「誰か来ない?」
「大丈夫だろう、ここは…」
手塚はリョーマを膝の上に乗せて、会話の合間に何度も優しく口づける。
「霧が…またすごくなってきたっスね…あっ」
体操服の中に滑り込んできた手塚の指が脇腹をなぞり上げる感覚に、リョーマは身体をビクビクと痙攣させる。
「敏感だな」
「だって………っ、あっ、やっ!」
耳元で囁かれ、同時に胸の突起を摘まれて、リョーマは甘く声を漏らした。手塚の指が生み出す快感にそのまま流されそうになるが、リョーマの理性が漏れ続ける甘い声を堰き止める。
「待って…」
「どうした?」
手塚の手首を掴んで動きを制するリョーマに、手塚が怪訝そうに訊ねる。
「やっぱ、今はダメ……この合宿で成果出せないと…アンタに胸張って全国の切符渡せない…から…」
手塚は微かに眉を寄せると、俯いて溜息を吐いた。
「そうだな」
「だから、アンタだけ……」
「え…」
リョーマは微笑むと、手塚の膝の上から降りて正面に回り、跪くように座った。
「リョーマ…?」
手塚のズボンのベルトを外し、ファスナーをゆっくりと下ろす。戸惑う手塚にもう一度微笑みかけ、リョーマはすでに昂ぶり始めている手塚の雄を丁寧に取り出した。
「リョーマ…っ」
熱い肉剣を両手で支えて先端に優しく口づけ、少しも躊躇することなくリョーマは自分の口内に熱塊を導き入れる。
「…っ」
途端に手塚が固く目を瞑った。
何度か口内を出し入れするうちに、手塚の肉剣は、急速に熱く固く姿を変える。リョーマは時折大きく息継ぎをしながら丁寧に手塚を口内で愛撫する。
「く…」
手塚が甘く呻く、その声に、リョーマの下半身も疼きだす。
リョーマは口内に入りきらない手塚の雄をゆっくりと名残惜しげに取り出し、今度は根元から先端までを丁寧に舐め上げ始めた。
「ぁ…、リョ……マ…」
ベンチの端を握りしめていた手塚の手が、リョーマの髪に差し入れられ、優しく撫で回す。嬉しくなったリョーマは、さらに懸命になって、手塚を喜ばせようと括れのあたりで舌を小刻みに蠢かした。
「う…、くっ」
手塚の呼吸が荒くなり、時折せり上がる何かを堪えるように息を詰めて全身を緊張させる。
「……リョーマ…」
小さく呼ばれてリョーマが顔を上げる。
「……っ」
見上げた手塚は、息を弾ませながら微かに眉を寄せ、熱っぽくリョーマを見つめていた。そんな手塚の指に濡れた唇をそっと拭われ、リョーマの下腹部が熱く脈打つ。
「……お前も一緒にいこう」
「………」
リョーマの全身が急激に熱を帯び始める。
「来い」
欲望を押し殺した静かな手塚の声が、まるで呪文のようにリョーマの身体を動かす。
リョーマはゆっくりと立ち上がり、自分からハーフパンツと下着を脱ぐ。頬を染め、手塚の瞳を見つめながらベンチに膝で乗り上げると、手塚の上に腰を下ろした。
「リョーマ…」
手塚がそっと唇を寄せて啄むように何度も口づけ、リョーマの身体を自分の方へ右手で引き寄せながら、次第に深く舌を絡めてくる。
「っぁ……」
手塚の左手が、二人の熱塊をひとまとめにして握り込んだ。互いの昂ぶる鼓動が、薄い皮膚越しに伝わってくる。
「は…ぁっ!」
緩やかに上下に扱かれ、リョーマは手塚にしがみついてギュッと目を閉じた。眩暈を起こさせるような強烈な快感に、リョーマの口からすぐに甘い声が漏れ始める。
「あ、…いい……くにみつ…っ」
「リョーマ…っ」
リョーマの耳元に手塚の熱い吐息がかかる。それだけで達してしまいそうなほど、リョーマの身体は敏感になっていた。
限界を知らせるかのように二人の先端から溢れる透明な雫が手塚の手を濡らし、艶やかな湿った音を立てさせる。
激しくなる鼓動を追いかけるように、上下に動かされる手塚の左手の動きが加速した。
「ああ……イ、くっ……くにみつ!」
「……っん」
「ああっ」
堪えきれず、リョーマが先に達した。次いで手塚も熱く自身の手を濡らす。
「く、……うっ…ん…」
息を詰めながら絶頂を終えると、手塚は自身とリョーマの熱塊を一緒にして両手で握り直し、残った体液を絞り出すように根元から先端に向かってきつく扱いた。
「あ……は……ぁっ」
目を閉じて荒い呼吸を続けながら、リョーマはそっと手塚の肉剣に触れた。
「まだ……こんなだね……」
「………ああ」
手塚はリョーマを引き寄せて小さく笑った。
「お前の中じゃないと、もう満足できないようだ」
「……ダメだってば」
クスクス笑うリョーマに、手塚が深く口づける。
「ん…っ」
甘く舌を絡ませ、欲望を伝えるような熱い口づけに、リョーマの思考は痺れてうまく働かなくなる。
「誰か……来るかも…だし…」
「誰も来ない」
艶を含んだ声で吐息混じりに囁かれ、耳朶を甘く噛まれてリョーマの身体が小さく揺れる。
「わがまま…」
「………そうだな…」
手塚は溜息を吐くと少しだけ身体を離して、リョーマの瞳を覗き込んだ。
「…練習に支障を来すようなことはさせられない」
「…………」
名残惜しげに優しく口づけてくる手塚の唇の感触に酔わされたように、リョーマは自分でも気づかないうちに唇の隙間で呟く。
「………ちょっとだけ、なら…」
「……え」
聞き返されて、リョーマは初めて自分が言った言葉の意味に気づいたように頬を真っ赤に染めて俯いた。
「リョーマ?」
「うん……」
手塚はクスッと笑ってからリョーマの額にチュッと音をさせて優しく口づけた。
「もういいんだ。すまなかった…こうして逢えただけでも、俺は満足している」
リョーマはハッとして顔を上げた。
「帰って……来たんじゃ、ないの?」
「………」
手塚は柔らかく微笑んだまま答えない。
「やっぱり……これはいつもと同じ夢……?」
大きな瞳が切なく揺れ始める。手塚の表情も、微笑みを浮かべたまま、微かに眉を寄せているように見える。
リョーマは幸福の絶頂から谷底へ突き落とされたような気分になった。
それでも、これが夢なのだとしても、リョーマは手塚に言えない言葉がある。その言葉が出かかるのを必死に堪え、リョーマは瞳を揺らしたまま微笑んだ。
「……だったら、いいっスよ。いつもみたいに、オレのことメチャクチャにしても」
「………」
「くにみつ」
「………加減する」
リョーマはきつく眉を寄せた。
夢の中でさえ、自分の体調を気遣ってくれる手塚が、愛しくてたまらない。
「好きだよ……」
リョーマは自分から手塚に口づける。手塚がリョーマに応えるように唇を開いて受け入れてくれる。
優しく舌を絡め合い、時折強く吸われ、唇をそっと噛まれてリョーマは眩暈を感じる。
(これが、夢……?)
手塚の唇の感触も、甘く絡まる舌の熱さも、呼吸さえ奪われそうになって感じる息苦しさも、すべて夢なのだろうか。
(こんなに、アンタを感じるのに……)
リョーマは手塚をきつく抱き締めると手塚も抱き締め返してくれる。
ほんの少し唇を離して見つめ合い、また瞼を閉じて口づける。
「あ……」
口づけだけで昂ぶってきた雄を、リョーマは挑発するかのように手塚の腹へ擦りつけた。
「………リョーマ……」
唇の隙間から手塚の熱い吐息が漏れる。
手塚はリョーマの身体を持ち上げて双丘の間に指を潜り込ませ、自分を迎え入れる場所が先程の名残で充分に湿っていることを確認した。
「このまま、ゆっくり来い。……できるか?」
「う…ん……」
ゆっくりと下ろされるリョーマの後孔に、手塚は自身の手で根元を押さえながら肉剣をあてがった。ひくついているリョーマの蕾がじわじわと手塚の先端を飲み込んでゆく。
「は、あ……っ、ああっ、あ、んっ」
リョーマは腰を揺らして角度を調節し、すぐにも弾けそうなほど変化している手塚をゆっくりと奥へ導いた。
「ああ………ん…」
根元まで飲み込んだところで、リョーマは少し身体の力を抜いて、深く息を吐いた。
「ひっ…っ!」
途端に、弛緩した身体の奥に手塚がとどめのように深く入り込み、リョーマはきつく眉を寄せる。
「う……っ」
「……リョーマ……大丈夫か?」
そっと背中を撫でてくれる優しい手の感触に、リョーマの心が軋む。
「ん……へ…き……ぁっ」
「リョーマ…」
「くにみつ……っ」
リョーマが手塚の首に腕を回して縋りつくように抱きつくと、手塚もリョーマの身体を抱き締めながら感じ入ったような溜息を漏らした。
「アンタの……熱くて気持ちいい……」
「…お前の中も、たまらない……」
互いの熱を身体で感じながら、二人は少しの間、ただ強く相手を抱き締める。
そうしてしばらく抱き合っているうちに手塚と繋がっている場所がジンジンと疼き始めたリョーマは、堪らずに腰を小さく揺らした。
「あ、…んっ」
途端に熱塊がスイートスポットを掠め、リョーマは無意識に体内の手塚を締め付ける。
「く…っ」
手塚が低く呻く。
リョーマはもっと手塚を強く感じたくなり、手塚の耳元でその名を甘く囁きながら腸壁を思い切り収縮させた。
「っ……リョーマ……っ」
「あ……」
手塚がリョーマの腰を強く引き寄せる。さらに奥に入り込んだ手塚の肉剣が熱く脈打つのを、リョーマは甘い苦痛と共に感じ取る。
「………ない……」
リョーマを抱き締めながら、手塚が何か呟いた。
「え…?」
手塚はリョーマの頬に優しく手を添え、真っ直ぐに瞳を合わせた。
「夢なんかじゃない………こんなにも俺は、お前を感じている…」
「……」
リョーマを見つめたまま、手塚はもう一度囁いた。
「これは、夢じゃない」
確信しているように強い瞳で見つめてくる手塚の言葉を、だがリョーマは簡単には信じられずに、困惑した表情を浮かべた。
「加減はする。だがお前の中に、俺と逢った証を残したい」
「…っ」
手塚の言葉の意味を理解して、リョーマは頬を赤く染めて俯いた。しかし、リョーマの答えを待つようにじっと見つめてくる手塚の熱い視線を感じ、俯いたまま小さく頷くと、手塚は微かに微笑んで「すまない」と囁いた。
「あ…っ」
リョーマの中の手塚が、大きく脈打ち始める。
手塚はリョーマの細腰を鷲掴み、自分に押しつけるように密着させたまま、ゆっくりと前後にスライドさせた。
「あ、ああ…っ、やっ」
激しく突き上げられているわけではないのに、リョーマの中で固く張りつめている手塚の肉剣が、確実にリョーマの敏感な場所を刺激する。その快感がじわじわとリョーマの全身に広がってゆき、いつしかリョーマは手塚の手が離されても、自ら腰を前後に緩く動かしていた。
「あっ、は、ぁっ、くに…みつ…っ」
「ん、……くっ、ぁ…っ」
ベンチの背もたれに身体を預け、手塚も静かな快感に息を乱している。
手塚に触られないまま、リョーマの雄も頭を擡げ、リョーマの動きに合わせて妖しく揺れていた。
「あ……あ、んっ……はぁっ……っ」
手塚が身体を起こしてリョーマの体操服を捲り上げ、あらわになった胸に噛みつくような勢いで口づける。
「やっ、ああっ!」
胸の突起をきつく吸い上げられてリョーマは小さく叫んだ。それと同時に下腹部にも電流を流されたような衝撃が走る。
「ん…っ」
微かに眉を寄せながら手塚がリョーマの胸の突起を吸い上げ、時折歯を立てたり、もう片方を指で引っ張り上げるたび、リョーマの身体は痙攣を起こして体内の手塚を締め上げた。
「も、そこ、や、だぁっ」
執拗に胸の突起をいじり続ける手塚から逃れようとして、リョーマは身体を捩る。だが手塚に肩を押さえつけられてしまい、それも叶わない。
「やっ、あっ、あ、あんっ、ああっ」
手塚はリョーマの反応を楽しむように、敏感になっている突起を歯で挟み、先端を舌先で嬲る。
「あっ、はぁ、…ん、やっ……意地……悪いっ!」
耳まで真っ赤に染め、固く瞑った目に涙を滲ませて抗議するリョーマに、手塚はそっと、柔らかく口づけた。
「……こんなお前を…誰にも見せたくないな」
「なにそれっ…っ、……当たり前っ…しょ……アンタ以外は…絶対、こんなの……っあ!」
手塚がリョーマの腰を持ち上げた。手塚の熱塊が抜け出てゆく感触にリョーマの身体が震える。
「あ……」
先端だけを含ませた状態でリョーマの腰を固定すると、手塚は腰を浮かせるようにして肉剣を熱い鞘へゆっくり収めてゆく。
「ああ…ぁ…っ」
手塚の肉剣に内壁をゆっくりと擦られ、全身の毛が逆立つような快感をリョーマは感じた。
「あ、はぁっ、…あ、い……、くに、つ……っ、ああ…っ」
緩やかな動きで先端から根元まで何度も出し入れされて、リョーマは背筋を這い上ってくる快感に心ごと震える。
「くにみつ……気持ち、いい…っ、あ…あっ」
手塚は激しく突き上げる代わりに、根元まで収めた状態で数回大きく腰を回してくる。
「やっ、ひっ、ああっ、あ、んっ」
奥深くをゆっくり掻き回される間、リョーマの身体はビクビクと痙攣し続ける。泣きたくなるほど感じてしまい、リョーマの雄が一気に張りつめた。
「あ……っ、出…そうっ」
「…リョーマ……っ…んっ」
突き上げている手塚の雄も、さらに質量を増してリョーマの内壁を目一杯広げさせる。
「くにみつ…は…?…まだ…?」
「…もう少しだ」
リョーマは小さく微笑むと、眉を寄せて懸命に手塚を締め上げる。
「っく、リョーマ……そのまま…っ」
手塚が抽挿のピッチを上げた。手塚の侵入を拒むかのように狭まった腸壁を半ば強引に突き進み、最奥を掻き回し、今度は逃すまいときつくまとわりついてくる襞の中を無理矢理引きずり出す。
「ああっ、熱い…っ、くにみつの……すご…い…いっ」
「リョーマ……、ぁっ…くっ、リョーマ…っ」
下から腰を柔らかく、だが確実にポイントを狙って打ち付けられ、リョーマの身体がガクガクと振動する。しだいに肉のぶつかり合う音が大きくなり、リョーマの嬌声も甲高くなる。
「ああっ、ああっ、あっ、も、出るっ、くにみつっ、イくっ!」
「俺も…、リョーマ…っ!」
手塚がリョーマの腰を思い切り掴んで深く突き上げる。リョーマの尻朶が大きく変形し、手塚を最奥まで飲み込んだ。
「ああぁぁっ!」
「くっ、……んっ!」
リョーマが思い切り力んで絶頂を迎える。同時に手塚も息を詰めて、リョーマの直腸の奥へ熱い体液をたっぷりと注ぎ込んだ。
「…っぁ、んんっ」
「………っく、…っ!」
意識も飛ばされそうなほどの長い長い絶頂が続き、ようやく通り過ぎて身体の痙攣が治まった頃、二人はほぼ同時に深く息を吐いて身体を弛緩させた。
「リョーマ……」
荒い呼吸のまま優しく名を囁き、手塚がリョーマに口づける。甘く舌を絡ませ、まだ燻る欲望を宥めるかのように、しっとりと余韻を味わった。
手塚と肌を重ねるようになってから、こんなにも穏やかに求められたのは初めてだったのではないかと、リョーマは思った。だがそれは決して物足りないのではなく、激情のままに激しく互いを奪い合う時よりも意識がはっきりしている分、手塚の動作や言葉のすべてを細かく覚えていて、どこか恥ずかしくさえ感じる。
だから、手塚が名残惜しげに唇を解放すると、リョーマは視線を合わせられずに頬を染めて俯いてしまった。
「…リョーマ…」
手塚がそんなリョーマの身体をギュッと抱き締める。
「……あと少し、待っていてくれ…」
抱き締められたまま、リョーマはふと瞳をあげる。
「全国までには……必ず戻る」
耳元に囁かれた手塚の言葉を、本当はずっと聞きたかった。きっと帰ってくると信じていても、手塚の口から、手塚の言葉で、はっきりと言って欲しかった。それがたとえ夢の中だとしても。
「……ういっス」
リョーマはそれだけ言うと、手塚の肩に顔を埋めた。
嬉しかった。
だが、ひどく切なかった。
こうして今、身体を繋げている手塚は、やはり本当の手塚ではないと言われた気がした。本当の手塚に逢える日は、まだもう少し先なのだと。
「リョーマ…」
「……絶対、立海大に勝つから……」
リョーマは切なさを隠して、そう誓った。
「…健闘を祈る」
低めの声で、感情を抑えたように言った手塚に、リョーマは小さく頷き返す。
手塚はリョーマの頭をそっと撫でてきつく抱き締める。リョーマも手塚の背に腕を回して抱き締め返した。
少しの間そのまま二人は抱き合っていたが、手塚がふと何かを断ち切るように溜息を吐いてからリョーマの身体をそっと離す。リョーマの瞳を真っ直ぐ見つめ、触れるだけのキスをしてから、手塚はリョーマの後孔を押さえながらゆっくり自身を抜いていった。
「あ……」
リョーマの唇が切なさに震える。後孔に感じる喪失感は、まるで自分の心の軋みのようだった。