RFKスタジアム

 96年・夏、アメリカ横断旅行中のぼく。ホワイトハウス見学の長い列に並んでいたとき、新聞の片隅に、
今日ここワシントンDCで”MLS”の試合があることをみつけた。

MLS(Major League Soccer)は、1994W杯の成功をうけ、アメリカにサッカーを定着させるべく
その年誕生したばかりのプロサッカーリーグである。アメリカでサッカー、というと、やや意外な
感じがあるけど、結構な盛り上がりをみせているらしい。

 ワシントンDCのダウンタウンから地下鉄ですぐ、駅からも程近いところに、RFKメモリアル・スタジアムの
巨大な姿があった。本来はNFL・レッドスキンズの本拠地(現在は新スタジアムに移転)であり、フィールドを
みるとアメフトのヤード表示がはっきり残っていて、なんか変な感じ。5、6万人収容のスタジアムなのでパッと見
さびしい入りだが、それでも1万人くらいの観衆だろうか。

観客のほとんどは中南米系のひとで、ほとんど英語は聞こえてこない。場内のコーラ売りも、「コーコー!」とか
なんとか言っていて、ここがアメリカであることを忘れてしまうような感じ。しかし、この光景も多民族国家・USA
の当たり前の一面であり、MLSの成算もサッカーを良く知る彼らヒスパニック系市民の存在にあるといってよい。
実際、西海岸ロサンジェルスでは、平均数万人を集める大人気らしい。

そうはいっても、”サッカー不毛の地”であるアメリカでサッカーの魅力をわかりやすく伝えるため、MLSは独特
のルールをいくつか制定した。

 ・同点の場合、PK戦ではなくシュートアウト戦
  
(センターサークルからドリブルしていき、GKと一対一で勝負)を行う
 ・
計時は45分からのカウントダウン方式、必要があれば時計を止め、ロスタイムなし

いかにもアメリカ的だったこれらのルールは、その後世界標準に戻された。ファンの目が肥えてきたからなのかも
知れないが、ややさびしい気もする。
 日本より3年遅れて誕生したMLSは、Jリーグ失速の轍を踏まないよう、”小さな経営”を心がけており、選手の
年俸はJ2並み。世界のビッグネームは少なく、いても超ベテラン、という感じだが、その代わり個人技に優れる
南米系の選手が多いようで(ちなみに外人枠は4人)、観ていて楽しいサッカーが展開されていた。過去何回か
MLSのチームがJリーグチームと試合をしているが、その際の内容からしても、プレーのレベル的にはJリーグと
ほぼ同じ位、あるいはJがやや上、というところだろうか。

 

 この日の試合は、前半にホーム・DCユナイテッドが先制。歌い踊る熱狂的ファンが陣取るあたりがちょうど仮設
スタンドのような構造になっており、彼らが跳びはねるたびスタンドがユサユサ揺れるのが遠目にもはっきりわかる。
 後半、一旦は逆転を許すも、のこり10分、フリーキックのチャンス。蹴るのはエース、
ボリビアの悪魔”ことMFエチェベリ。
 フルパワーのシュートは、キーパーをあざ笑うかのようにネットに突き刺さる!

 ゴール!! 飛び上がってよろこぶぼくのあたまに、上の階からトイレットペーパーだの、紙コップだの、
なんだかいろいろ降ってきた。。。
 あの瞬間、スタジアムに湧き上がった、噴火のような大歓声は、確かにいままできいたことのない、
”本場”の音だったと思う。


 その後、順風満帆とはいかないまでも、アメリカにしっかり定着した感のあるMLS。
チーム数も14まで拡大し、代表チームも、メキシコと並ぶ北中米地区のW杯常連国となった。
一方、こちらは既に世界トップの力を持つ女子サッカーの世界でも、新プロリーグ
WPSが2009年に誕生、
日本人選手も加入し、今後の展開が期待される。
 アメリカがサッカー大国となる日は、もう目の前まで来ているのだ。

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