釜山慶南競馬公園



ミスターピンク、流し目は健在!!

 宇都宮競馬場亡き後、当地のエースミスターピンク”こと内田利雄騎手は、地方競馬初の「フリー騎手」となる
ことを宣言した。通算3000勝の実力をもってすれば、南関東など賞金の高い地区への移籍も可能と思われた
が、あえてそれをしなかったのは、
(馬と一緒に遠征する場合を除いて)所属する競馬場以外では騎乗できないと
いう地方競馬のルールに一石を投じるためであった。

現行ルールではフリー騎手は認められていないので、短期間に移籍を繰り返すというかたちで、全国の競馬場
を転戦する生活がはじまった。スポット参戦ゆえ、なかなか優秀な馬には恵まれなかったと思うが、各地で一定
以上の成績を残すことにより、
「フリー騎手」の存在を認めさせていった。

そして今では、完全なフリー騎手は認められていないものの、多くの競馬場でスポット参戦を受け入れる制度が
整備され、各地のトップジョッキーが賞金の高い南関東に参戦したり、逆に南関東の若手がレース経験を求め
高知競馬に行くなど、競馬場間の騎手の移動は日常的なものになっている。

 こうして地方競馬に風穴を空けた内田騎手の次なる移籍先は、なんと海外であった。2008年春、マカオで現地
のGT・マカオダービーを勝ったときには、ヤフーのトピックスにも取り上げられ、そこにリンクされた当ページ
宇都宮競馬場)にアクセスが殺到?という珍事も起こった。
同年夏から、韓国・プサンの競馬場へ転戦したミスターピンクを追って、ぼくも海を渡った。



プサン競馬場
(正式名称は『釜山慶南競馬公園』)は、2005年にオープンした韓国で3つ目の競馬場だ。
市街中心部からのアクセスは、地下鉄1号線で西へ約20分のハダン(下端)駅からの無料バスを利用する。

場所的には空港からも近いので、日程が合えば空港からタクシー直行という手もあるかもしれない。

   
出口を出るとすぐ目の前にバス。フロントガラスの黄色いボードが目印。
時刻表は左列がハダン駅、右が競馬場の発車時刻。

無料バスの停留所がどんなものかわからずちょっと緊張したが、ハダン駅の@出口を出ると、目の前に
「それらしい」観光バスが停車しており、競馬新聞らしきものを持ったおじさんが次々と乗り込んでゆく。
これに間違いない。
バスでおよそ20分の道中、車内ではさっそく新聞を広げ検討開始。ひとりごとに横から口を挟むおやじ、

という光景は全く日本と変わらない。

大きな川を渡り、周囲が荒れ地めいてきたころ、向こうにスタンドが見えてきた。ついに来たぞ!
強い雨にもテンション上がる。

 


入場門からスタンドまでは結構な距離があり閉口したが、ピカピカのスタンドに入ってしまえば快適そのもの。
スタンドの設備もそうだが、その客層もJRAなみに若い人が多く活気がある。賞金も下級条件で1着100万円

ほどあり、日本でいえば南関東なみの高水準である。

この競馬場の開催日は金・日曜日が原則だが、きょう日曜日はソウル競馬場との併売なので、自場のレース
は6Rしかない。1Rまで時間があるので。競馬新聞(ブックタイプ)をじっくり読み検討。
海外の多くの競馬場がそうであるように、無料のプログラムにも馬柱等の情報は掲載されているので、腕に
自信のあるかたは新聞不要かもしれない。


競馬新聞とマークカード。

予想したら今度は腹ごしらえ。食堂はスタンド下(コース側からしか入れない)と2階にあるが、どちらも品揃えは
ほぼ同じ。チゲやビビンバ、その他おでん等の屋台メニューもある。ただし食堂以外の飲食店は一切なく、
つまみ歩きの楽しみが無いのはやや残念。結局、ククス
(あたたかいそうめんのようなもの)を頂く。



うまくもまずくもなし。

そして2Rのパドック、いよいよ内田騎手登場。おなじみのピンクの勝負服、プサンで会えるとは…胸が熱くなる。
騎乗する前の馬にむかっての一礼、そして
「百万ドルの流し目」も健在だ。

この2Rは人気薄ながら5着、そして3Rは叩き合いを制して2着!
スタンドからは「
ウチダ、ワラ!(来い!)」の声が飛ぶ。
そして4Rは3番人気、直線一旦は抜け出すも、ゴール前でブービー人気に差されまたも2着、おしい!

最終Rのパドックでは、韓国人から「
ウチダサン、ガンバッテクダサイ!」と日本語の声援が。
ここプサンでは、わずか半年の滞在ながら現在勝利数トップ、ファンの心もがっちりつかんだようだ。


500mの直線での叩き合いは見ごたえあり。

 結局この日は、先頭でゴールするシーンは見られなかったが、内田騎手は勝率20%を超える大活躍で
見事プサン競馬場のリーディングジョッキーに輝き、2008年末に帰国した。
その功績をたたえ、NRA
(地方競馬全国協会)から特別賞が贈られた。

 その席上で、現地からのオファーで翌2009年もプサン競馬場に参戦することが発表された。
まだ歴史の浅いプサン競馬は、人馬とも実力でソウル競馬場に水をあけられている状態で、ソウルに追いつけ
追い越せが大きな目標だ。そんな中で、日本の3000勝ジョッキー・内田利雄の経験と技術は、現地関係者に
とって大きな財産になっているようだ。
内田騎手自身もその役割を強く意識しているようで、この冬は北海道で調教の技術を学んで、プサンで伝えたい
とコメントしていた。

かつて野球の世界では、韓国や台湾に渡った日本人選手が活躍し、現地のレベルアップに大きく貢献、今は
同じ土俵で戦うライバルになっている。同じことが、競馬でも始まろうとしているのではないだろうか。

 

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