■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 号外    2006/1/15発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1ソネットの歴史 詩とは何かと考えたときに、西洋の詩の代表的な形式である ソネットについて調べようとした。 ソネットの変遷を大雑把にとらえると まず、古代ギリシャにソネットを含む詩の形式がいくつか生まれて アリストテレスが詩学でそれらについて書いていると。 文化の中心がギリシャからローマに移り、それと同時に 詩もギリシャからローマに移ったと。 ここまでが古代で、あいだに教会が絶大な権力を持った中世が入って イタリアでルネッサンスが起こると。 ローマもイタリアも別の国だった時代があるとはいえ いまから見れば同じ国で同じようなもんじゃないですか。 イタリアはフランス・スペイン・ポルトガルと同じ、 ラテン民族の国で、ラテン語圏だと。 ラテン語と言った時に 1中世の学術言語であった古代ラテン語 2古代ラテン語を語源とするラテン系の言語  (フランス語・スペイン語など) の二つの意味があって、ややこしいのですが 今回のメルマガでは2の意味でラテン語という単語を使います。 ソネットは長音と短音の繰り返しで出来ているので ラテン語以外の言語に翻訳するのが困難なのですが イタリア製のソネットが、 ゲルマン民族でゲルマン系の言語をしゃべるドイツに行き、 長音・短音の一部が、強音・弱音に置き換えられ それがさらに長音・短音という概念のない言語をしゃべる アングロサクソンのイギリスに移って、 長音・短音が完全に強音・弱音に移ると。 ソネットの歴史は、長音を強音に翻訳する歴史であったと。 これが大きな流れで、そのあいだにフランスやロシアが入ってきて フランスなどはイタリアと同じラテン語圏なので 長音・短音を長音・短音のまま輸入できるため、 イギリスなんかと比べると ソネットの輸入・翻訳が早くて正確なわけだ。 するとアングロサクソンである英米の人達にとって フランスというのは詩の研究や創作に関して進んだ国に 見えたりすると。 ソネットの朗読を聞いて、何の知識も教養もない私が 何を思うかというと「イタリアのオペラじゃん」と。 オペラがイタリア産の歌劇だから、イタリアのソネットが オペラに聞こえるのは普通だとしても、 ドイツ語圏や英語圏のソネットの朗読を聞いても 発声法自体がオペラの発声で、 印象としてオペラじゃんという印象になる。 厳密にオペラとソネットの違いだなんだってのは知らないのですが イギリスの詩人としていちばん有名なのがシェークスピアで 彼の劇の中にソネットのリズムが多用されていて セリフに音楽的な要素がある歌劇だとすると 私のような素人の耳ではオペラとの区別がつかない。 もちろん厳密にはイタリア語と英語の違いもあれば オペラとミュージカルの違いもあるだろうけど 私が聴いたそれはミュージカルというよりオペラでした。 日本の音楽史はドイツ中心主義で、 イタリアルネッサンスを隠蔽しているという話があって バッハとかベートーベンとか確かにドイツ人中心に 音楽史が組みあがっていて、 バロック以前のルネッサンスを参照してないし そこを参照すると、バッハやベートーベンが いかにイタリア音楽を模倣しているか分かると書いてる本もある。 日本は音楽史だけでなく哲学史にしても カント・ヘーゲル・ハイデガーとドイツ中心だったり 明治期に法体系を作ろうとしたとき、 参照したのもドイツだったりと、 明治期の開国時、ドイツ文化をすごく重視して取り入れてて 何でドイツなんだろう? あの時代、国力で言えばイギリス・フランス・アメリカに比べて どう見ても遅れていたはずのドイツを何故日本は重視したのだろう? と思って、アメリカに不平等条約を突きつけられていた日本にとって アメリカと同じプロテスタントで、かつ プロテスタントのルーツを持つ国だからじゃないだろうか?とか カトリックの思想は既に出島で触れていたので いまさら取り入れる必要がなかったからじゃないだろうか?など 個人的にごちゃごちゃ考えた。 古典派・ロマン派・写実主義・自然主義といった芸術運動が 美術・音楽・文学といった枠を超えて連動し 個々のフィールドをつなぐ形で、 思想や哲学がそれらの芸術運動の根幹にあったことを思えば 大雑把な西洋思想史・哲学史も知っておいた方が良いだろう。 例えば、中世はキリスト教会が力を持っていて 快楽的な芸術全般(美術・音楽・文学)を禁じていたわけだ。 キリスト教のルーツになっているユダヤ教の発生を見ると ユダヤ人は元々遊牧民族で、定住している農耕民族と比べて 富を所有する手段を持っていたなかったわけだ。 持ち運べる程度の財産しか所有できない遊牧民が 大都会に定住する民族の華美な暮らしを真似して 宗教的な儀式(古代において、芸術の多くは宗教と結びついていた)に 多くの財産をつぎ込んではいけないとしたのが 一神教の起源で、ユダヤの法のみを神としてあがめて 偶像(彫刻・絵画)崇拝を禁止し、 ユダヤの法にない宗教的儀式(お祭り・お祝い)を禁じたと。 貧しい遊牧民が破産せずに生き残るための知恵として生まれた ユダヤの法であるユダヤ教が、キリスト教になり、 人々に禁欲的に生きることを中世において強いたと。 ルネッサンスはギリシャ・ローマの文芸復古で ギリシャ神話に代表されるように、古代ギリシャ文化は 一神教のキリスト教でなく、多神教であったと。 神々は人間のように浮気もすれば、 愛人を妊娠させて正妻に怒られるという 非常に人間的で快楽的な生き方をしていたと。 美しい彫刻を作ることや美しい音楽を楽しむことを 禁じられた時代から、解放されて 快楽万歳というのがルネッサンスで、 神話の世界を描いているという建前があれば 彫刻や絵画で裸体を描いても良いとされたので ルネッサンス以降の西洋は裸体の静止画に関して 日本と比べて規制が緩い。 これがドイツに行って宗教改革になって プロテスタントが生まれると。 活版印刷術の発明もあって、聖書が普及し、個人個人が聖書を読んで 自分にとっての解釈を練り上げていくようになる。 カトリックのように共同体の人達が皆教会に集まって 神父の話を聞くのではなく、個人で聖書を読むことで 百人いれば百通りのキリストが各個人の心の中に生まれるようになる。 ルネッサンスがギリシャ・ローマ文化の復古を目指したとすれば イタリアカトリック教会のような唯一の正統な後継者をそこに求めず 自分にとってのアートを追求した結果、 抽象表現主義のような、キャンパスに絵具を感情のままぶちまけて これがいまの私の感情を表現したアートだと言い切ってしまう 思想的な背景がドイツで生まれると。 ソネットの変遷一つとっても、それを記述しようと思ったら シェークスピアの演劇や、 ソネットを歌詞とするクラッシックの音楽史、 ヨーロッパの思想史・宗教史、 それらの思想から生まれた美術・音楽・文学の関わり などを、このメルマガに書いてるようなただの思いつきでなく ちゃんとした文献にあたって勉強するというようなことを やらなきゃいけないわけで、しかもその程度のことは 美大や芸大や音大を出ている人達は大学の授業で当然やっているわけで いまさらだけど俺も勉強した方が良いのかなぁ、 でも勉強したところで、それようの学校行ってる人にはいまさらな話を さも得意げにメルマガに書いちゃかっこ悪いよなぁと 思いつつ。 よく考えると、東京ポエトリーシーンの人達が 参照としているような詩は 北米における黒人及び南米出身のラテン系の人達の詩で 最初っからラテン語だから、ドイツ語や英語に翻訳することなく 音楽的に歌えるわけで、ヨーロッパにおけるソネットの翻訳史とは まったくリンクしないわけです。 (ビートニクにしても北米に住む白人が南米を旅して マンボのような南米音楽のリズムに乗って歌うわけです) 詩のボクシングが参照としているような 都都逸やわらべ歌や歌謡(古事記・日本書紀の記紀歌謡から連なる) といった日本古来から伝わる和語の詩歌とも当然つながらないわけで どっちにしろ無駄足だったのか俺は。 ・ ・てな感じで没にしたメルマガ用の文章を まとまらないまま流しているのです。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□