■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 不定期刊行物【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験】 号外 2004/7/4発行 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 1ワニラ ワニラというと知っている人は知っている 女の子三人組(さや・なお・ゆーり)のポエトリーグループで 奈緒さん http://www.hat.hi-ho.ne.jp/nao404/ ユーリさん http://www.aa.alpha-net.ne.jp/cream08/index.htm 小夜さん http://members.at.infoseek.co.jp/fukidamarist/ ポエトリー界のアイドルという言い方をされたりもしてます。 で、俺は最初、詩を朗読する千葉県民の会の集まりで ポエトリー界のアイドルとして ワニラという女の子三人組グループがいるという話を聞いた時に 正直、ウザイという印象を持った。 **界のアイドルなんてチープな表現は聞き飽きていたし 第一、ポエトリーとか盆栽とか競馬の予想屋とか 若い女の子が入って来ない業種や そもそもそのジャンルの参加者数自体が少ないようなジャンルの場合 単に若い女性であるというだけで、 単なる初心者、もしくは部外者さえも 「**界のアイドル」と呼んでしまう傾向がある。 若い女性の参入者が少ないジャンルや 参入者数自体が少ないジャンルに参入している 美人でもなければ若くもない女性を「**界のアイドル」と 呼んでしまうのは、まだ許せる。 政界なんて、40代でもまだまだ政界のマドンナとして通用する。 でも、ド素人の子供や部外者を「**界のアイドル」と呼ぶなよ! そういう違和感は常にあった。 実際、ワニラの噂を聞いたとき、「ポエトリー界のアイドル」 という肩書きを聞いた三人目だった。 業界の活性化のためにそこそこ見栄えの良い女の子を使う ってのはよくある手だよ。 でも、あれか、ハイレグ水着のレースクイーンがいれば F1業界は活性化するのか? モーターショーで、水着コンパニオンの 写真を撮りに来ているカメラ小僧達は 自動車業界の良い顧客となるのか? 水着のコンパニオンが盆栽してれば盆栽人口は増えるのか? 水着の女の子が盆栽している写真をグラビアにして 「いま、若者達の間で盆栽がトレンディ」って なわけねぇーだろ! 俺はワニラに会う前から、ワニラの噂を所々で聞いていて 会う前から「アンチワニラ」だったわけです。 で、ラウンドカッツ(現コトバコ)で 初めてワニラの朗読を聞いたとき、 「実力ともなってんじゃん」 という衝撃が走りました。 普通、詩の朗読というと、 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/76gou.txt 三つぐらいのジャンルに分かれていて、 音楽的な朗読ってのは、歌うかラップするか7・5調かぐらいで 精々、ボイスパーカッション+ラップの2MCぐらいが 一番音楽的な朗読だったりするのですが、 三人グループで、マイクを三本立てていっせいに朗読するってのは まだ、ワニラ以外に観たことがない。 「疾走する少女」から始まる詩は、最初は三人のユニゾンですが すぐに左右で違うことを言い出す、 相手の言葉にかぶせて違う言葉でハモる。 ユニゾン自体はそんなに面白くないんだけど、 三人いると和音でハモれるし、マイクが左右+真ん中という 3チャンネルなのも音響的に面白い。 古くは「ダークダックス」から、 「サーカス」「ハイファイセット」、 そして「ゴスペラーズ」「レプリカ」「チン☆パラ」 といったコーラスグループの音で、 まあ、声帯模写的なボイスパーカッションはやってないので 音的にはサーカス辺りに一番近かったのですが こういう朗読もあるんだという衝撃はありました。 三人の内の二人が、背中を合わせて朗読したときも 片方が明るい声で建前を、もう片方が暗い声で本音を 声が重ならないように交互に詠むというわけではなく、 声が重なるようにハモって詠むというわけでなく、 片方が言い終わる前にもう片方が言い始める 半分ハモり、半分ソロという全部は聞き取れないんだけど それが味として成立しているという朗読でした。 また、私の家の近所で、ゆずに触発されて路上演奏する人たちが 増えていた時に、キロロ http://www.jvcmusic.co.jp/-/Profile/A011363.html みたいなルックスの女の子二人組が 「フォーク界のアイドル」みたいなキャッチコピーで 少し持ち上げられたときがあるんですよ。 で、まあ、そこそこ味わいがあって良い二人組だったのですが どこでどう間違えたのか、あるときその、 アコースティックギターを抱えたキロロが、 セーラー服着てガングロメイクで歌ってたんですね。 「違う!違うぞ!キロロ!」と 私は心の中で叫びましたが、その後、その二人組は みかけなくなってしまいました。 私はワニラにも同種の懸念を持ち、 打ち上げでワニラにその話をしたら 彼女達は笑って「それはない」と言ってました。 私はマニアックなアイドル論を展開し、 こんなマニアックな話はどうせ分かってもらえないだろうけど これだけは言っておかねばと思い 「アイドルには適度なダサさが必要なんだ」と 言ったところ、なんとワニラの口から出た言葉は 「大丈夫、プロデューサーのカワグチさんは 私達にジャージを着せようとしているから」 と言い放ったのです。 プロデューサー、ジャージ・・また俺を超えるマニアックなことを。 一応、私なりのアイドル観を書かせて頂くと、 アイドル冬の時代(おニャン子クラブから広末涼子にかけての時代) のアイドルは、アイドル好きじゃない芸能事務所が 商売でアイドルを育てているのがミエミエだった時代でもあります。 事務所がオーディションをしてグループアイドルを売り出すときに メンバーの選び方や売り出し方が、何か違うと感じれたわけです。 この時代のアイドル、東京パフォーマンスドールとか 南青山少女歌劇団とかribonとかQlairとかいうのは 整っているけど、特徴のない人達が選ばれている訳です。 美人=顔や体型の整った人達だとすると、 美人ばかりを選んでいる。世間一般でこういうのが美人だと されるフォーマット通りの人達ばかりが選ばれている。 街頭で「美人というのはどういう人ですか?」と アンケート調査をとって、出てきた美人の条件を すべて兼ね備えた人達ばかりを採用している。 アイドル冬の時代を終わらせた広末涼子は 美人という抽象的な概念(イデアルタイプ)から あきらかに、はみ出していながら、 具体的なルックスを見せられると、美的快感を得てしまう。 美人というのはこういうルックスをしているという 抽象的な概念にすりよったのでなく、 広末という個の存在によって、美の枠組自体を変えた人なんですね。 概念の側が個にすりよったわけです。 個性的な顔と言うと一般にブサイクを意味するが アイドルというのは個性的な顔でありながら、 見る人に美的快感を与えなくてはならない。 冬の時代のグループアイドルは、 整っているけどファッションモデルのような 無個性なルックスってのが多かった。 ファッションモデルは服が主役なのでモデルの個性が 前に出過ぎているとまずいが、グループアイドルは グループとしての統一感と同時に、 グループ内での役割やポジションが見えていないとまずい。 初期モーニング娘では、 1プロデューサーから無理難題が出される。 2グループに衝撃が走ってオロオロする。 3年長の中澤裕子がグループに活を入れて結束させる。 4困難を乗り越える。 5緊張から開放された瞬間、年少の福田明日香が泣き崩れる。 6泣いてる末っ子の福田を中澤が抱きしめる。 この流れが定型だったわけです。 グループ内での役割やポジションがある程度見える。 今のモーニング娘の五期生・六期生だけで作る ドキュメンタリー風のドラマに、メンバーの個性や グループ内での役割やポジションが見えるかと。 後藤真希等の新人が入ってきたときにやった教育係制度は まさに上のストーリーの、 中澤裕子役に教育係(後藤のときは市井)、 福田明日香役に新人を入れての同型物語だった。 ダメなグループアイドルはグループ内での個々のポジションや 役割が明確でないためストーリーが発生しない。 が、ワニラは三人というグループアイドルとしては 少数メンバーながら、 優等生=奈緒(なお)、ツッパリ=ユーリ、劣等生=小夜(さや) という役割が確立していた。 出来杉くん・ジャイアン・のび太、 映画「スタンドバイミー」で言えば 原作者=スティーブンキングを除く、 三人がまさに、リーダー格のリバーフェニックスに 血の気が多い不良眼鏡に、太っちょの劣等生という 物語を構成する最少単位がそこに描かれている。 大人受けのする優等生と、同世代向けの不良と 優等生にも不良にもなれなかった人達の共感を誘う劣等生、 ちゃんと、全方位外交できているのがワニラというグループだ。 ファッション的に言うと、ブティックのショーウィンドーにある マネキンが着ている服を上下セットでそのまま着ているような 印象の奈緒、 ショートカットで黒のジャケットに黒のズボンと黒の靴という 一つ間違うとバリバリ伝説に出てくる 暴走族ファッションになってしまうユーリ、 そして、ミニスカートやヘソ出しのタンクトップと言った 露出の激しいセクシー系アイテムを 長袖長ズボンの上から着るといった絶妙にダサい着こなしをこなす 小夜。 ユーリの名前が、元左翼だった父親が造反有理から取って 付けた本名だと聞いたときは、爆笑した。 アイドルには客席が親近感を持てるぐらいの 適度なダサさが必要なんだと、ワニラ・カワグチタケシさんに 会うたびに言っている私ですが、 この間の村田さんの朗読会の二次会で、 カワグチさんとしゃべったら、 「そろそろワニラもアイドルじゃなくて アーチストにならなきゃいけないから精練されても良い頃だよね」 「そのワニラ観は違うよ。いま、小夜が不良で、奈緒が劣等生で、 ユーリが優等生。」 「僕はもっと下の世代の新人(筑波出身の女子大生で詩学 http://www7.ocn.ne.jp/~shigaku/index.html に載ったりもしてる加藤亜由子(かとうあゆこ)さん。)扱ってるから。」 確かに最近、奈緒さんは仕事が忙しくて ポエトリーになかなか参加できないらしいし、 三人での練習にも加われないことが多いらしい。 小夜さんは、チェーンスモーカーになって ハスッパな感じが70年代の桃井かおりだし、 ユーリさんは、一人で朗読するときの漢文訓読調の硬筆な擬古典文体が 高い評価を受けていて、 5月第4日曜日のベンズカフェのスラムでも一位になったらしい。 二〜三本ののマイクが使えるカラオケボックスで 朗読の練習をしていたというワニラも、 最近はなかなかフルメンバーでの朗読が見られない。 見られたところで、異なるメロディ異なる言葉を 同時に発声させるハモリでなく、 同じメロディ同じ言葉を同時に発声するユニゾンだったりするので 三人グループであることのメリットが生かされてないことも多い。 かわりに個々の朗読の質は上がっていて、 奈緒さんの朗読は、詩なんだけど4音・8音を基調とした 四分の四拍子の譜面に乗る朗読だし、 小夜さんは和語を多用した柔らかい文章で、 妻や母の視点で描かれる詩は実年令よりも背伸びした内容で 背伸びから発生するズレが妙な面白さを感じさせる。 正直、ワニラはもう少し評価されて良いグループだと思う。 2ウドム・テーパーニット 第一回文学フリマ http://bungaku.webin.jp/ で知り合った白石昇さん http://www.geocities.co.jp/Hollywood/2444/ という人がいまして、タイの国民的芸人「ウドム・テーパーニット」 さんのタレント本「エロ本」 http://hp.vector.co.jp/authors/VA028485/erohonyakaritenpo.html てのを翻訳していたりします。 白石さんに 「こういった一人語りの表現形式で長い時間やられる方って どなたかいらっしゃいますか?  一応ロビン・ウィリアムスのスタンドアップ・コメディが 一時間四十五分で、マルセ太郎さんの映画語りが二時間半近くになる、 ということは存じているのですが、 一人語り芸の時間的限界というものがどの程度なものか知りたいのです。  落語とか漫談とか、一番長くてどれくらいやるんですかね? また、今日本で人気らしい綾小路きみまろさんなんか どれくらいやってるんですかね。」 と言われたのを受けて 「綾小路きみまろさん(LIVE生中継カセットテープ45分) http://www.kimimaro.com/ 古館伊知郎「トーキングブルース」(二時間半) http://homepage2.nifty.com/BASH/play/talking.html 劇団ひとり(一時間) http://www.avis.ne.jp/~reina/owarai/04/report/03/04-01-01.htm イッセイ尾形さんや嘉門達夫さんやさだまさしさんなんかも 二時間ぐらいだと思うのですよ。 高校時代の友人がさだまさしさんのライブに行ったら 2時間半中、歌を歌ったのが3曲ほどで、 後は全部トークだったと言ってましたし 学生時代落語研究会に入られていたさださんは、 ライブ中のトークだけを集めたライブCDを12枚も出されているので やろうと思えば、12時間ぐらいやれるのではないでしょうか? http://www.sada.co.jp/disco.html 一人語り芸ではないですが、ダウンタウンは 24時間ライブを生でされてましたし、 古館さんのトーキングブルースも年末に終電終わりから始発まで、 AM1時〜AM5時まで約4時間一人でされてました。 曖昧な記憶で申し訳ないのですが 好色一代男の井原西鶴も、 神社の境内で24時間で一人で俳句をどれだけ詠めるか 人前でやって、二万三千五百句詠んだとかいう話があります。 http://www.pat.hi-ho.ne.jp/hirosilk/o131.htm http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0618.html 」 と返したところ ウドム・テーパーニットという人は、白石さんいわく 「一人の舞台で 木棚様に教えていただいた情報を元にして考えると、 三時間以上ひとりでやるとお客さんにも事前わかっているにも関わらず キャパシティ千人以上のハコで三十公演以上のチケットを 二、三日で売り切っちゃう人は、 スポークンワードと言うか独り語り藝の世界チャンピオンクラス、 と謳って宣伝してもかまわないと言う結論に達しました。」 というようなスポークンワードの世界ランカーの人らしくて その人の舞台を収めたVCD(ビデオCD)が 下記のHPで購入できます。(要英語) http://www.ethaicd.com/show.php?pid=12073 また、ウドムテーパーニットさんを紹介した白石さんの文章が 雑誌「ダコ」 http://www.daco.co.th/ の 143号に掲載されているようです。 興味のある人は見てください。 ウドム・テパーニットさんの芸で私がVCDで見せてもらったのは 「立ちションをしている最中に後ろからくすぐられている人」の 形態模写でした。言葉が分からないだけに、印象としては しゃべりというよりサイレント映画的な形態模写の笑いで イッセイ尾形さんと少し近いかなと感じました。 ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□ 【賞なしコネなしやる気なしで作家を気取る100の実験メルマガ】 登録ページ http://www.pat.hi-ho.ne.jp/kidana/mmg.htm 登録と解除は上のページで。 関連HP:掲示板に感想・御批判入れて下さい。 http://www.tcup3.com/356/kidana.html 発行者 木棚 環樹:kidana@pat.hi-ho.ne.jp ■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□■■■■□