メトロドーム


壁面のファーヴも「出撃準備完了」。

 アメリカへ行くのは約15年ぶりだが、旅の準備は随分と楽になった。むかしは「地球の歩き方」だけが情報源で、
宿は飛び込みで探したものだった。それが今はインターネットで、往復の飛行機・宿、そして日本では入手困難
だったNFLのチケットまで予約することができる。世の中の進歩に感謝しつつ、成田空港にむかった。

バイキングスの本拠地・ミネソタ州ミネアポリスはアメリカ北部の中都市だが、旧ノースウエスト航空
(デルタ航空)
のハブ空港があるため、日本から直行便が飛んでいる。「VIKINGS」の名称は、ミネソタ州に北欧系の移民が
多いことに由来する。
空港のそばには全米最大規模のショッピングモール
「モール・オブ・アメリカ」があり、到着後さっそくのぞいてみる。
土曜の夜とあってすごい人出だ。中に遊園地まである広大さで、めざすチームショップが見つからずにずいぶん
歩き回ってしまったが、ファーヴのジャージ、大リーグ・ツインズのキャップなどを大量に購入。
冬場は極寒の地となるここミネソタ州では、衣類は無税。ちょっと得した気分だ。

ホテルに帰って背番号4のジャージを試着、よっしゃピッタリだ!(ユース用だから…)
…いよいよ明日、メトロドームでバイキングスを観るのだ。興奮して、その夜はなかなか寝付けなかった。


 


翌朝ホテルの朝食会場は、両チームのジャージを着たひとでいっぱいだった。外は曇りで寒そう、15度くらいか?
きょうの対戦相手、マイアミから来たファンも寒かろう。しかしこっちは日本から20年越しだ、負ける訳にはいかぬ。
メトロドームはダウンタウンの外れにあり、徒歩でいくことができる。ファンの列がスタジアムへと続く。すれ違う
ひとに
「試合は何時からだい?」と聞かれ、「Noon!」と返す。街全体がホーム開幕戦の期待感につつまれていた。

1982年オープンのメトロドームは、東京ドームのモデルとして知られている。たしかに外見はうりふたつだ。
手荷物検査をうけて
(メトロドームはバッグ類の持ち込みを禁止しているので、手ぶらをおすすめする)回転ドアから
入場すると、売店が並ぶコンコースの様子なども良く似ている。
腹ごなしにとチキンバーガーを買ってみたが、残念ながらこれまた東京ドームと良く似たお味だった。


 

ぼくのチケットは2階のコーナー付近、76ドルの席。通路を抜けたとたん、巨大な空間が目の前に広がる。わぁ……
これだけは記念に残しておきたくて、後ろの席のひとに頼んで写真を撮ってもらった。


Dreams come true!

向こうのひとは試合開始前から盛り上がる習慣はないらしく、30分くらい前からようやく人が増えてくる、という感じ。
いつの間にかメトロドームは64,000の観衆で埋まった。いよいよキックオフ!

最初の攻撃はバイキングスから、パープルのジャージのブレット・ファーヴが登場した。先週のロードでの開幕戦は
落としたものの、故障明けのファーヴはまだ調整運転といった感じで、今週からエンジンがかかってくるはずだ。
果たしてバイキングスは順調に前進し、フィールドゴールは確実な距離まで攻め込んだが、タッチダウンを狙った
ギャンブルは失敗…。思えばこれが苦戦のはじまりだった。
その後もタッチダウンを狙ったパスをレシーバーが弾いてしまいインターセプトを喫するなど、ちぐはぐな攻撃が
続きいいところなし。前半0−7はむしろ御の字だ。

後半、さらにリードを広げられてようやくファーブが目を覚ます。攻撃にリズムが生まれ、相手ゴール前まで迫るも
ここでまたもインターセプト! 今日はもうダメかと思ったが、ここで守備陣が奮起、相手のファンブルを誘発し
たった1プレーで攻撃権を取り返した。しかもゴールは目の前、絶好のチャンスだ!
こんどこそのチャンスに、ファーヴはエースランナーのA・ピーターソンにボールをあずけて難なくタッチダウン!!
 ヨッシャーーー!!! 熱狂の中、みんなで応援歌"
Skol, Vikings"(←音が出ます)を大合唱!
♪V−I−K−I−N−G−S、Skol,Vikings、Let's Go〜♪  待ってた、20年間待ったよこの瞬間!

 


全体の大きさのわりには、意外と見やすい印象。

 

これで息を吹き返したバイキングスは、更にフィールドゴール1本を返し10−14、1タッチダウンで逆転の点差まで
詰め寄った。ファンのボルテージも最高潮に、相手の攻撃のときには、大声で叫び、
”クラウドノイズ”を浴びせる。
単なるブーイングとは違い、相手の指示を聞こえづらくするための”作戦”で、ファンも一緒に戦っているのだ。
アメフトの本を読むと
”本場のクラウドノイズは飛行機の離陸するときの騒音に匹敵する”みたいなことが書かれていて、
まさかそこまで…と思っていたのだが、それは本当だった。となりのひととの会話も不可能は状態で、こりゃロード
チームはたまらんなと思う。


64000の大観衆!うるさい!

 

その甲斐あって相手の攻撃をシャットアウトしたバイキングスは、残り時間6分でファーヴに逆転の攻撃を託した。
土壇場での逆転劇は背番号4の十八番、相手に再逆転の時間を与えないことまで考慮しながら、着実にボールを
進めていく。しかしゴール前で相手も必死の抵抗を見せ、ゴール前1ヤードでラストプレーを迎えた。
たった1ヤード、されど1ヤード。力と力の限りない激突、アメフトの真骨頂だ…などと緊張感を楽しむ余裕はなく、
ぼくはただただ勝利を祈った。

頼む、勝たせてくれ…!


最後のチャンス!

 

 え、うそ、止まった…? ぼくの席からは遠いサイドでプレーはよく見えなかったが、相手ディフェンスの選手が
駆け出して喜びを爆発させるのが見えた…負けだ。スーパーボウルを狙うには痛すぎる開幕2連敗。
老雄ファーヴとバイキングスの挑戦と、ぼくの20年の夢はここについえた。
来週に期待しようという意味か、チアリーダーが
”Skol,Vikings(スコールはスカンジナビアの言葉で「乾杯」の意)”
を踊って見せたが、結果を見届けた観客はあっという間にほとんど帰ってしまい、ぼくのまわりはピーナッツの
からとゴミだらけだった。

Oh−!と一応英語で嘆いて、緑のフィールドをうつろに眺める。去年の最後と同じ、あと一歩、が届かなかった。
…まったく、スポーツ応援というのは因果な趣味だ。自分の力の及ばないところで、死ぬほどくやしい思いを
しなきゃいけない。だけど、100%勝つんだったらそもそも観にいく必要もない。負けるかもしれないからこそ、
応援に行くのだ。
くやしい負けがあってこそ、勝ちの喜びがある。次また来ればいいじゃないか。。

そんなことを考えて気を紛らわそうとしてみたが、次いつ来れるのか、そしてその時にはもうファーヴはいないで
あろうことを思うと、くやしさはつのるばかり。「あと1ヤード」が取れていたらどれだけの喜びが味わえたのか、
想像もつかないことが、くやしい。
ともあれ再訪を誓って、ぼくはメトロドームを後にした。まだ旅は始まったばかりだ。

 


 

 結局、2010年のバイキングスは6勝10敗と負け越しに終わり、ファーヴは自身2度目のスーパーボウル制覇
を果たせぬまま、引退を表明した。その年のバイキングスは災難続きで、寒波による大雪でメトロドームの屋根が
ペシャンコになってしまい、極寒の屋外でゲームをするという事態も発生した。

かねてより老朽化が指摘されているメトロドームだが、州が税金投入に否定的で(アメリカでは、スタジアムは公費で
建設されるのが一般的である)新スタジアム計画は進んでいない。これで機運が高まればよいのだが、それでも
進捗が見られない場合、フランチャイズ移転という最悪のケースも取り沙汰されている。

くやしい思いも、すべてはチームがあってこそ。今は、ぼくにリベンジの機会が残ることを祈るばかりである。

 

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