■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第171号    2007/9/19発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1ハモネプ mixiで「ある意味ポエトリーの全国大会」というタイトルで 「今夜7時フジテレビ系列にて 『青春アカペラ甲子園全国ハモネプリーグ』」と書いた。 その日記に対して、太郎本人さんから アカペラであって、ポエトリーではないだろ。という批判があり まあ、予想内の批判だとは言え、相手が太郎さんなら 気心も知れているし、ポエトリーイベントに対する責任感もある人だし このテーマは掘り下げるべきかなと思って、 少し思うところを書いてみます。 ハモネプ公式HP http://sound.maxs.jp/hp/hamonep/ 2SSWSにおける詩人対ラッパー SSWS(ポエトリー+ラップ)というイベントの中で ラップのルーツとしてドゥーワップがある。 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/160gou.txt ハモネプはドゥーワップにボイスパーカッションを入れた物で ほぼドゥーワップと言って良い。 そして、ハモネプに対して、クール・モー・ディーのように 「奴らの歌詞はパクリだ」と繰り出すことは出来る。 が、それはそれとして。 SSWSの第一回、第三回(タカツキさん優勝)、 第四回(ロイさん優勝)と私は観に行っていて、 あの頃は、詩人VSラッパーという雰囲気が強くて、 舞台向かって右側にラッパーと審査員、 左側に詩人(Ben‘s Cafeグループ)がいて、 自分としては当時Ben‘sに出入りし始めた時期で、 詩人サイドから見ていました。 第一回で出場した時に、ハモネプで言うボイスパーカッション、 HIP−HOPでいうヒューマンビートボックス的な発声を取り入れた 朗読をして、ラッパーの人たちからも声を掛けていただいて 仲良くなれたのですが、当時SSWSの出場エントリーの四分の三は 詩人なのに、優勝・準優勝するのはラッパーで、 詩人サイドとしては非常に悔しい思いをしていたと同時に ライブハウスでパフォーマンスをする時に 詩人の技術だけで朗読しても勝てないし、 詰まらないと身につまされた時期でした。 当時のBen‘s Cafeは、普通の喫茶店での朗読なので 大きな音の鳴る楽器やパフォーマンスは禁止で、 朗読に興味のないお客さんに話し掛けて、 お客さんを巻き込んだ笑いを取れれば勝ちみたいな環境でした。 それがライブハウスへ行くと、HIP−HOPの人は DJ+MCで、BGMに合わせてラップをやる。 第一回のメテオさんが優勝したときに、 優勝後のご褒美パフォーマンスを何かやってくれと言われて 「ラッパーの皆さん、ステージに上がってきて  みんなでマイクリレーやりましょう」と言って、 ステージに8人ほどのラッパーが上がって、DJの音に合わせて マイクリレーをやった時の迫力というのはすごかったわけです。 以後、毎回ラッパーが優勝して、毎回最後にラッパーがステージの上で 優勝パフォーマンスをする。 DJマルくん(サムライトゥープス)や DJドーパントさん(MC:キャンドルさんと出場)の分厚い音圧に タカツキさんや志人さん(第四回辺りにゲスト出演。)の ヒューマンビートボックスが乗り そこへ、2本のマイクがラッパーの間を回って、 フリースタイルでキメまくる。 マイク3本+DJなので、一人で朗読する詩人より音が圧倒的に分厚いし リズミカルで絵的にも十人近くのラッパーが ステージ上で踊って暴れまくるので迫力がある。 詩人が一人で直立不動で紙を読み上げるのとは訳が違う。 志人さんがゲストの回に、十人ほどのラッパーが入り乱れるステージ上で へべれけに酔ったラップの出来ないロックボーカリストがマイクを握り リズムに乗れないまましゃべって黙った時に、すかさず志人さんが 「自分で始末できねぇんなら、マイク握んじゃねぇ!」と ファスト(早口)ラップで相手をディスり(こき下ろし)、 酔っ払いが志人さんの方へよろけた瞬間、 志人さんを守るように他のラッパーが体を張って弧を張った。 一触即発の殴り合いが始まる瞬間に、志人さん中心の円が出来た瞬間が 私の中のSSWSで一番盛上った瞬間です。 音響設備の整ったライブハウスで、 詩人とラッパーの何が一番違うかと言えば 音圧とステージ上の絵の情報量です。当時のドーパントさんなんかは 暴力的に分厚い音圧のDJをしていて、MCが何を言っているのか まったく聞き取れないが迫力があった。 音圧とは何かという話になるのですが、BossのBR−1180という MTRを自宅でいじっていて分かったのは、私たちが普段、 音量と思っている物のほとんどは音圧であって、 音量ではないということです。 MTRの初期設定でもエフェクターが入っていて、 そのエフェクターを百パーセント切って、 ボリュームを最大にしてマイクに声を入れたときに、 グラフィックイコライザーは100に達する。 通常70ぐらいに音量を整えないと音が割れて、 ピーーィとか電気的なノイズが入るので 音量は100を越えてはいけないのですが、 100を越える音量でしゃべっても、 エフェクターなしではマイクの音は聞こえず、 ピーーィという電気ノイズだけがうるさく響く。 人間の耳は通常左右で千分の一秒ほどズレて音が聞こえる。 さらに、自分の声は声帯が直接頭蓋骨を揺らして、頭蓋骨が鼓膜を揺らす。 この頭蓋骨内の反響がエフェクト機能を果すので、 自分の声は他人が聞くよりも分厚くきれいに自分では聞こえる。 カセットテープに録った自分の声が、自分の聞いてる自分の声より 声が汚いのに、周囲の人に「これはいつもの君の声だよ」と言われたら 頭蓋骨反響なしで他人は自分の声を聞いている分、 カセットテープに近い声で聞こえているから、そう聞こえるわけだ。 ただ、自分の声以外も左右の耳で最低二回音を聞いていて それを脳内で調節して、一つの音にまとめて処理している。 MTRもカセットテープも、録音・再生部は一音しかないが、 エフェクト(ディレイ)によって、千分の一秒ズレて二回録音されて 初めて人間の耳に一つの音として聞こえる。 エフェクトを百パーセント切ると、音量は振り切れているのに 耳には音が一切聞こえない。 左右のヘッドフォンから同時に一回しか音が聞こえないから 脳が幻聴として音を削除してしまう。 逆にコーラスを多重録音すると、同時に同じ音程同じ声で入れたつもりでも 千分の一秒ぐらいのズレは生じて、音に時間的な厚みが生まれ、 一回しか録音しなかった時に比べて、大きくてきれいな音に聞こえる。 音圧というと通常音程上の音圧のことを言うが、時間的な音圧も含めて 音圧があればあるほど音は大きくきれいに聞こえる。 アコースティックギターやグランドピアノをイメージして欲しい。 ギターはひょうたん型、ピアノは上から見たときハート型をしている。 直径の異なる二つの円形を重ねたひょうたん・ハート型の反響板を持つ。 一つの弦を鳴らすと、その音がギターの胴やピアノの響板に当って 跳ね返ってくる。反響板が円の場合、 円の中心に音の集まるホットスポットがで来て、 半径が異なる二つの円があれば、それだけで音が3つ出る。 弦の音と小さな円の中心と大きな円の中心だ。 ギターとピアノは弦楽器で、平行に並んだ弦は、直接弾かれなくても その弦とハーモニクスの関係にある長さの弦が弾かれると 空気の振動を通して共鳴する。グランドピアノの場合、 一音を鳴らすと7弦が共鳴するらしい。 するとグランドピアノの一音は、 七音×三音の分厚くて豊かな音を出していることになる。 エフェクターを切ったMTRでいくら大きな音を出しても ノイズしか聞こえず、音が聞こえないのと 小さなボリュームでも体感ボリュームが大きく豊かなグランドピアノの差は 音量による物と思いがちだが、実際には音量でなく音圧の差で生じている。 ライブハウスで1DJが2枚のレコードを回し、 一MCがヒューマンビートボックス、 残りの2本のマイクで8人のMCがマイクリレーをした時の音圧は 一人の詩人の朗読では勝てないわけです。 当時、音響的なことを分かっていない詩人の多くは ラッパーのように大きな音を出そうと、大声で朗読をしていたが 音量が大きくなるとマイクが音量に耐えられずノイズを出す。 でも、耳には詩人の声が聞こえない。 エフェクターを切ったMTRと同じだ。 詩人サイドからSSWSを観ていた当時の私にとって、 目の前にある一番大きな敵はラッパーのご褒美パフォーマンスで あの人数のあの迫力、あの音圧にどうやって勝つのかでした。 個人としてはラッパーの人たちから親切にして頂いたし 感謝や尊敬の念はあるのだが、私としては詩人が優勝して 詩人がステージ上で「詩人の人みんな上がって来いよ」と呼びかけて どうやってラッパーのご褒美パフォーマンスに匹敵する物を作るのか を考えたし、だからこそ花本さんと組んで ファミリープラン名義で出たときは、 花本さんのバックでヒューマンビートボックスに徹した。 SSWSで私の目からみて最高のパフォーマンスは ラッパーのご褒美パフォーマンスだったし、 その時の音圧やなんかのあり方はハモネプのそれと非常に似ていた。 いまでも詩人としてSSWSに出るなら、 ハモネプ的なものと闘う前提がいると思う。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□