■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 第160号    2006/12/17発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1BEEF アマゾン http://tinyurl.com/y79wa9 いままで観たHIP−HOPやMCバトル系の映像の中では 一番面白かったし勉強になった。 ビーフ(Beef)という言葉に牛肉以外にも、 因縁とか確執という意味があって、 ラッパー同士の闘いを意味する言葉ですが この中に出てくる、ラップの起源とされるバトルがあって、 これが面白い。1980年代の頭に行われた ビジー・ビー(Chief Rocker Busy Bee)対 クール・モー・ディー(Kool Moe Dee) のバトルで、このDVDの中で、 ビジー・ビーは会場を盛り上げるパーティーラッパーで、 地元じゃ負け無しの人気者だと。 ビジー・ビーは、ラップをしてないインタビュー時には、 モハメッド・アリの物真似をして、大口を叩いているわけです。 俺を倒せる奴などどこにもいないぜ的なことを言っているビジー・ビーに 客席の一人が「クール・モー・ディー」と言うわけです。 ビジー・ビーはアリの物真似をしながら、 いや、俺の方が強いね的なことを言ってる。 場を盛り上げるのが仕事のパーティーラッパー相手に、 バトルMCが勝負を挑んでも不利なのに、 クール・モー・ディーは、それに立ち向かった。 というストーリーにDVDではなってます。 実際には、地元の英雄ビジー・ビーのホームで アウェーのクール・モー・ディーが戦ったと言うには 無理があって、そのイベントの司会者が クール・モー・ディーである以上 アウェーというほどアウェーじゃないだろと思います。 パーティーラッパーと、バトルMCというのが何なのか? が大事なのですが、DVDを見てもらえば分かるのですが ビジー・ビーがやっているのは、 2000年代の日本に住む私達が考えるラップとはずいぶん違って いわゆるドゥーワップ(Doo−Wap)ですね。 邦楽でいうとシャネルズのような、 シュビドゥバ・ドゥビドゥワ、ドゥドゥワーとか 言ってる。歌詞に意味は無くて、シャラララとかラララとか そういう歌詞で、ムーディーなスローバラードを歌っている。 対するクール・モー・ディーは、 ダ・ダ・ダ・ダ・ダという激しい打撃音に乗せて 早口で相手の悪口をまくし立てる。 「みんな、あいつのラップで盛り上がったか? 楽しめたか?本当のこと言っちまえよ。あいつの歌詞はパクリだ。」 てな感じで、いま私達がラップだと思っているラップを展開する。 よく考えると、ドゥビドゥバ言ってる奴に、 歌詞がパクリだと言っても、結構的外れな批判だと思うのですが このバトルをきっかけにラップの歌詞が、 スキャットから意味のある言葉へ変わり、 バトルのルールも、 パーティーをより盛り上げた方が勝ちというルールから 相手の歌詞の元ネタをあばいたり、 即興じゃなく家で紙にネタを書いてたとか、 メモをポケットに入れてるとか、途中でネタを思い出してるとか そういうのをあばいた方が勝ちにルールが変わる。 日本のB−BOY PARKのMCバトルも、 第一回から第三回までKREVAが連続優勝したときのレポートを見ると 第三回の時にはKREVAは自分のことを 「みんなのネタ帳あばくネタ帳刑事(デカ)」と称して、 「こいつ絶対俺に勝てねぇよ。だってこいつの着メロ、俺の曲だもん」 とか言っていたらしい。 ビジー・ビーのような当時のヒット曲のつぎはぎで場を盛り上げる パーティーラップから、バトルMCへの転換点はここにあったらしい。 ちなみに何でビジー・ビーが モハメッド・アリの物真似をするのかというと ビジー・ビーとは「いそがしい蜂」であり、 モハメッド・アリのキャッチコピー 「”蝶のように舞い、蜂のように刺す” 文法的に正しいのは(Float like a butterfly, sting like a bee)だが DVDを見る限り韻を優先させてこう言っているように私には聞こえる (Fly like a butterfly, beat like a bee)」 から来ている。 それに対しクール・モー・ディーは 「奴(ビジー・ビー)は蝶(バタフライ)というよりハエ(フライ)だ」 と返している。 他にもアメリカのテレビ番組で、素人がMCバトルをして 審査員が勝ち負けの札を上げるのとかも収録されている。 それを見ると、持ち時間は三十秒一回勝負で、相手の悪口を言い合う。 音楽番組というよりバラエティー番組で、 「天才・たけしの元気が出るテレビ」の口ゲンカ王決定戦に近い。 たけしの元気が出るテレビはLLブラザーズを生み出した ダンス甲子園を見てもそうだが、意外にHIP−HOP色が強い。 口ゲンカ王決定戦では、対戦者二人が同時に一分しゃべる形式で、 音声は両方のマイクを拾いながら、 AとB二つのマイクの強弱を揺れ動かすことでバランスを取っていた。 おそらく、元ネタはアメリカのMCバトルだと思われる。 一応、何週か勝ち抜くとレコード会社からオファーが来て CDデビューをするというのがアメリカ版ではある。 パクリだとか、トップ・オブ・ザ・ヘッド(即興)じゃないとか をあばいて相手をおとしめていても、実はみんなネタを作って練習して 紙を見ずに即興っぽく見せているだけだとか、 そういうネタばらし的な部分も含めて非常に面白いDVDでした。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□