朝日新聞 平成11年11月19日
尾張と三河のメダカは遺伝子の型が異なる―。こんな結果が新潟大学理学部自然環境科学科の酒泉満教授の研究で分かった。見た目は全<同じでも、場所によって遺伝子が異なることが身近で証明された。メダカは、絶滅の恐れのある種として、2月にレッドデータブックにリストアップされた。保護するため、メダカを飼育し、「よかれ」と思って別の場所に放流すると、地域特有のメダカの遺伝子を乱しかねない。酒泉教授は「取ったメダカを放す場合は同じ地域で」と呼びかけている。

遺伝子鑑定されたのは西尾市、岩倉市、立田村の三カ所のクロメダカで、それぞれ矢作川水系、庄内川水系、木曽川水系で採取、飼育された。このうち圧内川と木曽川は水系が近いとされている。
岩倉市を流れる五条川に生息するメダカを飼育し、放流活動をしている市民団体「リリオの会」(今枝久代表)が遺伝子の固有性を知りたいと、鑑定を依頼していた。
酒泉教授によると、分析は特定の還伝子を比較する方法をとった。
西尾で捕獲されたメダカは山陰地方から東北地方の太平洋側にかけて広く分布する「8型」と呼ばれる遺伝子を持っていた。これまでの調査で豊橋市、小坂井町、三重県鳥羽市、静岡県磐田市などのメダカでも同様の還伝子が鑑定されている。
一方、岩倉市と立田村仇ものは佐織町、岐阜県大垣市、安八町などのメダカでもみられる「14型」と呼ばれる遺伝子を持っていた。
酒泉教授は「尾張のメダカと三河のメダカは見た目は同じでも、遺伝子組成は異なっている可能性が極めて高い」と話している。
メダカが減ったのは環境悪化や熱帯魚用のエサとして乱獲されたことなどが原因とされている。
野生メダカの地域性を保護する運動をすすめる「日本野生メダカ保存会」(福島県)の鈴木広茂会長によると、メダカは、フナやコイなどと異なり、商業用の交配がほとんどなく、人工的な移動も少なかったため、地域固有の遺伝子を脈々と受け継いできた。
ところが、二月に絶滅の恐れのある種に指定されて以来、興味本位でぺッ卜として飼おうとしたり、養殖して増やそろとしたりする人が増えているという。
酒泉教援は「地域差もその生物の持っている多様性の一つなので、大切にしてほしい」と話した。

例会・トピックスインデックスへ戻る