アップを終えた選手が一旦引き上げた、スタジアムが一瞬静かになる頃。
逆にぼくのどきどきは最高潮に達していた。 ああ、もうすぐ、はじまっちゃうんだ..
そのときが早く来てほしいような、もう少しこの時間を味わっていたいような、
締め付けられるような緊張。
..そして、あの聞きなれた極東テイストのテーマソングが聞こえてきた。
カメルーンは例によって、前の選手の肩に手をおき、一団となっての入場である。
緑と赤のユニフォームが目にまぶしい。
カメルーン、サウジアラビア両国歌の演奏。国と国の誇りをかけた戦いなのだ、と実感する瞬間だ。
5万人が起立し敬意を表する姿も、また壮観である。
18:00、主審の笛が鳴った。 不思議なものでいったん試合がはじまってしまえば、いつものサッカーと
同じように、冷静に見ている自分がいることに気付く。
初戦でドイツに0−8という記録的大敗を喫した相手だけに、ある程度余裕のある展開を期待していたが、
徹底的に守備を固めるサウジの前に、リズムある攻撃ができない。
逆に鋭いカウンターからたびたびピンチを招き、カメルーンサポーターは目の前で冷や汗をかくシーンの
連続となった。
それでも自力に勝るカメルーン、一瞬の隙を突きエムボマがゴールネットを揺らした、
かに見えたが、二度三度とオフサイドにかかりノーゴール。不安一杯の内容で、前半45分は終わってしまった。。「さすがW杯、甘くないね」
思わぬ苦戦に、前半のリプレイを見ながら苦笑い。
しかし、ここからが”不屈のライオン”たる所以である。
ちょうど7時をまわり、ようやくナイターの趣になった頃、後半のキックオフ!
カメルーンは、攻撃的MFオレンベを投入、攻めに厚みがでてきた。エムボマ・エトゥーの2トップが
次々とシュートを放つ。こちらに向かって攻めてくるので、むちゃくちゃ力が入る。
立ち上がり10分を過ぎてもなお相手を圧倒し続けるが、アジアNo.1GK、「スパイダーマン」こと
アル・デアイエの前に、あと一歩のところでゴールを割れない。
そろそろ取ってくれないと.. と誰もが思った後半21分。
反撃に出ようとしたサウジのボールを奪うと、ハーフウェイ付近から一気に長いパス。
快足を飛ばしDFの裏に出たエトゥーは、難なくボールを流し込む..!
目の前のゴールネットが揺れた。
ゴール !! まさに電光石火の、「カウンターのカウンター」。
若きエース、エトゥーの待望の先制ゴールに、重苦しかったムードは霧散し、
スタンドのアフリカンカラーが揺れる。そしてここからのカメルーンは、さすがアフリカチャンピオン、したたかだった。状態に不安の残るエムボマを
29分に下げると、あとは試合を落ち着かせ、相手の反撃の芽を摘むことに専念した。スタンドでは、タイコ抱え
たオジサンのやけに陽気な声に乗って、カメルーン♪ と日本人サポも声を合わせる。
ふとピッチの外に目をやれば、控え選手がアップの手を休め、がっちりと肩を組んで戦況を見つめる姿が印象
的であった。
結局、このまま1−0でタイムアップ。カメルーンは1次リーグ突破に向け貴重な白星を手にした。
それは、彼らにとっては最低限の結果であり、不満の残る内容であったかもしれない。でも、目の前に世界が来た、ゴールを見た、そして勝った!
そのよろこびは、そんな細かいことを忘れさせるものがあった。
ほとんどの人にとって、おそらくは一生に一度のチャンスを、モノにしたのだから!そんなスタンドの気持ちを知るかのように、キャプテンのDFソングは頭上で高々と、
ぼくらに向かって拍手を送ってくれた。
..自分の着ている「カメルーンヤッケ」が、とても誇らしく思えた。