■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第206号       2009/8/13発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1近況 正直色んなことが嫌になっている。 ポップカルチャーに対する批判は自分の中には デフォルトでいくつかあるし、 元々ポップカルチャーに期待していない所は多い。 ポップカルチャー(大衆文化)の対義語は 辞書的にはハイカルチャー(高級文化)になるのかも知れないが むしろ、カウンターカルチャー(対抗文化)というか ユースカルチャーというか、インディーズというか アングラというか、そういうのに興味を持って 文学の自主制作文化である文学フリマとか 舞台芸術の自主制作文化であるオープンマイクとか そういうのに関わったりしてきた。 最近だとUPJ4(ウエノポエトリカンジャム4)とか SSWS第三回グランドチャンピオントーナメントとか 見てきた。 ここ半年から1年ぐらい、アングラカルチャーが嫌になって かといってポップカルチャーも嫌で、 もう全部そういうの止めようとか思ったりもしていた。 先月(8月号)のロッキンオンで1969年特集があって 渋谷陽一が対談で「ロック幻想に意味はない」みたいなこと言っていた。 69年にウッドストックがあって、ここでロック幻想が死んで ロックの産業化が起きた。この産業化を是とする渋谷陽一と そうじゃない音楽評論家とのやり取りが載っていた。 この時期まで、ロック幻想があって、ロックコンサートは ヒッピーがラブ&ピースでマリファナ吸って、 ハッピーに行なわれると思われていたわけ。 入場無料のフリーライブで、どっかの空き地に 集まって、演奏者もフリー(ノーギャラ)、 イベンターもフリー(ノーギャラ)、 入場者もフリー(ノーギャラ)。 ローリングストーンズは、オルタモントの野外フェスを ヘルスエンジェル(暴走族)に警備させて、 ラブ&ピースなノリでやったら、オルタモントの悲劇が起きたと。 「悪魔を憐れむ歌」を歌うストーンズに、黒人の観客の一人が ふざけて銃を向けたら、警備していたヘルスエンジェルが 危険を察知して銃を向けた黒人を殺した。 後に黒人の銃に弾が入ってなかったことが発覚し 人種差別問題やなんかに発展するのですが、 こういう事件があって、もうちゃんとやろうとストーンズは決めた。 会場整理もプロのイベント会社にお金払ってやってもらおう。 入場時の手荷物検査もやって、入場料も取って、 出演者にもイベンターにも金払って ビジネスとしてちゃんとやろうと決めた。 そういう四角四面なスクエアなビジネスが 正しいかどうかという対談がロッキンオンでされていた。 ある種のアマチュア幻想が機能している空間、 文学フリマやSSWSやUPJがそうなのですが スタッフはボランティアでノーギャラで働いてますし そこに出演・出店している人たちも、ノーギャラで動いていて 観客の入場も無料で、みんな手弁当で動いていたりします。 そこで集めたお金は会場代や入場パンフレットの印刷代のみで 売られている商品も印刷代のみの原価です。 そういう文化が好きで長く関わってきたのですが いい加減色んな限界とかも見えてくるし まあ、色々ある。 書ける範囲でベタなことをいうと、 みんながノーギャラで働くという事は そこに深く関与して熱心に働く人ほど生活が破綻しがちに成る。 経済的精神的体力的に持たない人が出てくる。 アマチュアのフリーカルチャーに限界があるとして じゃあ、ポップカルチャー(商品文化)の現状がどうであるのか? という話をしたところで、割と限界がある。 2ロック幻想のスポンサー ロッキンオンがいう所のロック幻想とは何かつう話しで。 アマチュアでも何でも良い曲作って良いライブをやれば 音楽雑誌に取材してもらえると本気で思っていたりするのが ある種のロック幻想なわけで。 実際まあ、ポエトリーとかで良い詩を作って朗読すれば 音楽雑誌や詩誌に載れると思っている人とかいるわけ。 書籍でも雑誌でも書店流通させて、 書店の棚に置いてもらおうとすると 一冊三百万ぐらい掛かるわけ。 100ページの音楽雑誌だとして、 ページ三万ぐらい掛かるとなると、ページ三万ぐらい広告費払えば 載せますが、無料じゃ載せないですよというのが普通なわけ。 別の計算の仕方をすると、音楽業界でCDの単価のうち 1割が広告費に回されるので、三千円のアルバムのうち 300円は広告費になる。仮に広告費を百パー雑誌広告に使うとして アルバムを1万枚売るアーチストがいれば、雑誌が出せる。 三千円のアルバムを1万枚売るアーチストが12人いれば 月刊誌が出せる。 演歌限定の音楽雑誌やHIP−HIP限定の音楽雑誌、 ゲームミュージックや映画音楽やクラッシックや民謡や ポエトリーや落語、漫才、色んなジャンルのCDがあるが それ専用の音楽雑誌を出したいとして、 そのジャンルに1万枚アルバムを売る人が12人いれば 雑誌は出せる。 12万枚売る人が1人いても出せる。 ビジネスって、そういう世界じゃん。良い曲作ったからとか 良い詩書いたからとかじゃなくて、金の話なわけ。 ここまではすげー普通の金の話。 で、近所の中学生とか高校生がバンド組んでライブやったら テレビ局とか来て、チョー有名になって、メジャーデビューとかして 一晩にしてロックスターになった。みたいなロック幻想あるじゃん。 あれが、どうやって作られたのかって話しで 私が高校生の時に、バンドブームというのがあって、実際、 近所の暴走族がギター持ったら いきなりテレビに出てスターになってみたいなのがあった。 あの時期、「商品としての芸術」というタイトルで バンドブームがいかにして作られたのかという事を書いて 群像の文芸批評の新人賞に出してかすりもしなかったという痛い過去が 自分にはある。 バンドのプロモーションビデオを流すミュージックトマトとか ソニーミュージックTVとかって番組が当時あって 番組のスポンサーはソニーだった。 結論から言うと、当時ソニーはCDを再生機を出してて それを普及させる目的で、バンドブームを仕掛けた。 バンドブーム以前は、アイドルポップスが主流の時代で みんなレコードやカセットでアイドルポップスを聞いていた。 CDを普及させるためには、既にレコードで聞ける曲を CDで出すだけではダメで、CDでしか聞けない曲を 流行らせる必要があって、オーディオ家電メーカとしてのソニーと その子会社であるレコード会社としてのソニーが手を組んで テレビのスポンサーになり、プロやアマチュアのバンドを テレビに取り上げさせた。 CDデッキの普及が終わった地点で、 もしくは特許が5年で切れるので、特許技術が切れる辺りで それらの広告から手を引くと、ブームが去って、 元に戻ったというのが、バンドブームの顛末です。 同じ事は60年代末のGSブームの時にも起きていて この時にはエレキギターのメーカーがエレキギターを普及させる目的で 広告を打っていたわけ。 ロッキンオンの渋谷陽一は元々ロック同人誌「レボリューション」の 二代目編集長で、一代目編集長だった人が作った音楽雑誌が 「ミュージックライフ」で、渋谷陽一はミュージックライフの編集長と 喧嘩する形で「打倒!ミュージックライフ」を旗印に ロッキンオンを立ち上げた。 そのミュージックライフを見ると、 広告はほぼ100%エレキギターとエレキベースです。 当時、「ヤング720」というTV番組が朝7時20分から 月〜金の帯で放送されて、色んな学校にロケに行って ロックをやっている高校生の演奏とかをテレビで流していて RCサクセションもアマチュア時代、その番組で有名になった。 テレビの音楽番組なんか見ているとCMはほぼ100% レコード会社でしょ。テレビのCMスポット15秒で 何百万円とかすると思いますが、そのぐらいの金を払って初めて ミュージシャンはテレビに出れる。 そうじゃなくて、アマチュアのミュージシャンが 広告費払ってもないのに、良い曲作りさえすれば TVに出れてしまうみたいなロック幻想は GSブームの時、エレキギターメーカースポンサーで起きたのと バンドブーム時に、オーディオ家電メーカースポンサーで 起きた。 で、今何が起きているのかというと 日本のレコード会社は基本、親会社が家電屋さんで 東芝EMIとかエピックソニーとか、 オーディオデッキを売るために子会社として レコード会社を持っているという形式なのですが 最近の音楽はi-podなどパソコンメーカーの 再生機を使うようになったので、子会社にレコード会社を持っていても 家電屋としてメリットがないという事で 家電屋さんがレコード会社の株を手放している。 つまり、家電屋さんからの金が音楽産業に回らなくなっている。 じゃあ、パソコン屋さんから金が回るかというと。 i- pod時代になって音楽は無料もしくは 無料に近い形でのダウンロード、もしくはコピーやなんかが主流になり 誰でもネットを通じてUPロード出来るかわりに 広告して売って儲けるみたいなビジネスモデルが 成立しない所へ来ている。 無料で流通させて、無料で聴ける。 それは音楽だけじゃなくて、活字でも動画でも インターネット・パソコン関連のコンテンツは 限りなくそっちに近くなっている。 出版業界一つとっても、関東大震災後の 全集ブームがあった頃、本は販売員が訪問販売で 月に一回届けられるハードカバー本を 一年契約・二年契約で契約を取ってくる、 宅配型の活字月刊誌のようなビジネスモデルだったのが 1980年代辺りで、書店・コンビニでの立ち読みがOKになり グラビア週刊雑誌のフリーペーパー化・広告の寄せ集め化が進み、 雑誌=新聞の折込チラシ・通販カタログになっていった。 これが2000年代辺りから、広告がWEBに移行することで、 書店で立ち読みできない、書店で置いていない活字本が ネット書店でベストセラーになる。 お金を払ってでも読むに価する活字かどうかが 問われる所へ原点回帰。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□