか映画は友人付き合いと別であって、別に映画を撮るための仲間ってもんでは無いです。それでも時間さえ許せば、1日ぐらいだったら「出てくれない」と言えば、出てはくれるでしょうけど。

――でもあえていま、その中で撮り続けるってのは?

帯瀬:たぶんそれは撮りたいからです。簡単に言ってしまえば「撮りたいから」。状況が厳しいから撮りたくない、撮らないって事ではないですし。

――撮ろうとしたきっかけも無く、ごく自然に撮り続けてるってことなんですか?

帯瀬:撮ろうとしたきっかけは、そのサークルですね。撮りたくって入ったというより、面白い人がいるから行ってみようって、行って入ったらそこが映画サークルだった。そして実際、撮ったら面白かった。

片桐:彼がいまだに撮り続けているモチベーションがどこにあるのか私も知りません(笑)。

帯瀬:本人に聞かれても分からんよ。

片桐:11時になる前に俺はタバコを買ってこようかな。11時で、販売機止まっちゃうんですね。タバコは11時になる前に

――目覚ましはあります?無いと明日仕事行けない。

片桐:電車、中央線って朝何時ぐらいから動いてます?5時ぐらい?

――自分、江戸川橋に10時なんですね。

片桐:楽勝ですね。

――で、いったん千葉に帰るか帰らないかが、瀬戸際なんです。片道1時間半、往復4時間みといた方が良いか。ん?帰る?帰らない?

片桐:ギリギリですね。5時から10時までだと5時間。家に1時間、それをどうするかですね。

――シャワー浴びて、着替えて。

帯瀬:充分といえば充分な時間ですね。

片桐:ただその往復にかかる体力と時間を考えて、1時間の家にいる時間とはかりにかけてどうかっちゅう。寝るか寝ないか。

――あと、泊まったことを会社にバレて良いかどうか。男だから別にバレて良いんですけど、女の子の場合、「あれ?どこ泊まってたの?ねぇ、昨日と同じ服」(笑)。って。

片桐:よぉーーく晴れた朝にカサ持った女の子とか見ると、これは確実に泊まってるなとか(笑)。そういえば昨日降ってたよなってときありますよね。

――テープ起こしで、これ必要なのかなぁ。いまのとこテープ起こし、するかな、しないかなぁ。さっきの要るのか?

――じゃあ、学生時代からずっと撮ってて?高校・大学と。

帯瀬:まあ、そうですね。大学でも撮ってましたし、大学四年間で、そんなに撮ってないのかな、せいぜい3本か。

――撮って自主上映会みたいなのやって。

帯瀬:一回やりましたね。自分で企画して、場所は映画館で、市民映画館ってのが新潟であるんですよ。要するに会員の人が企画して運営していくという映画館で、そこで毎年「周年祭」ってのがあって、その中の企画の一つとしてやらしてもらったって感じで。

片桐:毎年一回あるんですよ。全国から集めるのかな?インディーズ系の映画を集めて出来れば監督にも来てもらって、オールナイトぶっ通しで3・40本。・・そんなやんないか。

――観てて自分たち以外のでも面白いのってありました?

片桐:インディーズ映画ってすごいバカバカしいお笑い系に走るか、真面目に行くかどっちかなんですけど、わけわかんない個人映画的なヤツは暗いなりに面白いし、バカバカしいのはバカバカしく笑ってれば良いので、そんなに長く苦痛な時間がってのは無いよね。

帯瀬:映画一本がそんなに長くないってのがありますよね。

――どのぐらいの長さ行きます?

帯瀬:30〜40分。長くても1時間。2時間行くのってめったに無いよね。

――さっきの1分千円の話で行くと、1時間だと、6万円。

片桐:単純に、フィルム代・現像代だけですから。まあ、五倍近く回してれば、その五倍(笑)。

――なるほど。その含みのある言い方、やりますね。言葉の寝業師と呼ばせていただきます。

――映画を撮ってる中での、苦労話や失敗談はありますか。

帯瀬:前の映画を見ていただくと分かるんですが、ホテルの中のシーンで、ホテルを借りて撮ることができる時間を超えてしまったんで、途中で撮影自体切り上げて、じゃあどうするかってなって、カットは足りないから絶対必要だと。フルショットだけは、どうしてもゴマカシが効かないからその場(ホテル)で撮って、アップショットだけは、他の場所で撮って編集するとか。実際観てもらえれば、分かるんですけど、別撮りしたの気が付かないと思いますよ。

――他にも映画を撮ってるときの失敗談やエピソードはありますか。

帯瀬:撮ってる時のエピソードってのはそんなに無いんですよ。基本的に時間に追われてますし、いかにスムーズに撮影を進めるかっていう効率性なんで。逆にアクシデントが起きるってのは良くないことですし、極力避けてますので。

――でも、実際アクシデントは起きるでしょう。

片桐:アクシデントにしても、撮り切れないってのにしても、次の日に、次の機会に回す。回せる自由さってのが自主映画なんですよ。自主映画のどこが良いかつったら、結局持ち出しでやってるわけですから、自分がやれると思えば予算的にも納期的にも縛られない。不満足だけど撮っちゃおうってのは、プロじゃないから極力しないですね。

――かっこいい。やれるとこまでやっちゃう。

片桐:それができるのが自主映画だと思ってるんで。自主映画で自由に取ってるのに、なんでそんな妥協しなきゃいけないんだちゅう。

前作のビデオを鑑賞。

――STCフィルムの正式名称Slow Train Comingって、誰が付けたんですか。

片桐:友人が勝手に。

――ジャズかなんかの歌のタイトルですか?ウクレレと本棚

片桐:あれだよ、アメリカの方の・・ボブ=ディランが有名にしたんでしょ。だから大変なんですよ。Slow Train Comingが、うちのWebサイトの正式名称でしょう。なので友人がうちのページに来ようと「Slow Train Coming」で検索すると、ボブ=ディラン系のページが全部ひろわれてくる。検索数何千・何万・何十何になって、こりゃ探せねぇーわなって。

帯瀬:そんなことあるんだ。

片桐:それで「STC」で検索すると、STCというソフトがあるらしくて、技術畑系のソフト関係のページが引っかかってくる。なんか医療系のソフトらしいんですけど。

帯瀬:前回の映画作品を観てみた感想はどうですか。

――いろんなとこから取って来たなってのは分かりますね。拳銃とかの暴力的な撮り方はアメリカンニューシネマっぽいし、二つの時間が交互に進んでいくのはヌーボロマンぽいし、セリフと文字が交互に出てくる辺りはヌーベルバーグの中国女撮ってた頃のゴダールじゃないですか、もうちょっと古いアメリカ映画のテイストが照明で出てたり、映画好きな人が撮ったんだなってのは分かります。ベタなんだけどなんか分かるっていう。

片桐:あと10分短ければ良いな俺は。

帯瀬:それは無理だって。

片桐:ちょっとね、動作が終わるギリギリまで不用意に引っ張っちゃってるカットが多い。

帯瀬:でもね、あれね。切ったら分かんなくなる。さらに。

片桐:いや、もうちょっとこの辺で良いんじゃない、いっぱいいっぱいってカットがある。もっとバッサバッサ切るべきですよ。

帯瀬:いや、分かんなくなる。それだと。

――っていうか、分かりやすくしようと思ったら、時系列通りに直線で並べるべきですよね。時系列を二極で揺り動かす地点で、分かる話にはしようとはしてないと思います。分からなきゃ分からないで良いやって、突っ走る方を選んだのと私は解釈しましたが。

帯瀬:うーーーん。

――さっきの売り(売春)のシーンが例のホテルですよね。

片桐:普通のホテルの部屋だとどうしょも無いんで、そうは見えないんですけど、スイートなんですよ。新宿のスイートで、そうしないとあれだけの広角の絵は撮れない。カメラが引けない。普通の部屋だと狭くて。

――ああ、成るほど。金かかってるんだ。いくらしました。

帯瀬:いくらだっけ。

片桐:そんなに高くは無いよね。これがヒルトンとか帝国ホテルのスイートだと20万なんだろけど、2・3万でしょ。

帯瀬:そんなもんだね。

――これ、入るとき何人とか人数制限あるじゃないですか。

帯瀬:実際、撮ってる人数で予約してあるんで。

片桐:そうそう。俺がカメラ回して、帯瀬(俳優)と彼女(女優)と3人の名前で予約したので、それはOKで入れたんですよ。だから3人ですね。たぶん、借りてる本人が入っちゃえば、「誰々さんの面会で」って言えば入れるとは思うんですけど。

帯瀬:それは人数にもよるし、5人も6人もってなるとまずいし。

片桐:大丈夫だと思うんだけどね。スイート辺りだと。

帯瀬:それにしたって怪しいよ。身なりからしても(笑)。かつらかぶって、コート着て。

――ビデオって8ミリより安く上がるんですか。

帯瀬:同じ物を撮るんであれば、機材さえそろっていればビデオの方が安いです。

片桐:初期投資はたぶんビデオの方がかかる。ランニングコストはビデオの方が安いんだけど、初期投資は8ミリの方が安い。

片桐:電話で以前話したときに、ライフスタイル的な角度から攻める可能性もあるって聞いて、あの後ずっと、考えていたんですよ。

 社会人で映画を撮ってると、「社会人的なものに対するモチベーションと、映画撮ったりWebやったりしてるモチベーションとあんたはどっちが高いのと、将来的にはどっちの方向でメシを食いたいと思ってるの?」

という質問が必ず来るだろうなと思って、僕はどう答えようかと思って考えていたわけですよ。それで、いざ自分をみつめてみるとですね。

――インタビューが盛り上がってます。

片桐:たぶん、そういう風な業界に行くために修行していて、社会人としての面ってのは単純に食うための手段としてやっているのかなってのを考えてみたときに、おそらく本当にそっちの方面に行こうとするんだったら、

「なんでバイトで、もっと時間的余裕のあるバイトっていう選択肢を食いぶちの手段に変えてかないの?」

 って話になりますわなぁ。そうした時に、じゃあなんで俺はそっちに行かないんだろうって成ったときに、じゃあ俺はそこまで思ってるかなって思ったら、たぶんそこまで思ってないと思うんですよ。思ってないって言うんだったら、話としてちょっとカッコ悪いなとか思いながら。(一同爆笑)カッコ悪いと思いながらも、本気でプロを目指そうとは思ってないんですよ。じゃあ、趣味で楽しいからやってるかっつったら、そんなに低いモチベーションでもないんですよ。

――(笑)良い、良い。それ良い。

片桐:それを上手く言い表す言葉っていうかスタンスってないかなぁと2・3日考えてて。

――(爆笑止まらず)片桐さん好きだよ、俺。

片桐:ずっと考えてると、宮台真司って人がいるじゃないですか。あの人が最近盛んに言ってる事が「意味から強度へ」って言ってるわけですよ。あ、この言葉使えるなって思ったんですけど、結局日常生活の会社が楽しくないと思ってるわけでもないし、結構ですねアイデンティティ的な部分で会社に依存してる部分ってのが多少なりともあるわけですよね。じゃあ、なんで会社で自己実現しないで、こういうことやっちゃうのか、っていうときに、結局は生活の濃密さって言うか、濃ゆい生き方をですね、求めてそっちの方向へ、そっちの方向へ行こうとしているのかなぁと。冷静に見ると。別に映画でメシ食おうと思ってないし、映画でメシ食おうと思ってたら会社なんて行ってないし。ってボンヤリ考えただけって話なんですけど。

――より濃ゆい方向に行きたいと。

片桐:うん。そう言わないと説明つかないんですよね。

参考HP S.T.C. SubCultureSite改めNoKidding

http://www5a.biglobe.ne.jp/~stc/index.html

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