■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第163号       2007/4/16発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1ごあいさつ 前々回のメルマガ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/161gou.txt に関して「1978年の宝島」と適当に書いたら ベッド下から出てきた該当の古雑誌は76年2月号だったから直したとか そのメルマガで書いたmixiの話は http://mixi.jp/view_diary.pl?id=343249225&owner_id=54076 のことだとか、 ・ アマチュアリズムとインディーズとコマーシャリズムの関係 についてもっと書きたいとか 出版社は第一次問屋なのではないかとか いとうさんの「出版社はコンテンツホルダーだ」という話 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/151.5gou.txt まで含めて、 ちょっとまあ、色々と書いてみたいです。 2流通業について 世の中の商品は通常、 製造業→第一次問屋→第二次問屋→小売り→消費者 という順番で流れていく。 製造業は物を作る所で、小売りはお店ですね。 「問屋というのは何もせずに商品を右から左に流すだけで 手数料を取ったりするので基本的にいらない、 日本の流通制度はややこしすぎて中間手数料が多い。 これからインターネット社会になれば、ネット販売などが増えて 問屋はいらなくなる。一番必要なのは物を作る製造業で、 ここが一番不況に強い」というような話が 常識としてよく出回っているのですが、むしろ私としては 小売りと製造業がなくなっても問屋だけは生き残るという仮説を 語ってみます。 子供の頃、社会のシステムに興味があって特にサラリーマンが 何をしているのかに興味がありました。 日本の労働人口の過半数は第三次産業に占められていて 多くの人はサービス・流通業に従事しているわけです。 流通と言っても実際に物を運ぶ宅急便やトラック、 人を運ぶタクシーや電車は仕事の内容が分かりやすいのですが 問屋、倉庫管理というのは何をしているのかが非常に分かり難い。 少なくとも会社員になって実際に倉庫管理をやるまでは 外から見ただけでは何をしているのか分からない業種でした。 仮にエンジンを作る工場があったとしましょう。 ベルトコンベアに乗ったエンジンの元に、 色んな人がネジを入れたり、ベルトを付けたりして 少しづつエンジンが出来上がっていく。 そこで働く人は、ネジを入れるのが担当なら、 ずっと同じ箇所に電動ネジ巻き機でネジを入れるのを一日中、 何百何千のエンジンの原型に向かってやる。 コレは非常に単純作業なので、アルバイトやパートタイマーが 多い訳です。長く務めたからと言って、 これらの作業は技術が身に付いたり、権限や役職が身に付いたり 経験が何かの役に立ったりはしづらいので、必然的に短期労働者が増える。 エンジンを作るための色んな工作機械やシステムは何千万円とか 何億とか掛かっていて、しかも3年や5年で 新しい機械やシステムに買い換えるので、 そのぐらいで減価償却をしなければいけない。 当然、24時間機械を回すことになるし、働く人は8時間労働の三勤制で 9時から17時、17時から1時、1時から9時とシフトを組む。 エンジンと言っても、同じエンジンを大量に作ってもしょうがないので 使う部品を変えて、 自動制御で動く機械のプログラムをバージョンBに変えると B型エンジンができる。 またバージョンを変えるとCとかDとか色々できる。 機械を動かすと、一秒間で一個のエンジンを作れるとして 一時間で3600個のエンジンが作れる。 作るエンジンのバージョンを変えるのに、 自動制御で動く機械を+ドライバーから−ドライバーに変えたり 補充する部品を直径6ミリのナットから4ミリに変えたりで 二時間掛かるとしよう。一回バージョンを変えるだけで エンジン7200個分生産量が落ちる。 かといって売れないエンジンを大量に作って倉庫に置いておいても 倉庫代が掛かってしょうがない。 7200個のエンジンが売れないまま二年も三年も放置されると 貸倉庫代だけでも馬鹿にならなくなる。 最悪古くなってでなくなったエンジンは、 スクラップにして鉄くず業者に売ることになる。 このときに工場で実際にエンジンを作っている人達が 製造業者だとすると、エンジンの注文書を見ながら どの型のエンジンを何個作るのか、倉庫の在庫を見たり 注文書の納期を見たりしながら、実際に 何時から何時までこの型のエンジンを作ると 工場のシフトを組むのが第一次問屋です。 多少語弊があるけど、比喩的なイメージとして そういうイメージを浮かべてもらえると分かりやすい。 製造業は働けば働いただけお金をもらえる。だからアルバイトで良い。 でも問屋は、売れない物を作ったら赤字が出る可能性がある。 F型エンジンの注文を受けて、間違えてS型エンジンを作ってしまった。 エンジン一個仮に五万円だとして、一分間に60個のペースで、 売れないエンジンを作ってしまうと、すごい赤字が発生するわけです。 かといって、S型エンジン5個売ってくれと注文が入ったから 二時間掛けてS型にセッティングして、五秒だけ機械を動かして また二時間掛けて元のセッティングに戻すとかは 工場にとって損失なわけです。 どうせ作るなら大量に作らなければいけない。 どのぐらい売れるのかを自らの経験と勘で予想し 売れ残りリスクを背負って決断するのが問屋の仕事です。 出版社というのは基本的に第一次問屋じゃないかと最近思うわけです。 売れるか売れないか分からない本を印刷所に発注する。 印刷所は売れても売れなくても印刷代をもらうし、 印刷が終われば即出版社の倉庫に全冊持ってくる。 印刷した本は印刷所の倉庫に入れておいて、書店から注文が入ったら 印刷所から送ってもらうというわけにはいかない。 倉庫管理なども含めて問屋の仕事で、 製造業は作った製品の在庫は抱えない。 同人印刷で100ページの本を何冊か作ったのですが、 ダンボール一箱に大体30〜50冊ぐらい入るわけです。 オフセット印刷の最低ロットが三千部だとすると、 ダンボール箱百箱分ですか。 一種類本を印刷するだけで最低百箱送られてくるので 出版社に最低限必要な物は倉庫になります。 製造業(工場)側に付いている問屋を第一次問屋と呼ぶと 消費者側、小売り店側に付いている問屋を第二次問屋と呼びます。 先ほどのエンジンの例で行くと、 エンジンを買う消費者は自動車工場です。 自動車工場も二十四時間営業で動いていて、 先ほどのエンジン工場と似た条件です。 自動車の部品として、タイヤはゴム工場から買い、 ライトは電気メーカーさんから買い、ガラスはガラス屋さん と色んな業種の色んなメーカーさんから材料を買い集めて 一台の車を作るわけです。 仮にまたベルトコンベア式で一秒間に一台の車を作っているとしましょう。 一分間に60台、一時間に3600台の自動車を作っているとしましょう。 たまたま、3600台中の3500台で、タイヤの在庫が切れてしまった。 しょうがないので、タイヤのない車を百台だけ作ってしまおう、 というわけにはいきません。後でタイヤだけ付ければ良いとか そういうわけにいかないのです。 ガラスの在庫が切れたので、ガラスのない車を作ってしまおうとか そういうわけにいかない。 仮に自動車一台、50万円だとして、部品がないために 一分間工場のベルトコンベアを止めたら、60台分、 三千万円の赤字が出るわけです。 そうならないように工場で使う各部品の在庫を管理するのが 第二次問屋になるわけです。 第一次問屋と第二次問屋の違いがイメージとして 分かりにくいかもしれませんが、 工場で使う部品を管理するのが第二次問屋で 工場で作った製品を管理するのが第一次問屋。 工場で働く人達は働いた分だけ給料をもらうアルバイトや短期労働者で 問屋は、仕入れた物が売れなかったり使えなかったりする 仕入れリスクを自ら背負う。リスク管理が問屋の仕事で、 真面目で一生懸命なだけでは出来ない仕事です。 ある程度長くその業界にいて、未来に売れる商品を予想して仕入れ、 予想を当てないと売れなかったり、部品が足りなかったりが 発生します。アルバイトや短期労働者ではなく 長く責任持って勤続できる正社員が、その仕事をすることが多い訳です。 本の流通で言うと、取次が第二次問屋にあたると感じます。 小売りというのはスーパーなど典型ですが、ほとんどがアルバイトです。 社員と違って保険なしで雇えるバイト・パートは、 社員の半分以下の時給で雇えます。 小売店は大抵住宅地にあって、通勤なしで通えるし、 人員募集も店の前に張り紙を貼れば人が来るので、 安いパート・バイトで済むわけです。 基本的に時給いくらで雇われている店員は、 店の売上げが低ければ低いほど、仕事が少なくて楽なので得なわけです。 店のオーナーというのは、お金と店にする土地があって、店をやりたいが 店をやるノウハウがない。その時にノウハウを教えてくれる チェーン店の下に入ってフランチャイズで、店をやります。 ローソンでもマクドナルドでもガストでも良いですが フランチャイズのチェーン店というのはそういうものです。 で、いま書店というのは、一見そう見えないのですが、 実は取次の子会社などで作るフランチャイズチェーン店が多く、 個人経営の書店がどんどん潰れている状況です。 第二次問屋と小売りの関係を フランチャイズの本社と支店のイメージで伝えると 分かりやすいかも知れません。 マクドナルドの本社があって、そこは新商品の開発や ハンバーガーに入れる冷凍レタスや冷凍ハンバーグなどを作っている。 土地とお金を持っていて店をやりたいオーナーがマクドナルドと契約し 支店を出す。 取次と契約しないと書店に本が並ばないのは マクドナルドと契約しないと、 自分の食品がマクドナルドのメニューに載らないというイメージです。 書店で働いている花本さんと仲が良い私が 「俺の本、花本さんの書店に置いてよ」と言っても 取次を通さないと置けないのは、マクドナルドの店長と仲良くなっても 自分の作ったハンバーガーを そのマクドナルドで置いてもらえないのと似ている。 たとえマクドナルドの**支店のオーナーであっても、 フランチャイズ契約している以上、 勝手に自分の店のメニューを変えれないわけです。 新聞などは「流通革命が起きて問屋がなくなる」みたいなことを よく書くのですが、俺は小売りと製造業がなくなっても 問屋は残ると思います。 工場は人件費の安い途上国に移って日本からなくなるし、 小売りも、アマゾンなどのネット書店が、 実際の書店の売上げを越えているし、 店舗が全部ネットになる可能性はある。 でも問屋はなくならない。 マクドナルドの支店や営業所のいくつかが潰れても、 本社が潰れることはないと思う。 新世紀書店 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/114gou.txt の冊子で早川義夫さんが言っていること 〜〜〜 ・いま、日本では年間1000店以上の書店が閉店・廃業している  といわれるが、(中略)本を効率的に買うなら  インターネットの方が便利だし、じっくり見て回るなら、  なるべく大きな書店に行ったほうがいろいろな本に出会える。 ・「店の感じがいいということ。  それ以外に小さな本屋の取り得はない」 ・「店の感じが良い」とは、その店の店主やスタッフに  是非売りたい本があって、そのことが伝わってくる店のことを指す。 「これは生き残る方法なんかじゃない。でも、どうせ潰れるなら  楽しくやったほうがいいよね。」 〜〜〜 個性的な店主が自分の趣味で個性的な仕入れをして作った 個性的な個人書店が、POSデータで作られた大手書店チェーンに 破れて潰れていく話だと思う。 大手チェーンの傘下に入らない小売りが潰れて、 問屋・チェーン店が残るということは、こういうことなのだと思う。 (続く) 3メールマガジン 青木研治さんのメールマガジン 「スポーツポエトリーリーディングのすすめ」 http://melten.com/m/23226.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□