■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第60号 2003/9/9発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1近況 詩のボクシングフェザー級(大学生チャンピオン)の松永天馬さんから メールをもらって、天馬さん主催の劇団の演劇を 観に行くことになりました。 9/12(金)・13(土)・14(日)に5回公演です。 詳しくは (劇団308同盟第四回公演『レトロフューチャー』) http://ueno.cool.ne.jp/gekidan308/information/retrofuture/top.htm まで。 私は9/12(金)に観に行くつもりです。 9/6新宿スポークンワードスラムを観に行きました。 http://www.marz.jp/ssws/ 第三期予選の三期目で、入場者数・出演者数ともに少なく、 12人エントリーで2回戦終わった地点での敗者復活枠が2個。 優勝は敗者復活から掛け上がった JOKE GROOVE(死紺亭さん+辻さん) 準優勝はラッパーのロイさん。 審査員からの総評で「1期・4期目は出場者数も多く、 クオリティーも高いが3期目は常に盛り下がる」という話も出たように 今回、出場して2回戦落ちしておきながら言うのもなんですが 出場者数・クオリティーともに確かに低い。 勝つこと考えれば、1期・4期を避けて、2・3期に出た方が良い。 今年度最終予選の4期目とかなるとクォリティー上がると思うので 出る人は今がねらい目かも。 個人的には志人(シビット)さん、キャンドルさん、 花本さん辺りが出て欲しい。 最近、SSWSの審査員の方のコメントが、楽しむモードから 育てるモードになっているので、アドバイスとか欲しい人は出る価値大。 2朗読から活字へ マーク・バムシ・ジョセフ http://www.thespokenworld.com/ さんに関して、言いたいことは色々あってその続きですが。 日本人で、英語圏に留学していた帰国子女で 英語も日本語もぺらぺらで、英語で詩の朗読やラップをすると上手いけど 日本語だと出来ないという人が時々いるわけです。 ASAYANでラッパーのオーディションをやったときにも、 そういう人がいましたし、ベンズカフェのTAKAさんも 割りとそういう人です。 TAKAさんが言うには「イタリア語で音楽劇をやればオペラ、 それを英語でやるとミュージカル。言語を変えるとジャンルも変わるんだよ。 俺は日本語でやるミュージカルやラップを認めていない。 ミュージカルと言うなら英語でやるべきだ。」 と話してました。 それは、前回私が書いたことと重なると思うのですが ある言語の中で産まれた音楽や詩は、 その言語の発音や抑揚を前提にしているため、 別の言語に置き返ると、発音や抑揚が不自然になるという 部分だと思うのです。 濁音の多いドイツ語でヘビーメタルを歌うと迫力があります。 ドイツ語で「こんにちは」は「グルスゴッド」ですからね。 聖書に「神の名を安易に語ることなかれ」と書かれていて 日常会話では、神と言わずに「主」「創造主」などと遠回しな表現が使われ、 「神」と言うのはキリスト圏では放送禁止用語に近い。 だから、「ちきしょう」「くそったれ」という日本語にあたる言葉が 英語だと「ジーザス」「オー・マイ・ゴッド」となる。 そのゴッドという音が、「こんにちは」という挨拶の中に入っている。 宗教改革をやった国ですから、そりゃドイツ観念論も発達するよと 思いますよね。「こんにちは」が、「グルスゴッド」ですからね。 ドイツ語というのが、いかに迫力のある言語かを示す典型的な例です。 対する韓国語というのは、ぴゃ・ぴぃ・ぴゅ・ぺぇ・ぴょや ちゃ・ちぃ・ちゅ・ちぇ・ちょといった半濁音や拗音が多い。 アナログシンセ系のテクノには向くのですが、 メタルには向かない言語です。 ヘビーなギターソロで重低音を響かせながら、ボーカルが 「ぴょんやん」とか言っても迫力がないわけです。 フランス語もメタルには向かないですね。 「ちゅ」とか「じゅ」とか言いながら、 シルブプレなメタルはちょっと優雅過ぎます。 ある特定の言語の中でどんな子音が多いのかは 詩や音楽に確実に影響を与えていると思います。 面白いことに、ある言語の声帯模写をやると その言語が母国語・ファーストランゲージである人は 何をやっているのかがよく分からないんですね。 つまり、自分の母国語が他の言語からどんな音に聞えるのかは 自分では分からない。 ちなみに日本語の声帯模写を外人がすると * *音頭なんかでよくある「はぁあぁ〜〜〜〜!」とか 能なんかで肩の上に小太鼓乗せて 「いよぉ〜〜〜〜、ぽん」とか 空手・柔道・剣道などでよくある掛け声 「やぁ〜〜」「わぁ〜〜」とか ブルース・リーの「あちょ〜〜〜」とか が多いです。母音だらけで叫んでいるというイメージですね。 ラップというのは英語を前提にしているから、 英語をしゃべれる人なら誰でも出きるし 英語以外の言語でラップをすることはできない。 という言い方はよくあるし、 ベンズカフェでTAKAさんも言ってたし、 それなりに説得力のある話なのですが。 ビーグッドカフェのスポークンワード特集で、 ゲストパフォーマンスの前に 英語圏の黒人女性の方がポエトリーリーディングをやったのですが これがものすごく下手で、リズムにまったく乗っていない。 このパフォーマンスで「英語がしゃべれれば誰でも出来る」は 嘘だなという認識がまずできて、 その直後にゲストパフォーマンスだったので この黒人女性のやったへたくそなポエトリーリーディングは すごく良い引き立て役になっていました。 TAKAさんはソネットを中心に英語で詩作をされているのですが ソネットという詩の形式は朗読された時、 私には散文的に聞こえるんですね。 ソネットに関する知識が無いので、自信は無いのですが ソネットは14行で、一行に10〜12音、 強音と弱音が交互に入って行の最後で韻を踏む形式らしいです。 私の耳でラップっぽく聞こえるリーディングや バックトラックなしのリーディングで踊りやすい音は 5音から8音ぐらいの音で構成された、 花本さんや天馬さんのリーディングで 志人さんやTOTOさんや小林大吾さんなんかの16音や それ以上の音数で構成された朗読は 踊りにくい散文ぽい音に聞こえるんですね。 このソネットも、リズムに乗ってるけど踊りにくい朗読に なってしまう。前回のメルマガで、 マーク・バムシ・ジョセフさんの朗読を リズムに乗ってるけど散文ぽいと そういう意味で書いたので、 実は伝統的な意味での韻文だよと言われるとそうかも 知れないのですが、8ビートの野蛮なダンス音じゃ無くて 切れ目なくリズミカルにしゃべっているみたいな 洒落た感じがあります。 ヒップホップ色の強いデニス・キムさんのリーディングが、 ジェリーリールイスの監獄ロックみたいに踊れる音だとすると マークのは、スパイク・リー監督のマルコムXに出てきた マルコムの演説みたいな感じで、 リズミカルで切れ目のないしゃべりだけど 踊るには適さないよねという印象でした。 デニス・キムさんのようなダンスミュージックとして 踊れる朗読がポエトリー・リーディングだと思っていたら むしろ、マーク・バムシ・ジョセフさんの活字の文学的な方が ポエトリーなのかなと思ったという辺りをもう少し説明します。 最近のアメリカのSLAMと呼ばれる朗読のルーツが政治の演説で、 日本でそれを体験しようと思えば、映画マルコムXを観るのが 一番手っ取り早いのですが、そのルーツをさらにたどってゆくと ソネットやレトリック(修辞学・弁論術と訳される)に行きつくと。 レトリックってのは古代ギリシャ時代に、 弁論や詩の朗読における技術について書いたもので 代表的な著者はアリストテレスという哲学者になる。 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4003360486/qid=1063035462/sr=1-1/ref=sr_1_2_1/249-1938192-6431505 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4003360494/qid=1063035462/sr=1-3/ref=sr_1_2_3/249-1938192-6431505 この時代には、詩と弁論というのは明確に区別されてなくて 同じ物とされていたわけです。 で、現在でもマークの詩をみる限り、 イラク戦争やブッシュ政権に対する批判が多く、 政治演説や弁論と詩が別ジャンル扱いは されていないようにみえます。 西洋では詩の技法について論じた詩論というジャンルを 「美学」と呼び、ヘーゲルの「美学講義」などが、 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4878932295/qid=1063035628/sr=1-5/ref=sr_1_0_5/249-1938192-6431505 そのジャンルの代表作とされます。 後期ハイデガーは自らの哲学の根拠を詩に求めました。 レトリックを日本で修辞学と訳すと、無意味に装飾的な、 無駄に飾った言葉みたいにとられますが、 向こうでは数学の証明すらレトリックだというわけです。 日本でいうロジック・論理学に近いニュアンスで レトリックという言葉を使います。 いま、文学というと一般に小説を意味しますが、 明治期には政治学・経済学・法学・国家論などを含めた 大きい説があって、それに対するもっと個人的で 小さなテーマを扱った説、小説があって、 両方含めて文学だった。 マークの朗読は、明治時代に使われた意味での文学、 哲学から国家論から全部入っている、 マークのバックにアリストテレスやヘーゲルが見える、 そういう朗読でした。 それは、言葉でリズムを刻んだ、踊れるダンスミュージック という私なんかが考えてたSLAMとは違うし、 詩のボクシングの東京予選でみかけた、 黙ってパントマイムみたいなことする人がいたり それ詩じゃないだろという、奇人変人がいっぱい集まる場所、 てのとも違って、なんかすげーアカデミックな感じがして SLAM、スポークンワードに対してのイメージが変わりました。 最初はルールも目指す方向も各人バラバラで そのグチャグチャな感じが面白かったのですが 世界トップクラスまで表現が精錬されると 厳密な学問みたいになっちゃうんだよなぁ、 ラウンドカッツの二次会でも15人ほどで居酒屋行って みんな早稲田の話してるので、 「早稲田の学生及び職員の人手を挙げて」 と誰かが言ったら、俺含め3人以外は全員早稲田だったり、 (つまり、私を除くと早稲田関係者じゃない人間は2人のみだった) 死紺亭さんも早稲田で詩の先生の下で助手やってたとか 俺も父親が早稲田の教授だとか言った時に 父親の大学文化が嫌で親元離れて就職もせずに SLAMとかいう変な所に顔出して、変なことしてる人達と つるんで遊んでいたつもりなのに、気がつくと やっぱり大学文化の中にからめ取られているという 状況がすげー嫌で、逃げようとした場所に 気がつくと連れ戻されてて、 詩のボクシングを最初にTVで観たときや 現代詩手帳を最初に観たとき、 学術論文の発表会みたいでヤな感じ と思った感想は正しかったなと。 みんなさぁ、詩っつうと326やみつをみたいなのが 詩だと思ってたりするじゃん? でもね、詩ってのはアカデミニズムの保守本流なんだよ。 3詩のイベント情報 ハッピーターンナイト 青木研治氏主催の交流会 9/16(月)19:00〜 場所:東京都杉並区荻窪5-16-15井上ビル3Fボクシングリーズカフェ 料金:1000円(1ドリンク&ハッピーターン付) http://8012.teacup.com/happyturn/bbs ボイス・母音's−声のカーニバル− オープンマイクイベント 9/26(金)19:30開場 20:00開演 場所:長野市権堂2344 2Fネオンホール 料金無料:ワンドリンクオーダー http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/1633/ 下町ポエトリー・リーディング オープンマイクイベント 10/15(日)13:30開場 14:00〜16:00 場所:東京都足立区梅島3−2−18ユートピア 料金:1000円 http://home9.highway.ne.jp/yukos/yukotopia/ ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□