■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第92号 2004/3/27発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1用語 アリストテレス・詩学より トロカイオス(長短脚) イアンボス(短長脚) アナパイストス(短短長脚) エレゲイオン(ヘクサメトロンの次にペンタメトロンが続く連行の一組。 「悲歌」「哀歌」「エレジー」といったような、 歌われる主題や内容とは関係がない。) ヘクサメトロン(長短短六脚韻。 長短短/長短短/長短短/長短短/長短短/長短短) ペンタメトロン(長短短長短短長/長短短長短短長) ヘーゲル美学講義より ダクテュロス(長短短格) アナパイストス(短短長格) イアンボス(短長格) トロカイオス(長短格) クレティクス(長短長格) バッカス格(短長長格) といったようなことを整理しようとしたら、 既にそういうHPはあったので http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/muse1.html http://www.max.hi-ho.ne.jp/aisis/memo-random-1/r-poetry.html かなり助かった。 ジーニアス英和辞典より Aestheticエステティック(米ではしばしばesthetic):美学 Epicエピック:叙事詩・勇ましい Lyricリリック:叙情詩。流行歌・ミュージカルなどの歌詞 Meterメーター:メートル(長さの基本単位)。         韻律。格調。歩格。拍。 Rapラップ:軽くたたくこと。非難、犯罪容疑。       会話、おしゃべり。ラップミュージック。 Rhymeライム(米ではまれにrime。          Rhythmと同語源):韻。 Rhythmリズム(「調子よく流れるもの」が原義):リズム・韻律。 Verseヴァース:韻文。(対義語prose)。詩の一行。 これ見てて、面白いのは、 エピックソニーのエピックってそういう意味だったんだとか ラッパーの人がよく言うリリックって、ラップの歌詞に限らず 歌詞全般に使われるんだとか、 叙情詩ってようは流行歌のことなんだとか このメルマガでも、ヘーゲルの美学講義でも最初の方では 韻とリズムを分けて考えてるんだけど、語源をたどると 韻とリズムが同語源てのも面白いし。 Rhythmの例文みると、tango rhythm/waltz rhythm/ iambic rhythmと音楽のタンゴ・ワルツのリズムと 詩のイアンブリックのリズムが 文法的には同じ扱いになってたりする。 2韻 アルファベットの世界では韻は、 第一アクセント以後の音が同じであれば韻という。 では、第一アクセントがない日本語の場合、 どうすれば韻を踏んでいることになるのか? http://ibuki.ha.shotoku.ac.jp/~hisano/fegj%20qr.html をみると、 [詩]韻、脚韻:完全押韻(3音以上一致。例:image-hommage)/ 平常押韻(2音一致。例:ete-bonte)/ 不完全押韻(1音一致。例:ami-pari)/ 女性韻(無音のeで終わるもの)/ 男性韻(無音のe以外で終わるもの)/ 平韻=連続韻(例:AABB)/ 交韻=交互韻(例:ABAB)/ 抱擁韻(例:ABBA)/ 視覚韻(例:aimer-amer)。 とあり、これはフランス語を前提としているようなので、 フランス語の辞書(小学館仏日辞典)をひいてみると、 英語のライムにあたる語はフランス語でリム(rime) という女性名詞で、 rime pauvre不完全押韻(1音一致。例:long/son) rime suffisante 充足押韻(2音一致。例:longe/songe) rime riche 完全押韻(3音以上一致。例:mensonge/songe) とある。 long/sonをみると、アクセントが来る母音一音のみが 同じで、かつ母音で音が終わる語だ。 つまり、不完全押韻と言いながらも 「第一アクセント以後の音が同じ」という韻の条件には 当てはまっている。 日本語にアクセントがない以上何音韻を踏めば押韻とみなされるのかと 母音のみで3音押韻したり、子音のみで3音押韻したり、 子音母音ともに2音押韻等、色んな可能性がありえる。 http://gabacho.reto.jp/whims/whim0120.html などみれば分かるのですが、母音子音ともに完全押韻だと、 かなりダサい駄じゃれに見えるわけです。 第一回のSSWSでメテオさんが 「母音も子音も同じだから韻じゃない」 てなことを言っていたので 韻てのは、子音・母音のみで踏む物なんだというイメージが 私の中で多少あるわけです。 子音で踏むというのはイメージが沸かないかも知れませんが 「前略 椎名林檎様」 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4872335724/qid=1079626358/sr=1-7/ref=sr_1_10_7/250-8330178-6490620 で、椎名林檎がRで韻を踏むと巻き舌で歌えるので 不良っぽい感じになる等の子音による韻踏みの分析をしていて なるほどなと思う部分はありました。 韻はどこで踏むのか? 一般に、行末で韻を踏むわけですが、 BegoodCafeでやっていた ATOMさんのラップのワークショップで習ったのは スネアの位置で韻を踏めということでした。 ハイハット ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪  スネア       ♪       ♪ バスドラ  ♪ 一般にロックドラムは、一小節が上記のようになるわけですが、 4分の4の場合、2つ目と4つ目の四分音符で韻を踏めと。 イメージとしては♪を四分音符だとすると四分の四で拍子で │ ♪ │ ♪ │ ♪ │ ♪ │ が一小節で │   │ ココ│   │ ココ│ で韻を踏むわけです。 二小節を一セットに考えて │ ♪ │ ♪ │ ♪ │ ♪ │ │ ♪ │ ♪ │ ♪ │ ♪ │ とあると │   │ ココ│   │ ココ│ │   │  ☆│   │ ココ│ ☆ は必ずしも韻を踏まなくて良いとのことでした。 起承転結という4コマ漫画でいうところの、 転はあえて違うところへ行って、 最後にまた元へ戻るイメージでしょうか。 一回目はまだ韻を踏んでいるかどうかは聞いてる人に分からない。 二回目に韻を踏んでいると分かって、 三回目もう止めたのかなと思わせて 四回目に、またそこへ落す。 面白いのは漢詩でも四行の七言絶句の場合 http://www.chitanet.or.jp/users/junji/kansi/setumei.html 三行目で韻の型を崩して四行目でもう一度韻を踏むわけです。 ラップをやったときは、ハロウィンだったので、 ハロウィンをテーマにラップを作るというのをやって │トリックオア│  トリート│   オン・ザ│ ストリート│ │  いかした│  スタイル│   オンリー│    ミー│ │空っぽ気味の│かぼちゃ頭に│詰め込み過ぎた│知恵がたまに│ │こぼれ落ちる│ 笑顔を僕に│ 与えて暮れよ│なんてマジに│ │   ガキの│    遊び│    大人に│    学び│ │   乗せて│   くれよ│  かぼちゃの│   馬車に│ │トリックオア│  トリート│   オン・ザ│ ストリート│ │  いかれた│  スタイル│  ユーアンド│    ミー│ 三十にもなってオン・ザ・ストリートなんて言ってる自分も痛いなと 思うんだけど、ワークショップである以上、 向こうのカラーに染まりに行っているわけで こういうのをやったと。 ストリートとミーは韻になってないと言えばないのですが ストリートの子音のtを小さく無声化することで リーの母音とミーの母音が生きればなという感じだったわけです。 何が言いたいかというと、韻とリズムが強く結びついているという 辺りを言いたいわけです。 RhymeライムとRhythmリズムが同語源で 「調子よく流れるもの」を語源とするというのは、 さっき確認したのですが、ライムによって押韻することと リズムをとることは本来結びついていて、 ハイハット ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪  スネア       ♪       ♪ バスドラ  ♪ こうリズムがあった時に、ウーファーが付いていない スピーカーでやる分には、バスドラはほとんど聞こえないわけです。 して、ハイハットがメトロノーム的な均一の時間を 表しているとすると、スネアが音を強調するわけで、 スネアの鳴っているところが、 強弱で言うと強音部を構成するわけです。 強音のところで韻を踏む。 これは結構筋が通っているわけです。 音や意味が強調されない部分で韻を踏んでもあまり意味がないわけで 発音がはっきりと聞き取れる場所で韻を踏んでこそ 韻が生きると思うわけです。 例えばセックスピストルズの曲の場合 「ゴッド・セーブ・ザ・クイーン」の 「No Future」のリフレインや 「ノー・フィーリングス」の 「No Feelings」のリフレイン など、頭韻&頭アクセントの典型だ。 英語の場合、NoやNotはその一語だけで 文全体の意味が変わるため強く発音される。 文の意味からくる強音がNoやNotやantiといった 語から生まれる。 ハードコアパンクバンド、ディスチャージ(DISCHARGE)の ファーストアルバム「ヒア・ナッシング・ セイ・ナッシング・シー・ナッシング」 なんかも、単語のアクセントの強音弱音とは別に 意味から来る強音で、ある種のリズムを作っている。 日本語でも文字で書いただけで ある種のリズムが感じられれば良いのにと ずっと思っていたのだけれどもやろうとすると難しい。 パンクがNoやNotで意味から来る強音を作り、 それでリズムを作るのを日本語で 「〜〜ではない」と訳してしまうと、 「ない」に意味のインパクトから来る強音節が発生しなくなる。 「ない」にアクセントが来たところで、 頭アクセントのパンクのリズムに乗らないし 強烈な否定なのか、「〜〜じゃないのですか?」 という付加疑問なのかすらよく分からなくなる。 一般にこの手の英語は「反戦・反核・反暴力」といった 「反〜」と訳すことで、「No〜」のニュアンスを出そうとする。 ビートルズのヘルプを聴くと、曲の出だしで、 「ヘルプ!アイニージューバーディ、  ヘルプ!〜〜〜」 と歌っているところは、頭のヘルプの部分にアクセントが来るけど サビの脚韻を踏みまくっているところは、脚韻を踏んでいる 後ろの部分にコーラスをかぶせて音に厚みを出し、 音を伸ばして脚韻を強調する。 アクセントが来るところだから韻を踏むのか、 韻を踏むから強調するのか。 それはニワトリと卵だから問わないとしても、 韻とアクセント・強音・長音部というのは 重ねた方が効果的であったりする。 では、長短格や長短短格の詩は頭韻を踏んで 脚韻を踏まなかったのかとなると、 そこまでは調べてないので分からない。 詩と音との関連で言うと 美学講義のp134−2行目 「拍子のアクセントと韻律のアクセントがまったくちぐはぐでは困る」 と当たり前のことを書いているのと同時に 同p135−13 「ヘンデル(一六八五−一七五九年)の『メサイア(救世主)』でさえ、 多くのアリアやコーラスがことばの意味に 忠実にしたがう朗読調になっているだけでなく、 イアンボスのリズムにしたがって音の長短の区別をおこなったり、 イアンボスの長格と高い音を、 短格と低い音を対応させたりしています。」 とある。 長音/短音が、強音/弱音だけでなく、高音/低音にも 対応しているというわけです。 (イアンボスのことを抑揚格という言い方をして、 短音を抑音、長音を揚音と解釈しているようなのもある。 ただ、言葉と強弱の結びつきに比べると 言葉と抑揚の結びつきは弱いようだ) ちょっといま、音をとってみたら高音部が低音部に対して 4度ぐらい音が高い。低音部がドだとすると、 ファぐらいの音なのかなという気がします。 譜面を見てないので何とも言えませんが http://members.jcom.home.ne.jp/kumanomi/messiah/kashi1.html の3番のアリアなんかは分かりやすいぐらいに 低高低高のイアンボス調で音をつないでます。 このHPはMIDIで音が聴けるので是非聴いてみて下さい。 ちょっと、いま、譜面になってない朗読を 無理矢理譜面になおすとどうなるかってのを やってみてます。 みひろさんなんかがよくやる語尾上げ体言止め& 体言止めからの助詞ツナギの音を取ってみたところ ドで音を始めたとして、 「この机?(ここで語尾上げ体言止め)  が、置いてある床に」 とやったとして、「この」をド・ドでいったとして、 「机?」という語尾上げのところが 俺の耳だから信用出来ないけど 「ド・レ・ファ♯」で 「が、」で「ラ」まで音が上がって 「置いてある床に」が 「ドドドレドシドレ」 (最後のレは、正確にはド♯をクォーターチョーキング) になったがだから何なんだ!という 疑問が沸く。人間の話し声のイントネーションを 正確に譜面になおそうとすると、 1オクターブに64個の鍵盤が必要だという。 いまある鍵盤が一オクターブ12個だから、 鍵盤の数を約6倍に増やさなきゃいけない。 三木昌子さんの関西弁「だったのですよぉ」を 無理矢理譜面になおすと 「だった」が「ド・ド」で 「のですよぉ」が「ラ♯・ラ・ラ♯・シ」 「よぉ」でシの長音みたいな感じで。 「いわはってん」(「言った)の敬語形)を 無理やり譜面にすると 「ド・ミ・ソ・ミ」と普通の和音になって 四音で「い/わ/はっ/てん」なわけですが、 「ド・ファ・ラ・ミ」の方が変化があって良いのかなぁとか 非常に散漫なメルマガになっているのですが、 86号や88号のメルマガでリズムや韻について 多少書いて、それをまとめる形で、 韻とリズムの関係について総合的に書きたかってんけど 西洋の詩に関して言うと、 単語のアクセントや長音の部分と、詩の長音や強音の部分、 意味的に強く発音される語(Noなど)と、 音楽的に強拍になる部分、音楽的に音が高くなる部分 そして韻を踏む部分というのは、 ある程度一致させた方が自然だとされる。 ところが実際には、ワザと不自然さを出すことで 効果を狙うこともあるわけだ。 美学講義p133 「4/4拍子では強拍部が二つあって、 第一音にまずアクセントが置かれ、ついで、 第三音にやや弱いアクセントが置かれます」 とあるが、それは上で書いたスネアの位置と調度逆の話になるし、 譜面上の強拍部とイアンボス脚での強音部がどう結びついて どう離れるのかなんかは、真面目にやろうと思ったら 譜面取り寄せなきゃいけないし、 http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/muse1.html 見ても、一般的な音楽の形式である4/4拍と 詩の結びつきについて何も書いてないし、 黒人音楽の裏拍とイアンボスとの相性とか、 語ろうとすると真面目に資料集めなきゃいけないし、 やったところで、たぶん俺が考える程度のことは 既に誰かがやってるはずだと。 古代ギリシャなんかの初期の頃の詩というのは 舞踏(ダンス)と強く結びついていて、 イアンボス調(短長格)ではなく、 トロカイオス(長短格)やダクテュロス(長短短格) スポンディオス(長長格)だったと。 つまり、頭にアクセントが来る詩で、音楽的には 一音目と三音目に強拍が来る形式と一致するため 踊りやすいわけです。 イアンボスが詩のメインを成すのは、詩から舞踏が 独立して、詩が劇の語りのパートを 主に構成するようになってからです。 彼らの日常会話というのが イアンボス調で語られることが多いため、 語りのリズムとして一番自然なイアンボスが採用されたと。 前拍か後拍かってのは、ダンスミュージックか、 語りかの違いで、 最近だとドラゴンアッシュとジブラ(Exキングギドラ)の違い というと分かりやすいと思う。 セックスピストルズやディスチャージのようなパンクバンドは 前拍のダンスミュージックだし、ブルーハーツの三番煎じみたいな 青春パンク系の音はだいたい前拍になる。 アクセントを前に持ってくることで、 音楽的にはパンクっぽく見えるんだよね。 試しに、短歌でも何でも良いけど頭アクセントで詠んでみて欲しい。   「『この味が/いいね』と/君が/言ったから/ 七月/六日は/サラダ/記念日」 この区切りで頭アクセントだと、パンクっぽいやろ? でもブルーハーツは、「どぶねぇーずみ」と言ってるように、 「ね」にアクセントの後拍だったりする。 日本語を話す白人系外国人のモノマネをするときの 「ワターシは ガイコークジンデース」 というのをやったとき、 「タ」とか「コ」とか後ろアクセントで、これが典型的な 白人の言葉のリズムだというのは何となく分かるし、 これがイアンボスってやつだなってのも、何となく分かる。 ダンスミュージックでは音楽の強拍に合ったアクセントの 詩を作ったから、頭に長音が来たけど、 ダンスが詩から独立後は、詩の語りに合った音楽が作られた。 だから、頭韻よりも脚韻の方が 重視されるようになって行くと思うんだけど、 これをどう日本語の詩に持ち込むかとなった時に、 日本語の韻律は、強音も長音も抑揚もなく、 五音と七音で作られているため、 譜面上リズムや音程がどうなるのかは 非常に語りにくい。詩を見ただけである程度、 リズムや音程が分かる詩とまったく分からない詩の差は大きい。 色々考えるんだけど、現実はむずかしい。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□