ナルシア ナルシア

海に浮く

眩しすぎない明るさで発光するモニターのような
空と海を区切るのは青い色鉛筆で引いたような線一本。
いつもは見えにくい沖合を行く小舟や
網を仕掛けた印の浮きや
海面を低く飛ぶ海鳥等が
シャーカステンに付いた塵のように
ぽつんぽつんと黒々と見えます。

海が青いと見え難い。
海が光ると見え辛い。

冷たくなっていくこんな海に
そのひとはどうしてぽつんと浮かんでいたのでしょう。

昨日、間を置いて何機かのヘリの轟音がしました。
毎度お馴染みドクター・ヘリならば往復一度。
海難捜索なら沖や海岸沿いを何度も往復する。
朝のが消防か県警で、午後になってからのが報道、
なんらかの事故か事件があったのです。

だから夕方の地方ニュースを見ました。


 注連縄の解

地方新聞に、地元資料館の展示物の紹介として、
江戸末期の庶民の日記が面白い、
と取り上げていたのを何気なく目を通していたところ、
突如、最近我が目にしたような状況が記されていました。

漁港の町の僧侶の日記の中に、
『浦の人々は集落をすっかり囲むように
長い注連縄を張り巡らせた』という記述があり、
書き手の感想は「まるで蜘蛛の巣のようで、自分もその中に捕まったようだ」

‥‥まるで、私が今月初旬に見た注連縄を細かく張り巡らし、
まるごと町を囲んでしまった海沿いの謎の光景ではありませんか。

この記述は、安政のコロリ発生によって大量の死者が出た翌年。
また同じ恐怖が襲って来たと知った時、
原因も防御法も知らなかった人々が、
我が身を護ろうと必死に注連縄を張り巡らし、
怯えて身を小さくしていたのです。

土地は離れていますが、条件は良く似ています。
確証はありませんが、もしかしたらこれが答えかもしれません。
と、地元民に聞いてみましたが、
「こんなとこまでコレラが流行るかなあ?」
と首を傾げています。

こんなところって。
今大河ドラマで時々出て来るある志士は若い頃、
安政の地震やコロリで困窮する農民を救うために
遠いお城下の国老の屋敷へ直訴までして、
救済活動に奔走しているんですよ。
隣村じゃないですか。しかも、あんな山の奥です。
あそこまで届くほどの疫病ならば、
港があってこのあたりでは一番人口の多かったこの町が
コロリの脅威に晒されていなかったとはいいきれません。

御領主の城址の資料館の学芸員さんに尋ねるか、
実際に注連縄の張られたお宅のどなたかに
由来を尋ねれば確実な解答が得られるのでしょう。
でも、突き止めるまでの事でもない、
なにかの加減でこんなふうにふっと謎を解く鍵がやってくる、
ならば、そう思っていましょう。

と、書き込んでいたら隣室のTVニュースで偶然
カリブ海の島国でコレラの感染が拡大していると
聞こえて来ました。

ある日突然、海に守られた島国を襲う脅威。
注連縄を張り巡らしても、防ぐ事は出来ません。


 現地人

県外ナンバーの多い休日の国道沿いを歩いていると、
駅前から交差する所で駅のレンタサイクルに乗った
千鳥格子のハンチングの中高年男性に呼び止められました。
何度も、地元の方でしょうか、と確認されます。
そうですよ。どちらに行かれますか。

その銅像なら、そこに見えている信号の右手に。
「大変立派な銅像だそうですね」
ええ、大きいのですぐ判りますよ。

駅に地図もリーフレットも看板もあるのに、
すでにこの段階でつっかえましたか。
通りを見ると、確かに国道沿いに他に人影はありません。
地元の人はちょっとした距離でも車に乗るし、
歩くとしても排気ガスの少ない内側の通りを行きますから。
たまたま、国道の向かいに用があって、
信号待ちをしていた私が最初の現地人だったのでしょう。
寒暖差が烈しくて、羽織る適当なものがなく、
ラルフローレンのジャケットなんか着ていたから
観光客っぽく見えて、何度も地元民か確認されたのですね。

地元側は、これほど案内しておけば判るだろう、と思っていても、
実際にはなかなか伝わらないものなのだなあ。
人に尋ねればいい、といっても田舎では
なかなか人に出会わないものなのです。


 隣の砂漠

朦朧としている。

澄んだ空の下に濃淡をつけてくっきりと見えるはずの山々が
茫漠と霞んだ波となって春の夕暮れのように、
いくら小春日和とはいえ。

霧の白さとはまた異なる、
なにより乾燥しているのだから霧がかかるはずはない、
この太陽も鈍らせるうっそりとした黄色い靄は、

黄砂‥‥?
まさかと思ったものの、ニュースで確認して驚きました。
隣国はやはりすぐ隣にあるものなのです。


秋の祭

十一月の祝日は空が青いので散歩に出ました。

気がついたのは、国道沿いの途中からです。
道に面して高さ一間くらいのところに、
紫と白の紙を重ねて切った紙垂(しで)と、
短く切った榊の枝を等間隔に下げた注連縄が、
普通の民家に、美容院に、地方新聞の支局にまで、
一軒一軒どこかにひっかけて延々と連なっているのです。

何かの神事ではあるのでしょうが、祝日とは関係なさそうです。
と、見ると注連縄を山積みした猫車を押す
休日の町内会のお父さん達といった風情の三人組が
張った縄を指差しながら先を歩いてゆきます。

十一月の祝日の海は水色で空に似ています。
ぎらりと光る群青色の夏の海とはまるっきり別の水のようです。

海に面した小さな家家にも注連縄がずっと架けられています。
しかも、国道から海の間が昔の中心街だったので、
格子状の路地や通り、全ての面に注連縄が張り巡らされています。
なんだか判りませんが、とにかく海に面した小さな町が
まるごと一つ、注連縄できっちりと碁盤目に囲われているのです。

国道から北側には注連縄は張られていません。
そういえば、南側には八幡宮がありました。
昔、町が栄えていた頃の風格を持つ神社の力が、
秋のある祭りの日、
この細かく張り巡らされた注連縄の中に満ちるのでしょうか。


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