■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第57号 2003/8/16発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1ごあいさつ いや、路線も文体も少し変な方向へ走っている木棚です。 じき元のポエトリーリーディング路線に戻りますのでご安心を。 2昭和30年代ブーム 貸本小説の舞台が昭和30年代。で、最近食品玩具(略して食玩)で 昭和30年代の小物が流行っていたり、テーマパークでは ラーメン博物館 http://www.raumen.co.jp/top/kenbutsu/machinami.html やナムコナンジャタウンやお台場一丁目商店街が http://www.odaiba-decks.com/ichome/index.html 昭和30年代を舞台にし アニメではクレヨンしんちゃんの 「嵐を呼ぶ モーレツ おとな帝国の逆襲」が昭和30年代、 雑誌だと「月刊手塚治虫マガジン」 http://www.kk-bestsellers.com/magazine/teduka/index.htm に「ジョー&飛雄馬」、 http://www.anystyle.jp/joe-hyuma/top.html ボンカレーの古いデザインのパッケージが復刻版で出ていたり http://homepage1.nifty.com/nekocame/60s70s/syokuhin/syokuhin.htm 漫画で言えば、「20世紀少年」、 この辺の昭和30年代ブームは何故起きているのか? 1980年代ブームというのは、そのまま過ぎて何故を問えないんですね。 トミーフェブラリーやポリシクスなどの80年代ブームは、その時期に 幼児期〜思春期を過ごした人達が30になって 会社でもそこそこ権限のあるポジションに就いて そのポジションを利用して自分の好きなことをやっているという わかりやすいものです。 70年代ブームや60年代ブームが同じ理由で起きていたのをみても いまから30年前の出来事は必ずブームになるという、 よくある話なのですが、昭和30年代ブームは、少し事情が違います。 いま2003年で昭和30年代が1955〜65年だとして、 約40〜50年ほど前、その時期に幼児期・思春期を向かえた人は いま50〜60歳。65歳定年説をとっても、 会社の権限あるポジションにいれる最後の時期。 なんとか自分がこのポジションにいる間に、 自分が昔好きだったものを復刻させてやろう。 と考えたかどうかは分からないが、80年代ブームのコアターゲットが 第二次ベビーブーマーだとすると、30年代ブームは 第一次ベビーブーマーがコアターゲット。 この昭和30年代という言い方も、少し前なら、 60年代という言い方をしたはずなんだ。 1960年代、俺達は体制と闘ったという言い方を 団塊世代はしたはずなのだが、 いまは反体制イメージの強い60年代という言い方を捨てて ノスタルジー色の強い昭和30年代という言い方をする。 もう完璧に懐古モードに入っているわけ。 団塊世代は闘うことをやめて、懐かしむことを始めたと。 私は団塊ジュニア、第二次ベビーブーマー世代なのですが 昭和30年代ブームで復刻されたデザイン・パッケージ・色づかいを見て 懐かしいと思うんですね。昭和49年生まれで、 当時を知らないにも関わらずですよ。 これは、祖母や祖父の家に行った時に、 町並みや家具や家電や父や母が幼い頃使った玩具や絵本や雑貨を みているからなのですが、 敗戦と高度成長の間にあったこの時代に、何か特別なものを感じるのです。 東浩紀が「不過視なものの世界」か何かで言ってて なるほどと思ったんだけど、 フランスの立派な思想書は60年代に集中して出されていて、 それは近代の集大成であったと同時に 新しいものがそれ以降出て来ないことを意味していた。 てな感じのことを言っていて、 フランスてのは第二次大戦時、結果として戦勝国にはなったけど 本土の首都までドイツに攻め込まれて、インフラを含めた都市の機能が ボロボロになってたわけじゃん。 1945年の終戦地点で、焼け野原の都市をどう復興するか? というテーマを持っていたという意味で日本と似てると思う。 焼け野原を焼け野原のまま放っておくわけにいかないから 復興するわけだけど、復興というからには、 理想とする過去がどこかにあるはずなんだ。 1900何年の時代のパリを復活させるという、理想とする時代が どこかにあるはずなんだな。 では、焼け野原になる直前のパリにすれば良いかというと それはナチスドイツに負けたパリになるわけじゃん? ドイツに負けない立派なパリにまでさかのぼらなければならないわけで。 で、いつの時代のパリが立派だったのかとさかのぼって行ったら、 ある地点より以前の医学が、近代的知性に裏付けられた医学というより おまじないや魔術や祈祷としか呼べないようなものだった。 そのおまじないから、どうやって近代的な医学が誕生したのかを 探ったのがフーコーだったと。 ちなみに、アメリカに敗戦する以前に、立派な日本文化があったはずだと 過去をさかのぼって行ったが、戦中にも戦前の大正時代にも明治期にも 理想とするような日本文化がみつからず、 江戸中期までさかのぼってしまったのが 保守主義を名乗った江藤淳さんで、 それはそれで保守主義の悲喜劇を体現してて カッコイイなと思うのですが。 医学に限らず、法体系だろうが何だろうが、 現地点では焼け野原でなにもない。 でも、過去には立派な文化があったと。 その立派な、戦争によって焼かれた文化を一度一気に復興させて 立派な文化の全体像を見てみようということが、 なされたのが60年代フランスだったと。 過去の立派な文化や都市機能を復興させようとなったときに いまの焼け野原のテイストを残した方が 良いのじゃないかという人達もいるわけ。 人工的なコンクリートとアスファルトじゃなく、 木造家屋で土と共に生きる、 ダウン・トゥ・アースで大地に根ざせば良いじゃんと いう人達もいる。 60年代の日本で飛行場の建設に反対していた人達とか アメリカのビートニクスとかヒッピーとか、かなり質が違うけど 文化人類学者のレヴィ・ストロースとかそっち寄りなわけじゃん。 60年代は復興政策側と復興反対側との闘争があって 結果、復興政策側が勝つんだけど、昭和30年代、1955〜65年は 適度に復興しつつ、適度に焼け野原が残りつつ、 調度良いバランスが取れていた時期として、 いま、理想郷のように語られているわけ。 ジブリの宮崎駿監督にしても、 高度成長前の人工と自然のバランスがとれていた時代を 描いていたりするわけやん? でも、そこで描かれる自然てのは戦前世代から言わせれば 焼け野原であって、自然ちゃうねん。空襲でさら地になった場所なんて 人工物の最たるもんやんと。 ドラえもん見てても、昔の日本には東京にすら 空き地があって、子供達が遊ぶ場所があったと、 それがいまではどうだとか言われた時に、それ、空き地やなくて 焼け跡やから、敗戦の傷跡やからとか言ってる自分がいてね。 俺の文脈で言うと、昭和30年代ブームは、移民第2世代の文学やねん。 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/diary3.htm#s5 トムソーヤの冒険にしても、周囲に自然があることを前提にしてるし 木の上に家造ったりしてるやん。 3大正ロマン主義 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/diary15.htm (7/4参照) ロマン主義を生み出す背景には、徒弟制度的な教育から 画一的な学校教育への変換があったというのが私の説なのですが これを日本に限っていうと、大正時代に義務教育がある程度普及して 第三の新人の時代に大学教育が普及したという流れになります。 自由恋愛という概念も大正時代の大杉栄辺りが実践者だったわけです。 教養小説・成長小説と訳されるビルディングロマンBildungsromanも 不完全な子供が立派な大人に成長する初期のビルディングロマンと 純粋な子供が汚れた大人になって行く反成長小説と言われる アメリカ型の後期ビルディングロマンみたいなのがあって、 後期の方は怒れる若者達、アングリーヤングメン みたいなところへつながっていく。 初期ビルディングロマンは徒弟制度的教育を前提にしているため、 職人的な技術を持たない子供が、 職人的技術を身につけた立派な大人になる話なのだが 後期の方は、理想主義的な無菌培養された学校から 汚れた現実社会に放り出されて、 徐々に汚れた現実を身に付けていく話です。 これらの小説が成立するには、学校教育自体が珍しかったり ある特定の業種や業界内の情報が一般に公開されてなかったりという 前提条件があって成立するわけで、 第三の新人の新しさは、軍国主義教育から民主主義教育へ 制度が変わって、 民主主義教育を受けて育った最初の世代だという部分での 新しさなわけで今の時代に同じ物を作っても新しいとは 思えない。さらに本というメディアが放送メディアと比べて 保存に適したメディアであるため、 保存された本に書かれていない新しい何かを 書き込まなければ商品価値を持ち得ないということを考えた時、 昭和30年代にしろ、大正ロマンにしろ、 それを直接経験した世代が今それを書くのは良いけども 経験してない自分が今書くわけにはいかない。 自分が自分の経験の範囲内で現在を書くというのは 結構キツイなと思う。 ・・あかん。ダメだ。自分でも何書いてるか分からん(泣)。 次から、もう少し普通のレポート書きます。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□