Infinity Special Whiteday
〜Infinity Lovers続編2〜



頬に触れた風が少し優しくなった気がして、リョーマはふと上空を見上げた。
「どうした?」
隣を歩いていた手塚が、リョーマの視線を追って空を見上げる。
「春が、来るね」
「……ああ…」
白いヴェールがかかったような青空を見上げ、二人は暫し、春の気配のする風に髪を揺らしていた。
そうしてそのうち、手塚の視線が、ゆっくりと隣のリョーマを捕らえる。
(リョーマ…)
抱き締めたいという強い衝動が込み上げ、だが、手塚はきつく目を閉じてその衝動を抑え込む。
こんな町中で人目を引くようなことはできない。
(ひどく、渇いている……)
手塚は静かに苦笑し、小さく溜息を零した。








三月十四日。
今日は日本ではホワイトデーとも呼ばれている。
バレンタインデーにチョコレートを受け取った者が、お返しをする日というのが日本での一般的な認識だ。
駅前のアーケード街には白やピンクを基調としたディスプレイがあちこちで見られ、バレンタインデーの時期同様華やかだった。
部活を終えたリョーマは、いつものように手塚と落ち合い、並んで街を歩く。
「オレ、オバサンにお返ししなきゃ」
「ああ、俺も、何か用意しなくてはな」
口ではそう言いつつも、華やかな飾り付けの店を、二人はチラリと見遣っただけで素通りする。
「……ああいう店は、入りづらいよね」
「確かにな」
ボソボソと言い、二人は顔を見合わせて苦笑する。
「花でも買おうかな」
「そうだな……それもいいかもしれない」
早速二人は花屋に寄って、手塚の母とリョーマの母、そしてリョーマは従姉の菜々子にも、それぞれピンクの薔薇の花を買い、それから花屋の隣の店で、一応焼き菓子も買った。
「まずはアンタのトコね」
「いいのか?」
「…ウチに来てものんびりできないよ?」
苦笑するリョーマを見て手塚も苦笑する。
だが。
「だったら尚更、お前のところに先に行って、そのあとで俺の家で『のんびり』すればいいんじゃないのか?」
「…………あー……ナルホド」
うんうん、と頷いて、リョーマは手塚を見上げた。
「さすがだね。その方が『のんびり』できるよね」
お互いに含みのある単語を口にして、クスクスと共犯者のように笑う。
「じゃ、オレのウチが先ね!」
「そのあとで俺の家、だな」
「うん」
見つめ合い、微笑み合い、そっと肩を寄せ合って、二人はリョーマの家へと向かった。







「母さん!」
家に着くなりリョーマはキッチンへ駆け込んで、母・倫子に声を掛けた。
「おかえりなさい。何?リョーマ。どうしたの」
「お邪魔します」
後から現れた手塚を見て倫子が目を丸くする。
「あら、手塚くん」
「先日は、チョコレートをありがとうございました。大したものではないのですが、そのお礼に伺いました」
「まぁ…わざわざありがとう」
倫子はニッコリ微笑むと、手塚が差し出した花束と焼き菓子を嬉しそうに受け取った。
「こちらこそ大したものじゃなかったのに、こんなお気遣い頂いちゃって……ありがとう、手塚くん」
本当に嬉しそうに微笑む母を見て、リョーマもニッコリ笑う。
「ぁ、ねえ、菜々子さんは?」
「デート」
「あー……そっか………じゃ、これ、菜々子さんに渡しといてくれる?」
そう言ってリョーマが花束と小さな紙袋を差し出すと、倫子は少し驚いたように目を見開いた。
「え?菜々子ちゃんにお返しするの?あなたが?」
「悪い?」
心底意外そうに言われてムッとしたリョーマが唇を尖らせると、横にいた手塚が小さく笑った。
「……なに笑ってんの 、国光」
さらにムッとして手塚を軽く睨むと、手塚は「すまない」と言ってまた笑った。
「今までちゃんと礼をしてこなかったんだろう?」
「………まあ……」
拗ねたように俯くと、優しく頭を撫でられた。
「感謝の気持ちはちゃんと表さなくてはな」
「うん…」
小さく頷いてから、リョーマが手塚を見上げて微笑む。手塚も微笑んで頷いた。
「まぁ………リョーマって、手塚くんの前ではこんなに素直でいい子なのね…」
「え?」
「わっ」
母親の存在をすっかり忘れていたリョーマは、感心したように呟かれて頬を真っ赤に染めた。
「べ、べつにっ!じゃ、もう行くから」
「あら?どこに?お夕飯は?」
「国光の家。夕飯は国光と食べる。それから、今日は……」
リョーマがチラリと手塚に視線を向けると、手塚は小さく頷いて、倫子に視線を向けた。
「…今日、彼をうちでお預かりしてもいいでしょうか。今日と、できれば明日も」
「え……」
手塚に真っ直ぐ見つめられて、倫子は一瞬答えに詰まったものの、すぐに微笑みながら頷いた。
「いつもお邪魔しちゃってすみません。よろしくお願いします」
静かに一礼され、手塚も小さく頭を下げる。
「それでは。…慌ただしくてすみません」
「いえいえ。今度ゆっくり遊びに来てね」
「はい」
「じゃ。行って来まーす」
「ご迷惑おかけするんじゃないわよ」
「わかってる」
「あ、そうだわ、リョーマ。あのこと、手塚くんにお話しした?」
玄関に向かいかけたリョーマの腕を捕まえて、倫子が小声でリョーマに囁く。リョーマの先を歩いていた手塚は、しかし、しっかりとその声が耳に入っていた。
「まだ言ってない…」
「早めに話した方がいいわ。いろいろ準備とかもあるし」
「…今日、話すよ」
「そう?」
そんな短いやり取りをしてから、リョーマは母親を振りきるようにして手塚の後に付いてきた。
「……どうかしたか?」
聞こえなかったフリをして手塚が何気なく尋ねると、リョーマは小さく笑って「なんでもない」と言った。
(今は言わないつもりか…)
何か考えがあるのだろうと思い、手塚も今はリョーマを追求するのはやめた。







手塚の家に着くとまるでもうひとつの自分の家に着いたようで、リョーマはホッと身体の力が抜けるのを感じた。
「オバサン、いるよね?」
「………今日はいると言っていた気がするんだが…」
キッチンやリビングを覗いてみるが、手塚の母・彩菜の姿はない。
「また『友達の家』、かな」
「………かもな」
ダイニングテーブルには二人分の夕食が用意されているところを見ると、今日も『友達の家』へと出掛けていったのだろう。
「でもおじさんたち帰ってくるんだよね?」
「ああ。特に予定は聞いていないが…」
「ぁ、手紙」
「ん?」
テーブルに並べられた料理の隙間に置き手紙を見つけて、リョーマはそれを拾い上げて手塚に渡した。
「………父も母も祖父も、今日は帰ってこないようだ」
「え?なんで?」
「今日はホワイトデーだから、父にホテルでごちそうしてもらって、そのままそのホテルでのんびりすることになったそうだ」
「お祖父さんも一緒に?」
「祖父は囲碁仲間で、『急に開催が決まったホワイトデーのパーティー』だそうだ」
「また温泉?」
「ああ」
顔を見合わせて暫し黙り込み、二人同時にクスクスと笑い出す。
「オバサン、気が利きすぎ」
「父と祖父は、何も知らずに行動しているのだろうが……タイミングがよすぎるな」
「ホント」
口ではそう言いながら、二人は心の中を歓喜と感謝でいっぱいにして見つめ合う。
「国光……ご飯の前に、アンタが欲しい」
「…先に言われてしまったな。俺も、お前を今すぐに味わいたい」
「うん」
嬉しそうに笑うリョーマを見て、手塚も柔らかく微笑んだ。






体力も回復力も、普通の人間とは桁違いの二人は、一度身体を繋げはじめると際限なく互いを求め合う。
「あぁ、あっ……も……っと、くにみつ…っ」
加減をして腰を揺らめかせていた手塚は、リョーマに煽られて、煽られるままに、腰を強く叩きつけ始めた。
「あっ、……あ、……あ……あっ、…あぁっ、い…いっ!」
少し間隔を空けて腰を叩きつけてやると、そのたびにリョーマの身体が痙攣し、グン、と仰け反って胎内の手塚を締め付ける。
「くっ……リョーマ…っ」
突き込むたびにキュウキュウと吸い付くように締め付けられ、そのきつい締め付けの中をゆっくり出入りすると手塚に強い快感が込み上げてくる。
「リョーマ……そんなに…締めるな…っ」
「だ……って……あぁ……っ、気持ち、いい……っ」
頬を上気させ、譫言のようにそう呟かれて、手塚の雄がリョーマの中でさらにぐっと硬度を増した。
「あぁ、やっ……すご……っ」
「……リョーマ…っ」
リョーマの瞳はすでに艶めく金色に変わり、開いたままの唇の隙間からは尖った牙が見え隠れしていて、強い欲情を示している。
「あ……あぁ……国光……いいよ…もっと……強く……」
金の瞳にうっとりと見つめられて、手塚の理性はあっさりと崩れ去る。
「ぁあっ、あぁっ!」
それまでの動きとは一転して激しく腰を叩きつけ、奥まで捩り込んだ肉棒でリョーマの胎内を大きく掻き回してやると、リョーマは嬌声を上げながら全身を痙攣させた。
甘い嬌声と妖しい瞳の輝き。どれもこれも手塚を誘惑してくるようで堪らない。
特に今夜は───────…
(俺は……ひどく、飢えている…?)
いつもの自分より渇望感が凄まじい、と手塚は感じる。
リョーマを激しく揺さぶっても、揺さぶる傍から飢えてゆく感覚。
「リョーマ…っ」
「やっ、あぁっ、あぁんっ」
痣が出来そうなほど強く強く腰を叩きつけ、リョーマの腰が浮き上がるほど大きく腰を回してやる。
「は、あぁぁっ、や、ぁあっ」
何度も何度も深く突き込み、奥を抉り回し、絶頂に差し掛かっているリョーマに食いちぎられそうなほど締め付けられて、手塚も一緒に上り詰めていく。
「イキた……イカせ…てっ、国光…っ」
縋り付くような金の瞳に見つめられ、手塚は眩暈がするほど欲情した。
「あぁ……来い、リョーマ…」
大きく揺すり上げながらリョーマの目の前に首筋を晒して誘う。リョーマは、強すぎる快感に意識を朦朧とさせながら、手塚の首筋に牙を突き立てた。
「あぁ……」
手塚の身体の中を、甘い熱が駆けめぐる。
「んんっ」
より一層手塚が締め付けられ、その次の瞬間、リョーマが弾けた。
「んん─────っ!」
胎内の手塚を目一杯締め上げながら、リョーマがビクビクと痙攣して手塚の腹を熱液で濡らしてゆく。
「んっ、ふっ、んんっ、ん……んっ」
甘ったるい声で呻きながら射精を続けるリョーマをきつく抱き締め、手塚も数回大きく腰をグラインドさせて身体を硬直させた。
「くっ……っ、んっ、ぅ、ぁ…っ」
ドクドクとリョーマの胎内深くに熱い精液を注ぎ込み、さらに深く抉り込んでもっと奥へと熱液を叩きつける。
「ぁ……っ……リョーマ……っ」
身体をビクッと震わせて最後の射精を遂げ、手塚はゆっくりと息を吐き出した。
ズルリとリョーマの身体が手塚から剥がれ、ベッドに深く沈み込む。
「リョーマ…」
優しく声を掛けると、リョーマがゆっくりと目を開いた。
「だいすき……くにみつ……」
荒い呼吸のままうっとりと見つめられ、嬉しそうに微笑まれて、手塚の胸が熱くなる。
「リョーマ……リョーマ……」
「ぁ……」
リョーマの胎内の手塚は吐精したにも拘わらず変形を留めたままで、すぐに律動を再開させるとリョーマが驚いて目を見開いた。
「もう…そんな…あっ、……おっきぃ……っ」
「今夜は……おかしいんだ…」
「え……?」
呻くような手塚の言葉にリョーマは揺さぶられながら目を丸くする。
「おかしいって……?」
「お前が欲しくて欲しくて堪らない」
切なげに囁いてリョーマに口づけると、リョーマは苦しそうに眉を顰めながらも熱く手塚に応える。
「リョーマ……好きだ……愛してる……」
熱く甘く囁いて、手塚が情熱的に腰を揺らす。
「あぁ…んっ、あ、は、ぁ……っ」
「リョーマ…」
「んっ、あっ、…国光…っ」
間近で見つめ合いながら二人は深く深く繋がり合う。
接合部分からはグチャグチャと派手な音がして、先程放った手塚の精液が溢れ出し、リョーマの腰を伝ってシーツに零れ落ちていった。
「リョーマ…リョーマ…」
腰を揺すりながら手塚が優しくリョーマの前髪を掻き上げてやると、リョーマは嬉しそうに目を細め、手塚の首に腕を回してきた。
「……いいよ、国光……アンタが、欲しいだけ……オレを、あげるから……だから、もっと……」
リョーマの瞳が妖艶な輝きを放つ。
「もっと、オレを、犯していいよ…」
「……っ!」
リョーマの囁きを聴いた瞬間、手塚の中で「何か」が弾けるような感覚が起こった。
「……っ、くっ」
熱が、身体の奥から込み上げてくるような感覚。
「……国光?」
手塚の変化に気づき、リョーマが顔を覗き込んでくる。
固く目を閉じ、身体を硬直させて何かを耐えているような手塚に、リョーマがもう一度声を掛けようと口を開いたその時、手塚もゆっくりと、閉じていた目を開いた。
「え………国光……?」
妖しく妖艶な炎を宿したその瞳は、銀色に輝いていた。
「なんで?…今は、まだ満月じゃないのに……あぅっ!」
戸惑うリョーマの身体を、凄まじい快感が突き抜ける。
「あぁっ!あっ、なっ、なに、これっ……あぁんっ!」
「……っ」
手塚の肉棒がさらに大きく変化し始め、リョーマの胎内をググッと押し広げてゆく。
「す、ご……ぁ…っ」
「く……」
手塚がゆらりと動き、大きな熱塊がリョーマの胎内をゆっくりと擦り始めた。
途端にリョーマの全身は雷に打たれたように痙攣する。
「な……っ、ああぁっ!」
手塚が数回動いただけで、リョーマの雄がいきなり弾けた。
「あ……は……ぁ……っ」
わけがわからないまま射精してしまい、リョーマは呆然と手塚を見つめる。
「なんで…?……国光…」
「リョーマ…」
熱っぽく名を呼ばれ、リョーマは頬を染めてじっと手塚を見つめる。
「俺の瞳……変化しているのか?」
「うん……綺麗な……銀色になってる……」
荒い呼吸に紛れてそう答えると、手塚は「そうか…」と言って、少し考え込んだ。
「く、国光……ぁ、の……」
リョーマが少し焦れたように、手塚に繋がれた腰をモゾモゾと動かすと、手塚は小さく目を見開いてから微笑んだ。
「……考えるのは後にしよう」
「うん…そーしてくれる?」
リョーマも小さく微笑み、もう一度、改めて手塚の首に腕を回す。
「すごいよ……入ってるだけでも、すごい、気持ちいい……オレの中が……国光でいっぱいになってる感じ…」
甘く囁いてリョーマから唇を寄せてゆくと、手塚からも唇を寄せ、やがて二人は激しく舌を絡め合ってゆく。
「……すまない、リョーマ……たぶんもう、加減ができない……」
「いいよ……大好き、国光……」
「リョーマ…っ」
「くにみつ……、いい、匂い……あぁっ、んっ」
「お前も……堪らない…甘い匂いがする…」
そこで二人の会話は、しばらくの間、途切れた。
部屋には延々とリョーマの嬌声が響き、荒い息遣いと、ベッドの軋む音も途切れることなく続く。時折不規則にベッドが軋むと、その度に叫び声に近いリョーマの嬌声が上がった。
リョーマが弾けると、そのリョーマに締め付けられた手塚も吐精し、手塚が先に遂情すれば、胎内に射精される衝撃でリョーマも弾けた。
互いに刺激され、刺激する。
その繰り返しで、二人は何度も絶頂へと上り詰める。
「あッ、また、イク……っ!」
「ああ……俺も……っ」
二人は同時に息を詰め、身体を硬直させて、愛しい相手へ向けて射精を繰り返す。
「ぁ………ん、あぁ…っ……くに、みつ……っ」
「っく……リョーマ……あぁ……」
吐き出しても吐き出しても、相手への想いが膨れあがり、すぐに激情が渦巻き、腰の奥が疼き始める。
「国光……ホント……今日は、どうしたの…?」
「わからない……わからないが、お前が欲しくて堪らないんだ…」
本当は大切にしてやりたいのに、労ってやりたいのに、そうできない自分がもどかしくて、手塚は唇を噛み締めながら腰を揺らす。
「国光」
「?」
力の入らない腕をなんとか持ち上げて、リョーマは手塚の髪を撫でてやった。
「……オレは大丈夫だから、そんな苦しそうな顔して抱かなくていいよ」
「……リョーマ……」
「その代わり、ずっと、オレのこと好きって言ってて。愛してるって言いながら、最高に気持ちよさそうな顔して見せて」
ニッコリと笑うリョーマを見て、手塚も小さく微笑む。
「………愛してる」
「うん」
「お前だけを愛してる」
「オレもだよ、国光」
「愛してる、リョーマ」
「国光…」
手塚がリョーマの顔中にそっと口づけ、最後に辿り着いた唇を優しく吸い上げてしっとりと舌を絡めてゆく。
「愛してる…」
「ぁ……あ…」
リョーマの耳もとで熱く囁きながら腰をゆったりと回してやると、リョーマは身体を撓らせて甘い吐息を零した。
「国光……オレの中……気持ちいい?」
「ああ……気持ちよくて……堪らない……」
「あっ……んっ」
回すような動きから徐々に突き上げる動きへと変えてやると、リョーマの声が一気に艶めく。
「あぁ…、すごい……いい……国光……」
「最高だ……本当に…お前は何もかもが、最高だ……」
「あぁっ……あ…ぁんっ」
湿った肌がぶつかる音が響き、ベッドがまた激しく軋み始める。
「あっ、あ、あ、っ、は、ぁんっ」
突き上げるたびに濡れた嬌声が上がり、手塚はまたすぐに理性を手放してゆく。
(キリがない……)
リョーマの甘い身体に溺れながら、手塚は小さく苦笑する。
(これでは本当に、俺はケダモノのようだ……)
リョーマを俯せにさせ、後ろから抉るように突き上げながら、手塚はふと気づいた。
(ケダモノ……か…)
「ぁあんっ、あぁっ、いい……くに、みつ…っ、ぁあっ、あああっ」
手塚の思考は、リョーマの嬌声で呆気なく吹き飛ぶ。
「リョーマ…っ」
ガツガツと腰を叩きつけ、滑る後孔をさらに奥深くまで突き荒らす。
「あぁ、んっ、深…いっ、すご…っ、あぁっ」
すでに固く張りつめていたリョーマが先に弾けたが、手塚はそのまま蜜壺を抉り続ける。
「あぁ……リョーマ……っ」
リョーマの細い身体を背後からきつくきつく抱き締めて、手塚は限界まで深く己の肉棒を熱い胎内へと捩り込む。
「リョーマ……ッ!」
自分の放った精液ですでに満たされている胎内に、さらにたっぷりと熱い濁液を注ぎ込む。
「っつ……んっ……くっ」
リョーマの最奥でしばらく息み、少し引き抜き、また鋭く突き込んですべてをリョーマの奥へと注ぎ込んでから、手塚はゆっくりと、まだ固さの残る肉棒を引き抜いた。
「ぁ……んっ」
肉棒を引き抜いた途端、リョーマの後孔から熱い濁液が艶めいた音を立てて大量に溢れ出した。
リョーマの太股を伝い落ちる自分の精液を見つめていた手塚は、止めどなく流れ落ちる濁液を指先で掬い上げてリョーマの双丘や背中に塗りつけた。
「なに…してんの…?」
荒い息に紛れてリョーマがクスクスと笑う。
「………お前の身体に俺の匂いを付けている」
「なにそれ、マーキング?」
リョーマがまたクスクス笑う。そのリョーマにのし掛かりながら、手塚も小さく笑った。
「俺はケダモノだからな」
「あ…っ」
蕩けきったリョーマの後孔に再び手塚の剛直が捩り込まれてゆく。
「すまない、リョーマ………しばらくは、やめてやれない」
「いいよ……アンタの好きなだけ、して…」
「愛してる、リョーマ」
「オレも愛してるよ、国光…」
そこでまた会話は途切れ、部屋の中は艶めいた音たちで満たされる。
そのまま延々と二人は揺れ合い、何度も吐精した。
そうして夜が更けて、日が昇ってもまだ、手塚はリョーマを離さなかった。












気絶するように眠り込み、二人が目を覚ました時にはすでに太陽は大きく傾いていた。
前の晩から飲まず食わずで互いを貪り合った二人は、気怠い身体を引きずって風呂に入り、だが湯船の中でまた身体を繋げた。
「満月の時のアンタには敵わないけど……今のアンタもすごいね…」
身体は繋げたものの、そのまま二人は口づけを交わすだけで動かずにいる。
「ねえ、もうだいたい原因に見当ついてるんでしょ?」
金色の瞳に見つめられて、手塚はふっと笑った。
「ああ」
「教えて」
リョーマが唇を尖らせる。その唇にチュッと口づけてから、手塚は苦笑した。
「発情しているんだと思う」
「は?」
「たぶん間違いない」
「はつじょう…?」
呆然としながらリョーマが言うと、手塚はバツが悪そうに頷いた。
「俺の中の、狼の血がそうさせているんだろう」
「あぁ…春だから……狼の、発情期ってわけ…?」
「もちろん好きな相手限定だぞ?」
「そうじゃなきゃ困るってば」
額を擦りつけ合い、微笑み合う。
「ぁ、狼の血のことだから、あの銀の枷が働いていたのかな。なのにオレが、あの『言葉』を言っちゃったから、発情しちゃった、とか?」
「多分そうなんだろうな。お前に囁かれて、はっきりと、俺の中で何かが変わった気がする」
「じゃあ、オレの自業自得、だね」
「………すまない。つらかったか?」
手塚の銀の瞳が不安げにリョーマの瞳を覗き込む。
「………訂正。『自業自得』じゃなくて、………うーん?なんて言うんだろう、こーゆーラッキーって」
「ラッキー?……つらかったんじゃないのか?」
「なんで?アンタのこと好きなのに、つらいわけないじゃん」
「……リョーマ……」
手塚が嬉しそうに微笑み、リョーマの身体をギュッと抱き締める。湯船の水面が波打ち、優しく淵にぶつかって波紋が戻ってくる。
「愛してる、リョーマ」
「うん。オレも、愛してるよ、国光」
抱き締め合い、互いに相手の身体を慰撫し、甘い吐息を零す。
「普通のアンタも、銀色のアンタも、サカっちゃってるアンタも、全部好き。国光だから、どんなのでも好き」
「ありがとう、リョーマ。…これからも、ずっと一緒にいよう…」
「うん………ぁ、そうだ」
何かを思い出したようにリョーマが手塚から身体を離して視線を合わせてきた。
小さな水音が浴室に響く。
「あのね、国光」
「ん?」
「オレと一緒に、アメリカで暮らさない?」
「え?」
唐突なリョーマの申し出に手塚は目を丸くした。
「アメリカ?」
「うん。親父の知り合いがさ、どうしてもオレを自分のところのテニスアカデミーに入れたいって言ってきたんだって。『できれば、手塚国光も一緒に』、って」
「俺を、指名…?」
「アカデミーには寮があって、アンタとは同室にしてくれるって。朝から晩までテニスできるよ?もちろん勉強もしなきゃならないけど」
「それは……願ってもない話だ」
「今からだと中途入学になるんだけど、オレと一緒ならいいよね?英会話は、アンタなら問題なさそうだし」
半ば呆然としている手塚を見て、リョーマはクスッと笑った。
「難しいことは考えなくていいよ。……オレと一緒に、テニスしようよ、国光」
間近で見つめられ、ふわりと微笑まれて、手塚が迷うはずもなかった。
「ああ。俺もアメリカに行こう。お前と、ともに」
「うん!決まり!」
ニッコリ微笑むリョーマを見て、手塚は、リョーマの家で耳にした、リョーマと倫子の会話を思い出した。
「このことか?お前が俺に話したそうにしていたのは」
「ぁ、気づいてた?そうだよ。なかなか話す機会がなくてさ」
「そうだったのか」
「アンタの卒業と同時にアメリカに行こう。二人で、テニスのてっぺん目指そうよ」
「ああ」
しっかりと頷く手塚に、リョーマは嬉しそうに微笑んで口づける。
「ずっとずっと、一緒だよ、国光……」
「ああ。ずっとずっと、一緒だ、リョーマ」
「国光……」
リョーマが自ら腰を揺らめかせ始める。途端に二人を包む湯がユラユラと波打ち始め、浴槽から零れてゆく。
「ぁ……あ、んっ……っ」
「リョーマ……狼というものは、一生涯、たった一度しか恋をしないんだ」
「え……」
目を閉じて快感に耽り始めていたリョーマが、ゆっくりと目を開ける。
「一生に、一度…?」
「ああ、そうだ。だから俺には、お前は、最初で最後の、一生に一度の恋をした相手になる」
「………」
リョーマが動くのをやめて手塚を見つめる。
「愛してる、リョーマ」
「………オレも」
二人は微笑み合い、そっと唇を重ねる。
「……アンタと一緒にいると、毎日が最高の日になる気がする」
「気がする、じゃなくて、本当に最高の日になるんだ」
「うん……アンタは最高だよ」
「お前こそ、最高だ、リョーマ」
手塚がリョーマをギュッと抱き締め、そこからまたユラユラと水面が揺れ始める。
浴室いっぱいにリョーマの甘い嬌声が響き、やがてそれは波立つ水音に掻き消されてゆく。


三月十四日。
それは、バレンタインデーのお返しをするという、特別な一日のうちのひとつ。
そしてその翌日には、何事もなかったように、人々は日常へと戻ってゆく。
だが、手塚とリョーマにとっては、毎日が特別な一日。
この世でたった一人の愛する人の傍で過ごす、とてもとても大切で愛しい時間。

そう、毎日が、SPECIAL HAPPY DAY────…


─────THE END─────


楽しんでくださった方↓拍手いただければ幸いです

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