■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第2号 ’99/11/12発行 会社員時代にもらった金で、100冊も同人誌を作ってしまった私が、 書籍コードの無い本を抱え、この本を扱ってもらえる書店をめぐる日々の日誌。 このメルマガは私の抱える同人誌の在庫がなくなるまで続きます。 現在の在庫状況 文体演練法74冊 寓話集58冊 最悪な気分68冊 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 今回は「プロレタリア文学=ビートニクスについて」です プロレタリア文学=共産主義・左翼というイメージがあるのですが、 日本が太平洋戦争に突入して行く時期に、 何故プロレタリア文学が流行ったのか? と考えると、その時期にだけ共産主義が流行ったとは考えづらいんですね。 太平洋戦争から敗戦までの時期にプロレタリア文学が流行って かつ期間限定のブームで終わったというのは その時期のみの特殊な社会状況があったと考えるのが自然なわけで。 文学を読んだり書いたりする人というのは インドアな人が多いわけですが プロレタリア文学の書き手や読み手というのは、他の文学に劣らず 内向的で、運動神経が悪く、虚弱体質なのが多いわけです。 ワイルドな戦争体験を語るヘミングウェイなんかも マッチョな大男ではあったけれども 運動神経が悪く、 学生時代フットボールのレギュラー選手に選ばれなかった。 とか、スティーブン=キング原作の スタンドバイ・ミーに出てくる「主人公=私」は SF小説好きの内向的な少年で、 リバー=フェニックス扮するガキ大将に ある種のあこがれを抱いている。 まあ、その手のタイプの人間ってのは 運動神経が良くて外交的なスポーツマンに あこがれと嫉妬の混じった目で接してたりするわけです。 だからこそヘミングウェイはスポーツマンを演じ続けたし 三島由紀夫も肉体改造を行なったと。 で。普通その手の青びょうたんは、肉体労働系の仕事は避けて 公務員・事務員、いまだとプログラマーとかに なっていたりするわけですが、 国家総動員法の下で学徒出陣なんて状況になると 「おれ、そーゆーの苦手なんで。」 などと言ってられなくなる。 造船所とか鉄鋼所に入って 戦艦を作ったりしなきゃ行けない状況に なると、いままで避けていた世界に初めて出会うんですね。 造船所の鉄板、幅8メートルの長さ15メートル 一枚何十トンもあるようなのを 馬鹿でかいトラックに何枚も重ねて積むのに デッカイクレーン車が持ち上げたりするわけです。 クレーンがバランスを崩して鉄板が落ちてきたら マッチョなスポーツマンも、虚弱体質の自分も 確実に死ぬわけです。ヘルメットをかぶっているとか 体を鍛えているとか、体がデカイとか 関係ないわけです。 それまで自分(作者=読者)が完璧だと思ってきた マッチョでスポーツマンの英雄も幅八メートルの鉄板の前では 小さく見えてしまうわけです。 製鉄所にでも行くと、 天井は市営住宅の四階の高さまで吹き抜けで 工場内の車道はトレーラーが優にすれ違える10メートルの幅 もちろん歩道などなく、白線が地面に引いてあるのみです。 分厚いタイヤが片側に6輪もついたトレーラーの前では 身長2メートルのスポーツマンも 身長1メートル50のチビも対して変わらないわけです ひかれたら死ぬ。それだけです。 トラックのドライバーなどをしていると 10トン車で高速道路を走るなんてのは当たり前です。 いまではトラックは80キロしか出してはいけないのですが つい、こないだまで110キロ普通に出してました。 10トンの荷物を積んでコンクリートの壁にぶつかる。 この時、スピードが時速30キロまで落ちていた場合 ドライバーは助かるか? 否、10トン積んで時速三十キロだと 運転席がぺしゃんこだと言います。 運転席がぺしゃんこになると、 虚弱体質で内向的だというコンプレックスを持った 作者や読者にとって、完全無比の英雄に見えたマッチョな大男も ぺしゃんこになります。神の前での平等とでも言うのでしょうか。 シートベルトを着けようと着けまいと、 エアバックが作動しようとしまいと、 たとえマイクタイソンやヒクソングレーシーでさえ 死んでしまうのです。 工場で動く蒸気機関、何千キロもある重い鉄柱が 蒸気で持ち上がり、千度を超える熱い蒸気を吐きながら ゆっくりと沈んで行くその暴力の前では 生身の人間の暴力とか力は無に等しくなってしまうのです。 戦争体験などでよくあるのが、ドンくさくて運動音痴な筆者が 竹やり訓練で憲兵にいつも殴られ、暴力を振るわれる。 ある時、日本にB29がやってきて爆弾を落としていった。 村一番の豪傑が、村一番の高台に上り、 B29に向かって竹やりを投げたけれども B29には届かなかった。後で知った事だが、 米軍は地上から日本兵がピストルを撃っても B29に届かない高度を計算して飛んでいたという。 文学を読み書きするようなタイプの人間が抱えるコンプレックスと その劣等感の裏返しであるスポーツマン=英雄。 そこにより巨大な暴力が加わる事で英雄と自分との距離が なくなってしまう。 プロレタリア文学は文学青年が 否応なくその手の暴力に巻き込まれてくのだけれども ビートニクスってのは、中産階級出の青びょうたんが ある種のあこがれから、わざとブルーカラーの世界に入って行く話で。 いま自分はビートニクス気取りで、 鉄鋼所で働く勇気もないまま、中途半端な日雇い労働をしているのですが なんかこう、ついつい、こんな感じの事を考えてしまいがちなんですね。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想とかカキコしてくれ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/ 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□