■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第63号 2003/10/27発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1混沌→型→崩し 暗い深刻な話をしたいのだけれども、どこから始めれば良いのかな。 東浩紀がタコツボ的なものを批判して、 噂の真相があと数号で廃刊になって、 80年代初期の宝島はやっぱり俺にとって偉大で 最近精神的に追い詰められるとプロレスのことばかり考えてしまう。 東浩紀という流行りの哲学者がサブカルとオタクを対立概念にして 狭いジャンルに閉じこもるオタクを批判し、 ジャンルを横断するサブカルを擁護した。 大学教授という仕事は、日本でこのジャンルを研究しているのは 自分だけだという自分一人しかいない狭い一ジャンルを築いて そのジャンルの権威として仕事をするのだけれども、 そのような狭いタコツボ的なものに対して より広い場所に出ようとする衝動は 大学教授である父親の下で育った自分にとって身近な物であった。 高校の頃、宝島という雑誌が好きで、80年代初期の頃の宝島は 偉大だと思った。 雑誌というのは一般に専門誌を指していて、 囲碁だの盆栽だの編み物だのフィギュアだのサーフィンだのといった 専門化されたジャンルの雑誌があって、 その雑誌一つでそのジャンルのすべてが分かる という作りになっている。 宝島の面白いところは、ロック・アイドルといった特定ジャンルの 専門誌の腕利き編集者もしくはライターに 2ページづつほどページを持たせて連載をさせていた。 毎日、ものすごい量のレコードを聴き、インタビューをして ライブレポや音楽評を書いている日本一の雑誌に書いている 日本一の編集者が個人的に面白いと思った音楽について 書くのだから面白いに決まっている。 普段の雑誌では広告を出している スポンサー筋には気を使わなくてはならないし、 インタビューを受けてくれた大物ミュージシャンへの 気づかいや人間関係のしがらみやなにかがあるが、 宝島ではそういう物を抜きに、書ける。 何百ページある雑誌を作っている人が、 個人的に面白いと思ったことだけを 2ページに凝縮して書くのだから 中身も濃く、捨てページがない。 各専門雑誌のトップライターが2ページづつ書く総合雑誌って ものすごく贅沢な空間だと思う。 噂の真相という雑誌も作り方は宝島と似ていると思う。 各専門雑誌のトップ所に、自分の雑誌では書けないような ヤバイ醜聞やヤバイネタを匿名で書かせる。 宝島は、個人的には面白いと思うけど、 世間的には受け入れられないだろうし 商売としては成功しないから、自分の雑誌では扱えない という商品=アーチスト達を記名原稿で扱っていた。 どっちの雑誌も各専門雑誌のトップが集まる雑誌だった。 プロレス雑誌で高山選手と 鈴木選手(パンクラス ミッション所属)が 話していた内容が 昔のプロレスは、ボクシングならボクシングのチャンピオン、 空手なら空手のチャンピオン、 柔道・レスリング・カンフー、それぞれのジャンルのトップが 集まって他流試合をする場所がプロレスリングだったはずだ という内容のことを言っていた。 古館伊知郎がアメリカでトーキングブルースの興行をしたときに 言っていたんだけど、アメリカにはマイク一本、 ワンマイク・ワンコードというジャンルがあるらしい。 マイクとスピーカーをつなぐ一本のコード、 このマイク一本の設備だけで何が出来るのかを競う競技だ。 正確な英語でなんと呼ぶのかは知らないが、 そのような競技の中では、 声帯模写やスタンダップコメディー、 歌を歌ったり、ギターを弾いたり、 手品をしたり、物真似をしたり、一人芝居をしたり 政治を風刺したり、限られた設備の中で 何をやっても良い自由があって、 その中で一番お客さんを楽しませた人が勝ちという世界で、 古館伊知郎さんのパフォーマンスはもちろん、 そのようなジャンルとして興行を打ったのですが、 イッセイ尾形のアメリカ公演や いっこく堂のアメリカ公演なんかも マイク一本というジャンルに入るかと思います。 いっこく堂がアメリカでやった時に 「リップコントロールがすごい」とほめられたと 言っていたのですが、 「アメリカの人達は、多少唇が動いても良いから トークで笑いを取ろうとする」と いっこく堂さんが言っていて それは、腹話術だけをやってる腹話術の世界で日本一の人が アメリカに行ったときに、 マイク一本というジャンルでやったからなんじゃないの?と 私は思ったわけです。 お客さんを楽しませることが出来れば 内容は何であっても良いという ジャンルでは、他の出場者と芸がかぶらないように あえて人と違うことをやったりします。 じゃなくて、腹話術の専門家だけが集まる 腹話術のトーナメントなんかですと おそらく、他の腹話術の専門家に自分の技術を見せるのが 最優先で、面白い面白くないはテクニックに比べて 優先順位が落ちると思うんですね。 純粋にテクニックを磨いてテクニックを見せる場にいた人が アメリカのエンターテイメントの場所に行ったときに 「テクニックがすごい」とほめられるのは ある意味当たり前だろうと思ったのですが。 最初に私がオープンマイクイベントに参加したとき 面白いと思ったのは、ワンマイクワンコードという ジャンルのような混沌とした空気に対してでした。 音大の声楽家出身の人がオペラをやれば 声優の卵の人がラジオドラマをやっていたり 劇団の人がパントマイムして ラッパーがライムをかますと 落語を始める人もいる。 それに対して、審査員が勝ち負けを決めて行くという 無理のありまくる設定が笑えたわけです。 オペラと落語のどっちが勝ちかなんて 比べようのないものを比べているところが シュールで面白かったわけです。 プロレスなんてのも、本来比べようも無いし 闘いようもない物を闘わせたりするわけです。 一流のスタントマンがやるスタント(デスマッチ)と、 新体操の選手がやる宙返り(メキシカンプロレス)と、 プロボクサーのパンチと、 アマレスの日本チャンピオンがやる総合格闘技の どれが一番すごいのかなんて、比べようが無いわけです。 読売巨人軍と読売ベルディー、日本最強の軍団はどっちだ! とか言っても、競技のルールが分からない。 野球なら巨人の方が強いでしょうし、 サッカーならベルディーの方が強いでしょう。 ゴルフなら、将棋なら、観客動員なら、テレビの視聴率なら、 ルールをほんの少し変えるだけで 勝者と敗者が簡単に入れ替わります。 ところが、オープンマイクも長くやっていると 徐々に審査員や勝者の傾向が分かるようになってきます。 MARZというライブハウスでやっているイベントですと ライブハウスという音響の良い環境ですので、 音楽的なパフォーマンスが有利になります。 審査員も音楽業界関係者ですし、 お客さんも半分はB−BOYです。 対する、詩のボクシングなどは、 会議室や講演会場など音楽ではなく トークを前提とした会場で行われ、 音楽的な意味での音響もそれほど良くなく 審査員は出版業界関係者がメインで、 漫談や人情話が強く、笑いを取りながらも 少し人を感傷的にさせるようなおしゃべりが好まれます。 これがBen‘sCafeになると、 普通の喫茶店でいきなりイベントを始めるため、 イベントを観に来ていないお客さんをどう巻き込むかが 大事になります。 自分に無関心な人の足を止めさせる技術が必要という意味で ストリートパフォーマンスに近いです。 舞台を無視してとなりの友人と話し込む一般のお客さんに 話し掛ける技術、これはライブハウスでの音楽技術や 会議室での話術とも別種の技術が必要になります。 そうやって、徐々にイベントの傾向が見えてくると 勝つためにそのイベントに合った人達が集まって来たり そのイベント用の練習をした人が集まって来たりして よりそのイベント独自の傾向が濃くなって行きます。 さらにそれが進むと、イベントの企画者も フリースタイルのラッパーのみのイベントや DJがターンテーブルを回してバトルをするDJイベントや 声帯模写のみ、アコースティックギターのみ などと、ジャンルをより限定したイベントを企画して行きます。 ASAYANで小室哲哉が押した女性シンガー小林幸恵が アメリカのアカペラナイトで歌ってましたが、 それもまぁ、ワンマイク・ワンコードの アカペライベントの日という区切りだったと思います。 ジャンルを区切ることの良いところは、 比べようのない物を比べて優越を付けるよりも 比べようのあるものを比べられるため、 競技性が明確になります。 技術が高いのか低いのか、 独自性があるのかないのかが明確になります。 ラッパーばかりの空間で、手品をやれば 手品をやったという独自性は見えますが その手品が、手品業界から見て、 独自性が高いのか低いのかは見えません。 これが手品オンリーイベントですと 手品というジャンルの中での独自性が高いのか低いのかが より見えやすくなるわけです。 はじめ、混沌とした状況の中で、 マイク一本の設備で出来ることなら何をやっても良いという 制約らしい制約が何もない中から始まったオープンマイクが 徐々に精錬化されていって、 何をやる舞台なのかがハッキリしてきて RAPならRAP、漫談なら漫談という 一定の技術を見せる場になってくる。 そこで私の興味はいったん途切れたわけです。 何をするのか分からない空間で予想外のことが次々起きる ハプニングが面白かったのが、 RAPとか漫談とか声帯模写とかある程度決められた方向性の中で 技術を競う場になって行く。               (つづく) 2イベント情報 11/3(月)文化の日祝日 文学フリマ 場所:青山ブックセンター地下2階 時間11:00〜 http://bungaku.webin.jp/ 11/3(月)文化の日祝日 山田詠美(朗読) 奥泉光(朗読&フルート) 吉野弘志(コントラバス) 時間18:30開場 19:30スタート 場所:杉並区西荻北3−12−10司ビルB1 ジャズバーKonitz(ハートランドの隣) 値段:5000円(1ドリンク付) 11/22(土) 3K7 出演:カワグチタケシ、究極Q太郎、小森岳史(ゲスト有) 開演:18:00 料金:カンパ制 会場:trade mark kyoto(京都市中京区蛸薬師新町西入る不動町180)  問:075-213-5969(trade mark kyoto)  http://www.trade-mark.jp/ 11/23(日) 3K7.1 出演:カワグチタケシ、究極Q太郎、小森岳史(ゲスト有) 開演:15:00 料金:カンパ制 会場:さらさ西陣(京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1 離楽庵WOOD-INN)  問:075-432-5075(さらさ西陣) http://za-ha.hp.infoseek.co.jp/sarasa_map.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□