■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第94号 2004/4/26発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ はじめに 今回長いです。 1第三回引かせ王選手権 2引かせ王選手権主催者大村さんからのメール(全文引用) の二部構成です。 1第三回引かせ王選手権 http://tinyurl.com/3bgdj http://tinyurl.com/2acvq 2004年1月4日に引かせ王選手権が奇聞屋であって、 18:00開場、18:30開演(120分間)で 主催&司会はポエム王子こと大村浩一さん。 料金は1000円(1ドリンク付)でわたしも参加したわけです。 これがですね、実は結構微妙なイベントで、 色んなことを考えさせられたので、 いまさらのように時期外れのレポートを書きます。 まず、大村さんから出ないか?と言われたときに、 どっちみち、観に行くつもりではいたので、どうせだったら出るかと 思ったのですが、その時、大村さんから 「野村喜和夫さんも『出る』というので、 『野村さんと言えば2003年度の 花椿賞も取った方じゃないですか、 そんな方が引かせ王に出たら、野村さんの価値が下がりますけど、 良いのですか?』と聞いたのに、 『出る』というので、今回ちょっとすごいことになるかもしれない」 という話を聞いていて、 花椿賞も野村喜和夫さんも初めて知った私ですが どうやら、活字の現代詩の偉い方が来て朗読をされるらしい、 その偉い人と同じステージだから心してかかれという話らしい。 ぐらいは分かる訳です。 花椿賞 http://www.e-hon.ne.jp/bec/SC/PrizeInform?SHOUCD=118 野村喜和夫 http://www.kiwao.com/ で、わたしも色々考えたわけです。引かせ王で何をやろうかと。 引かせ王というと、世間のイメージ的には 「ポエトリーリーディングをやっている人達がお笑いで勝負する場」 というイメージがあるわけです。 第二回の引かせ王で優勝した花本武さんを見てると、 特にそういうイメージがあるわけです。 私は第二回の引かせ王選手権を観に行くよう誘われていたけれども 忘れてて後から逸話だけ聞いたのですが、 花本さんが人形を2体持ってきて、 「おら、いいからやらせろよ」とか言いながら、 男性の人形が女性の人形を なかば強引に犯すというネタをやったという 話を奥主榮さんから聞いていて、面白そうだな、 行きたかったなと思ったわけです。 ところが、花本さん本人に話を聞くとそうではなくて、 人形もやった。それは確かに受けてた。でも、後半、 「テレコちゃん」と名付けたICレコーダーに チャゲ&飛鳥の「SAY,Yes」を フルコーラス歌ったのを入れて、 壇上に放置した。ステージ上の机の上でICレコーダーから 俺の歌ったSAY,Yesが流れて、 何でいまさらSAY,Yesなんだとか、 わざとそう歌ってたりもするんだけど音痴だとか 色々問題あるのを、机に置いて、自分は何もせずにステージおりた。 最初のうちはそれも受けてるんだけど さすがにフルコーラスだと、2〜3分あるわけで、 かなりダレるし、みんな本当に引いているんだ。 誰も笑わないんだ。 あれは、一番受けてたから引かせ王になったんじゃなくて、 本当に引いていたんだよ。受けてなかったんだよ。 終わった後のアンケートに、死紺亭さんから名指しで 「花本はお笑いをなめてる」と書かれてて、 本気で落ち込んだし、 引かせ王に選ばれて本気で嫌だったし、拒否したんだって。 打ち上げで主催の大村さんに頭下げられて、俺が受理しないと 大村さんの顔が立たないから嫌々受賞したんだよ。 という話になる。 ところが、2003年1月の第二回引かせ王を花本さんが取って、 2003年4月のSSWSで私は花本さんの芸を観ているのですが そのときはまだ、間の取り方とかが未完成で、 「もうちょっと間を取った方が良いよ」とか言っていたのが 徐々にSSWSで活躍したり、ベンズカフェの第四週目のスラムでも、 チャンピオンが死紺亭さんのときは花本さんがチャンプを取り 花本さんがチャンプでご褒美パフォーマンスがあるときには 死紺亭さんがチャンプを取るという、 死紺亭さんと花本さんが交互にチャンピオンを取る状態が 夏から秋にかけて起きて、ベンズカフェのシステムだと、 チャンピオンはスラムに参加できないため、 二週連続チャンプにはなれず、実質、死紺亭・花本独占状態が 続いたりして、結果として、 「引かせ王=ポエトリー界のお笑いチャンピオン」みたいな イメージができていったわけです。 実際、第一回引かせ王は受賞者なしになってますが、 観客からの投票で引かせ王になった人は ポエトリーとは無縁のフォークの弾き語りの方で 他の人が詩の朗読をしているのに、 その人はイベントの趣旨が分からずに 普通にギターの弾き語りを淡々とやった結果、 一番浮いているというとこでチャンピオンになったのですが 投票結果に激怒して受賞を拒否し、 受賞者なしになったのが、 第一回引かせ王選手権の概要らしくてですね。 この第一回の概要をみただけでも、本当にお笑いイベントなのか? が結構あやしいわけです。 「さがな。便り第2号」をみると野村喜和夫さんは 「エロい詩を読めば良いのですね」と言ったらしいですし、 イベントの趣旨がどこにあるのかが一見分かりやすそうで 実はかなり分かりにくいわけです。 元々、このイベントは、ちょりさん主催の「コトバオンザラン」で 大村浩一さんがスラムで最低点を記録し、 いやむしろこの最低点は、引かせ王として 評価されるべき価値あるものではないのかという 問題提起から始まっている。 (主催者発表ではそうなっているが、 第一回引かせ王が2001年1月4日開催。 ちょりさんは2000年にはコトオンザランをやっていません。 詳しくは、このメルマガの後半参照) 観客に違和感を引き起こした、場を引かせた、 でも、よく考えると、聞き入ってもいたという、 引かせ王でありながら、聞かせ王でもあるというのが 大村さんの理想だったりするわけで、そうなると、 元々、大村さんがスラムで最低点を出したのがきっかけで、 じゃあ、引かせる点数と聴かせる点数を別々に取って集計して 引かせでも聴かせでも最高点だったら文句ないだろという 話ですが、この辺の趣旨は聞けば聞くほど どんどん訳が分からなくなるわけです。 http://mypage.naver.co.jp/paorett/n/ev3.htm コトバオンザランで人気投票したら、大村さんは最低点だったと。 しかし、大村さんにすれば、俺は客を引かせていたけど、 同時に聞かせてもいた。 聞かせ点から引かせ点を引いたら最低点に成ったけど 本来引かせとは、加算されるものだから、俺がトップだという 強引な論理にしか見えない。 引かせと聞かせがまったく別の物でありながら、 高い位置で一致させようとする大村さんの理想は素晴らしいが、 それとお笑いはまた別だし、エロは上記三つともまた別だ。 つまり、何をやるイベントなのかが人によって解釈が違う訳だ。 引かせと聞かせとお笑いとエロ。 出る以上は、少なくとも自分としては どこを狙うのか、明確にしておかなければならない。 引かせ王選手権という以上、引かせ王を目指すとして、 引かせるとはそもそも何なのか? http://mypage.naver.co.jp/paorett/n/ev3.htm より 「こんなことをやったら絶対に観客が引いちゃうんじゃないか」 とか、「引いちゃうんだけどその中に真実があるんじゃないか」 って言うみたいなところも観客に伝わったら面白い みんなが口にしない真実を口にしたからこそみんなが引く。 それが理想だとしても、非常に高いハードルに成る。 出るメンバーをみても、賃貸人格さんの芸風は 精神障害者の形態模写ですからね。 ラウンドカッツで観た賃貸人格さんの芸は 唐突に泣き叫んだかと思うと、爆笑し出したり、 怒鳴りだしたり、激しい極端な感情を 次から次に脈略なくスイッチしていって 最後は恐らく不倫相手との子を お腹に宿した女性という設定だと思うのですが 「あなたの子なのよ!」と泣き叫んで会場から飛び出すと、 外の庭で楽しそうに歌いながら踊るという芸でした。 そういう人よりも、引かせないと引かせ王になれない。 一つ間違うと、ただのサブイ奴になってしまう。 ギャグを言って滑ったのか、引かせ王を取りに行ったのかは 紙一重だ。引かせ王を取りに行って、取れれば良いが、 取れずに引かれてしまったとき、 お笑いをやって滑っている奴と思われたとき、 それも一生に一度会うか会わないかという現代詩の偉い方に そう思われてしまったとき、 この印象は一生くつがえせないかもしれない。 一生に一度、引かせ王選手権で二時間ほどだけご一緒して 五分の持ち時間の芸を観てサブイと思われて もう二度と会うこともなく、その人の中で私はサブイ人として 消えて行くかもしれない。 このイベントの持つ、お笑いのイメージと引かせるという趣旨が 調度正反対の方向性を持っていて、 引かせると滑ってるがほぼ同義であらわれてくるわけで、 ここが、自分の中で最後まで引っかかる訳です。 滑らずに引かせるということがありえるのだろうか? 笑いを取り、ウケながら、引かせることは可能だろうか? そもそも引かせるとは何のか? 第一回引かせ王選手権をみても分かるように、 引かせるとは場から浮くことではないだろうかと。 世間的にはギターの弾き語りは詩の朗読よりノーマルですが 詩の朗読をする場でギターの弾き語りをすれば、 場から浮きます。つまり、引かせようと思えば、 まず場を設定し、その場の枠組から外れれば良い訳です。 さて、引かせ王選手権の場とは何でしょう? 引かせる=場の枠組からはみでるイベントである以上、 全員が場の枠からはみ出したマイノリティーになろうとする場です。 全員が枠からはみ出そうとする場の中で一番浮くのは ノーマルな人、 つまりフォークギターの弾き語りの人だったりします。 あのですね。イベントの趣旨自体が論理矛盾だらけなんです。 場をAとしたとき、引かせるとはAではないものとします。 Aではないものを仮にφAと表現しましょう。 引かせ王というイベントの場Aは、 引かせることを目的としているため、 引かせる=φAを代入することになります。すると、 A=φAになり、そのAに引かせる=φAを代入すると、φφAになる。 そのAにφAを代入すると、φφφAになる。 この地点で私は、引かせることをあきらめて、 笑いを取りにいくことを考えました。 引かせは無理です。みんなが賃貸人格さんみたいな芸ですと、 フォークギターの弾き語りで引かせ王になれるかもしれませんが 活字の現代詩の偉い方、 現代詩手帳などの文芸誌で活躍されてる野村喜和夫さんが 普通に硬筆な現代詩の朗読をされたら、それはそれで フォークギターでは勝てないだろうとか色々考えて 半日悩んだ結果が、誰が何をやるのかまったく読めないので 自分は笑いを取りに行こうということでした。 2引かせ王選手権主催者大村さんからのメール(全文引用) 木棚 環樹さま  メールをありがとうございます。  ウーン、幾つか間違いや誤解があるので、説明しますね。  メルマガにこのまま載るとかなり誤解されそうで、コワい。(汗) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「引かせ王」のそもそものきっかけは数年前、武蔵小金井の花見の席で、詩ボク 第一回東京予選通過の北村守通さんと話をしていて、「一番引かせた奴の朗読を 称えるイベントがあったらキツくて面白かろうなぁ」とか思いついたのがキッカ ケで。でも当時はどうやったらいいのか見当もつかずに、アイデアとしては眠っ ていたの。  それが2001年の後半に「黄金夜」をやるようになって、ポエトリーの詩人達と 色々繋がりが広がってきたので、打たれ強い詩人を集めた冗談企画としてならや れそうだと当たりがついて。お屠蘇気分の正月企画として、実現させたんです。  勿論本当に「ヘタな詩人を物笑いのタネにする」のでは全くシャレにならない し、ネットで長年ビギナーの詩に接してきた自分にとっては、本意でもない。む しろ駄目な詩と駄目人間がいるからこそ詩が必要なんだ、この地上に実は勝者な ど居ないのだから。  この辺の私の考え方は、引かせ王に手渡す表彰状の文面にも書いています。テ キストファイルから全文引用します。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   表彰状 あなたは本日『黄金夜』特別企画 第二回朗読『引かせ王』選手権で敢闘され、 『引かせ王』の称号を勝ち取られました。 あなたのこの勝利と、日々の努力を称え、 ここに表彰を致します。 第一回では辞退者まで出したこの賞を どう考えるかはビミョー(笑) ですが、この勝利を自らの礎として、 或いは反省材料として頂けたら幸いです。 また残念ながら「もう詩は止めよう」と お考えになった方へは、「それだからこそ あなたの詩が必要なんだ」と申し添えます。 この場に立つ運命を選んだあなたの勇気と 詩的想像力をたたえるとともに、 あなたが明日からまた「詩とは何か」を 考えつつ、新しいポエムに挑戦する事を 期待しています。 二〇〇四年 一月四日 朗読『引かせ王』選手権・企画兼司会 大村 浩一 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−  興業・運営面の体裁としては、あくまでも面白がりの冗談企画。  ですがもう一つ批評的な側面として、「冗談のオブラートで包むけど、冗談で はなしに、その人のパフォーマンスの問題点をやんわりと指摘する」という狙い があるのです。  本来舞台というものは、自覚というものを非常に要求するものだと私は思って います。具体的には練習とか批評とか試行を重ねる、それを考えやり尽くした上 で、ようやくパフォーマンスとしての奇跡が「ときたま」訪れてくれるものだ、 と思う。  ところが実際、世間には他人に聴かせるのや読ませるにゃ耐えないモノが余り に多い。表現者は自分に酔いがちだし、幾分かはそれが楽しめるからロードクが 止められないって要素はある。だけど、それで良いのか? まあ「自分が楽しけ ればそれでいい」と言われたら、それまでだけど。  自分の身の程を知らずにポエトリーのパフォーマーとしての成長は無い、と私 は考えています。ところが現実には、詩人たちは案外みんな自意識ばかり肥大し ていて、大抵は自分のミットモナサにも気づかなければ、それを直視する勇気も、 その屈辱に耐えてなお表現を貫く決意も持ち合わせていない。これはポエトリー という表現ジャンルの質と将来を考えたらヤバイ現象だと思うのですよ。  例えば一部の現代詩がメマイがするほど低レベルだったり、同様に時々耐え難 い朗読会やネット詩に出会ってしまうのは、その詩人が世間常識的な価値観の無 い、狭いムラ意識の中だけで創作を続けて来たせいだ、と私は思ってる。  そこで私は、「引かせ王」に批評性を多少なりとも持たせる為に、出演者に手 渡す投票用紙には匿名で聴衆からの感想を書ける様にしたり、「引いたけど、で も聴いちゃったよ」という「聴かせ王」も平行して選ぶようにしたワケです。  出演者の自覚を促す他に、「引かせ王」が彼の可能性を新たに引き出す要因と して。 「引かせ王だから」と出演者が思い切り自分を捨ててヨゴレる覚悟で見せるパフ ォーマンスは、それまでより質が上がるって現象です。  自分を捨てる、敢えて自分の恥をさらす決意でやらなかったら、他人の心を動 かせるようなモノなんて作れるハズが無い。ところが普段はテレたり思い込んだ り格好つけたり、といった低次元の問題で、案外良いモノが書けずにいる人は多 い。 「引かせ王」向けの作品・パフォーマンスなら、その辺予めクリアされているか らハメも外しやすい。結果、それまでより皮一枚剥けた面白いモノが出せるよう になるかもしれないのですよ。  事実、今年初めの木棚さんのパフォーマンスには、そういう凄さがあったと思 う。 「引かせ王」の理想の典型例は、実は賃貸人格さんのパフォーマンスだったりす る。彼女のパフォーマンスにはいわゆる電波系もあるケド、実は非常に自覚的に やっていて構成や仕掛けも工夫されているのね。ワザとやってワザと引かせる、 でも聴衆に印象深く刻まれる。それがライブの呼吸も踏まえた上で出来るなら、 パフォーマーとしての舞台制御能力としては最高なんじゃないか。…だから理想 を言うと「引かせ王」と「聴かせ王」が一致する詩人が出てくるのが、大村のポ エトリー理論的には最高なのです。    * * *  但し現実はなかなかそう上手くいかない。むしろ天然ボケな人、思い込みの強 い人が自覚の無いまま展開して「うぉー引いたぁ」みたいなほうが、パワフルな 引かせに陥り易い。結果、第1回で該当者無し! て事もあったのです。  それと「引かせる」という概念の曖昧さも、問題としては在ります。そこが逆 に、引かせパフォーマンスの多様性へと繋がれば「面白さ」を引き出せるといい のですが、現場的には「引かせる」パフォーマンスはどうしてもエログロなハー ドコアだと誤解され演じられ易いし、逆に観客はおハイソな価値観からなかなか 自由になれないものだし。(笑)  現実には私が望むようなキレイゴトじゃ済まない部分がある。「冗談イベント だから」でこれまでかろうじてクリアしてはいるけど、オレは正直、評価に怒っ た出演者と掴み合いのケンカになっても仕方無いと、毎回覚悟してやっています。  幸いそうしたトラブルは過去一度も無いけど、もし仮に将来そういう事が起き ても絶対に観客へ手出しはさせないし、警察沙汰にもしない決意でやっている。 イベントの胴元としちゃ、それは当然の態度ですが。    * * *  コトバオンザランの話はあくまでギャグです。第3回開催の直接のキッカケで は無い。  強いて言えば、アレはちょりさんを宣伝する、或いは彼のイキオイに乗っかる 狙いで書いてみただけで。オレが0点で最下位だったのは事実だけど、コトバオ ンザランに出る以前から「第3回引かせ王」の開催は決めていました。  ただその前の第1回のチラシに書いたように、01年の「引かせ王」の直前、新 宿ロフトプラス1で開かれたサエキけんぞうさんの「ポエトリーサミット」のオ ープンマイクスラムで、大村が最下位を喫したのは事実です。(笑)  いや普通のスラムだったんだけど「最下位から発表します。まず大村さん」と 来たからホントに堪えたよ。(泣)イベント途中で抜け出して「ポエム王子」衣 装取りに拝島戻って、クルマで高速とばして新宿に舞い戻って参加したのにその 有様だったから。敗戦後いったいどうやって未明の駐車場まで歩いて戻ったか、 覚えてないもん。(笑)  ただその時の自分には「まさか自分が最下位じゃ無かろう」という奢りがあっ て、その自分の甘さが結果として如実に突きつけられたという気が、私はしたの ね。自分のパフォーマンスの説得力の無さを肌で味わって、また目から鱗が落ち た気がした。  その覚醒が、今の自分なりの表現の強さに繋がった、とは思っているんです。  また敗北する者の辛さも、肌で知った。これで「引かせ王」を選ぶ事への免罪 符も得た、という気がしたんです。マジなスラムで最下位だったって事は、冗談 半分の「引かせ王」に選ばれる事よりずっとキツイのだから。キサマのココロの 傷なんか何だ、オレはもっと酷い目に遭ったけどそれでも詩を続けているぞ、と 本当に相手に言えると。    * * *  基本的に「恥かきイベント」だって事は、木棚さんにもそうしたように、出演 者には事前に予めそう説明はしています。皆にかかせる恥に報いる意味で、少額 ながら賞金も出しています。  あとここが妙味として。そもそも正月の冗談企画と謳っているし、皆でワザと 引かせようとしてやってるんだから、それで「引かせ王」になっても知名度こそ アップすれ、ダメと決めつけられたワケじゃない。既にセフティネットになって いるのです。  ただ出演者自身がどうしても受けるメンタルなダメージに関しては、説明して も体験するまで分からないものだと思いますが、正直言えばその程度のダメージ に耐えられない、自覚の無いヤワな詩人は、「引かせ王」に出なくてもそのうち どこかでトラブって潰れる。その程度の現実認識力だろうし決意だろうし、理由 でしかないと割り切っています。  表現者ってのは人前に立つ者なのだから、他人をリードしていく責任があるし、 当然それだけの風当たりもある。「これは即興だから」とか云々の言い訳は、基 本的には通らないものだと私は思います。    * * *  花本武さんが最初の「引かせ王」をどう思ったのか、直接取材したのね。やっ ぱりイヤだったのか。ゴメン花本。(汗)  実は花本さん、その少し以前にベンズのスラムでは優勝していたんです、当時 オレ知らなかったケド。知っていたら「引かせ王」の出演者に選ばなかったかも しれない。  でも逆にその優勝の実績が無かったら、花本さんは自分の「引かせ王」を認め る(認めない場合、その年の「引かせ王」は該当者無しになる)事は出来なかっ たかもしれない。花本さんの中に優勝っていう自己表現への確信の拠り所があっ たからこそ、私の貼った「初代引かせ王」のレッテルにも耐えられたのかもしれ ないね。  その後のSSWSに至る成果は、当然ながら花本さん自身の努力の結果です。  当然ながら「引かせ王」自体には何の権威も無いです。TVや雑誌の支援も無 いし、それに選ばれたからって、他所のスラムで勝てる保証がつく訳でも何でも 無い。  ただ強いて言えば、自分を突き離してクールに批評する視線と、たとえ酷評さ れても続ける決意をこのイベントで得た人が、実力を伸ばしていく可能性はあり ます。  花本さんにすりゃ当時は本当に悔しかったようだ。でも汚名返上と突っ走った 結果あそこまで行けたんだから、結果として良かったと私は思う。  ちなみにあの時、死紺亭さんが出演者の皆にキツイ事書いてたのは。実は大村 と死紺亭の間で大村が原因のケンカがあって、それで彼がさらにヒートしてたの も影響していたと思う。死紺亭さんにも過去、色々と申し訳無いコトをしました。 ゴメン。  第1回の「引かせ王」該当者無しの件に関しては。  選ばれてしまった人にも勿論、事前に「恥かきイベントだ」とは説明していま した。当日キーボードで演奏しながらの歌は相当に練習を積んできていたものだ し、全体にそう出来の悪いパフォーマンスでは無かった。  ただ歌詞が拙すぎて、マズいものを避ける嗅覚もあんまりにも無さ過ぎた。舞 台人としての厳しい決意や自覚も欠いていた。気の毒だけれど、その通りの結果 だった。それを本人が認められなかった以上、そこで最終的結論も出てしまった と私は思っています。  他にももう出演したく無いとか、こちらから頼んでも初めから断られた人も居 ます。そりゃマア声がかかるって事自体、ボーダーライン上と大村が見てるって 意味だし、他人と比べられる事を嫌がる詩人も多い。  けれど、と私は思う。モノを書く、人前で表現するって行為は、本来そんなに カッコ良いもんじゃ無い。と言うか、カッコに囚われているほうがカッコ悪いし、 元来そんな根の浅い理由でやったり止めたりするようなモノじゃない。言うしか 無いから言うのだし、書くしか無いから書くのだ。それでも駄目なモノは駄目な のね。他人に通じないからと回路とスタイルを求めてノタウチ廻るのは、ポエト リーパフォーマーの宿命だと思う。  でも結局、ノタウチ廻った奴のほうが最後は遠くまで辿り着ける、私は皆にい つもそう言っています。これは聞いた事のある人も多いと思う。  打たれ強い詩人が、もっと多くなって欲しい。と言うか実際「引かせ王」に耐 えられる詩人は、自分の中に本当に詩への確信と宿命を持っている詩人だけでし ょう。  …ではでは。 04/04/12(月)04:33 大村浩一(NBB00125) ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□