高崎市浜川競技場


新幹線の下にスタンド。

 かつて"FCホリコシ"の名で群馬県のサッカーをリードしてきたアルテ高崎。しかしJFL入りは飛び級制度の恩恵を受けたザスパ草津に先を越されてしまう。2006年からはJリーグを意識した現在のチーム名に改めるも、財政問題等でJ準会員申請は頓挫。その後は成績も低迷し、07-08シーズンにかけては1年以上白星から遠ざかるなど、すっかりJFL最弱チームのイメージが定着してしまった。

しかし2009年、かつてコンサドーレ等で活躍した後藤義一を指揮官に迎えたアルテは、それまでがウソのような躍進を見せる。ここまで10試合を終えて5勝4分1敗で4位。第11節は2位のジェフリザーブズをホームに迎えての対戦だ。ジェフ千葉の下部組織であるジェフRともども、Jリーグ参加資格はない。それでも、J2への昇格条件である4位以内に入り、その力を示すことは両チームに共通した目標だ。 今日は絶対にいい試合になる!
 新生・アルテの戦いぶりを観るべく、高崎へクルマを飛ばした。


 高崎市浜川競技場までは、関越・前橋ICから約20分ほどの道のり。クルマ社会の群馬らしく、大きな駐車場が確保されているが、高崎駅西口からの
群馬バス(「附属高校入口」下車)の他、市内循環バスでもアクセスできるのはうれしい配慮だ。

公園の敷地内を長野新幹線が横切っており、その高架とくらべるといかにもスタンドが小さく見える。売店兼チケット売場ではボランティアの子供が切符を売ってくれ、ほのぼのとした気分で入場。スタンドは小ぶりで、JFLの基準も満たしていないそうだが、スタンドの半分を覆う屋根があるのは◎。ちょうどこの日は小雨交じりで、多くの家族連れが屋根の恩恵にあずかっていた。
少々の雨などものともしない高崎サポーターの向こうには長野新幹線。アウェー側に目を転じると、やや遠くに上越新幹線が走っているのも見えるではないか! 晴れていれば正面には赤城山が見えるはずで、左右に新幹線、正面に赤城の山と、超豪華?な眺めのスタジアムだ。

 さて試合の方はというと、前半からジェフRが押し気味に展開。アルテはなかなか決定機をつくり出せないまま、前半37分に先制を許してしまう。スピード・技術、ともにジェフがワンランク上回っている感じで、この時点で試合に対する興味はややしぼんでしまった。サポの写真でも撮るか、とカメラを向けてみる。

劣勢にもかかわらず高崎サポーターは、にぎやかに声援をおくっている。ときおり笑い声なども交じり、なんか楽しそうだ。JリーグでもJFLでも、サポーターというひとたちには必死さというか、ある種の悲壮感のようなものが漂っていて、それが一般客との間に壁をつくってしまったりもするものなのだが、高崎サポにはそれがないのだ。
気がつくと、さっきまで屋根の下にいた子供がカッパを着て応援に加わっていたりする。

後半アルテは交代カードを次々と切って何とか反撃に出た。呼応するサポーターの声が、次第に周囲の観客を巻き込んでいくのがわかる。300人余りが集うスタンドは、一種異様な興奮につつまれた。
これはすごいかも…アルテの選手たちよ、どうにか1点取ってみんなをよろこばせてやってくれ!


とその時!
ゴール前の混戦で、主審のホイッスルが! PKだ!!!!
大騒ぎする観客に、サポの人が「
静かに静かに!緊張しちゃうから!」とここでも笑いが。
そのかいあってか無事PKは成功。サポーターがアシストしたと言ってもよい、見事な同点劇だった。

残り時間は15分あまり、両チームの実力差を考えれば、このまま引き分けでも御の字だと正直思った。
しかしこれで火がついたアルテは、なおも攻勢を強めた。精度には欠けるが、前に出る圧力で相手をゴール前に押し込んでいく。好プレーには「屋根の下」からも拍手が起こるようになった。
そして88分、ゴール前、フリーの選手の足元にぽろっとボールが出て…入っちゃったよー!

その瞬間、アルテのベンチ全員がフィールドに向かって駆け出し、歓喜の輪ができた。
まるで優勝したかのような…とよく言うが、まさにその言葉通りの光景だった。
2−1でアルテ勝利。

 

 いやー、いいものを見せてもらいました。サッカーでこんなに興奮したのは久しぶりです。

 で…帰る道すがら考えた。試合を動かした高崎サポの、あの明るさは何だったのだろうかと。
それは、アルテ高崎がJリーグ準会員でないことと関係しているのではないだろうか。
昇格の為の勝点3を取りにいくのではなく、今日の勝利だけを純粋によろこぶ。


たかがサッカー、スタジアムでの一日を、楽しくすごせればそれでいいじゃん… そう言っても、
高崎サポには怒られないような気がします。

今後、アルテ高崎が再びJを目指すのか、それはわからないけど、今日のスタンドをつつんでいた
幸せな空気だけは、いつまでもそのままであってほしいと願うのです。

 

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