■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第77号 2004/1/12発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1ごあいさつ 毎月10日に吉祥寺の曼荼羅で開かれるという 福島泰樹さんの絶叫短歌ライブに行ってきました。 7時開場、7:30開演で、実質、 8時〜9:30ぐらいのライブだったのですが 今日はそのライブレポを書きます。 その日は、ライブを観たあと、荻窪まで歩いて10:30に ボクシングリーズカフェの前を偶然通り、 青木研治さん司会のエフリコギが10:30までだったのですが まだギリギリやっていそうだったので入ると、 店主のボクシングリーさんが、ボクシングのミットを持って オープンマイクの参加者とミット打ち状態。 オープンマイクの優勝者をミット打ちで決めるという イベントの最中でした。 エフリコギを11:30ぐらいで出て、家に帰ろうとするが 終電に乗り遅れて、新宿のMARZに行き、そのまま サムライトゥループス主催のFast観て 帰ってきました。 2福島泰樹さんの絶叫短歌ライブ 会場:吉祥寺曼荼羅 http://www.mandala.gr.jp/ http://www.mandala.gr.jp/man1.html 値段:2300円+1ドリンクオーダー(約2800円) メンバー: ボーカル:福島泰樹 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-form/249-0809372-4706731 ピアノ:永畑雅人 尺八:菊池雅志 ドラム:大江陽三 日時:毎月10日。 開場19:00 開演19:30 一月十日に観に行ったのですが、データ的なことを先に書くと 客席の男女比は女性6男性4ぐらいで、 年令は30代から50代 人数は30人〜40人。 出入り口で福島泰樹さんのCD及び 福島泰樹主催の短歌同人誌「季刊 月光」(千円)を販売。 月光は十年ぶりの復刊で今回が第一号。 絶叫短歌ライブは毎月10日曼荼羅で続けて、今年19年目。 福島泰樹さんは桐朋学園芸術短期大学で「日本語論」を http://www.toho.ac.jp/college/drama/lecture/profile/fukushima.html 日本大学文芸学科で 詩歌論と文芸研究Tを教えられています。 http://www.art.nihon-u.ac.jp/official/literary/syllabus/detail_e.html#24 http://www.art.nihon-u.ac.jp/official/literary/syllabus/detail_t.html#27 私が観に行ったきっかけは、同時に別の方面の友人複数から、 観るべきだと勧められて、 気が乗らなかったけれども観に行ったというの正直なところで。 一応、観るよう勧めてくれた友人が言うには 「大学で講義を持っているような権威や社会的地位のある朗読詩人は 今の日本じゃ谷川俊太郎と福島泰樹ぐらいしかいない」とか 「叫ぶ詩人の会の金髪先生こと、ドリアン助川氏も、 青木研治さんも福島泰樹さんの絶叫短歌をみて、 詩の朗読を始めた」とかで 私はニューアカデミニズムは好きだけど 生まれ育った環境から言って、 大学教授ってのは一番身近な敵だったし 大学教授だから立派に違いないみたいな言い方は 嫌だったんだけど、 観ずに知らないものを批判してもしょうがないわけですよ。 観た上で合う合わないを言うのは良いけど 知らないものを批判してもしょうがないなと、 青木研治さんも良いと言ってるなら 観に行くかぐらいだったのですが 終わった後、ボクシングリーズカフェで青木さんに会ったら 青木さん福島泰樹知らなかったですからね。 俺に福島泰樹勧めた友人嘘ばっかり言ってるの(笑)。 正直に言うと、俺には福島泰樹合わなくて ただ、どこがどう合わないのかを考えて書くのも それはそれで建設的かなと思って書くのですが、 会場には知ってる人間でいうと紀ノ川つかささんがいて 彼は学園祭で福島泰樹みて良かったから来たと言ってました。 実は詩のボクシングを初めて観たのが、 テレビで福島泰樹さんが出てる回で 俺が「大学の講義みたいだな」という感想を持った回なのですが そのときはまだ、それが福島泰樹だとは知りませんでした。 今回も、そのテレビの回も、同じようなファッションで、 黒いサングラスに、黒いハットをかぶって、 白のサスペンダーと黒いYシャツに黒いズボンと黒い靴。 その上から黒いロングコートを着たり脱いだりされている。 コスプレもしくは演劇ギリギリのファッションで シアトリカルなビジュアル系。 演劇的なカッコをしている以上そのファッションの意味は 当然、問われるわけですが、まずあのハットでいうと アニメ「サザエさん」でマスオさんと波平さんが 両方ともハットをかぶって通勤していたのが ファッションが古すぎるということで、一度 二人ともハットをかぶらずに通勤になったけれども 波平の年代を示す意味でも少し古臭いカッコを していた方が良いのではないかと波平には ハットをかぶすようになったという流れがある。 ロングコート+ハットというファッションは 高度成長前の日本を示す 少し懐古的なファッションであるわけです。 さらにサスペンダーもいまあまり使われません。 黒のYシャツに白いサスペンダーと サスペンダーを強調するようなファッションになってますが、 いまサスペンダーってのは、七五三で正装させられた子供か デブ+蝶ネクタイ+サスペンダーというコミカル系コスプレ、 もしくは、「あぶない刑事」に出てくる刑事のファッション。 ぐらいなのですが、文脈的に言えば、 1945年〜60年ぐらいに掛けての 急速にアメリカ化しようとしていた頃の日本にとっての アメリカ。ハリウッドのギャング映画に出てくる ギャングや刑事が来ているトレンチコートに 茶色い革の帽子にサスペンダーというファッションを 今あえてやっているということだと思います。 効果としては郷愁を誘うのが狙いではないかと。 入場したときに受付の女性に短歌季刊誌「月光」を勧められて そのときの言葉が、「主幹の福島泰樹さんは有名人の歌よりも 無名の一般の人の言葉を大事にしていて、 そういう人達の歌がいっぱい載ってます。 古臭い型通りの物だけでなく無季自由律なども扱っていて 若い人たち向けです」ということでした。 歌壇の古いしきたりにしばられない人だということは 絶叫短歌コンサートなんて開いているのを見ても分かるのですが ここでいう若い人というのがどの辺りを指しているのかという 問題で、絶叫短歌の中で出てきた単語を挙げても 「大正革命」「満州」「ヘルメット」と、 短歌のテーマが、大正デモクラシーの挫折、第二次大戦の敗戦、 安保闘争の敗北という、 大正から昭和初期に掛けて活躍した若い人に 焦点が絞られている訳です。 だからといって、今日性がないとか、 俺のことを歌ってないから福島泰樹はダメだとか そんな低レベルな批判をしたくはないし、 大正デモクラシーの挫折と いまのイラク戦争に引っ張られて行く日本を ダブらせる手法はありだとも思う。 ダメだと思った点を一言でいうと 挫折や敗北といったテーマを絶叫という手段で表現すると ナルシスティック過ぎて観てる方はつらいという点です。 「俺は傷ついているんだぁー」 「絶望しているんだぁー」と叫ばれても あまりに自己愛過ぎて、客としてはひいてしまう。 挫折や敗北を歌うのであれば抒情派フォーク (Exオフコース・ふきのとう・赤い鳥・かぐや姫・グレープ) のように、か細く繊細な声で歌う方法もあるし、 暗黒歌謡(Exカメルンマキ・森田童子・山崎ハコ・中島みゆき) の感傷的なダークなメロディーというのもあるだろうけど、 ハードボイルド映画に出てくる刑事みたいな服装で、 シャドーボクシングをしながら、 たくましく男性的なイメージを演じつつ絞った声で ヘッドバンキングしながら 「俺は挫折したんだぁー」とシャウトされても そんなのてめぇで処理しろよという話ですから。 私もトラウマ系の文章を書いているだけに他人事では無いのですが 保坂和志著の「書きあぐねている人のための小説入門」 アマゾン http://tinyurl.com/2uvay bk−1 http://tinyurl.com/2r9v5 をみると、「トラウマを背負った主人公を書いちゃいけない」と 書いてあって、要はそのテーマが通俗的過ぎるということなのです。 人前で朗読をするとどうしても一人称になってしまうわけで、 朗読する人=文章中の私になる。 この私が挫折経験をひけらかしても ナルシスティックになり過ぎるし、 成功体験をひけらかしても ナルシスティックになり過ぎる。 物語とか出来事というのは 成功と失敗しかなくて、 どっちに転がってもナルシスティックになるとき 過剰なナルシズムを避けようとすると 出来事が何もおきない小説、 朝起きて、お湯を沸かして、 ティーポットに紅茶の葉を入れて 上からお湯を注いで、 トーストを焼いて、バターを塗って という特別なことが何も起きない極普通の日常を描くような形式に ならざるを得ない。 そういう何も起きない小説を書く保坂和志は すごいなと思うし、 逆に保坂和志的じゃない小説があっても良いと思うけど 保坂和志の逆を行こうとするなら、 保坂が排除した物を取り込む論理が必要になる。 保坂が物語性や出来事や同時代の風俗・三面記事・大事件を 排除したのにはそれなりの理由があるわけで、 その逆を行くにもそれなりの論理を建てないと弱い。 時事的な大事件を描かずに 普遍的な日常を描く保坂の姿勢に近いのは、 歌壇的には福島泰樹が批判した花鳥風月を描く古い短歌であり 福島泰樹の一番身近な仮想敵であるはずだ。 もう一つ、テーマでなく、 手法の面で福島泰樹の対極にあると思われるのが カワグチタケシ的な朗読法で、 感情や抑揚やリズムや強弱を極力排除して 詠む方法だ。 朗読を前提としない文章を書く人が 朗読を前提としない文章を朗読する場面を何回かみたことがある。 山下聡子さん http://www.pp.iij4u.or.jp/~satoko-y/index.htm の「EPFN 小説朗読会」や、 古井由吉さんの朗読や、カワグチさん・小森岳史さんの3K5も 割りとそういうノリだと思うし、 自分でも朗読向きじゃないものを朗読したことがある。 そのとき一番難しいのは、散文は普通三人称で 異なる属性の複数の人間が出てくる。 読み手が成人男性でも、 文章の中には女性や幼児や老人が出てくる。 ここで、登場人物ごとに声を変えるか?変えないか? という問題が出てくる。 学校教育では変える方がほめられたのですが、 実際に人前でやってみたときに、 幼児の声で「僕ね」と言ってみたところで ステージの上にいるのは、いい歳したおっさんなわけです。 「あたいってさぁ〜」と70年代の桃井かおりのように ハスッパな声を出してみても、目の前にいるのは 30代のおっさんなわけです。 いい歳したオヤジが 「あ、**くんだ。きゃっ!目があった。恥ずかしい。キャハッ!」 とか言っても気持ち悪いオカマにしか見えないわけです。 仮にプロ声優さん並みに声の演技力があったとして、 ステージ上の肉体がおっさんであれば、 いくら16歳の女の子の声を出したとして それは「16歳の女の子の声を出すおっさん」なわけです。 文章上、16歳のかわいい女の子でも、ステージ上では 「16歳の女の子の声を出す 奇妙な特技を持ったおっさん」なわけです。 このギャップをどうするのか? 音楽寄りのスポークンワードの場合、 歌は一人称ですから、歌詞上の私=歌い手で良いわけですが 活字から朗読に入った人の場合、 どうしてもこの問題に引っかかります。 方法の一つとして、複数の役者を使って ラジオドラマや朗読劇にして行く方法がありますが、 私は一人で出来るという手軽さを手放したくありません。 カワグチさんのすごいところは、 抑揚・感情・リズムといった人間的な要素を排除することで ステージの肉体性を排除するんですね。 極端に言えば、文章上の僕が、=朗読者であるカワグチさん であるかどうかも怪しい。 無機質なナレーターのポジションに行くことで、 逆にどんな役を演じても不自然でなくなるわけです。 会話文の登場人物に男性が出ようが女性が出ようが 幼児だろうが老人だろうが無機質に読むナレーターであると。 今期最後のSSWS予選の打ち上げで、 楠木菊花さんとしゃべってたんだけど、そのときの内容が 音楽的なカッコイイ朗読や演劇的なカッコイイ朗読に 憧れてスポークンワードを始めるのは分かるけど 一度、カワグチタケシ的な朗読を経験しないと カッコイイ朗読も出来ないよという話でした。 抑揚も感情も無い朗読より、 抑揚も感情もある朗読の方が好きなんだという反論もあります。 でも、音楽的な朗読をするには作曲的な作業もいるし 演劇的な朗読をするには演出的な作業もいるわけです。 そこを飛ばしてクセで読んでしまっている人がいて、 クセで抑揚をつけてしまうと、場合によっては すごく音痴なメロディになってしまうことがあるわけです。 音痴なメロと音痴なリズムがついた朗読と、 抑揚も感情も排除した朗読だと どっちが聴きやすいのか? 感情を込めるという演劇的な演出にしても 「私はかわいい」「私は挫折している」という 内容を詠むとき、自信たっぷりに大声で絶叫するのと か弱く、切ない声でつぶやくのだとどっちが良いのか? 演出的なことを考えずにクセで詠んでしまうと、 内容と矛盾した演出になることが多々あるわけです。 初めて、人前で詠むときは、自信も無いし 声も出ないし、たどたどしいですが 慣れてくると、自信を持って堂々と声を出せるようになる。 この段階の人が、堂々と自信に満ちた声で 切なさや、はかなさや、弱さについての詩を詠むと 炎天下の運動場でゴムタイヤをしばったロープを引きずって 汗だくになってダッシュする高校球児のような 明朗活発さで「世の中って儚いよね!」と 叫ぶようなはめになる。 自覚的にそういう演出であればいいのだが、 無自覚だとつらい。 福島泰樹さんの絶叫短歌にも、それと似た印象を受けた。 一度、感情や抑揚を排除した朗読をして、 その上で、抑揚や感情を入れて行くなら、 何故そうなるのかを、 身体感覚というクセ以外で説明出来るようにして やって行くべきだ。 3イベント情報 1/13(火)ハッピーターンナイト 主催:青木研治 場所:ボクシングリーズカフェ 開場19時 料金1000円1ドリンク、ハッピータンつき。 2月1日(日)鉄腕ポエム4 出演:近藤洋一 桑原竜弥 ハギー・イルファーン 西野智昭 レイ 小林大吾 稀月真皓 ジュテーム北村 場所:新宿区歌舞伎町1−14−7林ビルB2Fロフトプラスワン 開場18:30 開演19:30 前売2000円 当日2300円 2/24(火)サナエミ 出演:詩/大下さなえ  短歌/伊津野重美 演出/秋月祐一 開場19:00 開演19:30 場所: 中野区中野3−22−8劇場MOMO 前売1800円 当日2000円 http://homepage1.nifty.com/kyupi/live/sanaemi.html