■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第66号 2003/10/30発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1混沌→型→崩し その3 しかし、いくら俺が型が大事だと言った所で 型通りの物なんて詰まらないよと 冷静に言われてしまうこともままあるわけだ。 そして実際型通りの詰まらないものだって街にあふれている。 J−POPやファミレスやファーストフードや制服や。 実際、お洒落な人ってのはショーウィンドーに飾られた服を 上下おそろいで買って、ショーウインドーの中の マネキンと同じように着るというマネはしない。 崩して着るのが上手かったりする。 ベンズカフェで、田中創さん http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Theater/8596/mokuji.html の一人芝居を初めて観たとき 結構衝撃的だったのは、みんな爆笑してるんだけど 俺だけ何故みんなが笑っているのか分からない箇所が いくつかあったという点でして。 まずタナソーが、客席からお題をもらって 即興で芝居を始めるんだけど、 お題が「ドーナツ」で 右に立ち左を向いたタナソー(以下、右) 「最近僕のお父さんが変なんだ」 左に立ち右を向いたタナソー(以下、左) 「どう変なんだい?」 右「夜に電話をかけてきて、  『レモンを絞れ』『レモンを絞れ』と言うんだ」 左「それは変だね。僕が見てあげよう」 ここで沈黙。客席爆笑! これね、何でみんな笑っているのか分かります? レモンの話が面白いわけじゃないんだよ。 隣にいた大村さん(ポエム王子) http://www.win.ne.jp/~sid10718/ が教えてくれたんだけど 「落語では同じ場所に三人、 人が出てきてしゃべることが出来ない。」 だから、お父さんをその場に呼ぶことが出来なくて 困っているのが面白くて笑っているわけ。 タナソーの一人芝居は落語ベースなので 右向いたらAさん、左向いたらBさん。 もう一人同じ場所に呼んで三人で会話は 出来ないのが落語なんですね。 ところが私は、 普通の洋服着て普通に立って一人芝居している 田中創さんを見て、 落語ベースだなんて少しも聞いていないので 何故みんなが笑っているのかが理解できないわけです。 お父さんを呼べなくて困っているタナソーが いうにことかいて、 舞台のホリゾント幕(客席の対面にある黒い幕) を指差して「あっ、お父さんだ!」と叫んだ日には 爆笑なわけです。 普通落語の場合、いま舞台にいない人物は 上手か下手に居るわけです。 上手もしくは下手の方を向いて、 座ったまま上半身を揺らして、 そちら方向へ歩いて行く当て振りをします。 でもタナソーは、よりによって、ホリゾント幕を指差して 「お父さんだ!」と叫ぶわけです。 客席の対面にあるホリゾントに向かって歩くには 客席にお尻を向けなきゃいけない。 落語というか、演劇的にはありえない構成なんですね。 落語や演劇では上手・下手から人が登場したり、 行き来したりする事はあっても 客席の対面から人があらわれたり、 対面に向かって人が消えたりすることはないわけです。 (大道具で客席の対面にドアがあれば別ですが) 左「僕がお父さんを見てくるから君はここで待ってるんだ」 右「いや、心配だから僕も行くよ」 左「良いから君はここにいろ!」 右「どうしてだい?」 左「それは聞かないでくれ」 ここでみんな爆笑しているのですが ここで爆笑できるのは 落語の型を知っている人間だけなんですね。 落語を観た日本語ペラペラの欧米人の方が一言 「なんだ、ただの独り言か」と言って席を立ったという 有名な笑い話がありますが、 同じ人が右向いたときと、左向いたときでは 別人の役だと言うのは 落語の知識がないと分からないわけです。 右「分かった。僕はここにいるから、   君はお父さんを見てきてくれ」 左「わかった。テクテクテク。お父さん、はじめまして。」 右「キミか、息子の友達というのは。話はかねがね聞いてるよ。」 左「お父さん、どうしたんですか?変ですよそれ。   胸に窓が開いてるじゃないですか?」 右「そうか?普通だと思うがな。胸に窓があると変か?」 左「誰か、この窓を開ける勇気のある方はいませんかぁー?」 とタナソーは客席に向かって叫び出すわけです。 場内は爆笑ですが、私は 必死になって考えてました。ベンズカフェのステージは 喫茶店の床の上に直径約一メートル 高さ十五センチほどの台を置いただけの物で 客席からステージに上がるのはたわいもない事なわけです。 つまり、タナソーは劇の中で 「誰か、この窓を開ける勇気のある方はいませんかぁー?」 と言うと同時に、ベンズカフェの客に対しても 「誰か、この窓を開ける勇気のある方はいませんかぁー?」 と言ってるわけです。 つまり、いまここで突然ステージに上がってきて 一緒に即興芝居のセッションする勇気のある人いませんか? というわけです。 ベンズカフェには、いかにも「俺はアーチストだぜ」風の 人がいっぱい居るわけです。ちょっとトンがった 学生や専門学校生やサラリーマンが、 マフラーで顔の下半分隠して、 でっかいセルフレームのゴーグル付けて 飲みに来てたりするわけです。 「芸術家風吹かしてるトンがったのがこれだけ居んだから 一人ぐらい俺とセッションできる奴いんだろ?」 とタナソーは客席を挑発するわけです。 これは、客席とステージが離れすぎた ライブハウスでは出来ないことです。 ステージを観に来ていない一般のお客さんを 巻き込むための語り掛けが必要なベンズならでわの パフォーマンスです。 「ベンズに来るような奴らは、みんな他人には興味ねぇんだろ! 自分が一番だと思ってんだろ!だったらこの窓開けてみろよ」 タナソーの心の叫びが聞こえます。 ステージに上がって窓を開けること自体は簡単です。 ただ、窓を開けた以上は、 自分で落ちを付けなくては行けません。 落ちが付けれないなら恥をかいて終わりです。 俺はステージに上がるために必死になって落ちを考えました。 お題は「ドーナツ」。お父さんの胸には窓。 どちらも穴が開いているという意味で形状は似ている。 お父さんが実はドーナツだったので、 僕はお父さんを食べてしまった。 いや、違うこれでは完全に滑っている。 そう、さっきからタナソーのパフォーマンスは 話が無茶苦茶過ぎて、どこへ話が転がるのか分からない。 こんな奴と即興でセッションして上手く行くわけがない。 アナーキー過ぎる。ドーナツだけにアナーキー(穴開き)ですな。 これか?これなら落ちとして使えるのか? 落ちがこれとして、落ちまでのツナギをどうする? 窓を開けたところから始めて、初対面のタナソー相手に 多少はからんで二人芝居をやらなきゃいけない。 しかしさっきから観てると この人の話はどう受けて良いか分からな過ぎる。 展開が予測不可能なのだ。 そうこうするうちに。 左「そうか。誰も居ないのか。だったら僕が窓を開けよう。   なんだ!お父さん。窓の向こうは北海道じゃないか!」 窓を開けなくて良かったと思いました。 こんな人と即興芝居は自爆行為です。 タナソーは結局、物語とまったく無関係な どうでもいい箇所でドーナツを出し お題とは無関係なところで笑いをとって 笑いが最高潮に達した所で終了という形でした。 タナソーがこのときのベンズカフェでやったもう一つのネタは 断崖絶壁から二人の男が下りてくるというネタで、 遭難した登山者が上下に二人列を作って下りるのですが 上を向くと下にいるAさん、 下を向いてしゃべると、上にいるBさんという形式は 右を向けば左にいるAさん 左を向けば右にいるBさんという落語の形式を おちょくってるわけです。 タナソーの笑いは落語の型を崩すことで 遠回しに落語の型を小馬鹿にして笑っているのですが、 それは客席が落語の型を知ってることを 前提とした笑いなんですね。 ストーリー的には何か事件が起きて 一人がもう一人に「大丈夫か!しっかりしろ!」 と叫んで、それが劇中のセリフであると同時に 即興が行き詰まって、お題も上手く処理しきれなくて 混乱しているタナソーに対して 客席が思っていることとカブっているという部分で 笑いが起き、お題を無視してストーリーを展開し 客席から「お題は?」と言われたら、 「ああ、いまポケットを見たら**(お題)が入っててね。」 と言ってしばらく黙り、 そこからお題を使ったストーリー展開を期待させつつ、 「そんな事はどうでも良いんだ」と言って お題を無視したストーリーに戻すことで笑いを取る。 落語の型を崩すのと同じように、 お題をもらっての即興という型を崩すのがタナソー流で かつそれは、みひろさんが同じ舞台でキチンと お題を使ったネタをされるからできるパロディなわけです。 タナソーの即興は無茶苦茶やってるだけという印象が強く 馬鹿にされやすいキャラなのですが、 落語の知識や教養がなければ笑えないネタが 多いし、落語の型を知った上じゃなきゃ 作れないオリジナリティーがあるわけです。 一箇所に三人出てこれないという落語の型を知らないために 型を崩したタナソーの笑いを理解できなかったように 型を崩した物を評価したり理解したり創作したりするには やっぱり型を知らなきゃいけないという話になるわけです。 型を崩すタナソーの芸も、一見ただの無茶苦茶に見えるし 無教養な振りを本人もするのですが 意外に知識や教養が要求されてしまうわけです。 2イベント情報 11/1(土) 詩学ワークショップ・青の日 時間18:00〜20:00 場所:東京都文京区春日1−16−21   文京シビックセンターF5研修室B 料金1000円 当日作品コピーを15部持参。(要予約) http://www.poeca.net/cgi/db.cgi?action=details&code=977 http://www7.ocn.ne.jp/~shigaku/work.htm 11/1(土) 「EFRICOGI」 場所:東京都杉並区荻窪5-16-15井上ビル3F 荻窪boxinglee's cafe 開場18:30 開演19:00 内容:オープンマイク 料金 1500円(1ドリンクつき) http://www007.upp.so-net.ne.jp/boxinglee/ 11/3(月)文化の日祝日 文学フリマ 場所:青山ブックセンター地下2階 時間11:00〜 内容:著者による自著販売会 http://bungaku.webin.jp/ 11/3(月)文化の日祝日 山田詠美(朗読) 奥泉光(朗読&フルート) 吉野弘志(コントラバス) 時間18:30開場 19:30スタート 場所:杉並区西荻北3−12−10司ビルB1 ジャズバーKonitz(ハートランドの隣) 前売り・予約のみ。当日券無し。 内容:朗読ライブ 値段:5000円(1ドリンク付) 11/8(土) 美学校ナイト 時間:19:00〜21:30 場所:東京都千代田区神田神保町2−20第二富士ビル3F 内容:朗読ライブ&オープンマイク 料金1000円(1ドリンク付き) http://www.zyx-web.com/bigakko/ 11/8(土)   「一語一会 朗読発表会」 場所:アトリエだるま座 開演14:00〜   17:00〜 料金 1000円  http://wwwfoulitip.net/ 11/22(土) 3K7 出演:カワグチタケシ、究極Q太郎、小森岳史(ゲスト有) 開演:18:00 料金:カンパ制 会場:trade mark kyoto(京都市中京区蛸薬師新町西入る不動町180)  問:075-213-5969(trade mark kyoto)  http://www.trade-mark.jp/ 11/23(日) 3K7.1 出演:カワグチタケシ、究極Q太郎、小森岳史(ゲスト有) 開演:15:00 料金:カンパ制 会場:さらさ西陣(京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1 離楽庵WOOD-INN)  問:075-432-5075(さらさ西陣) http://za-ha.hp.infoseek.co.jp/sarasa_map.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□