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         Love Sickness 
         
       
        
        
        
         遠くで大好きな声が聞こえる。 
(国光…?) 
声は聞こえるが、視界は真っ暗なまま。 
(ヤダな、これ……ずっと前の、あの時みたいな……) 
長い間苦しんでいた時期があった。 
結果的には、苦しむ必要のないことではあったが、何もわからなかったその時は、とても苦しくて、胸が痛かった。 
夜毎大好きな人を裏切っているような、後ろめたい朝を迎えていた。 
リョーマは真っ暗な視界の中で、自分の腕を動かし、そっと、右手に触れる。 
(ぁ…なんで…リング…っ!?) 
消滅したはずのリングの感触が、右手薬指に、あった。 
飛び起きようとしたが、身体が言うことを聞かない。 
「な…」 
だが藻掻いた拍子に視界は晴れて、リョーマの目に見慣れた天上が映った。 
「あ、れ…」 
「起きたのか?」 
大好きな声とともにベッドの右側がギシッと音を立てて沈み込み、手塚が覗き込んで来た。 
「くにみつ…」 
ホッとしてリョーマが小さく微笑むと、手塚は少し困ったような顔をしながらリョーマの額に触れて来た。 
「……少しは下がってきたか…」 
「え…」 
「熱があるんだ。このまま寝ていろ。お前の家には、今連絡を入れておいた」 
「ね、熱?」 
リョーマが目を丸くすると、手塚は小さく苦笑した。 
「まったく……倒れても自覚がないのか?」 
「?」 
「ウチに着くなり倒れて……38度も熱があった。それなのに無理をして……」 
(そういえば…) 
昨日の夜から少し身体が怠いとは思っていた。だが、それぞれの事情で二週間ほど逢えなかった恋人に逢えるとなれば、身体の不調など些細な問題だった。 
「だって……明日はバレンタインじゃんか…」 
「!」 
リョーマの言葉に手塚が小さく目を見開く。 
「バレンタインの前の晩から、15日の夕方まで、ずっとずっと一緒にいようって約束したじゃん。なのに、アンタと違う場所にいるなんて、オレはヤダよ」 
「リョーマ…」 
「迷惑かけたことは悪いと思ってるけど、オレは…」 
「迷惑だとは思っていない」 
リョーマの言葉を遮って手塚が否定する。 
「俺もお前に逢いたかった。もう二週間もお前に触れていなくて、おかしくなりそうだった」 
「国光…」 
「来てくれてありがとう、リョーマ。……愛している」 
そう言ってそっと額に口づけられ、リョーマは微笑みながら手塚の首に腕を回して目を閉じる。 
「ん…」 
すぐに深く甘く口づけられ、リョーマは手塚の身体を引き寄せるようにさらにギュッとしがみつく。 
「…こら、俺に病人を襲わせる気か?」 
「襲っていいよ」 
「ばか」 
手塚はもう一度チュッと音をさせて優しく口づけてから、リョーマの身体をベッドに寝かしつける。 
「国光…」 
離されたくなくて、リョーマが少し甘えるような声で手塚の名を呼ぶと、手塚が小さく眉を寄せてリョーマを見た。 
「…本当に襲うぞ」 
「いいって、言ってんじゃん」 
「悪化したらどうする」 
「アンタに触っていない方が、悪化すると思うよ?」 
至極真面目な顔でリョーマが言うと、手塚はクッと小さく笑った。 
「お前には敵わない」 
「観念した?」 
「観念するのはお前の方だろう」 
「あっ」 
手塚がいきなりリョーマに覆い被さり、少し乱暴に口づけてきた。 
「んっ」 
「…やはりまだ熱が少しあるな……舌が熱い…」 
唇の隙間でそう囁いて、だが手塚は離れようとはせずに、リョーマの唇を甘噛みする。 
「ぁ…」 
「少しだけ……いい、か?」 
「ん…」 
耳元に甘く囁かれて、リョーマは震えながら頷く。 
「リョーマ…」 
「ん…ぁ…」 
唇や頬や額に唇を落としながら、手塚はリョーマの身体にゆっくりと手を滑らせてゆく。 
やがて手塚の指先が薄いシャツの上からリョーマの胸の突起を見つけ出し、摘まみ上げてきた。 
「ぁあんっ」 
リョーマがビクビクと身体を揺らすと、手塚が吐息だけで笑う。 
「…本当に、たまらないな…」 
熱い吐息を零しながら、手塚がまた深く口づけて来る。ねっとりと舌を絡め取られ、口蓋を舌先で撫でられる。 
「ぁ……んっ」 
「リョーマ…」 
手塚の唇がリョーマの唇から頬へ、耳朶へ、首筋へと滑り降りてゆく。シャツのボタンが少し性急に外されていき、手塚の指で硬く立ち上げられていた蕾に直に口づけられると、リョーマの身体が微かに震えた。 
「ぁ…あ……ぁんっ!」 
蕾を根元から扱くように歯を立てられ、先端を刺激されてから引っ張り上げるようにきつく吸い上げられて、リョーマは悶え仰け反った。 
「……」 
手塚はチラリとリョーマを見遣りながら、丹念にリョーマの蕾を愛し続け、自然な動作でリョーマの雄に触れる。 
「ぁ…なんで…オレ、ズボン、穿いてない…?」 
「ここに寝かせる時に俺が脱がせた。窮屈だろうと思って、な」 
「んっ、ん、ぁっ」 
下着の上から優しく何度も撫で上げられ、堪らずにリョーマが腰を揺らすと、手塚の手が下着の中に滑り込んできた。 
「ぁあ……っ」 
じわりと広がる快感に、リョーマは吐息のような甘い声を漏らす。 
下着が太腿まで押し下げられ、袋ごと揉み込まれ、幹を優しく撫で上げられ、少し強く握り込まれて先端に爪を立てられる。 
「あぁんっ、あっ」 
すぐに硬く変形を遂げたリョーマの雄は、甘く、強く、刺激を受けて先端から蜜を零し始める。 
「国光…」 
「ん…」 
「キス」 
甘くねだるとすぐに深く口づけてもらえた。 
「好き…国光……大好き……っ」 
「ああ…リョーマ……好きだ……愛している…逢いたかった…」 
唇の隙間で熱く囁かれ、リョーマの胸に苦しいほどの恋情が込み上げる。 
「ぁ…ダメ……イキそう……っ」 
「いいぞ、出せ」 
「や……っ、あっ、あぁっ!」 
さらにきつく扱き上げられて、リョーマは堪らずに弾けた。 
「ん、あぁ、ぁ……っ」 
ビクビクと腰を痙攣させながら、リョーマが熱い飛沫を噴き上げる。 
「ん……ぁ……あ……」 
射精が途切れると、残滓をすべて吐き出させるように手塚が優しく幹を扱いた。 
「ずいぶん濃いな…」 
ぬるぬるとした手できつく扱かれ、リョーマはまた雄が高ぶり始めるのを感じる。 
「……国光、は?」 
リョーマが、甘い余韻に潤む瞳で手塚を見つめると、手塚は小さく眉を寄せてから苦笑した。 
「俺はいい。止まらなくなる」 
「ヤダ」 
「リョーマ」 
ティッシュで手を拭いながら、駄々っ子を宥めるように手塚がまた苦笑する。 
「今日はやめた方がいい」 
「ヤダよ……やっと逢えたのに……」 
リョーマは手塚の首に腕を回し、ギュッとしがみつく。 
「国光に逢いたくて、ここまで来たんだ。もっと触ってよ…もっと、いっぱい……国光が欲しいよ…」 
手塚の首筋にリョーマが頬を擦り寄せる。 
「国光が足りなくて、死んじゃいそう……」 
「死なれては困るな……」 
手塚がゆっくり動き、リョーマをベッドに縫い付ける。 
「ぁ……国…光…」 
じっと、手塚に見下ろされているだけでリョーマの身体が熱くなってくる。 
(なんか……カラダが…熱い…) 
先程の余韻なのか、熱のせいなのか、視界が潤む。 
そっと目を閉じると手塚に口づけられた。 
「ん……」 
鼻に抜けるような甘えた自分の声が遠くに聞こえる。 
(ぁ…この感じ…『あの時』みたいで、なんか…やだな…) 
あの時はずっと、見知らぬ男に毎夜犯されていると思っていた。 
しかも、その男の元には自分から出向いていると知った時は、まるで自らの意志で男に抱かれに行っているようで、自分が穢れていると感じた。 
その後、毎夜自分を抱いていたのが手塚であったと知った時にはひどく安堵した。 
すべては新橋で出会った古の呪術師が作り上げた指輪の呪いにかかってしまったことが原因だったが、そのすべてが解決し、呪術師とともに指輪が消滅した今でも、薄闇の中で抱かれることには小さな抵抗感がある。 
手塚に抱かれていたことが嫌だったわけではないが、『あの時』に感じていた苦しい罪悪感や自己嫌悪の感情が蘇ってきそうでつらいのだ。 
そう思って目を開けると、手塚の艶めいた瞳が間近にあった。 
「国光……なんか、言って…声、聞かせて…」 
「愛している」 
「ん……もっと…」 
「……何が不安なんだ?」 
「ぇ……」 
リョーマが小さく眉を寄せると、手塚はふわりと微笑んだ。 
「あの指輪はもうない。あの呪術師とともに消えていっただろう?ここにいるのは、俺と、お前だけだ」 
優しく優しく、諭すように語りかけてくる手塚の声に、リョーマは少しずつ、心の扉を開けてゆく。 
「わかってる……オレを抱いてたのが国光だったってことも、ちゃんともうわかってるんだ……わかってるけど……」 
(あの時に感じた絶望感が、頭のどこかにこびり付いてるみたいに、忘れられない…) 
口を噤むリョーマを、手塚が優しく抱き締める。 
「俺の、せい、か……」 
「違うよ……誰のせいでもないし、誰も悪くない…」 
ただ、理性ではどうにもならない感情の記憶が、リョーマの心に小さな闇を作り出している。 
(時間に、解決してもらうしか、ないのかな…) 
黙り込んでしまったリョーマの髪を、手塚が優しく梳く。 
「リョーマ………右手…まだ気づかないか?」 
「え…?」 
唐突に手塚に言われて、リョーマは自分の右手を見た。 
「あ」 
リョーマの右手薬指には、見たことのないリングが嵌められていた。 
「これ…?」 
「以前買った揃いの指輪は、お前のここには少し緩かっただろう?……だから、また新しいのを用意した」 
そう言って手塚はリョーマの手を取り、その薬指にそっと口づける。 
「ぁ……ありがと…どこで、こんな…」 
「俺が作った」 
「え?」 
リョーマは目を見開き、手塚を見つめてからもう一度リングを見た。 
「作ったって……国光が…?」 
「母に教わって、……何度か失敗したが、やっと完成した」 
「すごい…!」 
改めてリョーマはリングを見つめた。 
プロの作品のように細かな細工はないものの、自然に流れる雲のようなデザインは素人離れしており、何よりもまさにオーダーメイドといった感じで、リョーマの指にしっくり馴染んでいる。 
「国光のもある?」 
「ああ、これだ」 
手塚も右手をリョーマの前に差し出し、薬指に嵌められたリングを見せてくれた。 
「すごい…お揃いだ…」 
「ああ。世界にひとつしかない、俺たちだけのデザインだ」 
「オレたちだけの…!」 
「そうだ」 
誇らしげに頷く手塚に、リョーマの瞳が輝きを増す。 
「本当はお前の誕生日に渡したかったんだが、なかなか思うようなものが出来なかった。だから今日、これを渡そうと思って必死に仕上げたんだ」 
「ぁ…バレンタイン、だから?」 
頬を染めてリョーマが問うと、手塚も薄く頬を染めて頷いた。 
「……本当は、お前の身につけるものすべてを俺の手で作りたい。お前に触れるのも、俺だけであればいいと思う。だが現実にはそうもいかないから、せめて、お前の好きなシルバーの装飾品くらいは、俺の手で作りたかった」 
「国光…」 
「あの呪術師のような力はないが、そのリングには俺の想いを込めたつもりだ。だから、お前に身に着けていてもらえると、嬉しい」 
「うん。ずっと離さない。指に嵌められない時は、チェーンを通して、首から提げておくよ」 
「ああ、そう言ってくれると思ってチェーンも用意した。俺が作ったものではないが、な」 
「ありがと、国光!」 
ギュッと手塚に抱きつくと、それ以上の強さで抱き締め返された。 
「俺の独占欲は半端じゃないぞ……何があっても、お前を他のヤツには渡さない」 
「国光…」 
「お前は俺だけのものだ、リョーマ」 
「うん、オレは、国光だけのものだよ」 
二人はしっかりと互いの身体を抱き締め、熱い吐息を零す。 
「国光……ねぇ、やっぱり、しようよ」 
「リョーマ…」 
「何かさ、一回出したら身体が楽になったみたいな…気がする…から…」 
リョーマが照れ笑いをしながら手塚に告げると、手塚は一瞬黙り込んでから、ゆっくりとリョーマの身体を離した。 
「国光…」 
じっと手塚を見つめるリョーマの額に、手塚は自分の額を押し当てる。 
「………確かに…さっきよりも下がっているな」 
「でしょ?」 
少し得意げにリョーマが言うと、手塚は額を押し当てたままクスッと笑った。 
「……まさか…俺に逢えない間、一人でしなかったのか?」 
「……あんまり…」 
リョーマは頬を染めて伏し目がちに睫毛を揺らす。 
「なぜ…?」 
「ん……だって……自分じゃ、届かない、から……」 
「どこに?」 
「ど……どこって……っ」 
さらに頬を真っ赤に染めるリョーマに、手塚は一層やわらかく微笑みかける。 
「俺なら届くのか?」 
「国光じゃないと、届かないよ」 
「そうか…」 
「ぁ…」 
伸し掛かられ、腰を押しつけられてリョーマがビクリと身体を揺らす。 
「また熱が上がったら、俺が責任を持って看病する」 
「うん」 
「つらかったら、絶対に言うんだぞ?」 
「うん」 
「だが身体を繋げたら、止められる自信はないが、な」 
「うん、……うん、いいよ」 
リョーマは堪らない気持ちになって手塚の胸に頬を擦り寄せた。 
「ねえ……国光のくれたリングが、熱くなってる」 
「………それはお前の熱だ…」 
「ぁ…」 
二人の唇が深く重なり合い、それから暫くの間、会話が途切れた。 
         
         
         
直に触れ合う肌と肌に、リョーマは甘い目眩を起こす。 
「国光……好き……っ」 
「あぁ……リョーマ…」 
二人の吐息が混ざり合い、甘い熱となって二人を包む。 
手塚の長い指が丹念にリョーマの後孔を解し、さらにローションを使って充分に潤いを与えてくれる。 
「もう、いいよ、国光……来て…」 
「………」 
手塚はリョーマの後孔から指を引き抜き、だがすぐには身体を繋げて来ようとはしなかった。 
「国光…?」 
目を開けて、訝しげにリョーマが手塚を見上げると、妖しく揺らめく瞳で、手塚がじっと見下ろしてきた。 
「リョーマ……お前の心に傷を付けたのは俺だ」 
「違うってば……オレが勝手にあの時のことを気にしてるだけで…っ」 
「いや…どんな理由があっても、俺は、お前の了解を得ずにお前を抱き、傷つけたことに変わりはない」 
「………」 
「だからリョーマ、お前の心の傷を、俺が、俺の手で、癒したい」 
「え……」 
「俺が好きか?、リョーマ」 
「うん。好き。大好き」 
「俺のことを、信じられるか?」 
「信じる」 
しっかりとリョーマが頷くと、手塚もふわりと微笑んだ。 
「ならば、これを着けるんだ」 
「え…?」 
手塚がサイドボードから取り出したのは、黒く細長い布。 
「なに…?」 
手塚は何も言わずに微笑むと、目隠しをするようにしてリョーマに着けた。 
「や、なに…っ」 
「視覚ではなく、お前のすべてで、俺を感じるんだ」 
何も見えない暗闇の中に、大好きな手塚の声だけが聞こえてくる。 
「国光…っ」 
「俺はここにいる。お前のすべてで、俺の想いを受け取ってくれ」 
「く、国…光…っ」 
ぬるりとした感触が胸に触れてくる。 
「やっ」 
身体を捩ってみるが、ガッチリと抑え込まれた身体は思うようには動かない。 
「ヤダ…」 
「リョーマ」 
微かに震え始めたリョーマの身体を、優しい手がゆっくりと慰撫してくれる。 
「ぁ…」 
「大丈夫だ。俺を感じろ」 
「国光……」 
「愛している、リョーマ」 
「ぁ……オレも、国光が、好き……」 
チュッと、唇を啄まれ、そのまま頬や首筋も軽く吸い上げられてゆく。やがてその唇が胸の突起に辿り着き、きつく吸い上げ、舌先で転がし、歯で扱くように甘噛みされる。 
(ぁ……国光の、癖…) 
歯で扱くように突起を甘噛みしたあとで、手塚は必ずその先端を舌先で刺激してくる。そうして同時に、反対側の突起を指先できつく摘まみ上げ、先端を爪でカリカリと引っ掻いてくる。 
「ぁあん……あ…っ、は、ぁ、ん…っ」 
じわりと、自分の性器の先端から甘い体液が溢れるのがリョーマにはわかる。 
「くに、みつ……後ろ……っ」 
「ん?……またナカを弄って欲しいのか?」 
耳元で甘く囁かれてリョーマはコクコクと頷く。 
すると、胸の突起を弄っていた手がそのまま滑り降りて、リョーマの性器を撫で、袋を優しく揉みしだいてから後孔に触れてきた。 
「あ……っ」 
ローションで潤っている後孔に手塚の指がその付け根まで入り込んでくる。 
「んっ、あっ」 
すでに充分に解れている後孔を、手塚の指が何本かまとめて出入りする。 
「ん、あ、ぁ、は、ぁっ」 
指が深く入り込むたびに、リョーマの唇から甘い声が漏れる。無意識のうちに両脚が大きく開き、手塚を誘うように、淫らに小さく腰が揺れる。 
「……挿れるぞ、リョーマ」 
「んッ、早く……っ」 
手探りで手塚の腕を見つけ出し、軽く爪を立ててねだる。 
「リョーマ…」 
手塚の指が引き抜かれ、すぐに熱く硬いものが後孔に宛てがわれた。 
「んっ」 
手塚が微かに息を詰めるようにして、リョーマの胎内に一気に捩り込んでくる。 
「はぁあぁぁっ!」 
がつん、と強く突き込まれて、リョーマは堪らずに熱液を噴き上げた。 
胎内の手塚をきつく締め上げながら何度か飛沫を上げると、手塚が身を屈めてくるのがわかった。 
「……挿れただけでイったのか?」 
熱い吐息混じりに囁かれ、リョーマは恥ずかしさと淫らな恋情とで、頬を真っ赤に染め上げる。 
「たまらないな…リョーマ…」 
ゆっくりと、手塚の熱塊が抽挿を始める。 
「ぁ……あ……ぁあ、んんっ」 
「ん……ぁ……リョーマ……っ」 
ゆっくりゆっくり、先端から根元まで何度も何度も抽挿され、根元まで捩り込まれた剛直で最奥を緩く掻き回されて、リョーマの身体が甘く痙攣する。 
「熱いな……リョーマ……っ」 
「ぁ……う……んっ、ぁっ」 
ゆったりと揺さぶられ、リョーマの理性が、熱く薄れてゆく。 
それと同時に、リョーマの無意識の感情が「拒絶」を訴え始めた。 
「や……っ」 
視界が閉ざされていることで、見知らぬ男に犯されたと思っていた日々の感情が、否応無しに蘇ってきてしまう。 
布の下で無理矢理目を開けると、布越しに見えるものはあの「不鮮明な世界」に似ていて、リョーマは身体を強ばらせた。 
「やっ、ヤダっ……やめ…っ」 
「俺を感じろ、リョーマ…っ」 
掠れた声で、手塚が囁く。 
「お前のナカにいるのは俺だ」 
「ぁ…」 
「お前のカラダはもう覚えているはずだ。俺の形、俺の熱さ、どんなふうにお前の奥を突くかも……ほら…っ」 
「あ、はっ!」 
最奥を思い切り突き上げられて、リョーマの腰が浮き上がる。 
「俺でなければ、届かないのは、ここ、だろうっ…?」 
「あぁっ、あっ、ぁあんっ」 
リョーマが一番感じる場所を、熱く硬い熱塊が何度も強く突き上げてくる。 
「ぁ…国、光…っ、ぁあっ」 
「そうだ、お前のココは、俺しか、知らない」 
「んっ、あっ、あっあ、あ、あ、ぁあっ、はぁっ」 
ガツガツと深く突き上げられ、リョーマが悶えながら仰け反る。 
「俺を感じろ、リョーマ。俺の姿が見えなくても、この感触をすべて思い出せるほどに、俺を、ちゃんと覚えるんだ」 
「ぅ、あぁ、あ…ぁあっ、あぁっ」 
(オレのナカにいるのは、国光…) 
喘ぎながら、リョーマはしっかりと手塚を感じ取る。 
腸壁を擦りながら行き来する熱い塊の形。 
尻朶に叩き付けられる引き締まった肌のしっとりした感触。 
腰を強く掴んで肌に食い込んで来る、痛いほどの指の感触。 
自分の胎内を抉りながら、時折感じ入ったように低く漏れる声。 
そして、普段は決して聞くことはない、乱れた息遣い。 
(これは、全部、オレの国光……) 
今のリョーマは、視界を閉ざしたことで、より鮮明に手塚のすべてを感じ取ることが出来る。 
(不鮮明な世界は、アンタを、より鮮明に感じさせてくれるんだ) 
「ぁあっ、あ、はぁっ、あ、んっ」 
激しく揺さぶられながら、リョーマはその両脚を手塚の腰にきつく巻き付けた。 
「……リョーマ…」 
「ぁ、ぁ…っ…く…みつ……の……あつ、い…っ」 
「んっ、くっ……リョーマ…っ」 
手塚の動きが一層激しさを増す。 
「あぁぁっ、ぁあッ、いいっ、ス…ゴイっ、あッ、そこっ、い…いっ」 
「感じるか、リョーマ、俺を…っ」 
息を弾ませながら、手塚がリョーマの耳元で囁く。 
「お前の、ナカに、いるのは、誰だ…?」 
「んっ、国光…、オレの…ナカ…、い…っぱい…っ、あっ、ぁあんっ」 
「そうだ、お前を、抱いているのは、俺だ…っ」 
「ぅあ、ぁあっんっ」 
「リョーマ…っ」 
パンパンと、肌を打つ音が部屋中に響く。 
ベッドの大きな軋みも、手塚が腰を打ち込んでくる衝撃も、二人分の荒い呼吸音も、リョーマの中ですべてがひとつとなり、手塚への苦しいほどの恋情へと繋がってゆく。 
(オレの記憶が、書き換えられていく……) 
「ぁあ、ぁ、くに、みつ…イク……イク……イク…っ!」 
「ああ、俺も、お前の中に、出すぞ…っ」 
「出して…っ、オレのナカに、全部、出して…っ」 
「ぅ、あッ、リョーマ…っ!」 
ベッドが、壊れそうなほど大きく軋む。 
「あぁ、あぁ、あぁ、ぁあぁぁっ」 
「く、ぅ……っ!」 
限界まで深く繋がり合い、二人の動きが止まる。 
「あ……ぁ……あ……っ」 
「う……くっ……ん…っ」 
ドクドクと、脈打つように、自分の腹の底へ熱いものが何度も注ぎ込まれるのがリョーマにはわかった。 
(スゴイ……いっぱい、出てる……) 
視界を閉ざされ、ひどく敏感になった他の感覚が、手塚が自分の胎内で射精する様を、すべて鮮明に伝えてくる。 
息を詰め、歯を食いしばって精液を放出する手塚の表情さえも、はっきりとわかる気がした。 
(そうだ……オレは全部、国光のものなんだ……) 
確かに、何も知らなかった自分が、毎夜見知らぬ男に犯され続けたと思い込んでいた時間も、記憶も、リョーマの中から消えることはないだろう。 
だが今、あの不鮮明な世界で自分を抱いていた男が手塚であったという事実が、はっきりと、自分の中で完璧に繋がった気がする。 
「…っ………リョーマ……」 
すべてをリョーマの奥へ注ぎ込み終えた手塚が、柔らかな声音でリョーマの名を呼び、優しく髪や頬を撫でてくれる。 
「ぁ……」 
強すぎた快感と、心の奥の重荷が消えた反動で、リョーマは何も言うことが出来ない。 
「…大丈夫か?」 
手塚の声に不安が混じり、そっと、目隠しが外される。 
ゆっくりと開いたリョーマの目からポロポロと、温かな雫が零れ落ちた。 
「!…すまない…っ」 
手塚が眉を顰めてリョーマの涙を拭う。 
「違…、嬉しくて……」 
リョーマがニッコリ微笑むと、手塚は目を見開いた。 
「嬉しい?」 
「うん……もう、大丈夫」 
「リョーマ…」 
「国光……大好き…」 
手塚に向かって両手を伸ばすと、手塚はすぐにリョーマを抱き締めてくれた。 
「もう…大丈夫、なのか…?」 
そっと尋ねてくる手塚に、リョーマは大きく頷いてみせる。 
「ありがとう……国光……」 
「リョーマ…」 
手塚が、グッと、一層強く抱き締めてくる。 
「リョーマ……好きだ……好きだ……好きだ…っ」 
「オレも……国光だけ、好き…大好き……っ」 
二人は互いの身体を、きつくきつく、抱き締める。 
「国光、もっと、して、もっと、ずっと、離さないで…」 
「ああ、離すものか……このままずっと…」 
「ぁ…」 
手塚の腰が、また緩くうねり出す。 
グチャグチャと聞こえてくる粘着音を、リョーマはうっとりと目を閉じて聞く。 
(もう、何も怖くない) 
過去も、現在も、未来も、自分は手塚だけのものなのだと、リョーマはやっと理解した。 
心だけでなく、身体だけでなく、すべてが手塚のものであるのだと、漸く、リョーマのすべてが納得した。 
「あぁ……国光……気持ちいい…」 
「リョーマ……俺も……最高に、気持ちいい……」 
二人で揺れ合いながら、見つめ合い、微笑み合い、甘い口づけを交わす。 
「国光…大好き…」 
「リョーマ…愛してる…」 
吐息混じりに囁き合い、何度も口づけ合う。 
例えようもないほど大きな幸福感に包まれて、二人はシーツの波間で揺れ合い続ける。 
どんな高級なチョコレートよりも、甘く蕩ける蜜の味を、二人は堪能する。 
「…元旦に願ったことが、すぐに叶いそうだ…」 
リョーマを揺すりながら、手塚がやわらかく微笑む。 
「ぁ……ん……なんて……お願い、したの?」 
「ん…?」 
甘い吐息を零しながら、手塚は囁く。 
「最高に甘いお前を、一生、俺のものにさせてほしい、と」 
「……なんか、ヤラシイ」 
快感に頬を上気させながらリョーマが笑うと、手塚も笑いながら口づけてきた。 
「お前は?」 
腸壁を擦られる感覚に喘ぎ仰け反りながら、リョーマは答える。 
「もっとたくさん、アンタと甘い時間が過ごせますように、って」 
「甘い時間とは、こういう時間のことか?」 
「あっ、ぁあんっ」 
ググッと奥を掻き回されてリョーマの身体が快感に震える。 
「リョーマ?」 
最奥を抉りながら、手塚が甘い声で問うてくる。 
「……国光と、一緒にいる時間は、全部、甘いよ」 
うっとりと目を閉じながらリョーマが言うと、手塚の動きが止まった。 
「………国光?」 
怪訝に思ってリョーマが目を開けると、蕩けそうなほど甘く微笑む手塚に見つめられていた。 
「カルピンのことじゃなくてよかった」 
「信じてなかったわけ?」 
額を擦り合わせ、二人でクスクスと笑う。 
「…今日はずっと、二人きりでここにいよう」 
気づけば、すでに日付が変わっている。 
「ここでこのまま、ずっと?」 
「嫌か?」 
「なんで?嬉しいに決まってんじゃん」 
揺れる瞳で互いを見つめ、堪らずに唇を寄せ合って、深く甘く、舌を絡め合う。 
「熱…下がったみたいだな」 
「うん…なんか、アンタとえっちしてたら、すっきりしてきた」 
「……お前の熱は、俺にしか治せない病だったのかもしれないな」 
「え?」 
ふわりと微笑み、手塚がリョーマの耳元に唇を寄せる。 
「恋の病」 
「な……あっ、ぁあんっ」 
再び腰を動かされ、リョーマが快感に喘ぐ。 
(でも、そうかも…) 
甘い波に揺られながら、リョーマは思う。 
逢いたくて、逢いたくて。 
あまりに強く手塚を求め過ぎて、心だけでなく、身体まで悲鳴を上げたのかもしれない、と。 
「ぁ……死んじゃう……っ」 
「え…?」 
リョーマの言葉に、手塚の動きが緩む。 
「ダメ……もっと、アンタを感じさせてくれないと、死んじゃう……っ」 
乱れてゆく呼吸の合間で告げたリョーマの言葉に、手塚は一瞬目を見開いてから、破顔する。 
「心配するな……何も考えられないほど、お前のナカを、俺でいっぱいにしてやる」 
「ぁ、あ……くに、みつ……っ」 
「リョーマ…」 
それからまた、部屋の中を淫らな音が満たしてゆく。 
二人の唇から時折漏れるのは、甘い喘ぎと、快感の吐息。 
そして、互いの名前だけ。 
         
今日は聖バレンタインデー。 
街中に甘いチョコレートの薫りが溢れる日。 
だが二人のいるこの部屋は、チョコレートよりも甘い、愛で満たされていた。 
         
         
         
 
         
         
        終 20090216 
         
        
         
         
         
        
         
         
             
         
        
        
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