平成12年1月3日(月)中日新聞社会面

環境庁の「レッドデー夕ブック」に加えられ、絶滅の恐れのある天然のメダカを増やそうと金魚の産地、愛知県海部郡弥冨町の養殖業者らが今春から、地元のメダカの養殖に乗り出すことになった。メダ力は地域によって種類が異なり、産地とは別の川へは生態系を乱すため放流できない。そこで、地元で捕獲して育てたメダカを地元の川に返すことで、天然メダカを増やす考えだ。高校教諭らの調査で、海部郡内の小川など数カ所でメダカの生恵を確認。まず海部郡内のメダカから養殖を始める見通しだ。(蟹江通信部・岩佐和也)

 この養殖業者は、弥富町平島新田の三輪守夫さん(六二)。昨年二月、天然メダカが環境庁の「レツドデー夕ブツク」に加えられたことをきっかけに、メダカの養殖を思い立った。
突然変異体のヒメダカの養殖経験がある町内の他の業音と協力し、昨年四月、中国地方から約二万匹のメダ力を取り寄せ養殖を始めた。メダカは順調に繁殖。十万匹以上に増えた。だが、メダカは地域によって微妙に種類が異なるため、そのまま地元の川へ放流するわけにはいかない。その川の生態系を乱す可能性があるためだ。増えたメダ力は、今は県内の小中学校への無料配布を考えている。
 「昨年の取り組みは、メダカ保護、養殖のノウハウという意味で意義があったと思う」三輪さん。 一方で「どうやって自然に返すかという観点で課題も残った」とも。
 「今年は地元のメダカを養殖して、保護に役立てたい」と意気込みを見せる。弥富町内の小川に生息する天然メダカ数百匹を捕獲し、三月ごろから養殖に乗り出す予定だ。
 地元ではメダカの生息調査も進んでいる。海部郡蟹江町の県立蟹江高校校長の吉岡敏彦さん(六五)が昨年夏ごろから海部郡内の小川などで調査を始め、佐織町と立田村の水路など五カ所でメダカを確認。いずれも、泥が入り込み水草が生えた場所だったという。「海部郡内に残るメダカを保護できないか」と吉岡さん。三輪さんの取り組みに呼応し、「調査を地元メダカの養殖に役立ててほしい」と協力を申し出る予定だ。
 調査と養殖。それぞれに取り組む二人は今月中にも話し合いを持ち、本格的に地元メダカ養殖の準備に取り掛かるという。
 一方で、増やしたメダカをどう放流するかという課題も。捕獲した川に返す場合は問題ないが、別の川へ放てばその川の固有種を絶えさせる可能性もあるからだ。
 メダ力の生態などについて研究を進めている新潟大学理学部自然環境科学科の酒泉満教授も「放流するのであれば、できるだけ狭い地区に限定してほしい」と指摘する。
 酒泉教授の調査で、愛知県尾張地方と岐阜県美濃地方に生息するメダカは、その地域に限定された固有の種類であることが分かっている。だが、この地域内の固有種の中でも、「川によっては微妙に種類が異なる可能性もある」という。
 「たとえ同じ地域内でも、距離が離れていれば、それだけメダカの種類が異なる可能性も高くなる。その川の生態系を守るためにも、例えば海部郡のメダカなら海部郡内で放流するなどの配慮をしてほしい」と酒泉教授は話す。
 三輪さんらにとっても、どこにどの程度、放流したらいいのかは悩みの種で、酒泉教授ら専門家と相談しながら進める考えだ。
 ただ、メダ力が生息できる川がどれだけ残っているのかという根本的な問題もある。メダカは流れが緩やかで水草もあるきれいな川でしか生きられない。
 三輪さんは「本来なら、メダ力が生きていける川を取り戻すことが先決だ。私たちはメダカを増やすことしかできないが、養殖することで、環境整備を含めたメダカの保謹活動そのものを広げていきたい」と話している。
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