■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第59号 2003/8/31発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1いいわけ いや、知ったかぶりして書いてるけど 6月22日マークがどんなリズムを要求したのか 正直俺にはあまりよく分かっていない。 たぶん、こんな感じのリズムと、曖昧な記憶と 曖昧なリズム感で書いている。 映画観て、「このメルマガ違げぇーよ」 と思った人、メール下さい。 2スポークンワードの世界チャンピオン(質的違い編) 向こうのスポークンワーズと、日本のそれが 絶対値の違いというより、 ベクトル自体が違ったという話をすると。 細かい部分では、ポエトリーリーディングを指す 「スラム」という言葉を、私なんかは スラム街のSlumを連想して、 黒人のやる過激で暴力的なギャングスターラップ ぐらいの意味に思っていたのが、 正確にはSlamには、そんな意味はなく 観客や審査員が詩の優越を判断して勝ち負けを決めて行く 朗読イベント、朗読に対して客席が各自好きな額だけお金を払い 一番多くの額をもらった人が 次のイベントのゲストとして招かれる形式の 朗読イベント、であって、 暴力とか刑務所とか黒人とかギャングスターラップとか そういう意味はないと、通訳の人に言われて、 なのか?と思ったり。 ちなみに、ネイティブの人が監修している辞書、 ジーニアスでSLAMを引くと、 類音語としてSlumがあり、ネイティブでも スラム街を連想する言葉として、Slamがあるようだし、 「戸などをピシャリと閉める」という擬音語で 酷評するという意味もあり、 Grand−Slamで「全勝」、 Slammerで「刑務所」 Slam−Bangで「乱暴な・向こう見ずな」 という意味がある。 あれ?俺の方が正しくねぇーか? まあ、いいや。 俺なんかはギャングスターラップのアカペラバージョンが SLAMだぐらいの認識なのですが、 マークの朗読を聞くと、どうも俺の認識は違ったなと 思うわけです。 日本のラッパーを批判する典型的な言い方で、 「英語圏だと、誰だって即興のラップ出来るんだよ」 という言い方があって、ラッパーのジブラなんかも 音楽雑誌でこの問題について語ってたりするんだけど 向こうでは脚韻踏んだり 音数そろえたりするのはダサイのに、 日本人はそんな事ばかりやってるという言い方があって、 それに対して俺の言い分は、 英語やフランス語圏では脚韻を踏むのはソネットの時代から 何百年もやっていて、そのやりつくされたことを いまさらやるのはダサイというのは分かる。 脚韻辞典が出まわってて、それ見ながら歌詞を書くのは 日本で言えば季語辞典見ながら俳句詠むのと同じぐらいダサい。 でも、日本には脚韻辞典が無い(逆引き広辞苑はあるが)し、 脚韻を踏む文化も無かった。 それに英語のリズムに日本語を乗せるというのが どれだけ新しいことかというのは理解してくれと。 クレモンティーヌの「男と女」を聴けば、 フランス語のイントネーションでしゃべれば フランス音楽になるのは分かる。 でも、フランス語のイントネーションに英語を乗せるのは むずかしいだろ?それと同じだと。 日本じゃ短歌や俳句なんて歴史がありすぎてやり尽くされ過ぎてて 誰もやらないし、質さえ問わなければ誰でも出来る。 575の音数は小学生にだってそろえられるぐらい 日本語の中に定着してる。でも、英語で575の音数にするのは 歴史が浅いし、難しいだろ? 漢詩で言うと、日本でならうのは一行4文字の詩だけど 中国じゃそんなのダサくて誰もやらない。 3文字や5文字や7文字の奇数がカッコイイのだという。 どの国でも、母国語で歴史の長すぎる定型詩というのはダサい。 でも、外国人が外国語で詩を書こうとしたら 定型にしないと詩にならない。 もしくは外国の定型詩のリズムに母国語を乗せたら 新しい母国語のリズムが生まれて面白い。 日本語でラップをする面白さというのは 日本語を英語のリズムで読む面白さだろうと いう解釈なんですね。 ビーグッドカフェのスポークンワード特集で アメリカから3名、フランスから1名のゲストが集まりましたが 外国の詩人を呼んだ方は、在日韓国人の方で マークを除く、3名の方はみな韓国系**人なわけです。 すると、マーク以外はそこそこ定型詩なんだけど マークだけ、もろに散文で定型っぽくないわけ。 韻を踏もうともしてない。 でもリズムには乗ってる。 アメリカから来たデニス・キム(Dennis Kim)さん なんかはHIP−HOPバンドをやってるだけに、 ポエトリーやスポークンワードというよりも ラップ・ヒップホップに近くて、 黄色人種の目から見たアメリカのポエトリー・スラムの典型で、 定型だし、韻踏むし、暴力的で日本のラッパーと すごく近いんだけど。 マークはそれとは質的に違った。 SLAMという映画で、黄色人種が出てきて 「fuck fuck fuck」と叫んで 他の黒人から無視されたり、ボコられたりするんだけど あれは、黄色人種の目から見たアメリカのギャングスターラップを 矮小化した形で典型的に表してて、同じ言葉連呼したら 一応リズムは生まれるし、韻も踏んでるみたいな気がするし fuckは取りあえず過激だし暴力的だし、 ポエトリーっぽいじゃん?と。 それに対して、映画の主人公(ソウル・ウイリアムズ)は、 自分達黒人の人種的ルーツといった歴史的な話や 黒人社会に昔から伝わる神話といった文学的な話を 盛り込んで詩を作るわけ。 俺は、活字の文学が嫌で朗読の側に来た人間なので 歴史や神話といった活字で身につけた教養がにじみ出る 主人公の朗読はあまり好きじゃなかったわけ。 どちらかというと、主人公の隣の独房で、 机を叩きながら「ここから出せ」と叫んでいた 眼鏡をかけた黒人の詩の方が好きなんだよね。 歴史や神話は今ここにある状況と無関係な教養の世界で 彼の朗読はムショに入れられているその状況を 謳っている訳だから、朗読されるその状況・文脈に 合ったことを言ってるわけ。 教養より衝動、神話より状況に依存したのが朗読だろと 思ってたわけ。 マークが朗読した詩というのは、 〜〜〜〜 自分はタップダンスをやっているのだけれども、 父親はそれにずっと反対してきた。 共和党の白人議員のTVCMに使われるような 白人文化のタップダンスをなんで黒人がやるんだと。 CMの中で召し使いの黒人は 「だんな様、夕食の準備が出来ましただ」というような 言葉使いしかさせてもらえない。そんなのをみて、 この子は白人の主人に憧れて タップをしているとでも思ったのだろう。 でも違う、文字を持たない黒人達は、 自らの歴史や物語をジャンベやトーキングドラムに乗せて 口承で語り継いできた。アメリカに連れてこられて 奴隷となり、ジャンベやドラムで 歴史を語継ぐことが禁止されてからも 奴隷としての商品価値を守るために 両足だけは切り取られなかった。 だから俺はこの両足でリズムを刻み物語を語る 俺の両足はアフリカの大地へと続くジャンベだ。 〜〜〜〜 というような感じの内容で すげーカッコ良かったんだけど ここにはあきらかに歴史や教養は入っている訳。 民族の歴史や親子の確執を物語仕立てで見せて行く手法は ノーベル文学賞を受賞する小説に多い形式で ある民族の歴史を実体験を元に構成して行き、 民族の誇りをうたいあげる民族主義的な内容ってのが ノーベル賞受賞小説に多いんだけど、 マークの詩は、 詩よりも小説、朗読より活字のイメージに近かった。 私は活字の小説に閉塞感を感じて、朗読の方へ行ったつもりで かつ、何故か吉本隆明の「言語にとって美とは何か」の 後半を読んでて、言語美は、 口承文学から活字の文学が生まれる過程を 物語仕立てで書いてて、 自分が選んだ進行方向とは調度正反対の方向へ進んでて 口承文学から活字の文学が生まれるプロセスを 生で見ているような感じがマークの朗読にはあった。 言葉の意味内容よりもは、定型であることの快感を優先させて行く 朗読=歌唱から、定型であることに飽きがきて、定型を崩しながら 意味内容を優先させて行く中で、どんどん活字に近づいてゆく。 高校の古典の授業で、「三船のほまれ」(Ex大鏡)てのがありましたよね。 漢詩の船と和歌の船と管絃の船があるという奴。 貴族達が舟を浮かべて遊ぶ時に、漢詩を詠む船と、和歌を詠む船と、 管絃を鳴らす船があって、それが今でいう、 洋楽と邦楽とインストールメンタルにあたるという。 藤原道長がいた平安時代には、和歌も漢詩も 活字の文学じゃなくて、音楽だったということを示す話ですが ラップという音楽だと思って見に行ったら 活字の文学に限りなく近かったという衝撃ですね。 3詩のイベント情報 独唱パンクス番外・路上編その弐 8月31日(日)20:00〜24:00 場所:阿佐ヶ谷駅南口・ロータリー 自由参加(バンドでもOK。ただし路上)。一組一曲ずつ グルグル周る。 http://peoplesrecords.net/dokupan/liveinfo.htm ハッピーターンナイト 青木研治氏主催の交流会 9/16(月)19:00〜 場所:東京都杉並区荻窪5-16-15井上ビル3Fボクシングリーズカフェ 料金:1000円(1ドリンク&ハッピーターン付) http://8012.teacup.com/happyturn/bbs ボイス・母音's−声のカーニバル− オープンマイクイベント 9/26(金)19:30開場 20:00開演 場所:長野市権堂2344 2Fネオンホール 料金無料:ワンドリンクオーダー http://www.geocities.co.jp/Bookend-Shikibu/1633/ 下町ポエトリー・リーディング オープンマイクイベント 10/15(日)13:30開場 14:00〜16:00 場所:東京都足立区梅島3−2−18ユートピア 料金:1000円 http://home9.highway.ne.jp/yukos/yukotopia/ ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□