足利競馬場
2003年3月3日。またひとつ、日本から競馬場の灯が消えてしまった。
足利競馬。渡良瀬川沿いに広がる、小さな市営の競馬場。。
東京方面から足利に行くときは、東武伊勢崎線が便利。足利市駅で下車すると、目の前は
渡良瀬川の土手だ。鉄骨のアーチが美しい、中橋という橋を渡れば歴史の街・足利の市街地へ、
そしてもう一本上流側にかかっているのが、森高千里の歌に名高き『渡良瀬橋』である。
渡良瀬橋を渡って土手沿いをさらに歩くこと約20分、足利競馬場にたどりつく。
おそらく、スタンドとコースの近さは日本一。そのスタンドからの景色といえば、渡良瀬川の
土手と、その向うに背の低い山々が寝そべるように広がり、実に伸びやか。宇都宮・高崎と
ならび「北関東3場」といわれたが、最も”北関東らしい”ながめだったと思う。
コースは一周1100mと短いが、コーナーの進入角度を抑えて、スムースなコーナリングが
できる「スパイラルコーナー」を採用、スピード感あるレースを楽しめるのが自慢だった。
入場者が少ないせいなのか、場内の食事処はあまり充実していなかったので、ぼくはよく
わざわざ場外に出て、西門のすぐそばにある食堂に入った。店は2階の高さにあるため、
3コーナーから4コーナーを走る馬たちを眺めながら食事ができる穴場だった。最後にその店に入ったのは最終日前日。『レストラン 渡良瀬』という名前であることを、
ぼくははじめて知った。エビフライ定食を注文して、北風が吹きつける馬場を眺めていると、
常連さんがやって来て、きょうは○○さん来た? なんて会話を奥さんとしている。
競馬場通いのひとの溜まり場になっているのだ。
次のレースがまさにゲートイン、というとき、エビフライ定食のでき上がり。料理を運んできた
ご主人の手には双眼鏡が握られ、奥さんと一緒に熱心にレースを追っている。。 この店が
2階にあるのも、やっぱり競馬を見るためなんだね。もちろん、エビフライはぷりぷりで美味し
かったですよ。 ごちそうさまを言って店を出る時、「いってらっしゃーい、がんばって!」と
送ってくれました。
ギャンブル激戦区の北関東にあって、市営での競馬運営はまさに孤軍奮闘の感があり、
もう何年も前から廃止がささやかれてはいたが、それでも新馬券を導入したり、まだまだ
頑張る姿勢を見せていただけに、決定を聞かされたときはショックだった。
渡良瀬橋からの夕景。ひとことでいえば、止むを得ない、ということなのだろう。それはわかる。 でも..
もしこの街に競馬場が無かったら、ぼくは足利に何度も足を運んだだろうか?
もう、渡良瀬川の夕陽を見ることはなくなってしまうのだろうか。。そう考えるとき、競馬場があることによって生まれた、ぼくと足利という街の”縁”と、
それが失われてしまう悲しみについて思わずにはいられない。